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4章 聖地内戦終結
レキとヴィン・マイコン
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「お前が悪いんだろっ! お前が捨てて来いよっ! あんなの産みやがってチクショウがっ! アイツのせいで俺らは大変なんだぞっ!? 村で問題になったらどうすんだっ!」
「何を言っているのあなたはっ。自分が低能の癖にっ!? 私はまだきちんと5本の指があるわ、ほら見て見なさいっ。あなたはもう3本よねっ。そんな体たらくのあなたが悪いのよっ!」
「なっ、コレは俺がまだガキで……成人する前の物だって知ってるよなっ!? 親父のせいで俺のせいじゃないっ! 大体お前がアバズレだったのが悪いんだろうがよ、ボケがっ! お前のせいだっ! それであんな悪夢のような子が……」
「確かアンタのお父さんは飲んだくれのゴクつぶしよねっ!? ほらやっぱりあなたのせいじゃないっ。似たのよっ! アンタのダメな物を全部引き継いだらあんな子に……っ! どう説明つけるのよっ!? あなたが捨ててきなさいっ。どうせあの子達は村の中に残るんだしっ! 少しの勇気を持ってよ男でしょっ!? この意気地なしっ!」
「……」
自分の母親と父親が怒鳴り合う姿を見守る、ヴィン・マイコン。
すると隣に居た男の子……。いや、女だ。男の子にしか見えない女の子が腕を引く。
「もう行こう、ヴィン。どうせココには居られないよ」
「あぁ……」
彼らは去っていく。
この……ヴィン・マイコンという子供。
自分をいかに押し付けるか? その争いをひたすら続ける両親たちの口論から逃げるように。
「どうっすかな。これから」
外の空き地で糞尿が落ちてない所を探し、寝そべる少年ヴィン・マイコン。
年はまだ9・10歳と言った所か。
体は同年代より比較的大きい。
気性も強そうだった。
髪は丸刈りになっている。
「……そうだなぁ。お前なんとかしなよ」
一緒に少女レキも寝ころんでいた。
彼女も同い年だろう。
男の子にしか見えないその褐色の肌。
胸は全くと言って良いほどない。
目つきも鋭く髪は丸刈り。眼鏡もかけてはいなかった。
「気楽に言ってくれるな、レキ。お前ホント適当だよなぁ」
「ふふっ、ヴィンに言われたくないなぁ。お前も、僕を預かってくれる所が無いって言ったら同じ事言ったくせに」
この世界、他人の子供を預かるのは珍しくない。
相手も自分の子を預かって社会性を教えてくれる、いわばミニチュアの学校と言う奴だ。
自立心と他人との折衝の仕方が学べた。
「そうだっけか、ふふっ……。それでお前、あのおっさんの所で長く居れそうなのか?」
「あぁ……いんや。多分遠くないうちに叩き出されるね、あれは」
苦笑いするレキ。
「じゃあお前またお願いして回るのかよ。村の連中全部に」
「かも……ね。でもどうせあそこしか行く場所は無いよ。何せ僕はニワトリだからさ」
「……。ニワトリ、か。俺も行ってやろうか、村を回ってお願いする時よ」
「馬鹿かよお前は。お前が来てしまったら……ふふっ。村で最も触れたくないツートップ揃い踏み。そうなるじゃないか全く」
「……影に隠れて、よ。心細いだろう?」
そう言って笑うヴィン・マイコン。
その顔にレキが笑い返す。
「あぁ……そうだな、そうだ。でも僕の事は気にするな、ヴィン。僕には曲がりなりにも、神の祝福がついてる。訳の分かんないお前とは、な」
「そうだ……な」
そうレキに言われ、ヴィン・マイコンが悲しそうに笑った。
その顔に少し戸惑いながらもレキが、ポケットから出した羊皮紙をヴィン・マイコンに渡す。
「なぁ……渡すか迷ったんだが、コレ」
「なんだよ、コレ」
「……。この村で暮らす方法、だと……さ」
「なにっ!? そんなもんがあるのかよっ! なんでお前それを先に……って、どうやんだよコレ」
羊皮紙をジッと見つめるヴィン・マイコン。
識字率5パーのこの世界では文字は使わない。
図説、それしかなかった。
「あぁ、ホント要領悪いなお前は。まぁ簡単に言うと、動物の糞尿を集めてココに持って行けって事だね……多分。そんでこっち。この地域なら多分……月が書いているから、夜の間にもみ殻を拾って良いって事だよ、きっと。ココは虫を取って良い場所。多分ね」
「多分ばっかじゃねえかよっ!」
「お前何も分からないくせに僕に文句言うなよ全くっ!」
怒鳴るヴィン・マイコンに怒鳴り返すレキっ!
「でも……そうだ、な」
するとふと、何かを考えこんだレキ。
「……? レキ、どうした」
「いや、なんでもない。頑張れよヴィン。なんとかして2人で大人になって、ここから抜け出そうよっ!」
「ああっ!」
……。
「うらぁっ!」
バキっ!
「ウギィッ!?」
「へへっへー……。ほらほら、パン出せよ~」
そう言ってヴィン・マイコンが子供を踏みつけ脅すっ!
……と言っても、背丈がかなり違うだけで同い年だろうが。
「そ……そんなの持ってる訳ないだろうっ! この乞食がっ」
「なんだとぉ~、うらぁっ! 出すまで続くからなぁっ!」
そう言って再度殴り倒すヴィン・マイコンっ!
カツアゲと言う奴だ。
「ははぁ……なかなかやるね、ヴィン。イヒヒ」
「おいっ木綿付き(ニワトリ)、何してやがるっ! 早くしろよ」
「す……すいません、親方」
自分の名前……いや、アザナ、か。
それを呼ばれ、レキが笑ったような顔に変えて大きな荷物を抱えてその親方についていく。そして家の中につくと……。
「ほれ……よ、と。全く使えねえなぁお前は。一人でこれっぽっちの荷物も任せられないなんてよ。だからおめえは月に吼えちまうんだよ、コケッコーってよぉ。なぁ?」
親方、それは鍛冶師だろう。
筋肉質なオッサンがグシャっとレキの頭を手で押さえこみ、馬鹿にしてくる。
「……」
その言葉に答えず彼女はただ、沈黙するのみ。
「あっ面白いですね、親方。っていうか上手いですよっ!」
「ホントホント、才能あるんじゃないですか?」
そこに居た徒弟の2人が作業しながら、親方の鳥の鳴きまねを讃えると……親方は機嫌を良くした様に笑い。
パンッ……パンッ!
「そうだろぉ、へへっ? お前も朝に泣いてりゃ良かったもんを、これだから空気が読めない奴はっ。ほれ、鳴いてみろよ木綿付き(ニワトリ)っ!」
そう言って力任せにレキの頭を弄ぶ親方。
すると不服そうな顔を一瞬見せた彼女は。
「……。コっ……コケッコーっ!」
バタンっ!
「ちょっとっ! 何騒いでんだ馬鹿タレがっ! ったく折角寝かしつけたってぇのに困ったよぉ。アンタどうしてくれんだいっ! 全くなんでだいっ! 選りにも選ってこんな役立たず借り受けちまってっ」
「……すいません」
怒鳴りこんで来る親方の女房。
それに深く深く頭を下げたレキ。
「あぁ~あ、全く。周りを考えれない奴はこれだからっ! 樹の神様にも謝っておいでっ。アンタみたいなのに任せれるのは、それだけだよ全くっ!」
「はい……」
「コレだから木綿付き(ニワトリ)はっ! こんな……ふんっ。とにかくこんな罰当たりな奴に子供なんて怖くて預けれないんだからさぁ。なんでアンタはこんなの引き取っちまったのんだよっ! 全く」
「まぁまぁそう言うなよおっかぁ。仕方ねえんだよ俺は。おいっ……火ぃつけろ」
そう言ってロウソクを指す親方。
「はい……」
シュボッ。
「俺はこの村で頼りにされてんだ。なんせ俺だけが家も作れるし風車も治せる。それにクワもスキも全部俺が作ったり治したりしてやってるっ! そこでアイツを引き取れるのは俺だけだってそう頼まれりゃあよぉ……。ここでアイツを触れるのは俺くらいさ……」
自分の事で喧嘩する引き取り先の声を聞きながら、レキがその家を出ていく。
神に、本当に樹の神ユングラードへと謝りに行くのだ。
もしくは虫を取って食べる。
それしか今の彼女がやれる事はない。
「……クスス」
「ヒヒッ、ざまあねえな」
「……」
徒弟仲間にも馬鹿にされ、レキは歩き出す。
そこは鬱蒼と茂る樹々が、人間が生活する世界をくわえ込んでいる世界。
上を見れば覆い尽くす樹、下を見れば虫の行列と草花の密集帯。
ここは樹の神が治める国だった。
……。
「おい居たぞ、乞食がっ! 悪魔が居たんだっ!」
「クソっ!」
逃げるヴィン・マイコン。
だが……。
「樹の根は広くに息吹く物。この大地より出でて、我にまといて蛇となれっ! スネーク・ショットっ!」
バスンっ!
「くっ……あぁ……っ!?」
ヴィン・マイコンが捕まってしまったっ!
何かツタで編んだような網であっさりと捕獲されてしまう。
「おらっ畳み込んじまえっ!」
「今だ今だーっ!」
「くっくそっ!?」
捕まって何人もの子供達に蹴り倒されるヴィン・マイコンっ!
容赦なく蹴りを突き込まれるが……。
「駄目だぞボウズ共っ! これは魔法の練習だっ、魔法で悪魔を狩れと言ってるだろっ」
「はぁ~い。じゃあ俺は次は……水にしようかな? 俺は水の加護持ってるしぃ」
「あぁ……俺風だわ。じゃあ風なっ!」
そう言って子供達は網で捕らえたヴィン・マイコンを笑って逃がす。
そして……。
「ちっくしょ……」
走りだしたヴィン・マイコン。
そのわざと逃がした獲物を追いかけまわす子供達。
魔法練習の実験体と言った所か。
唇を噛むヴィン・マイコンは必死に走って行くが……っ!
「ふん、ただのデクの棒だし余裕だよなっ!」
子供達の笑い声。
あの家を失った時からはかなり成長し、ヴィン・マイコンは遥かに大きくなっている。
体格だけはもう、他の子供達と違って十分な大人と言えるだろう。
だが……立場は逆転してしまっていた。
「おいっ、木綿付き(ニワトリ)っ! 早くしろって言ってんだろっ」
ガッ!
「ぐぅ……」
「ったくよぉ。全くお前は……。おっ、おいおいっ! そこ間違ってるぞっ。あぁ……あぁあぁっ! チクショッ! そうじゃねえって何度も言ってんだよっ!」
ビクッ。
「すっ……すいません」
「ちっ! とりあえず明日までに後2個作るんだぞっ! 急げ、ほれ急げよっ!」
「えっ!? 2個もですかっ。そんな……無理ですよぉ」
「泣き言言うな馬鹿垂れがっ!」
パシッ!
「いたっ。……すいません」
「あぁ~くそ、もういっぺんだ木綿付き(ニワトリ)っ! 火を起こせっ」
「はい」
するとレキが近寄り、火の呪文を使おうとしたが……。
バシンっ!
「ぐっ……」
突然出て来た親方の女房に叩き飛ばされるレキっ!
「アンタっ! この村でコイツに魔法は絶対ダメだっていつも言ってるだろっ。馬鹿かいっ! 村の会議でもそう言われたろっ!?」
「別に良いだろが、チッ。じゃあ何かっ!? できるのは1つしかねえのかよ、あ~クソがっ。木綿付き(ニワトリ)はさっさとアレ、捨てて来いよっ! そん位だろうがお前ができるのはよっ!」
「はい……」
そう怒鳴られレキは、この家族の糞尿をためた容器を取りに行った。
そして容器を抱え歩いていると……。
「……。うぅ……」
「ヴィンっ!? 大丈夫かっ。おい……」
廊下の途中の窓の外。、
ヴィン・マイコンを見つけて駆け寄るレキっ!
「あぁ……クソ、アイツら俺を的に魔法の練習しやがって……。ゴミ共がっ!」
「傷は……良かった。うん、深くない。薬を調合すればなんとかなりそうだね。と言っても僕らじゃ調合できるのは湿布程度だけれども。だがそうか……、そんなに差がつくんだな、魔法が使えないってだけなのに」
「へへっ……そうみたいだ、な」
悲しそうに笑うヴィン・マイコン。
「背丈だけは伸びちゃって……。そんなに成長しちゃったら毎日の仕事の稼ぎじゃ少ないだろうし。あっ……そうそう、コレあるぞヴィンっ! 人糞混ぜるのはダメだと言われてるけど、まぁ気づかないさっ! さっさと売ってきてくれっ」
「おっ……すまねえな、いつも」
笑うヴィン・マイコン。
糞尿はお金になる。
家畜の堆肥は肥料になるので、わずかばかりの売値ではあるが買い取ってくれるのだ。
ホームレスの彼にとっては貴重な収入源だった。
「どうせ僕が捨てるハメになるんだ、早く持って行ってくれっ! こんなの混ぜたってロクに稼げないんだし、後でまた来なよ。傷を治すにも力がいる。パン粥も……まぁしょうがない、ふふっ。分けてやるからさ」
「あぁ……サンキュ。お前のあれっぽっちの飯からすまねえな。ありがとうよっ。お前だけだよ、俺がまともに話せるのは。後で虫取りに行こうぜっ! そろそろ俺らも11だ、ホノオカゲロウも食えんだろ」
ヴィン・マイコンが笑う。
彼の孤独な生活で唯一、友達のレキとの時間だけが楽しみだった。
「あぁ……そうだね。そろそろ大丈夫だろう。また一つ、ユングラード様の恩恵に預かれるようになったな。ふふっ。我らの樹の神よ。折り重なり、交わる幹護。神なる大地の尊地」
「……」
レキがユングラードに祈るのを見やるヴィン・マイコン。
その眼には……。
「おいっ、木綿付き(ニワトリ)っ!」
「うわっ!?」
バシャッ!?
「んーーーーーっ!?」
頭から糞尿をかぶり、ヴィン・マイコンが思わず声を出しそうになるっ!
「誰か居んのかよ?」
「いや……その、誰も居ません。それで、なんの用ですか?」
「何、お前に仕事だよ。ほれ。お前に発破を任せてやろうと思ってなっ!」
そう言って棒状の物を見せる徒弟の1人。
それは発破と呼ばれる爆弾だった。
「ほっ本当ですかっ!? だけど僕に……なぜ? 発破は僕はやってはいけないハズじゃ」
嬉しそうにその爆弾を見るレキ。
この家で奉公していてやらせてもらえる事と言えば……神に謝るか、親方家族と徒弟達が出した糞尿をこぼさず捨てに行くこと。
ミニチュアの学校なのに授業も体育も受けれず、部活にも入れない。
正直、彼女はこの家では居ないも同然だった。
「何を言っているのあなたはっ。自分が低能の癖にっ!? 私はまだきちんと5本の指があるわ、ほら見て見なさいっ。あなたはもう3本よねっ。そんな体たらくのあなたが悪いのよっ!」
「なっ、コレは俺がまだガキで……成人する前の物だって知ってるよなっ!? 親父のせいで俺のせいじゃないっ! 大体お前がアバズレだったのが悪いんだろうがよ、ボケがっ! お前のせいだっ! それであんな悪夢のような子が……」
「確かアンタのお父さんは飲んだくれのゴクつぶしよねっ!? ほらやっぱりあなたのせいじゃないっ。似たのよっ! アンタのダメな物を全部引き継いだらあんな子に……っ! どう説明つけるのよっ!? あなたが捨ててきなさいっ。どうせあの子達は村の中に残るんだしっ! 少しの勇気を持ってよ男でしょっ!? この意気地なしっ!」
「……」
自分の母親と父親が怒鳴り合う姿を見守る、ヴィン・マイコン。
すると隣に居た男の子……。いや、女だ。男の子にしか見えない女の子が腕を引く。
「もう行こう、ヴィン。どうせココには居られないよ」
「あぁ……」
彼らは去っていく。
この……ヴィン・マイコンという子供。
自分をいかに押し付けるか? その争いをひたすら続ける両親たちの口論から逃げるように。
「どうっすかな。これから」
外の空き地で糞尿が落ちてない所を探し、寝そべる少年ヴィン・マイコン。
年はまだ9・10歳と言った所か。
体は同年代より比較的大きい。
気性も強そうだった。
髪は丸刈りになっている。
「……そうだなぁ。お前なんとかしなよ」
一緒に少女レキも寝ころんでいた。
彼女も同い年だろう。
男の子にしか見えないその褐色の肌。
胸は全くと言って良いほどない。
目つきも鋭く髪は丸刈り。眼鏡もかけてはいなかった。
「気楽に言ってくれるな、レキ。お前ホント適当だよなぁ」
「ふふっ、ヴィンに言われたくないなぁ。お前も、僕を預かってくれる所が無いって言ったら同じ事言ったくせに」
この世界、他人の子供を預かるのは珍しくない。
相手も自分の子を預かって社会性を教えてくれる、いわばミニチュアの学校と言う奴だ。
自立心と他人との折衝の仕方が学べた。
「そうだっけか、ふふっ……。それでお前、あのおっさんの所で長く居れそうなのか?」
「あぁ……いんや。多分遠くないうちに叩き出されるね、あれは」
苦笑いするレキ。
「じゃあお前またお願いして回るのかよ。村の連中全部に」
「かも……ね。でもどうせあそこしか行く場所は無いよ。何せ僕はニワトリだからさ」
「……。ニワトリ、か。俺も行ってやろうか、村を回ってお願いする時よ」
「馬鹿かよお前は。お前が来てしまったら……ふふっ。村で最も触れたくないツートップ揃い踏み。そうなるじゃないか全く」
「……影に隠れて、よ。心細いだろう?」
そう言って笑うヴィン・マイコン。
その顔にレキが笑い返す。
「あぁ……そうだな、そうだ。でも僕の事は気にするな、ヴィン。僕には曲がりなりにも、神の祝福がついてる。訳の分かんないお前とは、な」
「そうだ……な」
そうレキに言われ、ヴィン・マイコンが悲しそうに笑った。
その顔に少し戸惑いながらもレキが、ポケットから出した羊皮紙をヴィン・マイコンに渡す。
「なぁ……渡すか迷ったんだが、コレ」
「なんだよ、コレ」
「……。この村で暮らす方法、だと……さ」
「なにっ!? そんなもんがあるのかよっ! なんでお前それを先に……って、どうやんだよコレ」
羊皮紙をジッと見つめるヴィン・マイコン。
識字率5パーのこの世界では文字は使わない。
図説、それしかなかった。
「あぁ、ホント要領悪いなお前は。まぁ簡単に言うと、動物の糞尿を集めてココに持って行けって事だね……多分。そんでこっち。この地域なら多分……月が書いているから、夜の間にもみ殻を拾って良いって事だよ、きっと。ココは虫を取って良い場所。多分ね」
「多分ばっかじゃねえかよっ!」
「お前何も分からないくせに僕に文句言うなよ全くっ!」
怒鳴るヴィン・マイコンに怒鳴り返すレキっ!
「でも……そうだ、な」
するとふと、何かを考えこんだレキ。
「……? レキ、どうした」
「いや、なんでもない。頑張れよヴィン。なんとかして2人で大人になって、ここから抜け出そうよっ!」
「ああっ!」
……。
「うらぁっ!」
バキっ!
「ウギィッ!?」
「へへっへー……。ほらほら、パン出せよ~」
そう言ってヴィン・マイコンが子供を踏みつけ脅すっ!
……と言っても、背丈がかなり違うだけで同い年だろうが。
「そ……そんなの持ってる訳ないだろうっ! この乞食がっ」
「なんだとぉ~、うらぁっ! 出すまで続くからなぁっ!」
そう言って再度殴り倒すヴィン・マイコンっ!
カツアゲと言う奴だ。
「ははぁ……なかなかやるね、ヴィン。イヒヒ」
「おいっ木綿付き(ニワトリ)、何してやがるっ! 早くしろよ」
「す……すいません、親方」
自分の名前……いや、アザナ、か。
それを呼ばれ、レキが笑ったような顔に変えて大きな荷物を抱えてその親方についていく。そして家の中につくと……。
「ほれ……よ、と。全く使えねえなぁお前は。一人でこれっぽっちの荷物も任せられないなんてよ。だからおめえは月に吼えちまうんだよ、コケッコーってよぉ。なぁ?」
親方、それは鍛冶師だろう。
筋肉質なオッサンがグシャっとレキの頭を手で押さえこみ、馬鹿にしてくる。
「……」
その言葉に答えず彼女はただ、沈黙するのみ。
「あっ面白いですね、親方。っていうか上手いですよっ!」
「ホントホント、才能あるんじゃないですか?」
そこに居た徒弟の2人が作業しながら、親方の鳥の鳴きまねを讃えると……親方は機嫌を良くした様に笑い。
パンッ……パンッ!
「そうだろぉ、へへっ? お前も朝に泣いてりゃ良かったもんを、これだから空気が読めない奴はっ。ほれ、鳴いてみろよ木綿付き(ニワトリ)っ!」
そう言って力任せにレキの頭を弄ぶ親方。
すると不服そうな顔を一瞬見せた彼女は。
「……。コっ……コケッコーっ!」
バタンっ!
「ちょっとっ! 何騒いでんだ馬鹿タレがっ! ったく折角寝かしつけたってぇのに困ったよぉ。アンタどうしてくれんだいっ! 全くなんでだいっ! 選りにも選ってこんな役立たず借り受けちまってっ」
「……すいません」
怒鳴りこんで来る親方の女房。
それに深く深く頭を下げたレキ。
「あぁ~あ、全く。周りを考えれない奴はこれだからっ! 樹の神様にも謝っておいでっ。アンタみたいなのに任せれるのは、それだけだよ全くっ!」
「はい……」
「コレだから木綿付き(ニワトリ)はっ! こんな……ふんっ。とにかくこんな罰当たりな奴に子供なんて怖くて預けれないんだからさぁ。なんでアンタはこんなの引き取っちまったのんだよっ! 全く」
「まぁまぁそう言うなよおっかぁ。仕方ねえんだよ俺は。おいっ……火ぃつけろ」
そう言ってロウソクを指す親方。
「はい……」
シュボッ。
「俺はこの村で頼りにされてんだ。なんせ俺だけが家も作れるし風車も治せる。それにクワもスキも全部俺が作ったり治したりしてやってるっ! そこでアイツを引き取れるのは俺だけだってそう頼まれりゃあよぉ……。ここでアイツを触れるのは俺くらいさ……」
自分の事で喧嘩する引き取り先の声を聞きながら、レキがその家を出ていく。
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「……クスス」
「ヒヒッ、ざまあねえな」
「……」
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そこは鬱蒼と茂る樹々が、人間が生活する世界をくわえ込んでいる世界。
上を見れば覆い尽くす樹、下を見れば虫の行列と草花の密集帯。
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……。
「おい居たぞ、乞食がっ! 悪魔が居たんだっ!」
「クソっ!」
逃げるヴィン・マイコン。
だが……。
「樹の根は広くに息吹く物。この大地より出でて、我にまといて蛇となれっ! スネーク・ショットっ!」
バスンっ!
「くっ……あぁ……っ!?」
ヴィン・マイコンが捕まってしまったっ!
何かツタで編んだような網であっさりと捕獲されてしまう。
「おらっ畳み込んじまえっ!」
「今だ今だーっ!」
「くっくそっ!?」
捕まって何人もの子供達に蹴り倒されるヴィン・マイコンっ!
容赦なく蹴りを突き込まれるが……。
「駄目だぞボウズ共っ! これは魔法の練習だっ、魔法で悪魔を狩れと言ってるだろっ」
「はぁ~い。じゃあ俺は次は……水にしようかな? 俺は水の加護持ってるしぃ」
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そして……。
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唇を噛むヴィン・マイコンは必死に走って行くが……っ!
「ふん、ただのデクの棒だし余裕だよなっ!」
子供達の笑い声。
あの家を失った時からはかなり成長し、ヴィン・マイコンは遥かに大きくなっている。
体格だけはもう、他の子供達と違って十分な大人と言えるだろう。
だが……立場は逆転してしまっていた。
「おいっ、木綿付き(ニワトリ)っ! 早くしろって言ってんだろっ」
ガッ!
「ぐぅ……」
「ったくよぉ。全くお前は……。おっ、おいおいっ! そこ間違ってるぞっ。あぁ……あぁあぁっ! チクショッ! そうじゃねえって何度も言ってんだよっ!」
ビクッ。
「すっ……すいません」
「ちっ! とりあえず明日までに後2個作るんだぞっ! 急げ、ほれ急げよっ!」
「えっ!? 2個もですかっ。そんな……無理ですよぉ」
「泣き言言うな馬鹿垂れがっ!」
パシッ!
「いたっ。……すいません」
「あぁ~くそ、もういっぺんだ木綿付き(ニワトリ)っ! 火を起こせっ」
「はい」
するとレキが近寄り、火の呪文を使おうとしたが……。
バシンっ!
「ぐっ……」
突然出て来た親方の女房に叩き飛ばされるレキっ!
「アンタっ! この村でコイツに魔法は絶対ダメだっていつも言ってるだろっ。馬鹿かいっ! 村の会議でもそう言われたろっ!?」
「別に良いだろが、チッ。じゃあ何かっ!? できるのは1つしかねえのかよ、あ~クソがっ。木綿付き(ニワトリ)はさっさとアレ、捨てて来いよっ! そん位だろうがお前ができるのはよっ!」
「はい……」
そう怒鳴られレキは、この家族の糞尿をためた容器を取りに行った。
そして容器を抱え歩いていると……。
「……。うぅ……」
「ヴィンっ!? 大丈夫かっ。おい……」
廊下の途中の窓の外。、
ヴィン・マイコンを見つけて駆け寄るレキっ!
「あぁ……クソ、アイツら俺を的に魔法の練習しやがって……。ゴミ共がっ!」
「傷は……良かった。うん、深くない。薬を調合すればなんとかなりそうだね。と言っても僕らじゃ調合できるのは湿布程度だけれども。だがそうか……、そんなに差がつくんだな、魔法が使えないってだけなのに」
「へへっ……そうみたいだ、な」
悲しそうに笑うヴィン・マイコン。
「背丈だけは伸びちゃって……。そんなに成長しちゃったら毎日の仕事の稼ぎじゃ少ないだろうし。あっ……そうそう、コレあるぞヴィンっ! 人糞混ぜるのはダメだと言われてるけど、まぁ気づかないさっ! さっさと売ってきてくれっ」
「おっ……すまねえな、いつも」
笑うヴィン・マイコン。
糞尿はお金になる。
家畜の堆肥は肥料になるので、わずかばかりの売値ではあるが買い取ってくれるのだ。
ホームレスの彼にとっては貴重な収入源だった。
「どうせ僕が捨てるハメになるんだ、早く持って行ってくれっ! こんなの混ぜたってロクに稼げないんだし、後でまた来なよ。傷を治すにも力がいる。パン粥も……まぁしょうがない、ふふっ。分けてやるからさ」
「あぁ……サンキュ。お前のあれっぽっちの飯からすまねえな。ありがとうよっ。お前だけだよ、俺がまともに話せるのは。後で虫取りに行こうぜっ! そろそろ俺らも11だ、ホノオカゲロウも食えんだろ」
ヴィン・マイコンが笑う。
彼の孤独な生活で唯一、友達のレキとの時間だけが楽しみだった。
「あぁ……そうだね。そろそろ大丈夫だろう。また一つ、ユングラード様の恩恵に預かれるようになったな。ふふっ。我らの樹の神よ。折り重なり、交わる幹護。神なる大地の尊地」
「……」
レキがユングラードに祈るのを見やるヴィン・マイコン。
その眼には……。
「おいっ、木綿付き(ニワトリ)っ!」
「うわっ!?」
バシャッ!?
「んーーーーーっ!?」
頭から糞尿をかぶり、ヴィン・マイコンが思わず声を出しそうになるっ!
「誰か居んのかよ?」
「いや……その、誰も居ません。それで、なんの用ですか?」
「何、お前に仕事だよ。ほれ。お前に発破を任せてやろうと思ってなっ!」
そう言って棒状の物を見せる徒弟の1人。
それは発破と呼ばれる爆弾だった。
「ほっ本当ですかっ!? だけど僕に……なぜ? 発破は僕はやってはいけないハズじゃ」
嬉しそうにその爆弾を見るレキ。
この家で奉公していてやらせてもらえる事と言えば……神に謝るか、親方家族と徒弟達が出した糞尿をこぼさず捨てに行くこと。
ミニチュアの学校なのに授業も体育も受けれず、部活にも入れない。
正直、彼女はこの家では居ないも同然だった。
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国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
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