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第一章

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「それでは二つ目。先ほどの質問と重複しますが、今年度は授業以外、殿下は男爵令嬢といつもご一緒だったとお聞きしております」
「う、うむ。その通りだ」
「だからなんだって言うのよ! 殿下と私のにアンタが嫉妬して……」
「それでしたら、殿下が先ほど仰られた『湖に突き落とした』ことや『私物を破壊した』こと。ましてや『教室に忍び込み、教科書やノートを破り捨てた』などという事も可能だとお思いでしょうか? もちろん、殿下が男爵令嬢を教室から連れ出すことも、尚且つ、どちらも教室にいなくなる時間帯を私が事前に知ることができ、同じ教室の方々や他の教室の方々に気付かれることもなく、そのような行動をとることができると。もちろん、私は休講以外の授業には全て出ております。そんな私の休講にあわせてタイミングよく男爵令嬢の教室が空になり、どなたにも気付かれずに階下へ向かい、男爵令嬢の教室まで行って戻ってくるなど、本当に可能でございましょうか?」

王太子殿下も男爵令嬢も何も言いません。お互いの顔すら見ようとしません。すでに自分たちの言動が『間違ったもの』だと理解しているのでしょう。
ですが、このような場を演出されたのはお二人ですから、最後まで追求の手を緩める気は一切ございません。中途半端で終わらせては、私の気がすみません。売られたケンカを高く買うのが貴族の矜恃というものです。
ここでちょっと揺さぶりをかけてみましょうか。

「それでは三つ目。なぜ、私に指摘されて矛盾に気付くくらい拙い数々の嘘をお信じになられたのです? 男爵令嬢の一方的な訴えを信じ、当事者である私に問い質すこともせず、同学年のクラスメイトに確認もしない理由はなんでしょう?」
「そ、それはソレイユが……」
「黙りなさいよ! この田舎娘が偉そうに!」
「黙るのはあなたですよ、ウーレイ男爵令嬢。私はまだ王太子殿下の婚約者の立場です。それにいくらあなたのお父上が男爵位を叙爵されたとしても一代貴族であり、貴族として認められているのはお父上のみ。あなたやご家族の立場は平民のままです。平民が王太子正妃になるなど、天地が引っ繰り返ってもありえません。側妃も無理です。愛妾でしたらギリギリ可能ですが」
「貴様! ソレイユは男爵令嬢だ!」
の、です」

私の言葉に王太子殿下は『初めて知った』という表情をされました。いえ。誰もが知っていることですし、王太子殿下もご存知の筈ですよ。
王太子殿下が男爵令嬢のご入学の際に「一代貴族の平民娘が男を漁りに来た」と発言したのは、昨年のクラスメイトなら誰もが聞いております。王太子殿下がその発言をした場所が教室内だったからです。

「先ほど、私に「何でも尋ねるが良い」と仰ったのはウソでしたか? 殿下でしたら、一代貴族の意味も私の立場もご存知だと思っておりましたが? それとも男爵令嬢を私に対しての不敬罪で訴えましょうか?」
「何よ! 訴えられるなら訴えてみなさいよ! 私は『未来の王太子妃』なのよ!」
「いいえ。いまのあなたは、社交界に招かれることのない、ただの平民ですわ」
「私は『この世界のヒロイン』よ! アンタみたいな悪役令嬢なんかとは立場が違うのよ! 立場が‼︎ 私が王太子妃になったら、アンタなんか国外追放よ! アンタの家族も一緒に国外追放にしてやるわ! ざまあみろ!」
「まあ、あなたみたいにお下品な方がヒロインで王太子妃ですって? でしょうか?」

あなたのその強気な発言は、一体どこから来るのでしょう? この世界の主役は自分自身です。誰もが『人生の主役』であり、誰もが『誰かの人生の脇役』なのです。
ですが、私は悪役令嬢になった覚えはありません。『王太子殿下との愛の障害』という意味で仰ったのでしょうか?

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