元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径

文字の大きさ
上 下
10 / 79
第一章

私と違って大人なんだから大人らしい解決をしたと思う。

しおりを挟む

遠くから馬車の音がするな~、近付いてくるな~と思っていたら、収監用の檻状馬車が目の前に止まった。
すぐに後続の馬車から国境警備隊の制服を着た兵士たちが降りてきて、捕縛された男たちの素性を魔導具で調べていく。
鎖に鑑定機能がついているためそれを見るための道具だろう。
その中から、一人の男性がこちらへ向かってきた。

「野盗を捕まえたのは貴女ですか?」
「はい、そうです」
此度こたびは特SSランクの賞金首を多数捕まえてくれたことに深く感謝する。本当にありがとう」

そう言った男性は、深く頭を下げた。

「いえ。こちらこそ驚きました。この馬車が最新式だったため無事ですみました」
「これは商人専用ですか?」
「はい。防御に特化した馬車だと勧められました」

実際には少し違う。
父が懇意にしていた馬車屋の親父さんが、一年前に父から預かっていた馬車に様々な細工をしてくれた。
その親父さんは、父たち家族が一年前に亡くなっていたことと私が父の跡を継ぐ気なのを知り、襲われないように防御に特化した馬車に仕立てあげてくれたのだ。
王城からでたときから、ずっとつけてくる男がいるのは気付いていた。
馬車屋に入る前に人混みでまいてきたが。
馬車を改造中の空いた時間に、街道の状態を確認のため乗車場へ確認に向かった。
聖女わたしは今朝祈りを捧げていない。
明後日の継承式まで、私の祈りは亡き先代聖女様の遺体に残った魔力が使われる。
でも聖石はすでに喪われ、聖女の魔力を送ることもできない。
今後は私がどんなに祈っても聖女の祈りにならない。
─── これから、魔物が強くなっていくだろう。
その魔物が出没する場所の確認と盗賊の被害に関しての情報を集めるために乗車場に入った。
結果、そこで混乱が起きたため必要な情報は得られず。
でも混乱が目隠しになって、私は馬車屋に預けた荷馬車を引き取りに行けた。

王都を出るときは馬車に乗っていたが、中古の馬車を手に入れたと思われたようだ。
私が出ていくときは騒動と混乱が大きく広がっていた。
でも、私と違って大人なんだから大人らしい解決をしたと思う。


「お話し中、失礼します。隊長、確認が済みました」
「─── ああ、手配書に間違いはないな?」
「はい……。ただ……」

口籠る書記官の様子に隊長と呼ばれた男性は訝しげに見る。

「ユーゲリアの元王子たち、なんですよね?」
「あ、はい。実はそうなんです」

私の言葉フォローに、書記官は驚いたように顔を勢いよく上げた。

「ユーゲリア、だと?」
「はい。全員がユーゲリア出身です」

書記官に確認をする隊長の驚きが普通ではないが、そこは特に問題ではなかった。
ただ、国同士による身柄の引き渡しとそれに対する手数料などを含めた話し合いなどが待っている。
それもユーゲリアとは国交がないため『厄介者が国境を越えて犯罪を起こした』ことが声にあらわれたのだ。
その中に王子も加わっていた。
それだけでも十分に問題だろう。
それはまあ、息子たちが起こした問題で面目丸潰れとなり、聖女を永遠に失った大臣たちが頑張ればいい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。 しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。 彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。 知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。 新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。 新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。 そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

処理中です...