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第三章
『私たち家族は幸せです』
しおりを挟むアノール国の謁見室という本来ありえない場所で私たちは再会した。
こちらの抗議を投げつけ、私たちは八人の身柄を引き渡しさせた。
第三王子とは顔見知りになったことは姉の手紙で知っている。
ただ、リーシャは第三王子たちと会っていない。
兄姉二人が毎日剣術の鍛錬をしている間、九歳のリーシャは家庭教師に勉学を習っていた。
商人なら算術が必要で、契約は語学が必須だ。
空いている時間は妊婦の母のそばで母の身を案じ、弟が生まれたあとは母を助けて弟の世話をしていた。
そのため、別邸のお客人とは会っていない。
しかし、公爵家の別邸にいたのだ。
当主の公爵と何度も食事をし、前公爵と繰り返し論議を続けていた。
『若いなりに賢い子なのよ。生まれた順番が遅いから王になれないなんて。世襲制って何なのかしら? 賢くて世界に目を向けられる子が王になればいいって思わない?』
姉から届いた最後の手紙。
以前から取り引きのある方々がアノール国の王都にお店を出されたの。
だからご先祖様の生まれたアノール国に向かいます。
そしてご先祖様のさらにご先祖様、そして始祖様に『私たち家族は幸せです』と報告してきます、で括られていた。
その後も何度かその店と取り引きをして、馬車の修理を馴染みの店に頼んだ。
その空いた時間を利用して王家の墓参に向かうルートの乗合馬車に乗った姉たちは、乗客専用の宿で惨劇に見舞われた。
「お久しぶりです、マルス」
「ああ、レティ……このような形で再会したくはなかった」
「ええ、わたくしもです。パスエール義姉様はいかが?」
「発狂寸前です。優しくて強い兄と実の姉のように慕っていたメルベール様、そして我が子のように可愛がっていたリリアーナ、兄と同じく優しいクラリオン、会える日を楽しみにしていたジンス。そして家督を私に継がせたことで、自身たちの発言力の強さが新当主となった私や王妃となった姉に影響することを憂い、兄と共に家を出ていかれた両親。─── そんな彼らがこのような惨劇で生命を落とすとは」
私たちは幼馴染みだ。
ドゥヴェール帝国では毎年、新年の祝賀会が開かれる。
もちろん新年は母国で国民と。
祝賀会は四ヶ月後の花が咲き綻ぶ季節に各国の代表が集まる形で。
そして私たちは歳が近いということもあり、毎日小さなお茶会を開いていた。
そんな私たちはある日気付いた。
フロストイとメルベールの淡い恋心に。
もちろん、お互いの立場から結婚も可能だった二人を、私たちはくっつける気マンマンだった。
元々フロストイは、いずれ公爵となるのに人の上に立つことが不得手だった。
帝国は他国より厳しい。
時として、幼な子相手にも断罪も辞さない覚悟が必要となる公爵家の後継ぎとして ────── あまりにも心が優しすぎたのだ。
そんな彼が唯一公爵を継がなくていい方法は、メルベールと結ばれることだった。
誰もが見守り、フォローして、ちょっと裏で手を回して……正式に婚約が結ばれた。
それはあの小さなお茶会に参加していた子供たちにとっても『ハッピーエンディング』だった。
商人一家として各国を回るフロストイの家族を、どの国でも歓迎して優遇した。
二人に似たかわいい子供たちの成長を見守ることが、その商人の一番の目玉商品だった。
そんな『各国に小さな幸せを運ぶ一家』を、無関係の国の王弟や貴族がぶち壊し、一家の生命を奪い、唯一生き残った子供を王城に監禁した。
各国の誰もが許すはずはなかった。
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