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第二章

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ふたたび、壇上の新国王陛下と王妃陛下に目を向けると、お二人は頷いて下さいました。開いて口元を隠していた扇子をパチンと畳みます。それにあわせて、私から向かって右側。窓側にいた方々が移動して道を開いて下さいました。

「おい! お前がこの場で土下座して『申し訳ございません。私を奴隷としてお使い下さい』と頼むなら少しの間、生かしてやるぞ! おい! 死にたくなければ今すぐ土下座しろ!」

ユーレットがニヤニヤ笑いながら近付いてきます。無理矢理にでも土下座させるつもりなのでしょう。右手で握った扇子に【 硬化魔法 】を掛けると同時に、ユーレットの汚らわしい右頬に向けて裏拳のように扇子を振りました。見事に右頬の骨が砕けたのでしょう、にぶい音がしました。ですがユーレットの首から上には小さく柔らかな結界を張ったので、口から撒き散らされた『汚らわしい中身モノ』は少しも出てきません。うめき声も出ません。脳の損傷をなくすための結界なので、頬に向けた扇子の攻撃からは守ってくれません。いえ、たとえ守れたとしても、その後に待つ全身への衝撃は守られなかったでしょう。

私の扇子攻撃を頬に受けたユーレットの身体は窓の外、庭園の外周に張られた結界まで吹き飛びました。私の力が強い訳ではありません。扇子に掛けた【 硬化魔法 】のおかげです。地面の小さな石を全力で蹴ったら遠くへ飛ぶ。それと同じだと思って下さい。
ユーレットの身体は張られた結界に叩きつけられて、そのまま地面に落ちました。あれは子供が暴走馬車に跳ねられたのと同等の衝撃を受けたでしょう。
─── ざまあみろ、ですわ。
私は忘れておりませんのよ。ステーションで待機していた馬車の御者台に乗り、全速で馬車を走らせてそのまま王都を飛び出し、街道を行く人たちを次々に轢き殺したのを。そして馬車から振り落とされて怪我をしたのを「自分も事故に巻き込まれた被害者の一人だ」と言ったことを。「違う」と訴えた人々に対し「王太子に罪を着せる気か!」と不敬罪にして、着の身着のままで国外追放にしたことを。
彼らは全員、お兄様やイリアお義姉様の働きかけのおかげで、モーリトス国が保護してくださいました。
その数、五百人をくだりません。中には事件の被害者遺族の方々もいらっしゃいます。見舞い金惜しさに国外追放した……と思われていました。しかし、知ってしまったのです。見舞い金は国庫から出されていました。
─── それを、犯人この二人が遊ぶ金ほしさに横領していたのです。
見舞い金と被害者リストを経理部から奪い、被害者宅に乗り込んで難癖をつけた上で不敬罪を掲げて国外追放にしていったのです。

「金は受けとった。家族を亡くした王都にいるのは辛いので、そのまま出ていくと言っていた」

経理部にはそう伝えていたのです。
率先して二人が動いたと知った私が不審に思い、被害者宅を回ったところ、二人が回った被害者宅全軒が私財を残して王都を去っていたのです。お父様と相談して、領都を預かるレヴィアス兄様に遠話で連絡を入れて注意を促しました。そしてすぐ、終点にあたる領都に到着した乗合馬車から『国境を渡るには不似合いな一団』が降りたため保護したと連絡が来ました。

アーシュレイ領から国外に向かうには、領都で陸路か海路のどちらを使うかを申請して許可証を発行します。陸路なら特に問題はありませんが海路なら港町へ向かい乗船する手続きが必要です。さらに、どちらも魔物と遭遇する可能性を考えて最低限の装備を必要とします。着の身着のままはありえません。
乗合馬車の場合、護衛の傭兵たちが数人ついています。彼らの乗ってきた乗合馬車でも同様に五人ついていました。ですが『乗客ではなくなった』時点で同行は終了です。心配で案内してきたという様子でもありません。それにも関わらず、彼ら傭兵は手続きの場までついてきたのです。そして陸路による越境を強要させた上、その馬車代と許可証の発行代金まで肩代わりしたのです。
陸路でいく場合にも乗合馬車はあります。護衛の冒険者もいます。馬車組合と冒険者ギルドが契約しているからです。そのため、傭兵たちの同行は許されません。にも関わらず、乗合馬車の護衛として契約している冒険者を無理矢理やめさせてついていこうとして騒動になりました。その乗合馬車はアーシュレイ領の王都発着ではなく、モーリトス国側の乗合馬車でした。そのため傭兵たちが金をチラつかせても、冒険者も乗合馬車側も首を縦に振りません。重要案件以外での依頼破棄は許されない行為なのです。依頼不履行でペナルティーを受けるだけでなくどちらも廃業させられます。その上で罰金が発生します。
それを知らない傭兵たちが暴力による実力行使にでようとしましたが、冒険者側に軍配が上がりました。冒険者たちは手を出さなかったのです。モーリトス国及び世界の常識では往来での抜刀は禁止されています。アーシュレイ領はサンジェルス国にありながら世界の常識にならっていたのです。
傭兵たちはやはり見張りでした。その上で、国外追放された人たちはモーリトス国に移民として迎え入れられました。
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