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第三章

公序良俗はお守りください

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第三王子という立場のため、いずれは叙爵されて家をおこすか貴族の娘と結婚するかの二択しか未来はなかった。
だからといって無能では成り立たない。
そう思ったフレディは学院の長期休暇を使い、隣国に留学している財務大臣の第二子息リフレスに会いに行った。

「元気そうだな」
「お久しぶりですフレディ殿下」
「殿下はやめてくれ。ここへは見聞を広めるためにきたのだから」
「国の方は相変わらずですか」
「ああ、でな」

表情をゆがませる幼馴染みにリフレスの表情もゆがむ。
第三王子で将来は王弟殿下として国を支えることになる彼は、悲しいことに誰よりも『王の器』だった。
しかし王太子も第二王子も無能ではない。
ただ、国や国民より自らの立場を守り、改革は王太子が国王になってからでも間に合うと思っている。
王を弑逆してでも国を立て直そうという気概は感じられない。

フレディは叔父たちの悪行に頭を悩ませてきた。
どんなに父王に訴えても一切耳を傾けてもらえない。

「もし彼らを国外追放などの処罰なんてしてみろ! 被害は国外に広がるんだぞ! そのときに指をさされるのは私だ! 責任を追求されて一生鉱山労働にされるんだ! ────── そんなことになったら私には耐えられない」

父王の嘆きにフレディは何も言えなかった。
王族として生まれた以上、国を守り国民を守り、時として国のために自らの生命を差し出す。
それが王族の在り方じゃないのか。
自分の考えは間違っているのだろうか。
父王だけでなく、兄殿下たちも国民の生命より我が身大事。
二人は間違いなく国王の息子なのだ。
だったら何故、自分だけこの国独特な考え方と違うのか。

そう悩んでいた彼はリフレスの留学直後の手紙で答えを知り、ここまで答え合わせに来たのだ。


「こちらがこの国で購入した児童書にございます」

そう言って差し出された絵本に見覚えがある。
『ジェンドリオンの伝説』は、フレディの部屋にある本棚に小さな頃から並んでいた、いわゆる愛読書だった。
第三王子ということで乳母ではなく生母に育てられた彼には家庭教師もつけられなかった。
早くから引き合わされていたリフレスたちも、フレディが臣籍降下されたときに支えられるように同年齢の子供が集められた。
その関係は勉学ではなく臣下となったときに発揮されるため、市井の文具や雑貨が集められての勉強方法だった。
文字を覚えるための児童書、その中に件の本もあった。

「ジェンドリオンとは我が国と一番近い都市です」
「ああ、そこで一泊した。一瞬、ここが王都かと思ったくらい繁栄していたな」
「そうです。そして、そこから竜騎で王都ここまでひとっ飛びで移動できます」
「私もそれで来た。竜騎ギルドで手続きをした一時間後にはすでにここにいた。空を飛ぶのに竜の背に乗せられるのかと思ったぞ」
「追加料金でそれも可能ですよ」
「私のお金は国民の血税だ。無駄遣いなどできぬ。竜騎も乗合馬車の乗り継ぎと宿泊代を考えたら半額で済む」

その代わり、リフレスの滞在先に迷惑をかけることとなった。

「急に悪かったな」
「いいえ、こちらの別邸をお貸しくださった公爵様は『滞在中に人を招いても良いですが公序良俗はお守りください』と言われただけです」

リフレスの言葉にフレディの表情が緩む。
学生だから友人を招くだろう。
本邸で部屋を借りている立場では、気軽に招くことは難しい。
そのような配慮から、別邸と使用人を貸してくださったそうだ。
公爵に到着の報告と滞在を許していただいたお礼を申し上げるため面会を求めたものの、残念ながら今は不在らしい。
御当主である以上、日中は仕事をされていて当然だろう。

「主人が戻り次第ご連絡させていただきます」
「よろしくお願いします」

家令ハウススチュワードは静かに頭を下げると応接室を出ていって二人だけにした。
積もる話もあるだろう。
そんな配慮から全員を下がらせて、テーブルの端に小さな鈴を置いてでていったのだ。
その洗練された動きと配慮は自国とあまりにも違い、フレディは少し戸惑っていた。
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