50 / 79
第四章
最期の瞬間まで笑顔を向けていた
しおりを挟む子供の足でも徒歩十分。
商人が多く使用する西の竜騎ギルドへ向かい、王都までの代金を支払う。
乗合竜騎には目的にあわせたルートがあり、商人には商人用のルートが存在する。
それだと定期便のため三割安になる。
ただし、商人以外に使えない。
同行者は商人の家族のみで同業者だとしても認められない。
どうしても一緒に行きたい場合、商人ルートを正規の値段で支払う。
受け付けで身分証を見せるため、偽造や偽装、偽証などをすれば捕まる。
罪の内容によっては竜騎ギルドの使用ができない。
竜たちは賢いから誤魔化しはきかない。
受け付けでうまく誤魔化せたとしても、竜に近付いただけで竜に踏まれる。
潰すのではなく押さえつけるだけだが、加減のわからない若い竜だと慌てて踏み潰す。
死んではいないけど重症で治療院送りだ。
「自業自得だから仕方がないな」
禁止されているのには理由がある。
その禁止事項を誤魔化して竜の領域に入った以上、それは本人の責任になるのだ。
竜たちにも正当な理由がある。
昔の人たちが竜を悪神の遣いと思い込み、竜たちをみれば戦いを挑んできた。
そして竜に敵わないとの理由で討伐対象となった。
その中で卵を盗んで飼い慣らしたのが竜騎のはじまりだったらしい。
「お父さんやお母さんなら、卵を守って戦うのは当然だよ」
「そう、それを指摘したのがお姉ちゃんの大好きな双子将軍よ」
双子将軍が竜たちと話し合う目的で使者となった。
しかし、そんな人間の事情を竜が知る由もない。
離れた場所には軍団が待機している。
それだけで、自分たちを討伐にきたと思って攻撃した。
双子将軍はその攻撃を避けなかった。
真っ直ぐ、前に立つ竜たちを見つめていた。
────── いつもと違う。
竜たちは恐怖だっただろう。
手足を捥がれても敵意のない目を向けられて。
〈お前たちは何しにここへきた〉
「謝罪にきました」
〈謝罪、だと?〉
「はい、大いなるお方。我ら人間の愚かな行為でたくさんの仲間が傷つき斃れ、我が子たちが奪われたことでしょう。我らも子を持つ親です。我が子を奪われる胸の痛みや苦しみ悲しみはよくわかります」
〈分かるから何だという〉
「お怒りはごもっともです。ですが連れ去られたお子たちは生きておられます。我らを乗せて運ぶ『竜騎』となられ、良き関係を結ばせて頂いております」
「皆さまとも同盟を結び……」
「是非とも竜騎として我らと共に生きていただきたく……」
竜たちは驚いた。
そして慟哭した。
二人は最後まで……最期の瞬間まで竜たちに笑顔を向けていた。
竜たちは二人の亡骸を丁重に扱い、二人に似た匂いをたどり王都へと向かった。
王都では遠くから竜の姿が確認されて騒ぎになった。
彼らがとったのは攻撃体制ではなく歓迎のためだ。
竜騎として働く竜たちは言葉を話す。
彼らと心が通じ合う者たちが竜騎ギルドを作り、人や物の運搬に協力していた。
彼ら竜騎ギルドは決して戦争に使われたこともなかった。
そんな王都の人たちは、竜たちを連れ戻しにきたのだと。
せめて、今までの感謝を伝えたい。
そんな理由からの歓迎だった。
竜たちを迎えるため、国王は王都の外まで出て待機していた。
そこに、二人の亡き骸を運んできた竜たちが到着した。
亡き骸は竜と王の間に置かれた。
そして竜たちは大地に伏した。
〈我らは誤った選択をしてしもうた。使者として現れた二人を何も聞くことなく攻撃してしもうた〉
申し訳ないと繰り返し謝罪する竜たちに、二人の亡き骸を感情のない目で見つめていた国王は目の前の竜に視線を移した。
「謝らないでください、竜の王よ。二人はあなたを恨んでなどおりません。あなた方は人に対する誤解を植えつけられただけです。その誤解が解けたのであれば、二人の死は無駄ではなかった。そうではありませんか?」
〈────── 我ら竜族は二人の霊に忠義を尽くそう。そして同じ血を持つ者たちにも忠誠を誓う〉
これらは竜族の王が額にもつ『神眼』に記録されていた。
それを託された人の王は記録として残した。
王の姫が双子将軍の記録を集めて回り、一冊の本として出版された。
それが姉の愛読書『双子将軍の偉功』だ。
竜たちとの絆は今でも続いている。
双子将軍の子孫は同盟国の王家へと婿入り・嫁入りしている。
それは竜騎ギルドの航路を広げ、商人の販路を拡大させ、各国の繁栄に結びついた。
51
お気に入りに追加
380
あなたにおすすめの小説
加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました
黎
ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。
そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。
家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。
*短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~
juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。
しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。
彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。
知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。
新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。
新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。
そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】
小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」
私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。
退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?
案の定、シャノーラはよく理解していなかった。
聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜
黄舞
ファンタジー
侯爵令嬢である主人公フローラは、次の聖女として王太子妃となる予定だった。しかし婚約者であるはずの王太子、ルチル王子から、聖女を偽ったとして婚約破棄され、激しい戦闘が繰り広げられている戦場に送られてしまう。ルチル王子はさらに自分の気に入った女性であるマリーゴールドこそが聖女であると言い出した。
一方のフローラは幼少から、王侯貴族のみが回復魔法の益を受けることに疑問を抱き、自ら強い奉仕の心で戦場で傷付いた兵士たちを治療したいと前々から思っていた。強い意志を秘めたまま衛生兵として部隊に所属したフローラは、そこで様々な苦難を乗り越えながら、あまねく人々を癒し、兵士たちに聖女と呼ばれていく。
配属初日に助けた瀕死の青年クロムや、フローラの指導のおかげで後にフローラに次ぐ回復魔法の使い手へと育つデイジー、他にも主人公を慕う衛生兵たちに囲まれ、フローラ個人だけではなく、衛生兵部隊として徐々に成長していく。
一方、フローラを陥れようとした王子たちや、配属先の上官たちは、自らの行いによって、その身を落としていく。

辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~
銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。
少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。
ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。
陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。
その結果――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる