元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径

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第三章

「私の殺害を命じたのは、あなたですね」

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「ロウル廃国王、すべての責はあなたにある」

調印式で身につけていた衣装から貫頭衣に着替えたロウルは両腕を魔封じの腕枷で固定され、各国の代表の前で跪いて頭を俯かせている。
その後ろに同じ姿で跪く二人の愚かな王子だった者たち。
彼らはフレディの兄だ。

「そして第一王子グレンド、第二王子ベルン。あなたたちにも同じく責と責めを負ってもらう」

冷たく響くその声の主は、先代聖女様が信頼を寄せていた主教会の教主だ。
彼は生きていた。
行方不明になっていた彼は語る。
王都に戻る途中で、主教会で神官たちが殺されたと報が入ったと。
その報をもたらした副教主が用意した神官服を着て国外に向かった。
副教主は脱いだ服を持ってさらに他の地にいる神官たちに主教会の惨事を伝えに向かうと言って別れた。
教主も行動を共にしようとしたが断られた。

「彼らの目的は教主様あなたの生命です。ですから、あなたは隣国に逃げ延びてください」

生命を狙われている自身が共にいれば、神官だけでなく信者にも迷惑がかかる。
たとえ神官服を身にまとっていても……気付かれれば全員が殺されてしまう。
そう説得されてしまえば反論などできない。

「私は帝国内の教会に匿われました。のちに『教主の服を着た者が惨殺体で発見されていた』と聞かされました。副教主は私の身代わりとなるために残っていたのです」

その言葉に反応を見せない三人。
いや、ベルンの方は青ざめて身体を小さく震わせていた。
足枷につけられた鎖が金属の音を鳴らす。
小さな音でさえ大きく響くのは、ここが帝国の教会の最奥だからだ。
神の前で罪を暴き罰を申し渡す。
それが王家相手に行われる神聖裁判だ。
神の前だからこそ嘘は吐けない。
そのため言い逃れも責任転嫁もできない。
精一杯の反抗が黙秘なのだ。
────── しかし、気付いているのだろうか。
そのこと自体が肯定になることを。


「私の殺害を命じたのはロウル廃国王、あなたですね」

教主、今は元がつく彼はこの神聖裁判を最後に神に仕えるのをやめる。
自らの生命をかけて生かしてくれた副教主の埋葬地で彼の眠りを。
巻き込まれて死んだ神官たちの安らぎを。
そして聖女として国に殺された数多の少女たちとその家族に贖罪を。

「私は神に祈ることは二度と出来ません。そんな資格はないのです。─── 私はたくさんの亡くなった方たちのためだけに祈りを捧げて残りの人生を生きたいのです」

そんな彼に最後の仕事を与えた。

『国の最後を見届けること』

その最後の責務を全うするため、彼はこの場に立っている。



「すべての罪は明るみとなりました」

教主はそう言って神の像を振り仰いだ。

「この三人には永遠とわに『聖女の祈り』を。それはこの世界が滅びぬ限り続くものとする」

教主の宣言に呼応するように神の像が光り輝く。
同時に跪く三人の全身が光り……その姿は消え去っていた。
大陸の各地から光の柱が確認されたという報告がドゥヴェール帝国に届いた。
その数は三本。
どの地点でも光の柱は天まで届き、一時間もたたずに消えた。
─── その日から、魔物は以前と同じように弱体化した。



王妃や側妃たち、王女たちは労働で罪を償う。
労働といっても娼館ではない。
王女たちは『王族の女性』として生涯を地下水牢で過ごすこととなる。
それは教会の地下に作られた牢獄で、透明な独房となっている。
ここには本来、罪を犯した神官たちが神に祈りを捧げて赦しを乞うためだけに作られた。
各地の独房に入れられた王女たちは神に祈り続ける。
本来自分たち王族がすべきだった『聖女のつとめ』を果たすために。
各地の教会に置かれていた聖石を失った彼女たちは、その地で祈りを捧げるしかない。
祈りを捧げた初日に王家の血が聖女という存在と重なり、神と繋がった。
彼女たちは歴代の王族の聖女様と同様、その日から二百年という長きに渡り祈り続ける。
休むことなく、食事を取ることもなく、一心不乱に。
『神を求める者』として、すべての欲を排除された身体で。
そのその日まで。

王妃と側妃たちは王家の血がない。
そのため各地の教会を巡り祈りを捧げる。
王女たちの肉体が早く滅びる日がくることを。
そして願う、滅びたあとに神の寵愛を受けられることを。
神の眷属となれば使徒として崇められる。
初代聖女様が使徒となられたように。

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