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第四章
優しい思い出に包まれて……
しおりを挟むおじい様はジュジャ国から竜騎でサフェール国に一度戻ったレティシアから母たちの死を知らされた。
それでおじい様は倒れられてしまった。
すぐに回復はしたものの悲しみは深く……
「アノールに乗り込んで、問答無用で無双を咬ますかと思ったわよ」
当時のことをレティシアはそう振り返る。
それだけでおじい様の性格を知っている私には十分だった。
母たちの悲劇を聞いて激昂したおじい様は、興奮しすぎて倒れた。
病気ではなく憤怒で……気絶したのだ。
「あれでも血管が切れないお父様もお父様だわ」
そんな荒ぶる雄牛状態のおじい様にアノール国へ乗り込ませるわけにはいかず。
まだ冒険者として自制心と理性のあるレティシアがサフェール国代表としてアノール国に向かった。
「マルガレータ様がショックで寝込んでいなかったら三人で乗り込んでいたぞ」
そう言ったのは竜騎ギルドで働くアグルア叔父様。
クラリサおばあ様はやはりアノール国に乗り込もうとしていた。
それを諦めたのは、王妃で幼児期から親友のおばあ様が倒れたからだ。
「たぶんな、マルガレータ様は二人を止めるために臥せっていたんだと思うぞ」
私はオーランジュ領で家族を埋葬する許可を得るために王城へ向かった。
そんな私に届いたのが、おばあ様が倒れられたという報だった。
私の無事を聞いて、ベッド上で上半身を起こした状態での再会だったけど涙を流して喜んでくれた。
この日は私を手放そうとされず、一緒のベッドで眠ることになった。
ときどき、私たちはおばあ様と一緒に過ごして、私と姉さんは寝る時も一緒だった。
兄さんは十歳から私たちとは日中一緒に過ごしても夜はおじい様と同じ部屋で寝ていた。
「おじい様とは何のお話ししているのかしら?」
「昨夜はレティシア様のお話です。剣を手にした当日に王城の騎士団を叩きのめしたそうですね」
「ええ、そうよ。それでレティシアは剣を持つ前から剣術を独学していたことがバレてね。おじい様に叱られてお尻をペンペンされたのよ」
その理由は、剣術を独学で学ぶとその型が身についてしまう。
正しくない型や手捌きや足捌きは、自身の成長にも影響を受けてしまう。
当時のレティシアはまだ八歳。
そのため、腕などの筋肉が一部偏ってしまっていた。
剣の構え方からすべて叩き直された。
レティシアは護身用ではなく本格的な剣術を身につけたかった。
それならその基本を学んでから独学で成長すべきだった。
何より辛かったのは、そんな自分を止めなかった、もしくは報告を怠ったとして侍女たちが処罰を受けた。
テントでその話をしたレティシアは、そのことが一番辛かったと教えてくれた。
「私、止められたのよ。でも大丈夫だと思ってた。そして誰にも言わないようにと口止めしていたの。彼女たちはそれを守っただけ。あのときにね、私は自分の身勝手な言動が周りに迷惑をかけるんだって知らなかった。でも王族である以上、そんなことは言い訳にならない。だから私は間違った権力を使った罰として自分に王族籍の剥奪を与えたの」
侍女の中には辞意を示し、修道院へその身を封じた侍女もいる。
レティシアの専属侍女の中で一番優しく一番厳しい女性だった。
「お父様も私が原因ということで侍女長の指導だけで済ますつもりだったの。でも彼女が『もし同じことが起きた場合、一番傷つくのはレティシア様です。一度失敗した私たちが同じ職務についていたら同じ失敗を繰り返してしまいます』って。あのとき私が泣いて嫌がったら、『それでしたらご自身の立場を弁え、言動を改めなさい!』って叱られたわ。彼女は自身の処罰を重くすることで、いやだ、辞めないでと泣く私に罪の重さを教えてくれたの」
「その方、いまは?」
そう聞いた私にレティシアは苦笑した。
「お父様たちの隠居した邸で侍女長として働いているわ」
彼女が自ら課した罰はおじい様の心にも重く響いていた。
そして、侍女長として後輩を指導してもらえるように頼み込んだそうだ。
「そのときにリーシャが聖女だったって話したそうだよ。そして第二王女だった姉様たちの死を知って嘆かれた。彼女だって姉様とは面識があったからね。修道院は神に仕える場所のため、時事も世相も入ってこない。だから今まで知らなかったそうよ。そして『みんなの眠る墓を一緒に見守って欲しい』ってお父様に懇願されて修道院から出てきてくれたの」
実際、修道士や修道女のまま世俗に戻られる方はいる。
そして貴族の墓などを守られる。
その方も同じように世俗に戻られ、私の家族を守りつつおじい様たちに仕えるのだ。
「おじい様が父さんたちを王家の墓には入れられないと言ってたけど、そんな事情があったのですね」
「そうね。それに王家の墓に入ってしまったら簡単にお参り出来ないわ。みんな、誰からも好かれていたから」
家族の墓は丘の上にある。
そこはよくピクニックへ行った場所。
そんな思い出の場でみんなは寝てる。
優しい思い出に包まれて……
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