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第二章
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しおりを挟む王都の東部、各地の花や植物を集めた植物園。その一角には頑丈な檻が設えてある。生きたまま捕獲された魔物が入れられますが、中には重罪人が入れられる牢もあります。
今この冷たい石の床の牢には、両足首に『自殺防止』と『魔法封じ』の足輪を填めて囚人服を着ているはずの『真実の愛を勝ち取った者たち』が入っています。この場所は『公開牢』と呼ばれる、四方が鉄柵に囲まれている檻です。鉄柵には『外からは見えるし声も聞こえるけど、中からはなにも見えないし声も聞こえない』という魔導具が仕掛けられています。
「王太子殿下!」
私に気付いた兵士の声が聞こえると全員の視線が私に向き、すぐに頭を下げて礼をしてくださいました。
「皆さん。頭をお上げください」
私の声に、誰もが頭を上げます。今までの肩書きも、辺境伯令嬢や公爵令嬢でしたが、今度から『王妹』と『王太子』いう肩書きが追加されました。さらにサンジェルス国改め『レヴィリア領領主』という肩書きも追加されています。その分、責任と重圧がのしかかってきます。レヴィアス兄様が国王となられたため、私たち兄妹が王族に加わりました。アーシュレイ領もレヴィリア領も王領地です。私自身は何も変わりません。ただ、こうやって市井に出ると敬礼されるようになり、改めて立場が変わったことを実感します。
─── 早く王子様か王女様を産んでほしい。せめて王太子という立場は返上したいと強く願っています。
「あの罪人たちはどうですか?」
「面白いくらいに、毎日よく盛ってますよ。ほら、今も」
警備兵の言葉と同時に、檻の周囲から嬌声が上がりました。完全に二人だけの世界に浸っているため、お互い全裸で女囚は男囚相手だけでなく公衆に向けて大きく股を開いて見せています。
「 ─── 始めて少ししたら、檻の『不可視機能』を解除してあげて」
「よろしいので?」
「構わないわ。あの女囚の方は『好き者』だから、公開牢にいる間ずっと禁欲なんて無理よ。もう片方も『万年発情男』だから、似た者同士でしょう? これからも、盛ったら不可視機能を解除してちょうだい。その判断はあなた方に一任しますわ」
「はい。おまかせを」
警備兵が恭しく一礼する。公開牢は二十四時間営業。いつでも公開されていて、どなたでも見ることが出来ます。それこそ、食事も就寝も排泄も。
「きゃー‼︎ これは何! イヤー! 抜いて! 早く抜いてよー!」
「暴れるな! ち、畜生! 抜けないじゃないか!」
ああ。自殺防止のため、ベッドやシーツは一切置かれていないのです。そのため、床に直に置かれた古びて固いマットの上で二人は盛っていたのです。
ダッタンバッタン。バタバタ……
ギャアギャア騒ぎながらも囚人服の貫頭衣を身につけた『二体の人間』として見られる姿になったのは三十分後です。
その間、私は女性や子供の皆さんと一緒に色とりどりの花を見て目と心を癒していました。王太子の私がいるということで、たくさんの方が挨拶にこられたのです。その中にいた男の子が私の左手を握り、「かわいいお花が咲いてたよ」と教えてくれて、そちらへ行こうと思ったのかクイクイと引っ張ったのです。
「ああ、王太子殿下! 申し訳……」
私が空いている右手をあげるとすぐ静かになりました。そのまましゃがんで男の子の目の高さにあわせると「殿下、お召し物が」という声がもれました。
汚れるくらい、何だというのでしょう? その身を着飾るドレスではないのです。我が身を守るための鎧なのです。汚れても破れても、その身を守るために起きたことで気にすることはないですよね。
「かわいいお花?」
「うん!」
「見てみたいわ。連れていってくれる?」
「うん、いいよ」
こっちだよ、といって、笑顔で走り出しました。私も小さな手で握られた左手を離さないようについていきます。ほかの子たちも「わーい」と笑いながら私たちの周りについてきました。その姿に、私も笑顔が感染しました。こんな風に、身分も立場も関係なく誰もが一緒に笑える国は栄える、というのがおじい様とおばあ様の教えです。子供の無邪気な声と笑顔が平和のバロメーターだとも。
こうして一緒にいると、その通りだと思います。
「殿下と子供たちを見ててくれ」
「わかったわ」
男性の声に同意する女性の声が聞こえました。そして女性たちも「まってー」「もう、早いんだから」と笑いながら追いかけてきました。
「ママ、おそーい」
「あなたたちが急に走り出すからでしょ」
そんな親子の楽しそうな声も聞こえます。
新たに王族となった以上、この笑い声が戦火で悲鳴に変わらないように。この笑顔が疫病や飢饉で悲しみに曇らないように。できる限り、たとえ私自身が滅んだとしても守り抜くと、皆さんと一緒に笑いながら心の中で誓いました。
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