元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径

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第三章

『飢えて死ぬのが先か、人狩りに連れ去られるのが先か』

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ボルテ・スーレディア公爵。
国王の弟ということで、ウールレッド同様好き勝手に生きてきた悪党だ。
ウールレッドが暴行を主としているのに対し、ボルテ・スーレディアは最初から惨殺を目的としていた。
『鹿狩り』と称して子供も大人も馬で追い回し、殺したり飽きたりすると飼い犬十頭に与えてきた。
ときには泣いて目の赤い子供たちを兎に見立てて『兎狩り』と称して犬たちに追わせる。
それを楽しむため、飼い犬の餌を減らして飢えさせていた。

国王に頼んでウールレッド領の隣にある王領地を拝領されたボルテ・スーレディアにとって遊び場フィールドは二倍。
互いの領民を交換するのは自領で反乱を起こさせないため。
遺体や遺骨が見つからなければ手も足も出せない。
逆に訴えた領民が、王族に罪を着せたとして責任を負わせられた。
領民たちは泣き寝入りしかできない。
すべてを捨てて逃げ出した領民たちは人狩りに捕まり、領主の手に落ちた。
唯一の抵抗は、人狩りから息を潜めて隠れるくらいだった。

この領は元々侯爵家の領地だった。
それをボルテ・スーレディアに……王弟によって奪われた。
侯爵家の名はスーレディア。
侯爵家は領地だけでなく家名も……生命すらも奪われた。
彼ら侯爵家に罪名はない。

『ある日突然、使用人も含めて一族が全員いなくなった』

────── その一文だけで、何が起きたのかわかるだろう。
そして王領地となり、翌年には王弟に家名と共に領地が与えられて。
スーレディア領からの徴税は二十年間免除されることとなったが、スーレディア領民が新領主に支払う税率はあがった。
領民が減る度にあがる税率は領民を苦しめ、毎年聖女様の祈りで豊かだった農地は荒れ、税収は当初の二割を切った。
それを補填するために国庫から毎年王族手当が支給されている。
スーレディア領では『飢えて死ぬのが先か、人狩りに連れ去られるのが先か』といわれているが、他領の貴族は救いの手を出せないでいた。
スーレディア侯爵家と領民の滅亡は明日の我が身と我が領民なのだ。



ブランディ・ウリスレア伯爵。
彼が行儀見習いとしてウールレッド公爵家に仕えたのは八歳の頃だった。
四男の彼はウリスレア家を継げる可能性はなかった。
そのため、幼い頃から行儀見習いとして公爵家に預けられてきたのだ。
そのせいで、家族とは希薄な関係になっていた。
そんな彼がウリスレア家を継ぐことができたのは、学院にいた頃に起きた『ウリスレア領不審死事件』が原因だ。
その事件で、父や弟二人以外の家族と使用人たちが一度に死んだ。
弟の一人は元々身体が弱く、領内でも比較的自然豊かな別邸で母や妹と過ごしていたが、そちらでも同じように全員が死んでいた。
多数の領民も死んでおり、王都から調査団が送られてきた。
彼らは被害にあった領民たちにの町や村の水源もすべて同じだったことを突きとめて徹底的に調査した結果、水源近くの土壌から毒素を含んだ鉱石が見つかった。
その毒素は自然界には存在しないもので、人為的に引き起こされた事件と報告された。
しかし、さらなる調査も犯人探しもされなかった。
その結果、四男と二人の悪友たちが犯人で、それが揉み消されたのだと噂が広がった。

そして父親の伯爵が落馬事故で亡くなった。
それが二年前で、事件のときは葬儀で不在だったのは間違いなかった。
そのため罪は軽いと見られていた。
実は腰巾着のように命じられることに従うのではなく、自分から悪事を提案しては二人に実行させて裏で楽しんできた。
しかし、それが暴かれて厳しく罪を問われるのは、帝国に救われた元学長たちが証言者として彼の前に立ったからだった。

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