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「さっきまで貴女が枕にしてて、いま貴女の頭に乗っているのはなんですか?」
しおりを挟むあれは誰?
私は家にいたはず。
なのに…………ここは神殿?
「ソフィー」
私は、知らないはずのこの方を知っている。
「ソフィー」
私を呼ぶ声を覚えている。
「ソフィー・ゾローネ。起きなさい」
パッコーンという音と共に後頭部に衝撃を受けた。
同時に周囲からクスクス笑う声が教室内に響く。
「あ、れ?」
「起きたかしら?」
「ゲッ! ジョゼ先生!」
振り向くと丸めた教科書でポンポンと自分の手のひらを叩く、金の髪をショートにカットしたジョゼ先生ことジョゼフィン・クルーソ。
私の姉で、人妻で、前聖女で……言語科の教師だ。
「ソフィー、居眠りの罰だ。前に出て、書いてあるアルゴル王国の主国語をサンドラ国の第二言語に訳しなさい」
「無理です」
「────── 少しは考える努力ぐらいしてからいいなさい」
「サンドラ国の主国語なら読めるけど書けません。そんな状態で第二言語なんてムリムリムリムリ『スパコーン!』……痛いです…………タイバツハンタイ」
頭を押さえて虐待を訴える。
痛くて涙が目尻に浮かぶ。
「無理でも努力しないからです」
「努力しても無理『バッコーン』……イチャイ」
「まずは母国語に変換して、それから辞書を調べながら書きなさい」
「せんせーい、サンドラ国の辞書をわっすれましたー『ドカン』」
鈍器のような重い物で殴られた私は、額を机に打ちつけた。
殴られた後頭部に武器となった物が乗ってて痛いし重い……
「さっきまで貴女が枕にしてて、いま貴女の頭に乗っているのはなんですか?」
「全世界の翻訳辞書です」
「だったらできるでしょう。やってきなさい」
「ふわーい」
「なんかいったかしら?」
「イエ。喜んで翻訳してきます、です、ハイ」
3,500ページは優に超えている翻訳辞書は、言葉ひとつに 全世界の単語が集約されている。
文法は各国の辞書が必要だが、単語を調べるだけならこれ一冊でことは足りる。
それを両手に抱えて前へと進む。
半分は辞書を開かなくても母国語にできた。
そこから辞書をひきながら単語を探して母国語を書いていく。
最終ページから逆にひいていくが、索引には国別の単語がアルファベット順に並んでいる。
すでに辞書で翻訳が終わったらしい同級生たちの失笑が漏れ聞こえるのはなぜだろう?
『私の頭に寝癖ができているのは、授業中に居眠りをしていたからです。ちなみに今は三限目。私は一限目から眠っていました』
できた翻訳に言葉がでない。
ギギギギギ……という擬音が振り向く自分の首から聞こえた気がする。
目線の先には、私の席に笑顔で座る姉の据わっている目が怖い!!!
「すっみませんでしたぁー!!!」
教卓に両手を置いて必死に頭を下げる私に姉は「帰りに指導室にいらっしゃい」と優しくもあたたかい声で地獄行きを宣告した。
「また昨日も遅くまで神殿に行っていたの? あ、そこ間違ってるわ」
「はい、帰ったのは夕食直前でした。えっと……?」
「三段目、公式はあってるけど数字が違うわよ。マレンダとリルンは相変わらずなの?」
「あ、はい。……ジョゼ姉さんは知っていたのですか?」
「手が止まっているわよ。……知っていたんじゃないわ。私が家族から抜けたことでタガが外れたのよ。それで? 彼らはなにか言ってきてるの?」
私が問題集を解いている手を止めると注意をするものの、姉はそれ以上強く言ってこなかった。
話が片手間でできない内容になってきたからだ。
「……聖女をマレンダにしたいらしく、私の聖女剥奪を考えています。最終手段で神具の破壊も考えていたようです」
「その罪をソフィーになすりつけるのね」
「はい。それでその……」
「神が何かいってきた?」
さすが、元聖女。
夢の中で神が接触したことに気付いていたようだ。
「姿を見せただけです。ただ私はその神がどなたか分からなくて」
「どんな見た目だった?」
「えっと……一見黒髪にみえる濃紺の髪、長さは肩より少し長めのボブで」
「ああ、それで十分。アルカ、えっと護身の神アルカ・リシア様よ」
「でもカシモフ・タタン様はご一緒ではありませんでした」
「え? 単神で?」
「はい」
「何かあったのかしら。心配だから、今日は一緒に神殿にいきましょう」
それが事件の幕開けでした。
━─━─━─[わかりま線(・_・?)]━─━─━─━
作中参考:広辞苑(第7版)が3,216ページ(1,608枚)で厚さは8センチ、3.3キロあります。
翻訳辞書はこの広辞苑をイメージしています。
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