異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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4章 聖地内戦終結

取り逃がした魚

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「ぐぅ……。マジかよ」

ジキムートがうなる。

痛みが想像以上に強い……。

腹部に激痛が走っている。

恐らくは左のあばらが一部、消し飛んでいるのだ。

折れたのではない、消し飛んでいる。

その他には、右の掌のど真ん中に穴が開いているし、右耳の半分。耳たぶ寄りの下半分が引きちぎれてどっかに飛んで行っていた。


「〝エイラリー(異形鱗翼)″も……きついか」

ドロリ……と幾本ものナイフが溶けている。ブーツがすでに半分失くなっており、くるぶしの一部も溶けていた。

「ぐあぁ……。助けてっ。助けてくれぇ……っ」

そこらへんにはまるでスプラッター映画のように、無茶苦茶になった人間が転がっている。

上半身だけの人間も居れば、手足が一気に失われた者も。

それは傭兵だけではない……。


「うあぁっ! たゆたう水、誇りの流れ。神のうるおい。水のダヌディナ様ーっ!」

水の民も同様。

マッデンが放った光の中、3分の1程度の人間が忽然と姿を消していた。

そしてそれと同時に肉クレと化した生き物が数十に及び、作り出されている。


「はぁ……はぁ。まだクスリの〝力″は残っている……ふぅ……ふぅっ。はずなのに……くそっ」

歪む視界。

だが……先ほどの元気さも殺意も消えうせていた。

過ぎ去った恐怖の残滓に蒼白になりながら、とりあえずジキムートが……一番重傷の腹部。

それに特製の軟膏を塗った湿布をへばりつかせる。


「ぐぅう……」

シュウウ……と嫌な音がし、焦げ付くように幹部にへばりつく〝ソレ″。

「後で……うぅ、しっかり〝中″を掃除しねえと……はぁはぁ。なっ」

コメカミにくる痛みにうめくジキムート。

この湿布……傷を治してくれる訳では決してない。

いやむしろ、悪化させるキライがある。

だが的確に必ず出血『だけ』は止めてくれる、非常に良い物であった。

後は適当に止血しておく。


「はぁはぁ、このサルめ……〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″を持っておったか。あの時壁をすり抜けたのは、そう言う事なのだな。ぐぅぅ……」

痛みにうめくマッデン。

ジキムートに斬り落とされた左の腕を自ら拾い、懐で何かを探している。

「ご……、ご明察。お前の魔法をレキが一瞬にして解いたのを思い出して……な。あれは恐らく〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″だと、そう思ったんだよ。どうやらお前の力や神の寵愛がどんなにすごかろうと、水神様のションベン一つにも勝てないらしい。へへっ」

ジキムートが冷や汗と脂汗、その両方をぬぐいながら必死に恐れを隠し、吠える。

彼はあの洞窟での中、〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″の違う使い方に気づいていたのだ。


(レキの真似したのは良いが、この期に及んであの勇者様はどこいった? この戦場では姿が見えないだけなのか、それとも……。マッデン追い詰めたらじゃじゃ~んなんて姿、見たくもねえぞっ!)

レキが凌辱に震える姿を想像するジキムート。

最悪の場合どうするか……それも考えねばならない。

彼は傭兵だ、自分だけの事を考えるべきなのだ。今から覚悟を決めるしかなかった。


「だが、もうそろそろ終わりじゃろう。お前にはブルーブラッドはないはず。あれは長年をかけても滅多と手に入らない至宝っ。1日でたったコップ1杯もいかん。せっかくのチャンスを逃したな、傭兵っ!」

1日で200グラム。

回復に必要な量を20グラムだと仮定するならば、10回分も無かった。

それをこぞって世界中の王侯貴族達に豪商なども買いあさるし、宗教団体も欲する。

毎日何かしらの人々が傷や病に苦しみ、目の色変えて買い付けるのだ。


(さぞや、たけぇんだろうな。水の民ですらなかなか持ってなかったのが分かるぜ。ある意味ラッキーだ。このデブ以外とやるなら、よ。)

この聖地の戦闘で滅多に見ないのもうなずけた秘宝。

その貴重な物を自分の腕にかけ……接合させるマッデン。

彼にはあるのだろう、自分がピンチになれば使える〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)〟が幾ばくかに。


「へへっ、何勝手に安心してんだよクソデブ。さっきでお前の腕がいったんだ、次はその首、間違いなく切り飛ばしてやんよ。覚悟でもしとけっ!」

笑って首をかっ切るポーズをするジキムートっ!

だが、彼の心の中は今非常に強い焦燥感が漂っていた。

(手持ちは俺に使われた〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)〟の残りカス、それをかき集めた奴だけだ。もう残りはねえ。なんとかペテンだけで切り開く道を探せ、俺っ!)

否応なしに焦りが吹き出るが、絶対に気づかれてはならない。


「ぐぬぅ……雑兵如きが調子づきおってっ。やっ、奴を近づかせるなっ! 我だけを守れれば、それでよいっ!」

ビクリッ! とマッデンが体を震わせる。

痛みが続いている左腕を押さえ、今にも泣きだしそうな顔で従者達に盾になるようにと命令する……が。

「はっ、はいっ!」


……。

「どうしたっ!?」

「ハッハイ……はい……」

怒鳴り声にビクつく水の民。

そして蒼い顔をしながら恐る恐る、ジキムートの前に立ちはだか……いや、這いつくばりながらよろめき、目を泳がせる。


「なっなんなのだ、この男。ジキムートとか言ったかっ!? 傭兵如きがこんな……。有名な傭兵なのだろうか? ヴィン・マイコンとレキだけだと聞いていたが……クッ。あのマッデン様にここまで」

「あの業は水の民の秘匿中の秘匿。こんな薄汚い一傭兵に使う事になろうとはっ!? 名はジキムートだとな」

ジキムートへの……。

ただの雑兵の名を初めて、畏怖と共に口にする従者たち。、

恐怖の目でその名前の持ち主を見やる。

だがそんなことお構いなしに、マッデンの声がけたたましく響いたっ!


「死ねぇ……虫けらめっ!」

その瞬間攻撃が突き刺さるっ!

ガツっ!

「ぐぬっ!? うああぁっ!?」

木が……まるで巨大な虫のように顔面に取り付き、男の口の中へゆっくりと〝舌″を入れるっ!

「ぶぇえっ!?」

ブシャっ!

樹木の舌が口内をかき回し、喉を貫通させられた住民っ!


嗚咽と絶望を吐き出し倒れ伏せたっ!

そしてそのままヒクヒクと息絶える。

まるでその光景は、エイリ〇ンに出てくるフェイ〇ハガーだ。

「行けーーっ、者どもっ! 我ら騎士団13連隊っ。このバスティオンを守る誇り高き守護者たる我らが今ここで、奴らを打ち砕く槍となるのだーっ! 栄光なるバスティオンよっ繁栄あれっ! シュラザナーーグっ!」

「シュラザナーグッ!」

大声で叫び、そこに人の群れ……約20程の騎士団がやってきたっ!

(2、20だと!? エッ、マジでかっ!?)

動揺が心に走るっ!


びっくりするぐらい少ない騎士団の数に、ジキムートが鼻水を垂らして動揺した。

彼の注文は、大盛りの200だったが、今回は小盛の20。

ガッツリ食べたいからラーメン大盛り頼んだら、レンゲの上にメンとスープとメンマ、それにチャーシューの切れ端が乗ってきた。

そんなシャレにならない絶望だっ!


「きっ、騎士団だっ! 騎士団が来たぞっ。どっどうしようっ!?」

「あれは本隊ではないぞっ! 大丈夫だっ! 安心しろよっ」

「いやいやっ!? お前は馬鹿かっ!? あの鎧を見ろよっ!? 本隊でなくても精鋭中の精鋭騎士団だっ! この傭兵どもより強敵だろうがっ」

だがジキムートが思うより、住民が目の色変えてうろたえながら口々に恐怖を叫ぶっ!

ネームバリューと言った所か。


「くっ……鬱陶しいっ、下等貴族共めっ! 所詮奴らは頭を鋼に食われた国の2流の騎士っ。恐るるに足らんわっ。我ら神の民の御前にひざまずかせよっ!」

マッデンが叫び、騎士団に向かって魔法を乱舞させるっ!

「くっ、恐れるなっ! 突っ込むぞーっ」

気合の号令っ!

そしてその、40にのぼる氷の刃にすら騎士団は立ち向かっていくっ!
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