異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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4章 聖地内戦終結

神の目覚めし時。

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「おい……ソレっ、寄こせっ!」

太った腹を蹴って、マッデンが持つその〝エイクリアス・ソリダリティー(水の誓約旗)″を強引にひったくるジキムートっ!

「よしよしっ! これで俺の神への道が開かれたぜっ。全く……。これでレキ達も報われるな」


「良かったな、ジキムートっ!」

「うぉっ!?」

ビクリっと身を震わせるジキムートっ!

その隣にはいつの間にかレキが居た。

まだジュクジュクに濡れた衣のまま、しっかりと立っている。


「やあやあ、今回の本当の意味での勇者、僕だっ。ほめてくれ」

「あ……あぁ。まぁ、そうな。ありがとうよレキ」

「勇者」

クイっと眼鏡を上げるレキ。


「あ……ありがとうよ、勇者レキ。そういや一応聞くが、ローラはどうした?」

「ああ、アイツなら帰ったよ。本部で報告を受けるとかなんとか。なかなか透けるオッパイが魅力的だねって、眼鏡を上げながら壁にアイツを押し付けたら……殴られた」

クスン……と泣きながらレキが言う。


「生きてんのかよ……。あぁ、レキ。そういや〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)〟サンキュウな、役に立ったぜ。残ったのはそこ……そこらの崩れた氷の所に落ちてる水だ。まだ使えるだろ、使うと良いぜ」

そこらにある布を肩にかけ、レキが衣服の代わりにしているのを見ながら言うジキムート。

さすがに寒いらしく、彼女は傷がある足を引きずりながら手あたり次第に、家をあさりだしていた。

「そうかそうか。ふふっ、そうだろ? 役に立っただろう? 僕の眼は確かさ。この勝利は大体は、僕のおかげだな。うん。ああそれで、君に貸したあの特注のナイフ。あれは特別火のマナを保持しやすく作ってる、なんと王都励造品っ! めちゃめちゃ高いんだよ。僕の魔力を効率良く伝える為だけに作った物だからね。あとで請求するからさっ」

痛む脇腹に、わずかに落ちている〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)〟のカスをかけながらレキが笑う。


「あっ……あれはお前が一切合切、ローラの為に投げた奴だろうよっ! たまたまに俺が拾って再利用しただけだっ! 払わんっ」

「ムッキーっ! 僕はパスしたんだよ君にぃっ! マッデンの直下に居るのはずっと、知ってたからね。ビクビク怯えちゃってぇっ! 優しい心遣いを無下にする気かいっ!?」

「戦場で落ちてた物は、俺の物。傭兵の基本だぜレキ。それとレキ、嘘はいけねえぜレキぃ? コイツぁお前が払ったんじゃねえよな? イチイチ王都に取りに帰ってる訳がねえんだからさ。どうせヴィエッタに寄こさせたんだろがよっ!」

「ぎくっ!? だっ、だけども僕が交渉したんだっ! 僕のお金だ返せっ!」

レキが近寄っていった瞬間……っ。



「……っ!?」

「……どう……した?」

「いや」

ジキムートは汗を拭き、レキから遠ざかる。

レキはジキムートを訝しそうに見ながらも……その手に持っている〝エイクリアス・ソリダリティー(水の誓約旗)″を見やる。


「それを……〝エイクリアス・ソリダリティー(水の誓約旗)″を渡してくれないか? その保有権はひとまず、僕にあるはず」

「いや……待ってくれ。少し」

ゴクリ……と唾をのむジキムート。その瞬間っ!


ドロリっ!


そのレリーフが……〝エイクリアス・ソリダリティー(水の誓約旗)″がジキムートの手の平から溶け落ちたっ!

ザスっ! ザシュっ!

「んーーっ! んーっっ!?」

2人がナイフで刺すっ!

だが……刺されたマッデンは泣いて抗議するだけだ。

すると突然、地鳴りがし始めたっ!



ドドドオドオオオオッ!



「クッ……クソっ!? いきなりどうしたよっ。オオォっ!?」

「なっ……なんだコレはッ!? こんなの……くぅっ!?」

響く、地の底からの重低音と家が軋む音っ!

それは震度6か7はある、非常に大きな物だった!

レキとジキムートが地面にしゃがみ込む。

この揺れでは人間は立ってはいられないっ!


ガララっ! ガシャンっ!


そしてすぐに家が傾き、倒壊し始めてしまう。

激しい音を立てる世界。

長い激闘に耐えたその建物がジキムート達を飲み込み……瓦礫に代わっていった。






「さて……と、そろそろ起きるかの」

そう言うと幼い少女は、そこに眠るクジラかサメかの体を撫でる。

異様なほどにツルツルした体の表面をウットリ……としながら気持ちよさそうに、手を滑らせる幼女。


「そろそろ〝ヒューマン・エンド(孤独)″との戦いもせねばならないしな。しっかしなんと……。わしの神殿も散々に汚れ、町も崩れておるのぉ。あ~あぁ、なんとバッチィ。しかも呼んでおいたのに、誰も起床に迎えんとは……」

ギュッと力強くコブシを握る幼女っ!

「あぁ……最悪っ! 最悪じゃぁっ! 愛が足りぬっ! 真にマジ、あり得ぬわっ。この怒りどうしてくれようかっ」

呆れる幼女。しかし……何か含むように、笑った。


「だがその代わり……変わった来客もある。それで良いか。溜飲を下げようかのぅ?」

そう言ってジキムートとノーティスを映す水鏡を見る。

「どちらでも歓迎しよう。だが……ふふっ。我が門をくぐるのは容易ではないぞ……御使い共」

そう言うと彼女は笑って、自分の御使い最強の蛇に言い放った。

「遊んでやれ……ダヌディヌス」

「シャアアアァっ!」





……。

「ふふっ……ダヌディヌス、か。計画道理だ。明けましたよ兄(あに)様。もう少しで黎明が訪れます。真の神による、夜明けの黎明が。ふふっ……アハハっ」

明け行く景色を見て彼女は笑う。

そしてその銀色の髪から花の髪留めを取り返し、歩いて行った……。
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