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第一章
私と違って大人なんだから大人らしい解決をしたと思う。
しおりを挟む遠くから馬車の音がするな~、近付いてくるな~と思っていたら、収監用の檻状馬車が目の前に止まった。
すぐに後続の馬車から国境警備隊の制服を着た兵士たちが降りてきて、捕縛された男たちの素性を魔導具で調べていく。
鎖に鑑定機能がついているためそれを見るための道具だろう。
その中から、一人の男性がこちらへ向かってきた。
「野盗を捕まえたのは貴女ですか?」
「はい、そうです」
「此度は特SSランクの賞金首を多数捕まえてくれたことに深く感謝する。本当にありがとう」
そう言った男性は、深く頭を下げた。
「いえ。こちらこそ驚きました。この馬車が最新式だったため無事ですみました」
「これは商人専用ですか?」
「はい。防御に特化した馬車だと勧められました」
実際には少し違う。
父が懇意にしていた馬車屋の親父さんが、一年前に父から預かっていた馬車に様々な細工をしてくれた。
その親父さんは、父たち家族が一年前に亡くなっていたことと私が父の跡を継ぐ気なのを知り、襲われないように防御に特化した馬車に仕立てあげてくれたのだ。
王城からでたときから、ずっとつけてくる男がいるのは気付いていた。
馬車屋に入る前に人混みでまいてきたが。
馬車を改造中の空いた時間に、街道の状態を確認のため乗車場へ確認に向かった。
聖女は今朝祈りを捧げていない。
明後日の継承式まで、私の祈りは亡き先代聖女様の遺体に残った魔力が使われる。
でも聖石はすでに喪われ、聖女の魔力を送ることもできない。
今後は私がどんなに祈っても聖女の祈りにならない。
─── これから、魔物が強くなっていくだろう。
その魔物が出没する場所の確認と盗賊の被害に関しての情報を集めるために乗車場に入った。
結果、そこで混乱が起きたため必要な情報は得られず。
でも混乱が目隠しになって、私は馬車屋に預けた荷馬車を引き取りに行けた。
王都を出るときは馬車に乗っていたが、中古の馬車を手に入れたと思われたようだ。
私が出ていくときは騒動と混乱が大きく広がっていた。
でも、私と違って大人なんだから大人らしい解決をしたと思う。
「お話し中、失礼します。隊長、確認が済みました」
「─── ああ、手配書に間違いはないな?」
「はい……。ただ……」
口籠る書記官の様子に隊長と呼ばれた男性は訝しげに見る。
「ユーゲリアの元王子たち、なんですよね?」
「あ、はい。実はそうなんです」
私の言葉に、書記官は驚いたように顔を勢いよく上げた。
「ユーゲリア、だと?」
「はい。全員がユーゲリア出身です」
書記官に確認をする隊長の驚きが普通ではないが、そこは特に問題ではなかった。
ただ、国同士による身柄の引き渡しとそれに対する手数料などを含めた話し合いなどが待っている。
それもユーゲリアとは国交がないため『厄介者が国境を越えて犯罪を起こした』ことが声にあらわれたのだ。
その中に王子も加わっていた。
それだけでも十分に問題だろう。
それはまあ、息子たちが起こした問題で面目丸潰れとなり、聖女を永遠に失った大臣たちが頑張ればいい。
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