異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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4章 聖地内戦終結

人の中の悪魔。

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「おいっ、お前らよく聞けっ。業突く張りの傭兵どもっ! アイツらについてったら金がすぐに底をつくぞっ!」

「なっ、何をいきなり」

物陰に隠れているジキムートがいきなり叫びだし、裏切った傭兵達に言葉をかけ始めたっ!



「ヴィエッタ……。シャルドネとクラインは〝ぐる″だっ! もうすでに2つの国はあのデブ共に重税をかける予定でいるっ。今みたいな羽振りはすぐにできなくなるぜっ! しかも軍事的に包囲するって約束まであんだっ。お前らは勝っても負けても行き場を失うっ!」

「なっ、いきなり何をっ!? そんな話は聞いておらんっ。全くのでたらめじゃっ!」

ジキムートの主張にマッデンが大きな声を張り上げ反論するっ!

だが……。


「ぐっ、軍事的にだとっ!? いや馬鹿なっ!?」

「ダヌディナ神様の……我が神の地を威嚇しようというのかっ!?」

その言葉に反応したのは、街の人間の方だった。



「そっそうだっ、水の民共っ! このデブは祈りとか言ってるが、まんまとシャルドネとクラインにはめられたんだよっ。威嚇なんて関係ねぇっ!」

「耳を貸すなっ!? こんな下民のたわごとに真理など存在せぬっ!」

マッデンの攻撃が降り注ぐ。

だが軽い身のこなしで逃げて行くジキムート。

「じゃあ聞くぞお前らっ! 独立してどうやって暮らしてく気だっ!? 外はお前らを切り刻みたいクラインとバスティオンに囲まれてるっ! 仲良くお前らと交流会でも開いてくれると思ってんのかよっ!?」

「いやっ、だが我らには神殿が……っ。聖地がある……っ」

「物も何も売れないのに、どうやって独立を維持すんだっ!? すぐに思い知る事になるっ! 関税ってのはお前じゃなく相手が決めんだぞっ!」

「黙れっ、この下民がぁっ!」

そう叫んだ瞬間、大容量の吹雪がジキムートを襲うっ!


それは風も伴う攻撃。

恐らくはこれで口を封じようと言うのだろうっ!

「やべっ!? これは無理だっ!」

物陰でなんとか逃げようとするが……すぐに嵐に巻かれ、物量に押され始めたジキムートっ!


「お前たち、その下賤の声など聴くなっ! わしはきちんと王本人に直接、独立に対して話をしておるっ。それ程間抜けに見えるのかわしがっ」

「ぐぅ……。ぐっ……」

ジキムートが声を出せない間に、マッデンが大声で諭す。

このまま声が出せなければ作戦は終わりだ。

だがっ!

「……シュラザナーグッ!」

その時、ジキムートの前に騎士が立ちはだかるっ!

襲い来るその暴風雪に盾で、ジキムートの風除けになっていく騎士団員っ!


「……よしっ! 何言ってやがるマッデンっ。じゃあお前は何か信用できる物があるってのかよっ!? まさかとは思うが、口約束を信じる様な馬鹿……。そんなの居ないよなぁっ」

騎士とジキムートが親指で会話し、大声で反論を再開っ!

「……」

他の騎士団員もジキムートの動きを見て、その意図をくみ取ったようだ。

彼ら騎士団はジキムートの援護に回り始めた。

魔法士達は持っていた弓を構え始める。


「……あるぞっ! あるわいっ! ここにはなくとも、わしの部屋にはきちんとなっ!」

(嘘の臭い。)

「あぁ、なるほど。だったら安心だな~、今頃そいつが盗まれてなければ……だが」

ジキムートが笑うと、騎士団の指揮官も会話に加勢した。

「おいマッデン、貴様ら反逆者の巣穴の場所はすでに、我らが本国に伝えてあるぞっ! このバスティオンが世界の中枢を担う理由を忘れたとは言わせんっ。諜報部隊が今頃、お前の寝室をあさってなければ良いけど……なっ」

討論術において、言葉を重ね続けれた方が強いのだ。

どんな言い訳も、それを超える疑惑を突きつけ続ければ正論すらもどうとでもなるっ!


「……くぅ!?」

その口撃にマッデンの顔色が変わり始めた。

口封じ優先対象が増えたのだ。

マッデンの攻撃の焦点が虚ろにぼやけ始める。


「聖地の物が売れなくなるだとっ!? そんな馬鹿なっ!?」

「おいもし〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″が売れなくなったら、ほとんどの奴らが暮らせなくなるっ」

ジキムートの言葉に住民の動揺が広がっていくっ!

(やっぱ金の話には目ざといか……。この聖地って奴はどっかおかしいと思ってたが、どうやら当たってたみたいだっ。)



ジキムートがココの聖地に来て思ったのは、人口が少ないという事。

最低でも5万人いてもおかしくない程の広さと経済力を持っておきながら、明らかに住居間隔が桁違いに広い。

町を歩く現地住民も少なく、恐らくはかなり〝水の民自体″の人口は少ないだろうと推察できたのだ。

(チョロッとした〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)〟でも、銀貨50枚で買おうとする馬鹿がいるんだ。1日コップ一杯しか出なくても、それが永久に出てくりゃ金鉱脈なんて目じゃねえじゃねえかよっ! さぞや儲かってるだろうな……外国のおかげでっ!)

少数の面々でおそらくは〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″やその他の売り上げを分けあっているのだろう。

だからこそ彼らは、各個が貴族の如き振る舞いで、優雅に暮らせると言えた。それはほぼ全て、外貨で得たものなのだ。


「特にクラインの方の恨みはなぁ、お前らが思っているより深いぞっ! お前らシャルドネに選挙をする時何か貰わなかったか? 例えば……そうっ。シャルドネに下る事と引き換えに金や宝石とかっ! そういうヤツさっ!」

「……っ!?」

どうやらその勘は当たったらしい。

相当数の住民がバツの悪い顔をして、うつむいている。


「それを深く追求してくるぞっ。そこのお前っ! 国家を裏切った罪は重いんだっ、国家を裏切った奴はどうなるか、おい騎士様っ、答えてやれっ!」

「エッ、おっ俺っ!?」

「市中を糞尿汚物、それを投げられながら3週の後、娼館の前で火刑に処すっ!」

適当にジキムートが指さした住人に、騎士団が剣を奉じながら断言するっ!

市中が20キロとしても、3周で60キロだ。

とてもじゃないが、正気ではいられないだろう。

糞尿を投げられながら自分も糞尿を垂れ流し、舌を噛み死んだ方がマシ。そうとさえ思うかもしれない。

何せ……火刑は恐ろしい。


「思い出してみろよ、火刑になった奴の顔をっ!? えっ!? どうなんだ使徒様よぅっ!?」

「はぁっ……はぁっ」

火刑は全身に火が燃え広がり、死ねる。などと思っているなら大間違いだ。

何故人間が燃えると思っているのか? 油も無いのに。

髪の毛位か、盛大に燃えるのは。

実際炎が上がるのは下のワラ〝のみ″。

人間自体が燃える事は絶対に無い。

延々と煙と『弱火』。マッチのような火で全身をいぶされ……。


「いっ、嫌だぞ……。あのような……。あんな黒い人間の燻製になるなぞ正気ではないっ!?」

やがて、人より先に括り付けられた縄と木が燃え始める。

すると手や腕、背中に表現できぬ程の火傷の苦しみを与えられながら、幸運にも縄が切れたとする。

だがそれでももう、逃げる事は出来ない。

足はすでに燻製になって筋肉が動かないからだ。

顔面を自ら燃え盛るワラに打ち込み、死を願うのが精一杯。

炭になりながら生きたまま熟成されるのが、火刑の真骨頂である。

それを住民は何度も何度も見ている。実感として処刑は、非常に日常に近いのだ。


「お前のじり貧は……近いっ!」

ビシリっとマッデンから近くて気の弱そうな奴を指さすジキムートっ!

「……っ!?」

顔面蒼白の住民Aっ!

あたふたし、そして……。

「おっ俺は別に……そっ、そのっ!国家を裏切るとか、そう言った……。お前らもそうだったろ、なっなっ? だっ、大体この話を率先したのは……」

必死に仲間にすり寄るその男。

明らかに動揺しそして……何かを知っている顔だ。

しかし……っ!

「ぎゃああっ!」

動揺した住民が八つ裂きになったっ!



「黙れ黙れぇっ。うろたえるなっ! 我らには神のお告げがあるっ! それは我だけ……。そう〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″だけが拝命した特別な物っ! 例えあの女とクラインがどう吠えようと、それは覆しようがない事実っ。何があろうと恐れる事はないっ! それに我らの祈りを物品で返答し奉じる。それは当たり前の事ぞっ!」

仲間を切り裂いて、必死にジキムートを攻撃するマッデンっ!

怒り狂って攻撃に力が入り、攻勢は苛烈さを増す。

「……」

遠目から住民達が、恐怖と不満の目でマッデンを見ていた。

そしてその負の空気と視線に耐えられないマッデンは……。


「なっ、何もやましいとなどはしておらずっ! 神の断罪無きコトワリに、罪は断じてっ、全く存在しないのじゃぁあっ!」

マッデンの体が一際大きく光ったっ!

「……!?」

バキンっ!

3メートルはある氷岩が、ジキムートと騎士団めがけ突き刺さるっ!


「ぎゃあっ!?」

それに巻き込まれる騎士団員は……氷岩を前に逃げる事無く、盾を構えて向かっていくっ!

その顔は決して助けを求めない。

ジキムートは騎士団が矢面に立ったそのスキに逃げ出すっ!

そして言葉を続けながら、マッデンを挑発しようとした……がっ!


「なっ……何が神の断罪無きコトワリだっ! 俺の故郷の母ちゃんは神威(カムイ)を語ったって、腕を落とされたんだぞっ!? 神様はきっと、俺らの一族を守ってくれるって言っただけでよぉっ」

「そうだっ! こっちは戦火に震えても飢えても病の中でもっ! 神を語っちゃいけねえんだっ! それが神が罰しなきゃセーフだとっ!? ふっざけんなーーーっ!」

傭兵が泣き叫ぶ。

だが届かぬその怒り。

住民達は恐怖に蒼白だ。

マッデンは必死に怒鳴り散らして、保身にいそしんでいる。

その中で響いた人類への侮辱を取り合おうともしない。

その傲慢さはとてもではないが……〝普通の一般人″には耐えられない物だった。


「俺は神を……。いや、人を侮辱するコイツと戦うぜ」

裏切った傭兵たちが、剣を取りマッデンに向くっ!

彼らは放棄し、蜂起したようだった。

騎士団も傭兵の士気も恐らく最高潮。そうなれば……っ。


「おいっ住民共……何をささげるっ!?」

「えっ……なっ、何とはっ!?」

ジキムートの言葉に住民が止まるっ!

「お前らが逃げる為に、神にどの責任者を指名するかって言ってんだっ!」


「この下賤の声に耳を傾けた者は我っ! 神の右腕直々に裁きを下すっ! 全員耳を落とせっ、悪魔のささやきから身を守るのだーっ!」

「狼から逃げるには生贄が必要なんだぜっ! なぁ羊どもっ! 戦犯は誰なんだって話だっ! それとも仲良く全員火刑に処されるかっ!?」

住民はもう、勝機がどちらにあるか分からずパニックになっている。

そこを突いて口撃を始めるジキムートっ!


「おっ、俺らは……選挙なんてしてないっ!」

「貴様っ!?」

「俺らはマッデンに言われただ、一任書を渡しただけ……ぐあっ!?」

「黙らんかっ!」

「そっ、そうだっ! それに神のお告げはとうの昔に、途絶えていると聞いているっ!」

「……ヒヒっ」

次々と起こる内紛と同族狩りに、ヨダレを垂らし笑うジキムート。

そう……彼は誰かの後ろで戦うのが精一杯の凡俗なら、悪魔の後ろに隠れれば良い。

彼は決して悪魔程も強くはなくとも、個人個人の心に巣くう悪魔は強く、利用しがいがあった。


「じゃあお前らは神に救いを求めろよ。そこに水があるだろう水の民っ!」

指さすそこには、水……。

下水から流れた川がある。

「……」

「お前たちっ!あの悪魔の言う事を聞くなっ、戻れ戻らんかっ」


「水の民は水に還れば良いのさっ! 水の中に……母ちゃんの腹ん中に逃げこめっ!」

「たゆたう水、誇りの流れ。神のうるおいっ。神よーーっ!」

一人が意を決して下水に飛びこんだ。

するとたくさんの住民達が後に続いて行くっ!

「我々水の民に、神の御慈悲をっ!」


バシャンっ!


「ダヌディナ様、どうか我らにお導きをっ!」

バシャっ!

水の民達が水へと還っていく。

真の姿でありそして、唯一の主人の下だ。

例えそれに汚物が混じっていようと、関係は無いはず。神に真に従えるなら、だ。

「よーしよっし。これで100対1だぜマッ……」


ヒュンッ!


「……つぅっ」

へらへらと笑うジキムートの顔が突然、斬れた。

どうやら自分の十八番、ムードブレイカーを取られたらしい。

一際大きな氷の柱が首を狙い……とっさにジキムートが逃れていたっ!


「ふぅふぅ、貴様……貴様貴様貴様ーっ! こうなったらアレを出すしか……。必ずだ……下民。必ずや後悔させてくれるっ! さぁさぁとくと見ろ……っ! 貴様のさえずる声すら消し飛ぶ、神の力を目にも見よぉおおおっ!」

怒鳴り声と共に……不穏な空気が流れる。そしてそれはすぐに、世界を一変させ始めたっ!
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