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第四章

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「姉さん、義兄さん。ユベール・ウルベルッドから『マーメリア・ウルベルッドが呼んでいるからきてほしい』だって」
「あら、二人ともまだ生きていたの?」

レンデムの言葉に私がそう返して手にしていたティーカップをソーサーに戻す。せっかくの昼食後のティータイムを壊されて不快になったのは私だけではないだろう。

「あそこは隣の迎賓館に初代ウルベルッドが住んでいる。二人が死ねば自分も死を迎えるから、生かすのに必死なのだろうね」
「だからといって、寿命を延ばします?」
「それで何とかなると思っているのだろうね」

カイエルと私の会話にフィデラとスワンナの義姉二人が会話に加わった。スワンナはカイエルの三番目の姉でフィデラはエイデック兄様の奥様だ。

「それがすでに無駄な足掻きだとわかっていないと思いますわ」
「もっと早くから対処していれば良かったのではないのですか?」
「精霊とはいえ、この世界での空気の薄さでは一千年しか生きられない。いつか精霊の国に戻ろうと思っても身体は朽ちていく。そのために身体を捨てて迎賓館に精神を移し、生命は血脈の中でが来るまで眠らせることにした」
「ほーんと、バ! カ! ですわよね」

愛妻アンディの歯に衣着せぬ物言いにレンデムは「そうだね」と微笑む。

「五十年前に様子を見に行ったときには、迎賓館はすでに朽ちはじめていましたね」
「あら、見にいかれたの?」
「ええ、『建物の一部が崩れ始めてて危ない』と報告がきましたから。あそこは記録上はミラットリア家の領地ですもの。ミラットリアで管理しなくてはいけませんわ」

エルリ兄様の奥様モルディアは、エルリ兄様がミラットリア家当主を退いた後も、前当主の負債としてウルベルッド家の残骸が残る飛び地の管理だけ預かっている。彼女はエルリ兄様と握手をしただけで【 魔力循環 】をしてしまった。精霊の血を絹糸よりもさらに細く、海に落ちた一滴の血くらいに薄く受け継いできた彼女の血が、先祖返りをしたエルリ兄様の精霊の魔力の影響を受けて目覚めさせてしまった。
─── それも彼女は先祖御本人。何代かごとに生まれ変わっていたそうだ。そのため、「精霊なかまの気配で起きた」らしい。

過去の仲間ウルベルッド現代の仲間エルリたちに迷惑をかけるなんて許さない!」

そう言ってウルベルッド家の迎賓館に殴り込みをかけたのが、エルリ兄様と結婚した直後。飛び地とはいえ領地、ということでウルベルッド家まで視察に来た二人。そこでモルディアは精霊ウルベルッドの気配に気付いた。

「迎賓館には多くの人たちが生きたまま取り込まれていました。元々ウルベルッド家に対して悪意を持っていた連中だそうで、いなくなっても問題なかったんじゃないですか?」
「取り込まれた人たちの中にジョゼフィンがいたらしいよ」

僕は会ってないけど、というエルリ兄様。ジョゼフィンが迎賓館に入ったままいなくなったのは誰もが知っている。しかし、のは私とカイエル、そして陛下と宰相の四人しか知らない。可能性としてはウルベルッド家出身のマーメリアの知っているだろう。

「すごかったよ、マーメリアとユベールが。僕たちが先祖返りしていることを知って『自分たちも先祖返りしている』と思ったらしくてね」
「だから言ってやりましたわ! 『私の夫はフランシス様とセレスティ様の息子です!』って」

モルディアはしっかり地獄に叩き落としてきたそうだ。

「あなた方ウルベルッド家の血は引き継いでいませんの。え? セレスティは死んだはずですって⁉︎ ご安心くださいませ。セレスティお義母様は精霊様の血を受け継いでいますわ。おかげで回復に時間がかかられたそうですが、王都でフランシスお義父様と過ごされていますの。アイシア様が精霊に生まれ変わられたため、エルリやご兄弟の皆様もご両親様も皆様が先祖返りなされて。今は沢山のお子様やお孫様に囲まれて幸せな日々を過ごされてますわ」

モルディアの満面の笑みで告げられる事実にマーメリアが青ざめたそうだ。

「うそ、でしょう……?」
「いいえ、事実ですわ。ですからウルベルッド家はお二人で完結いたしますの。終焉までお嘆きくださいな。ユベール様が他人様の恋人を奪わず、別のお方と家庭を持たれていたら、このような結末を迎えなかったでしょうね」
「私たちは精霊様の血を受け継いでいるのですよ」
「知りませんわ。隣の迎賓館に精霊ウルベルッドの精神が残っていますよね。ですが……お二人で没する以上、ウルベルッドがに精霊として復活もできず、最後の方がお亡くなりになるときに共に没します」

それ以降、最後のウルベルッド家の二人は互いに責め合って生きていたはずです。ちなみにアルフォンソは普通の人間だったため、過酷な生活とストレスで五年目に肺炎で亡くなった。
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