上 下
55 / 82
第四章

55

しおりを挟む

「アイシアのことは使用人たちが王城に直接訴えにきた。彼らは誰の指示でそうしたと思う? 次期当主の指示だよ。つまり、まだ七歳の少年でさえ『おかしい』とわかる状態を、祖父母であるお前たちが気付かない時点で無能だといっているんだ」
「もし、息子たちの言葉を信じたとして、使用人にどのような生活をしているのか手紙を書いたか? 孫娘を案じる手紙でも送ったか? 誕生日に贈り物をしたか? 実際に届いたのは、兄弟からの手紙と絵、そして妹の押し花だけだ」

宰相の言葉に四人は思い当たる点があったようで肩が揺れた。
子供たちが楽しそうに何かを作っていたのは知っている。そして、見せてもらおうとしても断られ、気が付いたらいつの間にかなくなっていた。それはちょうどアイシアの誕生日前だ。使用人たちが子供の味方なら、誰にも気付かれずに王都にいるアイシアに届くよう手配していただろう。

何故、この四人には話さなかったのか。それは簡単だ。アイシアのことを聞かれると機嫌が悪くなるか、「あんな気持ち悪いヤツの名前を二度と口にするな!」と怒鳴り……手をあげたことがあったからだ。
そんなことをすれば子供は口を噤む。ただし、口を噤んだからと言って親に従うとは限らない。そんな暴力で従う子では次期当主には不向きだ。アイシアの兄も『だったら自分たちで何とかしよう』と考えた。
アイシアの味方は使用人の中にもいる。それは王都を離れたときにアイシアがいないことを両親に伝えて殴られた彼の身を案じ、アイシアの保護を求めるため王都へ戻った使用人たちがいたからだ。そう信じた彼は、アイシアへの誕生日プレゼントを使用人に預けた。ひと月たって、小さな箱を使用人から受け取った。中に入っていたのは邸の庭に咲いている花々を束ねた小さなブーケ。それには特別な意味がある。束ねた花の色によってメッセージが決められている。届いたブーケは赤色。これは『嬉しい・ありがとう』という喜びの意味だ。
これを知っているのはアイシアのみ。だからこそ、使用人たちは味方で誕生日プレゼントは間違いなくアイシアに届けられたとわかった。何より、この花には王都内でしか咲かない特殊な花も含まれていた。そして忘れてはいけない。王都から離れた兄弟に届けられた時点で普通なら枯れている。それがアイシアが摘んだときのまま瑞々しいのは、大人たちは知らない、兄弟だけが知るアイシアが精霊に生まれ変わる前から起こしていた奇跡だった。


彼らがこの場に呼ばれたのは貴族として罰を受けるためであり、すでに事実確認は済んでいる。余計なことをいえば罪が増えるだけだと、ここにきてようやく理解したようだ。

「お前たち四人は北西の飛び地で領地管理者として四人で暮らせ。そこに侍従侍女を連れて行くことは許さぬ。自らの手で田畑を耕しそこで生きることが、精霊の少女を殺害しようとした罰だと思え。そこから出ることは禁じる。新年の祝いの品も必要ない。逆に不快なお前たちの存在を忘れられるなら、これ以上の祝いの品はないからな。そして次期当主が成人するまで、領地は王領として管理する。なお、子供たちには王都に新たに邸を与え、正しい教育を受けさせるから安心しろ」

陛下は子供たちに罪はなく、逆にアイシアの心を支えたとして評価を与え、王都に新たな邸を与えられることとなった。その邸はアイシアが住む、自分たちが生まれ育った邸の隣。庭を通して行き来できるようにと配慮されているのも、兄弟姉妹を離さないようにという心遣いからだろう。後見人には宰相が手をあげた。すでにアイシアの後見人に名乗りをあげている彼が兄弟妹をまとめて面倒をみることに反対はでなかった。
ただの後見人なのだ。養子だ養女だということではなく、子供たちを成人するまで正しく見守るための制度。ほかの国と比べても過保護なくらい国をあげて子供たちを守るのは、一族を大切にするという精霊の血が影響しているのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。

仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。 実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。 たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。 そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。 そんなお話。 フィクションです。 名前、団体、関係ありません。 設定はゆるいと思われます。 ハッピーなエンドに向かっております。 12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。 登場人物 アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳 キース=エネロワ;公爵…二十四歳 マリア=エネロワ;キースの娘…五歳 オリビエ=フュルスト;アメリアの実父 ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳 エリザベス;アメリアの継母 ステルベン=ギネリン;王国の王

お姉様が大嫌いだから、評判の悪い侯爵様のところへ嫁に出してやりました。

マンムート
ファンタジー
お姉様ってばずるい。お姉様ってば怖い。 わたしはお姉様が嫌いだ。 だから評判の悪い侯爵様のところへお嫁に出そうと思う。 これは、性悪でアバズレな腹違いの妹から見たドアマットヒロインの物語。 他サイトでも公開しています。

レイブン領の面倒姫

庭にハニワ
ファンタジー
兄の学院卒業にかこつけて、初めて王都に行きました。 初対面の人に、いきなり婚約破棄されました。 私はまだ婚約などしていないのですが、ね。 あなた方、いったい何なんですか? 初投稿です。 ヨロシクお願い致します~。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

処理中です...