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んっとー、えっとー。……バーカ、バーカ
しおりを挟む「失礼ですが、そこに息子と共にいるのは『ゾローネ家の三女』のはず。なぜここにいないのです」
その言葉に姉が吹き出し、周りからも失笑されて顔を赤らめる。
恥ずかしさからではなく怒りからだ。
「コシモド公爵、そこにおりますマレンダは『ゾローネ家の三女』ではございません」
「しかしゾローネを名乗っておるではないですか!」
「いいえ、マレンダは自ら名乗ったことはないはずですよ。彼女はソフィーの乳母の娘、いわゆる乳姉妹です。だからこそ学園に在籍しておりません。彼女の兄リルンも同様。ゾローネ家当主の血をひいているのは私たち二人のみ。次期当主はソフィーでございます」
このことはもちろん誰もが知っていることだ。
私が聖女になったのは昨年のこと。
姉が婚姻を機に聖女を引退したのは五年前。
聖女は未婚で処女の女性が選ばれる。
婚前交渉が認められないこの国では、聖女になれば少なくとも神に守られる。
でも15歳までは正式に聖女にはなれない。
幼すぎると自身で物事を正しく判断できないからだ。
そのため、聖女の任期は長くても10年。
聖女不在の期間は、神官たちが神に祈りを捧げる。
聖女だった者が生きている間は護身の神が聖女だった頃と変わらず、聖女と国を守ってくれる。
その間は神官だけでも五穀豊穣が約束されている。
しかし聖女が完全に不在の期間は国の守りを最優先に願うため、大地の恵みが疎かになってしまう。
このまま聖女不在が確定してしまうか、それとも聖女制度が復活するか。
たとえ前者になったとしても、何らかの対策がたてられて神が認められれば……
この場に集められた家族たちは、そんな希望を持っている。
しかし、神はすでに聖女制度に代わる打開策を決めており、あとは発動させるだけになっていることは、私たち姉妹と神官長以外は誰も知らない。
「それではコシモド公爵にはゾローネ家は被害者であり、この場に当主夫妻がいない理由をご理解いただけたようなので話を続けます」
俯き黙って座り直した公爵の顔は真っ白だ。
彼の周りに天使たちが集まって、公爵を責めたり揶揄っている。
声は聞こえなくても彼らの感情を直接受けるため、精神的にキツいらしい。
天使は『神の御使い』と呼ばれ、絵師は丸々した赤子に真っ白な羽を背につけた姿で描いている。
赤子なのは『穢れなき無垢な存在』だからだ。
────── 無垢な存在ではあるがために、イタズラ好きで何にでも好き嫌いが激しい。
善悪がわからないのだ。
だからこそ、神にお仕えして善悪を教わっている。
ここにいるのは天使社会の第一層、天使見習いだ。
『公爵のくせに聖女の家族も知らないバーカ』
『聖女ではなく愚か者を生み出したバーカ』
『子供の教育を失敗したバーカ』
『んっとー、えっとー。……バーカ、バーカ』
ああ、今は最後に『バーカ』をつけるのが流行っているのね。
私と姉は視線をかわしてそう確認しあった。
天使たちは神同様視認されない。
そして知能は子供なのだ。
市井で子供たちの口喧嘩でも見たのだろうか。
『お前たち、今はここまでにしなさい』
神の一柱が天使たちに注意すると『はーい』と言いながら壁際へと離れていく。
小さな羽をパタパタ動かして動く姿は可愛らしい。
「コシモド公爵、お顔の色がすぐれないようですがこのまま続けて大丈夫ですか?」
「あ、はい。中断させてしまい申し訳ございません」
天使が離れたため少しは精神にかかっていた負担が軽くなったようで白かった顔に青みがみられる。
壁際にいる天使たちの悪態は続いているが、先ほどよりは減っているからだろう。
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