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第四章
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しおりを挟む犯罪者たちは逃げ込んだ流刑地から出てこなかったため、表面的には落ち着いた世界だった。ただ、悪役一族も生き延びてしまった。
そう、本来だったら、私の作ったゲームはこのモーリトス国が舞台だった。でも前編のヒロインは現れず、智略に長けた代替者もおらず。それでもクーデターは最悪な形で実行された。
王城で開かれる、学院の卒業パーティーに参加するという形で集まった中にクーデター派が多数紛れ込んでいた。特に問題はなかっただろう。クーデター派にユーレット王子がいたのだから。
ユーレットは賑やかなパーティーから聞こえる曲の裏で、一番近付きやすかった同母弟を殺害した。そして亡骸を手にパーティー会場へ入り、卒業生の一人だった王太子に「そーら、卒業の祝いだ。受け取れ」といって弟の亡骸を投げつけた。そして亡骸をキャッチして隙だらけになった王太子に、弟の生命を奪った剣を突き刺そうと駆け出した。それを父である国王に邪魔された。ユーレットとその側近たちは悪役一族に救われて、再起を目指そうとした。合計で三回、悪役一族の本来の雇用主である隣国の国王に匿われて反乱を繰り返した。
そして、四回目の反乱を起こした直後に追加で兵を出すと約束していた国王は崩御した。史実上は病死。真実は国王の側近による暗殺。国王の薬酒に少しずつ心臓を弱らせる薬が混じっていた。三度目の出陣で撤退はしたものの反乱軍は成果をだした。よって、四度目の出陣に期待していた。今度こそ、自分たちに勝利をもたらす。そうすれば、混乱の最中で反乱分子を捕らえて処刑し、反乱分子が手にした隣の国は自分のものにできる。
────── しかし、彼らの計画は頓挫した。
勝利を確信した国王は薬酒で祝杯を挙げ、ボトルを空ける度に酔いと毒が全身を駆け巡った。
反乱軍は国王を、あとから来る予定の兵を信じて無茶な前進をしていた。反乱軍といっても実際は貴族の私兵たちだ。騎士科にいて剣術を習った兵士もいたが、私兵となっている時点で実戦には不向きで騎士になれなかったのだろう。だいたい、彼らの大半が貴族の第二子以下の子息。よほどの根性がなければ、主人一家を見捨て真っ先に逃げ出して背中から一刀されるだろう。
一応の褒美として「成功したら貴族籍を与える」と言っていたようだ。ただし、高位の人物が口にするそういう言葉は信用できない。大抵は反故にされるだけだ。それを踏まえて、署名入りで一筆書いてもらうのが常識。「主人を信じられないのか!」という奴ほど約束を反故にする。
そうじゃなければ、貴族の子息令嬢たちは褒美として何人と結婚するのか。
─── 考えただけで恐ろしい。
いくら待ってもこない友軍に、前線から催促の信書を携えて向かった使者は恐ろしい返事を受けて戻った。信書を受け取り、それを黙読したユーレットはすぐに主だった者たちを集めて作戦会議を始めた。
『我らが出陣した直後に国王陛下はお亡くなりになられた。薬酒には毒が盛られて……我々の誰かが犯人だと。もし王城に戻るようなら、国王陛下を暗殺したとして捕らえる。場合によっては隣国に身柄を引き渡す』
「この信書は本物だ。つまり、我々は支援者も約束されていた友軍も失ったことになる」
「我々は玉砕するしかないのですか」
「待ってください! 王城に残してきた家族は……。息子たちはどうなったのですか」
「彼らはここのさらに奥……あの岩山に囲まれた『捨てられし地』に送られた」
あそこは、作中では国外追放処分を受けた者たちが送られる流刑地だ。簡単に国外追放と言っても、国内で犯罪を犯した人間が大人しくしているはずがない。そのため、各国で国外追放となった者を集めて閉じ込めてきた。過去には一国一城があったが、今は瓦礫が残るのみ。立地としては厳しく、土壌を改善し岩山を崩さない限りは農作物が育たないからだ。
前後編でもそれは変わらなかった。
「撤退しよう。あの地なら籠城するに特化した地形だ」
今宵は月のない夜。前進するには不向きだが、撤退するにはちょうどよい。
こうして、何もない地に逃げ込んだ彼らは、追ってきた王太子軍と国王が交代した国によって唯一の出入り口を封鎖された。そして今まで通り、行商人以外の出入りと流刑にされた者の追放以外が禁止された。
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