ウロボロス《神殿の中心で罪を裁く》【完結】

春の小径

文字の大きさ
上 下
4 / 11

この場に私たちの両親がいない

しおりを挟む

「神よ。この神具を壊した者をお教え下さい」

姉の言葉に、24人全員の全身が炎のように赤く輝く。
それに裁判を見守る彼らの家族は一律に青ざめた。
マーソンとマレンダの二人が主犯なのはここにいる誰もがわかっている。
その上で、自身の子たちはただゴマをすっていただけで罪は軽いと思い込みたかったのだ。

それが今、全員が同罪だと神に示されたのだ。

「あああ……」と嘆く家族。
「なんてこと……」と嘆く家族。
そして、大半の家族は事実を受け入れられずに呆然としていた。

神具は神から与えられた錫杖。
我が国の平和のために神が下賜くださったもの。
そんな神具を物理的に粉々になどできない。
────── だからこそのこの人数。
彼らは魔力を流し、から破壊したのだ。

神々は愚挙神具の破壊を止めることができたにも関わらず、それを放置した。
それは兼ねてより計画されてきたことを実行するためだ。

『聖女制度』

これを望んだのは神ではない。
私たちの先祖が望んだことだった。



「では次に。この神聖な場において、コシモド公爵子息マーソンの宣言により、神具の破壊という冤罪を理由としてソフィー・ゾローネは聖女の称号を剥奪された。さらにの名において新たな聖女としてマレンダを任命し、マレンダは襲名を宣言した。そして二人が婚約を宣誓し、彼ら全員が呪われた宣誓を祝福した」

姉が次なる罪を公表すると家族たちだけでなく両陛下も驚きの表情で顔を見合わせた。
神殿の外だったらまだ撤回が許されただろう。
しかし彼らは神の御前においてこのすべてをおこなってしまった。
宣誓もした以上、変更は叶わない。

「お、お待ちください!」

そう言って立ち上がったのはマーソンの父、コシモド公爵だった。
そんな彼に冷たく尖った視線が無遠慮に突き刺さる。

「コシモド公爵、発言をどうぞ」
「はっ、ありがとうございます。訂正でございますが、次期当主はマーソンではなく彼の弟ネイシクスでございます。それはネイシクスが隣国に留学する際、正式に貴族院に届けております」

その言葉にマーソンが叫ぶ。

「父上! ネイシクスは公爵家に相応しくないため国外に追放したのではなかったのですか!」
「黙りなさい。罪人つみびとに発言権はありません」

姉の言葉に、彼に一番近い神が喉に手をかざす。
すると彼が喚くように口を動かしたが声はでていなかった。
神の姿をみられないマーソンは、神が声を封じたことに気付けなかったのだ。
そして今、青ざめた表情で顔を俯かせている。

「神よ、ありがとうございます。コシモド公爵、あなたは彼が次期当主だという誤解を解くことも否定することもなく、貴族院に届けをだしたからと放置し続けてきたからこのような事件が起きたのではありませんか?」
「たしかに、マーソンの言葉に否定はしてきませんでした。もし次期当主が弟だと知られれば、弟の生命が危険に晒されるからです」
「それはただの言い訳に過ぎません。もし弟に危害を加える可能性があるのなら、なぜ幽閉など対処もせず弟を国外に追いやったのですか。それは当主としての怠慢であり、我が子可愛さにより厳しい対処を怠ったがために現在いまあなたは公爵家を失う瀬戸際に立たされているのです」

コシモド公爵は姉の言葉に悔しそうに表情をゆがめたが反論はできない。
姉は公爵家当主の妻であり、次期当主の実母という立場を確立した相手なのだから。
彼がいるからこそ公爵家に連なる立場の姉が立っているのだ。
コシモド公爵は今までも立場を使って相手を脅して罪を握りつぶしてきた。
今回はそれを警戒した上、神々が取り囲んでいるのだ。

「……それはあなたのご実家も、いや、ここにいる全員が重い罪を背負わされるのですぞ! あなたはご実家を……」

周囲を見回してようやく気付いたのだろう。
この場に私たちの両親がいないことを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

貴様とは婚約破棄だ!え、出来ない?(仮)

胸の轟
ファンタジー
顔だけ王子が婚約破棄しようとして失敗する話 注)シリアス

婚約破棄されたので歴代最高の悪役令嬢になりました

Ryo-k
ファンタジー
『悪役令嬢』 それすなわち、最高の貴族令嬢の資格。 最高の貴族令嬢の資格であるがゆえに、取得難易度もはるかに高く、10年に1人取得できるかどうか。 そして王子から婚約破棄を宣言された公爵令嬢は、最高の『悪役令嬢』となりました。 さらに明らかになる王子の馬鹿っぷりとその末路――

完結 幽閉された王女

音爽(ネソウ)
ファンタジー
愛らしく育った王女には秘密があった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

聖女は魔女の濡れ衣を被せられ、魔女裁判に掛けられる。が、しかし──

naturalsoft
ファンタジー
聖女シオンはヒーリング聖王国に遥か昔から仕えて、聖女を輩出しているセイント伯爵家の当代の聖女である。 昔から政治には関与せず、国の結界を張り、周辺地域へ祈りの巡礼を日々行っていた。 そんな中、聖女を擁護するはずの教会から魔女裁判を宣告されたのだった。 そこには教会が腐敗し、邪魔になった聖女を退けて、教会の用意した従順な女を聖女にさせようと画策したのがきっかけだった。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

処理中です...