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第四章

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私が今日国王陛下の前に呼ばれたのは、陛下が宰相に負ける姿を見せて『真の国王は宰相だ』と教えることでも、『仲がいいんだぞー』と見せびらかすわけでもなかった。

「私に……褒美ですか?」
「ええ、そうです。此度のことはあなたの発言がきっかけだと息子から聞いています。そのおかげで、我が国の汚名を返上することができたのです。本当なら、この無能に生前譲位させて女王陛下になってもらいたいのですが、それは息子に却下されました」

酷い言い様だが、陛下から反対意見は出てこない。それは先ほどの「娘を嫁にくれ」発言で怒った宰相から「いいと言うまで黙っていなさい」という罰を受けているから。陛下も、口を手で押さえて『喋りません』と意思表示を表している。

「─── カイエルは?」
「僕は別のお願いを伝えてあるから大丈夫だよ」

カイエルに確認するとそう言われた。
私の願い……それは叶わない。でも叶えてもらえるなら……

「家族と住みたい! そうでしょ!」

ずっと姿が遠くから見えていて、目で私に何かを訴えていた男女四人。よく覚えていないけど、あの人たちが両親だっただろうか。年配の二人は遠くに住んでいる祖父母? 会ったのは数回、年に一回か二回くらい。

「お黙りなさい。あなた方に聞いているのではありませんよ」
「いいえ、私たちはその子の親です! まだ幼い娘のことは私たち親が決める権限をもっています!」
「────── 黙れよ、クズ」

宰相が私に向ける優しさとは真逆の冷たさが私の隣、カイエルから放たれていた。ふわりとすぐに暖かい真綿で全身を覆われて驚くと、目線があった陛下が優しく微笑んでくれた。

「カイエル。彼らがどうしました?」
「アイツらは精霊に生まれ変わって怯えているアイシアを一人置き去りにして逃げ出したんだ。まだ四歳だったのに……。あれから一年半たったけど、一度も帰ってきたことも手紙を寄越したこともない。何が『幼い娘』だ! 僕たちが邸の使用人たちからの訴えでアイシアのことを聞いたときには、すでにアイシアの部屋以外の家具を持ってその後ろで家族ヅラしている連中の邸に逃げ込んでいたじゃないか!」
「それは本当ですか?」

四人に向ける宰相の声も低く冷たい。四人は私に縋るような目を向けてくるけど……親だといわれてもわからない。

「アイシア!」
「アイシア! あなただって、私たちと住みたいでしょ! 陛下にそう訴えなさい! 「私たちと一緒に住みたい」と!」
「あなたたちは……だれ?」

必死に訴えていた( たぶん )親たちだったが、私の言葉に驚きの表情を顔に貼り付けて固まった。視界の端で陛下が口を押さえたまま何か訴えているのが見えた。

「カイエル、陛下が」
「ん? ああ、父上。陛下が何か言いたいようだよ」
「陛下。バカなことを言わないと約束するのでしたら発言を許しますよ」
「あー、助かった。アイシア、気付いてくれてありがとう」

陛下はそう言いながら玉座からゆっくり歩いてきて私の頭を撫でてくれた。

「「アイシア!」」
「陛下の御前です。あなたたちは発言を許されていませんよ」

宰相の言葉に、青ざめてこうべを下げる( きっと )親たち。

「アイシア」

そう呼びかけた陛下は、私と目を合わせるためか床に直接座った。ただ陛下の手は私の頭の上に乗せられたままだ。

「あの者たちを知っているかな?」
「────── いいえ、陛下。知らない人たちです」
「「アイシア!」」

大きな声で、思わずビクッと身体がはねた。それに気付いた陛下が頭をふたたび撫でてくれた。

「大きな声でビックリしたな。大丈夫、大丈夫だよ。宰相、アイシアをカイエルと共に離宮の家族の元へ行かせてもいいかな?」

陛下の言葉に、宰相は大きく息を吐くと優しい表情を向けてくれた。

「ええ、カイエル」
「はい、わかりました」
「アイシア。褒美はすぐに決めなくてもいい。それに何か『お願い』が決まったらカイエルに言えばいいよ。カイエルは『遠話の魔法』が使えるからね。たぶん、アイシアも使えるようになるだろうけど……。まずはカイエルとだけで使うんだよ。魔法は玩具じゃないからね」

私に言い聞かせるように陛下は仰ると、カイエルと一緒に退室を許された。

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