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第四章
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しおりを挟む風魔法で邸の中からホコリを追い出し、調度品に掛けられていたシーツは洗濯場へ。水魔法で洗浄してからまた風魔法で乾燥させる。乾いたらシーツを畳んでから収納庫へ。
こんなことは、貴族なら誰でもできること。そう、男なら絶対に。戦場に立つ者が従者をつけて出征するなどありえず。だからこそ、男でも自分のことは自分でできる。上級貴族の場合は下級貴族の子息令嬢の行儀見習いの場として受け入れてもらえるが、礼儀作法や立ち居振る舞いができても手癖の悪い者はいる。「つい魔がさして」という子息令嬢もいる。自分の物と他人様の物、その区別がつかない者もいる。そのため、家令のように代々仕える家系以外は置かない貴族も多い。
ミラットリア家もそうして魔法を使って家事労働をしている。
「迎賓館は掃除もしてないのかしら」
窓を開けたところを見ていない。疲れたとしても、少なくとも客室を一室でも掃除しなくてはホコリまみれで寝られないというのに……
「ジョゼフィンも魔法は使えるのだろう?」
「ええ、ですが……ジョゼの持参金が」
「そんなのは端金でしょ」
「その金も、密葬されるセレスティから卵巣を取り出して体外受精させるための費用としてほとんど使ったじゃないか」
セレスティ……。あの家で偶然会ったジョゼフィンの遠縁の令嬢。一目惚れだった。だからジョゼフィンではなく彼女を求めた。こちらの方が立場は上だとわからせるため、脅しをかけてみた。セレスティの家を文字通り潰してやった。長く続く貴族と、昨日今日、貴族になった家のさらに遠縁という平民娘。
さすがに立場を理解したのだろう。セレスティを養女に迎え、婚約を結ぶことができた。しかし結婚式直前にセレスティは階段から突き落とされ、結婚式当日に息を引き取った。
ジョゼフィンには『セレスティの代わり』として生きてもらうことで話はついた。
ジョゼフィン自身も養女だというのに、養父母の顔を潰す事しかしなかったのだからその尊厳を潰してやろう。
「そういえば、御子息は何をなさっておられるのですか?」
クレイソン家には学院卒業後も王都に残って働いている実子がいる。そういえばセレスティと会ったときに隣に立っていたな。挨拶をしたが名前も覚えていない。
「息子はフランシスと言いますが、あの子は魔導具研究に光明を見いだしまして。魔導具研究所で研究をしております」
「ほう、今はどのような研究を?」
「王家の方々の出生に関係しておりまして。亡くなった女性の卵巣を取り出して保存液に浸して保存します。まあ、体外受精を相手が亡くなられた場合でも可能なように……」
「たしか、人工子宮を代理母の腹部に埋めるという方法が取られるそうですな」
「ええ、母性愛を生ませるためだそうです」
そのニュースなら社交界でも聞いたことがある。そうだ! いいことを思いついた。
そう思ったのはミラットリア家の三人だった。
「それをジョゼフィンの罰として与えてはいかがでしょう」
「そうですね。子を望めない娘を引き取って差し上げるのです。どうです? 良い話ではありませんか」
「確かにそうですが……。ですが息子の話ではその費用は高く……」
「いいではありませんか。ジョゼフィンは暴力を振るわれて慰謝料を受けとりました。その時のお金がございます。持参金として持たせますので、それをお使いください」
そうして、エイデックを頭にエルリ、アイシア、ディディ。そしてレンデムという三男二女を手に入れた。その度にあのお腹に人工子宮をいれさせてきた。最初は悪趣味だと思ったが、妊娠した女性特有の腹の膨らみ。それを周りに見せることで、「妊娠していないのに子供が生まれた。養子じゃないのか?」と言われるのを避けるためだと第一子で気付いた。
生まれる子供の立場を守るためなら、ジョゼフィンがどれだけ大変だと訴えても気にならなかった。人工子宮はジョゼフィンから栄養を取らない。人工子宮に栄養や酸素を生産する機能がつけられている。ジョゼフィンの成分が少しも入らない。だからこそ、高額でもこの方法を選んだのだ。
もういい、あの心まで醜い女はこれ以上いらないだろう。
「だから、子供の世話以外に使用人をつけないように言ったのよ。いざというときに魔法が使えなくなるから」
「使用人を増やせば、その分給料という出費が嵩む。お前はそれだけの稼ぎをだしているのか?」
いまだ両親の愚痴は続いている。仕方がない、贅沢ができるような稼ぎなど生み出していなかったのだから。
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