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第二章
─── お金がないなら、罪を犯さなければいいだけだ。
しおりを挟む駆けつけた警備隊に騎士たちは次々と連れ出されていった。
警備隊隊員の人たちは事情を聞いていったが、私の証言は一切必要なかった。
子供の私に斬りかかった騎士、そして返り討ち。
さらにその前の罵詈雑言。
同席拒否をしても同席し続けて私を辱めたこと。
「帰る」と訴えても威圧して軟禁していたこと。
そのすべてを、喫茶店にいた人たちが率先して証言してくれた。
何より、私の身内が偶然その場にいたことが大きかった。
彼女が冒険者として名の通った人物ということで、私は身元調査を受けずに解放された。
以後の報告や手続き関係も、私の代理として受けてもらえることになった。
子供の私には処刑などの話はしたくないだろう。
手配書から報酬や慰謝料は届くから、私抜きでも大丈夫だ。
両腕を一閃で切り落とされた男も、止血されて担架に乗せられて運び出された。
警備隊の姿を見た騎士たちが慌てふためいて逃げだそうとして暴れたため、床に落ちていた腕は踏み荒らされて潰されてしまっていた。
そのため、治癒魔法で回復可能だった両腕は再起不可能となったのだ。
腕が無事なら、治癒魔法でくっつけることが可能だったのに……
腕を再生してからくっつけることは聖女以外はできない。
そして私は聖女ではないから再生できない。
すでに、死が確定して執行を待つだけの彼に義手などつけてもムダだ。
被害者の私に、彼らの実家から罪にあわせた慰謝料が支払われる。
身代が傾く貴族もいるだろう。
同じファミリーネームの人が複数いる。
その人たちが兄弟なら、二倍の慰謝料が必要だからだ。
「お金がないから支払えません」
そんな理由は通用しない。
─── お金がないなら、罪を犯さなければいいだけだ。
私と叔母のレティシアは喫茶店を出て、町の西、野外広場に留めていた私の荷馬車に戻っていた。
商人用は会話を盗聴されないよう、幌に盗聴防止の魔道具が付いているため、宿や個人宅で取り引きするより安全だ。
それに荷馬車の半分は空間魔法で部屋のようになっている。
移動用の家なのだ。
その中に作られたリビングに、私はレティシアを招いた。
「そう……やはり姉様は亡くなられていたのね」
レティシアにみんなの死を伝えると、彼女は泣きそうな表情になった。
「姉様は時々手紙を送ってくれていたのよ。でも、一年以上前から手紙が届かなくて……」
レティシアは私たちの無事を確認するために、音信が途絶えたアノール国に向かっていたそうだ。
「─── ジンスとは一度も会えなかったわね」
ジンスとは私の弟だ。
二歳になっていたがレティシアとは一度も会ったことはなかった。
レティシアだけではない。
故郷のサフェール国にいる母方の祖父母をはじめ親戚の誰とも会えなかった。
「みんなを……故郷で埋葬してもらうために、棺を運んでいます。─── ですが」
「ええ、出さないで。埋葬に間に合わなくても……これからはいつでもお参りができるわ」
ありがとう。みんなを連れ帰ってくれて。
そう言ったレティシアは私を抱きしめてくれた。
母さんに似た温かさに、私は家族を亡くして初めて声をあげて泣いた。
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