異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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5章 戦争を始めよう、傭兵達よ。

美しい目覚めの日。

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レキとジキムートが煙の中、立ち呆けていた。

ただ一点を見つめて……。


否が応でも目に入る、絶対的で圧倒的な軍事力を見上げて声を……。

とりあえず何か言葉を発した。

まるで、自分がまだ生きている事を確認するように。

「これは……どういうこったよ」

「さぁ……ねぇ」

目線の先。

そこにはとんでもない……ファンタジーが展開されている。


「ドラゴン……かね?」

「蛇だよきっと。大蛇だ」

もう……無力感しかない。

2人がその生き物を見て、ひたすら途方に暮れる。

それは周りも同じ。

洪水で生き残った騎士団や傭兵の生き残り達がその、禍々しく巨大な生命体をただただ見つめていた。



「おぉ……ダヌディヌス様だっ。ご降臨なされたのかっ!」

「あぁなんと素晴らしいお姿だっ! こんなに素晴らしいお姿を私が生きている間に目にできるとは……っ。なんという素晴らしき日っ!」

その周りでは、水の民の生き残り達が地面に這いつくばり、祈りを行っている。

「朝だぜ……」

「あ~、奇麗な朝日だ~」

眩しそうに空を見るレキとジキムート。

美しい薄雲が数筋流れ……赤と蒼白が照らす大地。

キレイで言葉にならない。

その朝焼けにレキが褐色の素肌をしならせ、体を伸ばす。


「良いね。俺もう寝たい」

「同感だよ。なんならここでひと眠りしたいね」

……言っておくが、2人はふざけている訳ではない。

ドラゴンを目の前にすると、こんな物だ。

その強靭な牙と移動する速さ、そして保有するマナの容量から鑑みて、逃げる意味など全くない。

町に居ようが外に居ようが睨まれれば即終了。

彼らドラゴンの戦い方は、個人の領域で踏み込むレベルではないのだから。


「……彼は、何をする気なのだろうか? 僕の見立てだと神話クラスだけれども。ダヌディヌスとか言ってたね。神のペットだと思う。だが解せないのは何故、人間を捕食せずに止まっているかだよ。僕の経験だと大体は、動き出した瞬間に何か食べ物に寄って行くのに」

喋りながら2人は歩き出す。自分たちの宿舎へ。

何度も言うが、逃げるのは無意味だ。

……まだ。

「人間は食わないんだろうよ。だからこうして俺らは生きてられる。朝食が要らないって事は相当餌付けされてるか、どうやってか餌を調達する方法を別に持っているか、だな。じゃないととっくに、町ごと切り裂いて朝食にしてるさ。あの大きさだと……町が一つじゃ足りないだろうが」

「あぁ……朝食、か。すこぶるお腹が空いた。あまりその言葉はよしてくれよ、ジキムート」

朝の陽ざしに燃えて輝く、ピンクの髪を不満そうに流すレキ。


「あぁ俺もだ、ぺっこぺこ。アイツ食えないかな? あの蛇。水の神のペットだから、属性は水……。燃えにくいんだよなぁ……大概。あっそういやメシっつったら、一鳴きすると体の中がカリカリの、トーストみたいに水が干上がる。そんなヤツの話なら知ってる。最悪のパターンはみそ喰らい。似たので精神世界を食らう奴も居ると聞いたが」

「そうか……。やはりモンスターも食べ方には趣向を凝らすんだね。僕も昔焼いて食べるのに飽きたから蒸して、ついでに燻製風にしようと棒きれ入れたら臭くてね……。食えたもんじゃ無かった」

「そういやイーズは肉を熱湯で……なんつうの? 泳がせてたな。なんか上品な味になるとか言ってたが、全くパンチがなくて俺は食わなかったわ」

レキとジキムートが話しながら歩いている。

するとと続々と、騎士団と傭兵達がそれに続き始めていた。

その脇の水の民は、歩くレキたち一団に祈りを捧げて土下座している……ように見える光景だ。

ひれ伏す水の民を無視して歩みを続けていく一団。


「まぁ朝食うんぬんは、胃袋の中に入ってみたら分かるさ。じゃあ次は目的だ。順当に言って目標は僕らじゃなくてもっとヤバい……神でも戦うのが面倒な物、それと戦う為だろう。それの為に準備万端で出てきた、かな?〝ヒューマン・エンド(孤独)″とでもやる気か? どう思うジキムート」

(〝ヒューマン・エンド(孤独)〟ってなんだ?)

「敵は軍隊じゃね? バスティオンとクライン2つ」

「いや……? それは……ないよね。神は自ら人間を殺したりは滅多にしない。使徒たちも人型になってからだよ、僕ら人間を殺し始めたのは。有名な話じゃないか。行軍すらしてないのにあり得ないよっ。これは普通の常識だっ!」

「えっ……。あぁ……」


……。


「な……ジキムート、どうしたっ!?〝ヒューマン・エンド(孤独)″を知らないなんて言わせないぞっ!?  神話の一小節目に出てくるだろうにっ! これを知らないわけがないだろう?」

「……っ」

不味い顔で頭をかくジキムートっ!

ジキムートは明らかに、この世界の常識地雷を踏んでしまったようだ。

(ま……まずいぞっ。話をあわせようがねえっ!)


キャアアアッ!


その時、早朝の空を引き裂くように声が響くっ!

「……」

「……ふぅ」

レキが眼鏡を上げた。

その目の前で、祈りをささげている女が何かにおびえており……そしてっ!


バクンっ!


「一飲み……か。全員戦闘態勢っ。奴らモンスターは強いぞ、絶対に突出するな遅れるなっ、そして諦めるなっ!」

「レキ、あれが俺が見たモンスターだよ」

「だろうね。あれは最古の水の民。オリジナルと言って良い、神の使徒の原型でね。時折、登場する物なんだよ、水の神に完全に従う従順な奴隷として……さ。今回は何を依頼されたのかな?」

そう言いながら適当に、傭兵や騎士団の人間に武器を融通してもらうレキ。

彼女は今、ほぼ裸体だ。


「多分栄養失調にならないように、ペットの為のエサ集めだろうよっ。でっかいペットの……なっ!」

「……かもね。寝ながら食べると太るよ~、ダヌディヌス君」

2人は笑って、そのダヌディヌスとかいう体長300メートル(仮)のペット蛇を見やる。

ジキムートが危惧していた、別の食事のとり方とやらが今、馬の胃袋に詰め込まれる水の民で証明されようとしていたっ!

「どっ、どうするんですかっ!?」

「とりあえず、奴を倒そうか。一応ココに、あの馬を倒した実績の持ち主が居るっ。たった2人で倒したんだよ。これだけいれば僕らなら平気さっ」

「そっ、そかっ! ならよっ、早めに片付けちまおうぜっ!」


キャアアッ!?


……。

「……ふぅ」

レキがため息をつき、眼鏡を上げた。

「総員……戦うのは止めだっ! 無理無理無理っ。走って逃げるっ、ゴッゴーッゴーーーーっ!」

レキの掛け声一下、怒涛に走り出す一団っ!

その間も水の民の悲鳴が次々と、そこいらから湧き出し始めているっ!


グシャッ!


「たっ助けてくれーーーっ!」

「お願いだアンタら、頼むっ! 手を貸してくれっ。仲間がっ! 仲間がーーっ!」


ガブリっ!


「ふむ、原初型の使徒は、今の水の民より筋肉質で脳足りん……か。だがそう言った脳みそが緩く、ガチムチマッチョにすると良い点も多いと。まるで鎧蛇とリザードマンとの差、みたいな感じかな?」

「へぇ、勉強になるよ」

一団はまっすぐに、市民を見捨てて走ったっ!

あまつさえ助けを求めてくる市民も全て殺していっているっ!

血も涙も無い連中だ。

だが自分が生き残るにはそれが一番正しいと言えた。

そこへ……っ!


「ブフッ。ヒヒっン!」

目の前の十字路に青い影。

鼻息荒く、こちらを睨んでいるっ!

すると……。

「おらあぁっ!」

ジキムートが一直線っ!

飛び出してきた野良の水の馬に走ったっ!

突出するなとレキに言われたが、根っからのはみ出し者には無理な話だ。


「ヒヒッ!?」

向かってくるジキムートに目を奪われる馬っ!

迎撃態勢を取ったっ!

「じゃなっ!」

だがジキムートはそのまま何もせず、ただ馬の前をスライディングしながら走り抜け……っ。

「今だっ!」

ジキムートに視線を奪われた水の馬に、魔法が直撃するっ!

完全にジキムートの陽動にハマった馬に、魔法攻撃が面白いように当たっていく。


「そうだっ、呪文は木の属性で固めるんだっ! 良いなっ。……ではトドメは僕がっ!」

そう言うと馬に走り、獣の首に刺さった樹の刃めがけレキが蹴りを放ったっ!


ザスッ!


「ビヒーーーッ!?」

ドサっと音を立て、馬が弾き飛ばされていくっ!

「ふむ……やはり少し傷の影響が出ているね。全力では走れない、か。さぁ君たち早くっ、ここから逃げるよっ!」

その指揮者の言葉に異論が噴出するっ!


「なっ……なんでだよレキっ! こんな簡単なら相手してやっても……」

「そうだぜっ! こんな珍しいモンスターからなら良い素材が取れる。金にならぁっ。だよなっ!?」

一団が首を縦に振る。

実際その弱った馬はあと少し……。1時間もすれば、何もせずとも勝手に息絶える。

そのくらいに瀕死に見えた。


「馬鹿なっ!? あの男を見なさいっ! 必死に逃げているっ。この状況は最悪ですっ。この馬は恐らくは、あのダヌディヌスのお膝元の警護兵も兼ねているっ! とすれば敵対勢力は全て……」

「キャアアッ!?」

その悲鳴にレキが眼鏡をクイっと……。

「逃げろっ! 集まってるっ! そいつらについていくなっ。狙われているぞっ!」

「アイツらの近くはまずいぞーっ! 離れろっ、離れろーっ!」

「……ふぅ。もう遅いですね。抹殺対象を僕たちに切り替えてしまった」

そう言うと同時、上から大きな影が降ってきたっ!


ドスンっ!


「うひぃっ!?」

「ヒヒンっ!」

襲われる傭兵か騎士団っ!

確認はしていない。

なぜなら次々と湧いてくる馬がレキの視界に入っているからだ。

すぐに彼女らは行き場を失い取り囲まれてしまったっ!


「……。困ったね。あの男め……抜かりないっ。逃げる算段もつけての一本槍だ。チクショウめっ」

レキがジキムートに悪態をつく。

彼の戦い方はいたってシンプルにいつでも自分ファースト。

無駄な一本槍など引き受けるはずがない。


「はぁはぁ……まずいぞっ。1・2……ダメだ俺、数は3までしか数えれないんだよぉ」

「10は居るっ! 10だぞ多分っ」

傭兵と騎士団の混成チームが馬にずらりと囲まれ……行く手を完全にふさがれているっ!行くも逃げるもモンスターを倒すしかないっ!

その時……っ!

「……んっ? なんだあれ」

「ジキムートが……追われている? なぜあんなに必死に逃げる必要が……」



レキが眼鏡を上げて、向こうに見えるジキムートを確認した。

あの一人で逃げた傭兵が、こちらに走ってきている。

しかも決死の形相で。

「あの男が何も無しに帰ってくる訳がないね。これはさすがに僕らも……ヤバいかな?」

レキが目をつむった。

恐らくは逃げた先で、かなりヤバい敵の群れにでも出くわしたのだろう。

そして……。
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