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第四章
─── それだけで人心はサフェール国に傾きます
しおりを挟む「夜間に我が姪の家を襲ったのは何故だ? さらに断られた腹いせに無実の罪を着せ、死んで罪を償えという命令書を残した。これは我が国への戦線布告であろう?」
「い、いえ。そのようなことは……」
「ほう……? それでは見ず知らずの異性が夜に扉を叩いたら開いて招き入れなければ処刑する、というのがその方らの常識というのかな?」
「そのようなことは、けっして……」
謁見の間には様々な魔導具が設置されている。
中には別室で様子が見られる魔導具も。
私たちは安全のために別室で謁見の間の様子を見守っていた。
「伯母様、今回の謁見は事前に発言を許されたものですか?」
「いいえ。この時点で彼の国の品格の低さを露呈しているわね」
謁見において、発言には二種類の方法がある。
ひとつ目は謁見の挨拶以降、陛下の許可なく発言が許されないもの。
もうひとつが謁見中は自由に発言が許されるもの。
ただし内容をよく吟味してから発言しないと言質をとられて不利になる。
それは商人にとっても同じことがいえる。
父さんは貴族も商人も同じだ、といつも教えてくれた。
「ねえ、レティシア。今回の件、やっぱりリーシャの考えた通りだと思う?」
「そうね。リーシャの指摘を精査したけど、やはり降神祭が関わっていると考えれば納得いくわ。祭りの間、物価は上昇する。もちろん宿の宿泊料も、連中のお好きな歓楽街も。その出費を抑えるためにリーシャから慰謝料と称して家を取り上げる計画を立てたのでしょうね」
ここに何故レティシアがいるか。
理由は簡単、竜騎に乗って王都へ向かう際に竜騎ギルドのアグルア叔父様が一緒だったからだ。
勤務が明けて王都へ戻られるため一緒に乗車した。
それで私が王都へ向かう理由を聞かれて話した結果、竜騎ギルドのある町にちょうどいたレティシアがこの場にいるのだ。
もちろん、臣籍降下されたアグルア叔父様は謁見の間に貴族として立っている。
「発言には細心の注意を払いなさい」
父さんの言うとおりだったと、数時間前の自分に教えたい。
映し出された映像の中では必死に言い訳をしている第二王子の姿が見える。
「うっわー。リーシャが持ってきた証拠映像をみたけど、ほんと相手にしてもらえるのは歓楽街だけね。『フェロールの第二王子』って肩書きがなかったら、ただの顔と金払いが良いだけの男じゃない」
「レティシア、その言い方……。本当にあなたって人は、臣籍降下で貴族にならないって言い出したときは驚いたけど」
「別にいいじゃない。メルベール姉様も王位継承権も貴族籍も放棄して商人になったわ。私もすべてを投げ出して、幼い頃から夢だった冒険者になりたかったの」
「二人のおかげで魔物も減って、魔物の襲撃の被害も減ったわ」
「アノール国の王族が教会で一生をかけて祈り続けることで、この大陸の魔物は弱体化したわ。聖女様とは違うから中程度だけど。少なくとも一角獣に、シカやウサギに角で一突きされても死ななくなっただけで十分だわ」
冒険者のレベルが上がり、今では商隊の護衛の任を冒険者ギルドに依頼されることが増えた。
護衛は国境を越えることもあり、各国の冒険者たちとの交流も盛んになっている。
「もう、兄様ったら! さっさと有罪確定でフェロールを潰しに行きましょうよ」
「レティシア、もうすぐ終わりますわ。リーシャ、どうしたの? そんな難しいお顔をして。せっかくの可愛いお顔が台無しよ」
「そうよ。何か心配することがあるの?」
私が考えていると二人が心配して声をかけてきた。
「私、商人仲間や町の人たちから情報を聞いてたのです。ここ一年はまったく情報が得られない場所にいたから、それこそ必死に」
そう言うと二人の表情は悲しくゆがみました。
「そのときに聞いたのです。『今年のフェロール国は寒波の影響で不作だった』って。そのような状態で、何故この国の降神祭に来られたのでしょう? 自国では行われないのでしょうか。それなら尚更、遊びに来てはいけないでしょうに」
私の言葉に、伯母がそばに控えていた方に事実確認をするように話した。
「リーシャ、だったらどうすればいい?」
「食糧支援を。それも王族や貴族が独り占めしないように直接町や村へ。その荷馬車にはただサフェール国の旗をつけて、護衛の兵士以外は商人たちが配るのです。─── それだけで人心はサフェール国に傾きます」
「リーシャは無血開国を望むのね」
「はい。戦争を始めても前線に出るのは民です。王族は安全な城の中で変わらない贅沢を続けます。民の生命は消耗品ではありません」
「────── そうね。待ってなさい。その話を陛下に伝えてくるわ」
そう言った伯母は部屋から出ていった。
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