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第四章
それは三人を敬ってのこと
しおりを挟む「王妃よ、ここへは何しにきた」
「そこのバカが無能と蔑んだ可愛い姫が素敵な策を与えてくださったの。それを皆様にもお教えしたくて」
「王妃陛下。それはどのような策を授けてくださったのでしょう」
宰相の笑顔は黒い。
それもそのはず、市井にくだったとはいえ第二王女が姪の一人であることに変わりはない。
その一家を貴族たちより身近で見守ってきた宰相にとっても、リーシャへの侮辱は許せないでいた。
そんなリーシャが効果ある策を思いついた。
それが有用だからこそ、王妃はこの場に来た。
「姫の話ではね、フェロール国は寒波の影響で不作だったそうよ。宰相は何か聞いてるかしら?」
「寒波、ですか。たしかに昨年末に大寒波で凍死者が多数でたそうですね」
「父上、たしかその影響で冷害になったと聞きました。被害の確認で連絡を差し上げましたが『例年より収穫は落ちるものの昨年の備蓄がある』との返答でした」
「ええ、あるでしょうね。自分たち王族や貴族、それも上流貴族までが質を落とさずパーティーが出来るくらいの蓄えが。その代わり、王都内はギリギリ『例年と変わらず』。でも王都から離れれば離れるほど餓死者が出るわ。簡単に確認してもらってもそう回答が出たわ。いま詳細を分析してもらってるから、アモル、後で資料をもらってきてね」
「はい」
王妃の言葉に宰相補佐が頭を下げる。
「その被害を前提にして聞いてね。姫はそんな村に直接食糧支援をすべき、と言ったの。王族や貴族が食料を手に入れたとしても、良心のある領主なら領民を守ろうとするでしょう。ですがそうでなかった場合、領民に物資は届かない。そして、その馬車は護衛をつけた商人が行くのよ。商人が食料などの物資を運んでいてもおかしくはないでしょう?」
「それで上手くいくでしょうか? それも支援の目的は戦争です」
「ええ、姫は荷馬車にはただ一つ、『サフェール国の旗をつける以外何も必要はない』、と断言したわ」
「─── 姫の目的は無血開国ですか‼︎」
「さすが宰相、その通りよ。何も支援しない王族。逆に国境を越えてまで支援にきたサフェール国。それもそれを示すのは荷馬車につけられた小さな国旗のみ。姫の話では、それだけで人心はサフェール国に傾くそうよ」
王妃の説明に貴族たちは感嘆する。
その策をまだ十三歳の少女が考えたのだから。
「姫はさらに言っていたわ。そのような状況ではフェロール国では降神祭は行われないでしょう。にもかかわらず、国外の降神祭で遊ぶためにお金を使おうとしている。本来そのお金は国外で支援の食料を購入して国へ持って帰るために使うべきだって」
「ふざけんな! 国に納めた金は俺の金だ!」
「いいえ、違います。国に納められたお金は国民のお金です。お預かりして、不作のときにそのお金で国外から食料を購入するため。そのためのお金です」
「そして、国が商人を重宝するのは緊急時に食料をかき集めて届けてもらうため。フェロール国に支援が届かないのは、商人と関係を作らず、我が国のように支援が必要か聞いても見栄を張り突っぱねる。民を切り捨てるのであれば、我が国が拾っても構いませんね」
「慰謝料に王都以外の領地と領民、そして領民のために身を削る貴族のみを頂こう。宰相、姫の願い通り商人に物資を預け各領地へと送らせよ」
「御意」
メルベール王女の聡明な三人の子供たち。
それはサフェール国の秘宝だった。
二人は凶刃に斃れ、残された末の姫は神に聖女様と認められた。
それは不埒な者たちの手から守られたが、その対価は一年の幽閉。
その間に更なる知識を先代の聖女様から与えられ、聡明さに磨きがかかって戻ってきた。
そして今、隣国の民を救うために戦争を回避した案を考え出した。
「うちは豊作とまではいかないが備蓄用の食糧も十分だ。昨年までの備蓄なら差し出そう」
「こちらは穀物は豊作だった。そうだな、今年の脱穀はまだだが実も大きく十分だ。備蓄倉庫の一部を残し、全てを無償提供しよう」
「なあに、同じサフェール国の国民になるかもしれないのだ。中には領民になるかも知れぬ民を救うのに見返りなど要らぬ」
「申し訳ない、我が領地では支援できる物はない。しかし我が領には産物の取り引きで商人とは顔がきく。かれらに荷馬車などを、いや、彼らにフェロール国への支援を依頼しよう」
貴族たちはすでに無血開国を前向きに考えている。
中には隣り合う領同士で協力関係を結びつつある。
「我が領には屈強な男たちが多い。是非とも護衛として協力させてもらいたい」
辺境伯の言葉に一斉に拍手が沸き起こる。
辺境伯は武の一族だ。
そのためこのような場面で協力できることが少ないと口を噤むことが多い。
それが率先して協力を申し出たのだ。
そして一部の貴族たちは気付いた。
『フェロール国に向かうのが商人と護衛』と限定されたのかを。
辺境伯でも協力できることがあると伝えたかったからだ。
「王妃よ」
「はい」
「我らの姫はやはり賢くて優しい二番姫に育ってくれたな」
「はい。あの私たちの国の双子将軍、右のクラリオン将軍と左のリリアーナ将軍が望んだとおり、リーシャは二番姫のように思いやりのある姫へと育っていますわ」
双子将軍を目指していたクラリオンとリリアーナを将軍と呼び、リーシャを二番姫と呼ぶ。
────── それは三人を敬ってのこと。
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