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我はあの者を赦さぬ
しおりを挟む神がこの国を脅威から守っているのは、神の御威光を変わらぬものとするためだ。
聖女制度の発端は信仰が廃れ始めた頃に遡る。
当時、神に必死に祈る少女がいた。
蔓延した流行病に疲れた人々の心を神の御光で癒してほしい、というものだった。
神は不思議に思った、『なぜ流行病から救ってほしいではないのか』と。
少女はその声に答えた。
「私たちがこのようなときにだけ思い出したように神にお縋りするのは間違っております。ましてや流行病の完治を望むなど。もし神のお情けで流行病をお治しいただけたとしても、今後同じ病が流行った場合、治療も予防もできずにまた神にお縋りしてしまいます。人は立ち向かう勇気も必要なのです。私はそれが現在だと思っております」
神はその心を認められて、世界中の人々の心を癒した。
そのことで私欲にまみれた者たちが神に縋った。
『病を治してほしい』と。
しかし、少女の属する国だけは違った。
少女はその国の王女だった。
だからこそ、国王は少女の願った祈りの言葉を国民に伝えた。
世界にも伝えた。
しかし、感謝の祈りを捧げたのは少女の国だけだった。
聖女制度を立ち上げたのは国の瓦解により少女の国に寄生した周辺国だった。
『聖女という身近な者を崇拝する』
それは神を侮辱する行為であり、聖女に選ばれた少女たちを犠牲にするということ。
それを神は認めない。
聖女に選ばれた少女が神殿に囚われぬよう、神が貸し与えたのが神具だった。
「今回の騒動で犯罪に加担した以上、リルンも罪に問われるわ。デイジーは前公爵の遺産を受け取ったあと、お父様にお借りしたお金をお返しして出ていかれるそうよ」
「それまでに、お父様にはデイジーを実家から保護して働かせてくださる方に預かっていただける所を探していただきましょう」
「それなら良い場所がございます」
神官長が提案してくださったのが、皇城で住み込みのメイドだった。
「後宮には情報漏洩を阻止するため厳しい決まりがあります。機密や皇族の嗜好などがほかの貴族に漏れないよう、家族と縁を切る形で一生涯仕えるのです。今回、子供たちが2人とも罪を犯しました。しかし、別の視点から見れば、マレンダは国の礎となったともいえます。リルンも様々な罪を犯しており、神による罰が与えられるでしょう。そしてコシモド公爵家の不正の被害者でもあります。そうなれば保護という名目で後宮に閉じ込めてしまうことで情報の漏洩から守ることもできます」
「たしかに……。そうなれば、デイジーの受け取った遺産を求めて言いよる男たちや没落した実家から守れるわね。なにより二人の罪をデイジーが責められるのを避けられるわ」
神官長の考えに私は同意する。
市井で静かに生きるにはデイジーの周りは欲深い者たちが多い。
後宮なら安全は確実に守られる。
「リルンは神具の破壊に関わっていません。だからマレンダたちと同じ道を辿るとは思えません。そうなるとデイジーの受け取った遺産から自分の取り分を取り上げようとしますね。それも父に借りていたお金を返したとなれば、それを取り返そうとソフィーに言い寄る姿が簡単に思い浮かぶわ」
『我はあの者を赦さぬ』
急に厳しい女性の声がしました。
そちらを振り向くと金色に輝く髪と炎のように真っ赤な瞳をもつ女神様が、カシモフ・タタン様に支えられてお立ちでした。
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