25 / 79
第三章
ここまで申せば動きの鈍いあなた方の頭でもお分かりになりますわよね?
しおりを挟む「御目文字叶い恐縮至極にございます。サフェール国第五王女レティシアと申します」
「おお、頭を上げられよ。遠きよりよく参られた」
顔を上げると、聞いていた通り威厳があるものの優しさも兼ね備えた顔をしている。
しかし、その表情には影が差している。
「お疲れのようですね」
「ええ、不肖の息子が仕出かした不祥事をすでにご存知なのでしょう?」
「はい。まだ十三歳、いえ当時はまだ十一歳だった少女の家族を……まだ二歳だった弟も含めて皆殺しにしたこと。そして一家惨殺を揉み消すために少女を聖女にしたてあげようとしたこと。そして聖女の資格を持っていることを知って、家族の殺害を正当化した」
私の言葉に国王と宰相の目が驚きで見開かれている。
「ええ、ええ。よく知っていましてよ。あなた方が殺したのは私の姉、サフェール国第二王女メルベールとご夫君。ご夫君の尊父と尊母。そして、私の甥二人と姪一人。ここまで申せば、聖女がサフェール国国王の孫娘、我が姪であることをご理解いただけますよね」
宰相はすでに青ざめた顔で震えている。
国王の方は顔色を失い白くなり、一瞬でも気を抜いたら死んでしまいそうだ。
だからといって手を抜く優しさは持ち合わせていない。
「ウリスレア伯爵及びウールレッド公爵、そしてあなたの弟ボルテ・スーレディア公爵の身柄を引き渡しなさい。仮にも一国の王孫を「売れ」といい、断れば王女一家を惨殺。さらに、その棺も国に渡さず紛失。こちらの調査では、三貴族は共に孤児を引きとっては非人道的ともいうべき様々なことをしては無惨に殺してきたそうですね。ときには近隣から誘拐していたとも聞き及んでおります」
「お、まち……ください。それは……何かの、間違いです」
「あぁ……それ、は……」
「まさかとは思いますが、現実逃避と権力や立場を使っての揉み消しを狙っていますか?」
私の言葉に二人は黙った。
では立場を弁えていただきましょうか。
「国王陛下。あなたの弟ボルテ・スーレディア公爵が我がサフェール王家第二王女一家を惨殺し、聖女の資格を持っていた我がサフェール王の王孫を一年幽閉しました。さあ、アノール国はその責任をどのようにとっていただけるのでしょうか?」
彼らからは謝罪の言葉は出ませんね。
では……もう一つ、目をそらしている真実をお伝えしましょう。
「お忘れのようなのでお伝えしますわ。我が姉メルベールのご夫君フロストイは隣国ドゥヴェール帝国の出身。その国母はフロストイ殿の実妹パスエール王妃。ここまで申せば動きの鈍いあなた方の頭でもお分かりになりますわよね?」
「失礼します! 陛下! 緊急事態です‼︎」
無作法に大きな音を立てて扉が開かれた。
理由はわかっているので口は挟まないでいましょう。
「何事だ!」
「重要な話をしている最中だぞ‼︎」
二人の声に、飛び込んできた兵士は怯むことなく大きく息を吸い込み、肺にたまっていた息を吐くように重大な内容を吐き出した。
「ドゥヴェール帝国が攻めてきました‼︎」
兵士の言葉に「攻めて来たんじゃないわ。話し合いに来ただけよ」と告げると、兵士は驚きの表情を向けてきた。
「使者が来たらこちらへ。私と同じ話をしに来ただけよ」
「はい、わかりました。それでは失礼します」
兵士は国王と宰相の表情を確認していたが何も指示をされないため、私の指示に従うようだ。
このような状態で困惑している兵士を落ち着かせるために堂々とした態度をとるのは王族にとって当然なのに。
「あなた方はサフェール国王女と王孫三人、そしてドゥヴェール帝国王妃のご両親である前ラインセルナ公爵夫妻と兄フロストイ殿を殺した。つまり、二国の王家を敵に回したんですから……こうなるのは当たり前よね」
フフフ……トドメを刺して差し上げます。
でも引導はまだ渡しませんわ。
0
お気に入りに追加
315
あなたにおすすめの小説
戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜
黄舞
ファンタジー
侯爵令嬢である主人公フローラは、次の聖女として王太子妃となる予定だった。しかし婚約者であるはずの王太子、ルチル王子から、聖女を偽ったとして婚約破棄され、激しい戦闘が繰り広げられている戦場に送られてしまう。ルチル王子はさらに自分の気に入った女性であるマリーゴールドこそが聖女であると言い出した。
一方のフローラは幼少から、王侯貴族のみが回復魔法の益を受けることに疑問を抱き、自ら強い奉仕の心で戦場で傷付いた兵士たちを治療したいと前々から思っていた。強い意志を秘めたまま衛生兵として部隊に所属したフローラは、そこで様々な苦難を乗り越えながら、あまねく人々を癒し、兵士たちに聖女と呼ばれていく。
配属初日に助けた瀕死の青年クロムや、フローラの指導のおかげで後にフローラに次ぐ回復魔法の使い手へと育つデイジー、他にも主人公を慕う衛生兵たちに囲まれ、フローラ個人だけではなく、衛生兵部隊として徐々に成長していく。
一方、フローラを陥れようとした王子たちや、配属先の上官たちは、自らの行いによって、その身を落としていく。
加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました
黎
ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。
そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。
家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。
*短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。
めでたく婚約破棄で教会を追放されたので、神聖魔法に続いて魔法学校で錬金魔法も極めます。……やっぱりバカ王子は要らない? 返品はお断りします!
向原 行人
ファンタジー
教会の代表ともいえる聖女ソフィア――つまり私は、第五王子から婚約破棄を言い渡され、教会から追放されてしまった。
話を聞くと、侍祭のシャルロットの事が好きになったからだとか。
シャルロット……よくやってくれたわ!
貴女は知らないかもしれないけれど、その王子は、一言で表すと……バカよ。
これで、王子や教会から解放されて、私は自由! 慰謝料として沢山お金を貰ったし、魔法学校で錬金魔法でも勉強しようかな。
聖女として神聖魔法を極めたし、錬金魔法もいけるでしょ!
……え? 王族になれると思ったから王子にアプローチしたけど、思っていた以上にバカだから無理? ふふっ、今更返品は出来ませーん!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います
かるぼな
ファンタジー
突然、王太子に婚約破棄と追放を言い渡されたリーネ・アルソフィ。
現代日本人の『神木れいな』の記憶を持つリーネはレイナと名前を変えて生きていく事に。
一人旅に出るが周りの人間に助けられ甘やかされていく。
【拒絶と吸収】の能力で取捨選択して良いとこ取り。
癒し系統の才能が徐々に開花してとんでもない事に。
レイナの目標は自立する事なのだが……。
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
影の聖女として頑張って来たけど、用済みとして追放された~真なる聖女が誕生したのであれば、もう大丈夫ですよね?~
まいめろ
ファンタジー
孤児だったエステルは、本来の聖女の代わりとして守護方陣を張り、王国の守りを担っていた。
本来の聖女である公爵令嬢メシアは、17歳の誕生日を迎えても能力が開花しなかった為、急遽、聖女の能力を行使できるエステルが呼ばれたのだ。
それから2年……王政を維持する為に表向きはメシアが守護方陣を展開していると発表され続け、エステルは誰にも知られない影の聖女として労働させられていた。
「メシアが能力開花をした。影でしかないお前はもう、用済みだ」
突然の解雇通知……エステルは反論を許されず、ろくな報酬を与えられず、宮殿から追い出されてしまった。
そんな時、知り合いになっていた隣国の王子が現れ、魔導国家へと招待することになる。エステルの能力は、魔法が盛んな隣国に於いても並ぶ者が居らず、彼女は英雄的な待遇を受けるのであった。
辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~
銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。
少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。
ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。
陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。
その結果――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる