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第四章
最期の瞬間まで笑顔を向けていた
しおりを挟む子供の足でも徒歩十分。
商人が多く使用する西の竜騎ギルドへ向かい、王都までの代金を支払う。
乗合竜騎には目的にあわせたルートがあり、商人には商人用のルートが存在する。
それだと定期便のため三割安になる。
ただし、商人以外に使えない。
同行者は商人の家族のみで同業者だとしても認められない。
どうしても一緒に行きたい場合、商人ルートを正規の値段で支払う。
受け付けで身分証を見せるため、偽造や偽装、偽証などをすれば捕まる。
罪の内容によっては竜騎ギルドの使用ができない。
竜たちは賢いから誤魔化しはきかない。
受け付けでうまく誤魔化せたとしても、竜に近付いただけで竜に踏まれる。
潰すのではなく押さえつけるだけだが、加減のわからない若い竜だと慌てて踏み潰す。
死んではいないけど重症で治療院送りだ。
「自業自得だから仕方がないな」
禁止されているのには理由がある。
その禁止事項を誤魔化して竜の領域に入った以上、それは本人の責任になるのだ。
竜たちにも正当な理由がある。
昔の人たちが竜を悪神の遣いと思い込み、竜たちをみれば戦いを挑んできた。
そして竜に敵わないとの理由で討伐対象となった。
その中で卵を盗んで飼い慣らしたのが竜騎のはじまりだったらしい。
「お父さんやお母さんなら、卵を守って戦うのは当然だよ」
「そう、それを指摘したのがお姉ちゃんの大好きな双子将軍よ」
双子将軍が竜たちと話し合う目的で使者となった。
しかし、そんな人間の事情を竜が知る由もない。
離れた場所には軍団が待機している。
それだけで、自分たちを討伐にきたと思って攻撃した。
双子将軍はその攻撃を避けなかった。
真っ直ぐ、前に立つ竜たちを見つめていた。
────── いつもと違う。
竜たちは恐怖だっただろう。
手足を捥がれても敵意のない目を向けられて。
〈お前たちは何しにここへきた〉
「謝罪にきました」
〈謝罪、だと?〉
「はい、大いなるお方。我ら人間の愚かな行為でたくさんの仲間が傷つき斃れ、我が子たちが奪われたことでしょう。我らも子を持つ親です。我が子を奪われる胸の痛みや苦しみ悲しみはよくわかります」
〈分かるから何だという〉
「お怒りはごもっともです。ですが連れ去られたお子たちは生きておられます。我らを乗せて運ぶ『竜騎』となられ、良き関係を結ばせて頂いております」
「皆さまとも同盟を結び……」
「是非とも竜騎として我らと共に生きていただきたく……」
竜たちは驚いた。
そして慟哭した。
二人は最後まで……最期の瞬間まで竜たちに笑顔を向けていた。
竜たちは二人の亡骸を丁重に扱い、二人に似た匂いをたどり王都へと向かった。
王都では遠くから竜の姿が確認されて騒ぎになった。
彼らがとったのは攻撃体制ではなく歓迎のためだ。
竜騎として働く竜たちは言葉を話す。
彼らと心が通じ合う者たちが竜騎ギルドを作り、人や物の運搬に協力していた。
彼ら竜騎ギルドは決して戦争に使われたこともなかった。
そんな王都の人たちは、竜たちを連れ戻しにきたのだと。
せめて、今までの感謝を伝えたい。
そんな理由からの歓迎だった。
竜たちを迎えるため、国王は王都の外まで出て待機していた。
そこに、二人の亡き骸を運んできた竜たちが到着した。
亡き骸は竜と王の間に置かれた。
そして竜たちは大地に伏した。
〈我らは誤った選択をしてしもうた。使者として現れた二人を何も聞くことなく攻撃してしもうた〉
申し訳ないと繰り返し謝罪する竜たちに、二人の亡き骸を感情のない目で見つめていた国王は目の前の竜に視線を移した。
「謝らないでください、竜の王よ。二人はあなたを恨んでなどおりません。あなた方は人に対する誤解を植えつけられただけです。その誤解が解けたのであれば、二人の死は無駄ではなかった。そうではありませんか?」
〈────── 我ら竜族は二人の霊に忠義を尽くそう。そして同じ血を持つ者たちにも忠誠を誓う〉
これらは竜族の王が額にもつ『神眼』に記録されていた。
それを託された人の王は記録として残した。
王の姫が双子将軍の記録を集めて回り、一冊の本として出版された。
それが姉の愛読書『双子将軍の偉功』だ。
竜たちとの絆は今でも続いている。
双子将軍の子孫は同盟国の王家へと婿入り・嫁入りしている。
それは竜騎ギルドの航路を広げ、商人の販路を拡大させ、各国の繁栄に結びついた。
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