異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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4章 聖地内戦終結

生存法

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「……」

ちゃぷっ、ちゃぷ……。

水の音が聞こえる。

「……」


バシャッ! ガスンッ!


「がっ!?」

水撃と鈍痛。立て続けて起こる、寝ていても分かる程の痛みっ!

「おいっ、いつまで眠ってんだこのボケがっ!」

唾を飛ばしながら男が叫ぶ。


「ヴィン・マイコン……か。クソ。最悪じゃねえか。ここはじゃあ……」

声で反応したのではない。鈍痛のレベルで相手を察して名前を呼ぶ、ジキムート。

辺りは満月が覗く夜のとばり。

その中で必死に目を開けようとするが、それと共に徐々に痛みもぶり返していく。

「お前レキはどうしたっ!? どうしたって聞いてんだよクソがっ!」


ガッ!


「あぁ……つぅ。レ……キ? レキは……レキは帰ったぞっ! ローラと一緒に……な。えと……あぁくそっ、俺を置いていきやがった、あの女ぁっ!」

首を掴まれながらもしっかりと、恨み言を叫ぶジキムート。

そこはどうやら川べりの一角なのだろう。

汚い汚物が浮かぶ川の中。

異臭の群れから引きずり出され、ジキムートは寝かされていた。

「帰ってきてないんだよチクショウが……っ。こんチクショウがぁっ!」


ぎりりっ!


「がぁっ!? おぉ……ちょっと……ちょっとだけマジでっ、マジでなっ!? 本気で待ってくれよっ! クッ……はぁはぁっ。こっちも、あぁ……。ギリギリなんだよっ!」

首を締め上げてくるヴィン・マイコンに、ジキムートが待ったをかけ……。

息をつなぎながら必死に時間を求めた。

体の痛みがひどいのだ。頭がガンガンするのだ。ヴィン・マイコンが鬱陶しいのだっ!

しょうがなかったと言える。


「……」

ヴィン・マイコンは寛大な事に、時間を与え……ジキムートの腕の関節を踏みつけながら、見下ろして待つ。

いつでも殺してやるという事だ。

「ふぅ……えっと。あぁそうだそうそう。俺らは最後にマッデンから逃げる事になった。分かるよな?」

「あぁ。負け犬って事だけは……な」

黑い2メートルの影が真上から、細かい唾を落としてくる。


「それで、ノーティスが裏切って……最後はゴディンに殺された。そんでもってローラとレキは……俺を置いて逃げた。レキを優先したのは……アイツを使ってお前をおびき出そうとしたから……か?ローラの定員オーバーだったかはともかく、瞬間移動して俺を置いて行きやがったっ! 俺はほら、お前の今見てるまんまだよ」

「それは事実か? それで全部なのか? じゃあなんでレキは戻らないっ!」

「傭兵っ、キリキリ答えろよっ!」

ギリンガム……。どこに居たか騎士団長様までもが集合し、剣を抜いてジキムートを見下ろす。


「知るかよっ! 俺の方が知りた……いや待てよ? 走っていったが、逃げきれたとは限んねえか。それに……『逃げた』とも限らんぞ」

ジキムートが考え込む。その言葉に全員が頭を抱えた。

「……」

「傭兵のいつもの悪い癖……か?」

ギリンガムが頭をかきむしるとほぼ同時に……全員が蒼い顔。最悪の想像だ。


「ちょっくらゴミどもの巣の中……行ってくるわ」

ヴィン・マイコンが剣を抜く。

「……」

それを止めるべきギリンガムが、なぜか押し黙る。

「あぁ……いやっ、待て待てっ! 行くなら勝手だが聞きたいんだよっ! お前なら『プラン』って知ってるか? 裏切った時のノーティスが言ってたぞ。多分ヴィエッタが話したんだろうが。なんかローラはこのプランには必要ないとか言われてたな」

「ローラが必要ないプラン? なんだそれ」

その言葉にヴィン・マイコンとギリンガムが顔を見合わせた。


「分かんねえ。ただココを独立させるとかなんとか……よ。そういやローラも驚いてたな」

「独立だとっ!? 第2プランに独立? 軍兵の執行者たる私に伝えずに……か? ありえないっ。あり得ないと言えるぞ傭兵っ!」

「知るかよオッサンっ! きったねえ剣向けんなっ!」

「汚いだとっ!? 貴様のような糞尿まみれのクソが良くもっ!? 大体嘘をつくなぞ何がしか後ろめたい証拠だ傭兵っ! さっさと……っ」


「……いや待て。待てよギリンガム。そいつぁ……ふむ。あり得ねえ話じゃねえな。金を儲けるだけならそれで良い。おいっ、歩けジキムート。時間がねえ。逃げたら即殺すすぐ殺す、これでもかって位は殺すっ!」

ヴィン・マイコンが首をひねり、ジキムートの関節から退き蹴りを入れた。

ボロボロの人間にさえ容赦はないヴィン・マイコン。


「あぁ、いつつ。それでリーダー様よ。失敗してプランが変わったって事で良いんかねっ!? じゃあ俺らが戦った今までの苦労はご破算かクソっ! だがホントに水のクソ共を平定しなくて良いのかよ?」

コキコキと体を慣らし、痛みを押して必死にそこらにあった棒にしがみつきながら歩くジキムート。

左足が未だズタボロ、右足も痛い。

それでも闇の中。静かな川の流れを聞きながら男2人について歩……這うように進むジキムート。


「そう……かもな」

「傭兵と我ら騎士団が勝てば問題なし。水の民が勝てば独立……かヴィン・マイコンよ? だがよしんば独立なんぞされれば、我らの国益がっ! 何より、バスティオンとクラインの外交戦争になるのは必至っ! 分かっておるのかっ!?」

「……」

叫ぶギリンガムを横に置き、考え込むヴィン・マイコン。


「よく考えろっ、聖域が国にでもなったらそれこそどんな要求でも、外国になら要求し放題だっ。今でさえ手を焼くというのに火に油を注ぐという事だぞっ!」

そこにギリンガムがブチ切れたように、声を荒げるっ!

今までのうっぷんが透けて見えるその怒り。

(あぁ……そういやこの世界。国家で神を持たなきゃ野犬の群れだと馬鹿にされるんだっけか? そんな中で独立した水の聖地国家なんてモンがあったら……どうもこうもねえわな。すり寄るしかねえ。なんせ犬だから。)

人の主たる神に犬が群れる。

それは当然でそして……。


(となるとどっちが良く、聖地国家に可愛がられるかを競わなきゃいけねえ……か。野犬だと馬鹿にされたくねえ国王犬は、骨の代わりに金や権力をくわえて礼賛。次々に献上するハメになる……と。そりゃそんな国家認めれねえわ。)

「考えても見ろヴィン・マイコンっ! 王が神の国と上手く外交できないなんて知られればどうなるっ!? 一瞬で消え去るのみだっ! 国民の統制を放棄したも同じなんだぞっ!? 金よりリスクを考えろリスクをっ!」

(チキンレースに負ければ王国はボンっと滅びちまう。民くさは暴動を起こし、王家滅亡の危機まである始末って感じかね。ヤレヤレ、王様も大変だ。)

叫ぶギリンガムに苦笑いするジキムート。


いざとなれば……そう。

敵性国家民の聖域への立ち入り禁止を、外交的により重要と判断したもう一方と〝結託″して告げる事ができるのだ。

この世界でもし聖地が独立した場合はいわば〝核″保有国、という扱いになる。

神と言う名の核爆弾だ。

十分暴動をけん引する力になる。

そういう〝核爆弾″が落とせる国家。

その爆弾を避ける為に、外交戦争が献上戦争と化すのも時間の問題だ。


(神を持たねえ国家の崩壊は早そうだ。そんな中でよくこのバスティオンて国は、強国になれたもんだよ。)

頭を鋼に食われた獣。

その言葉が放つ辛酸を全て舐めて来ただろうその、ギリンガムが覆ったフルプレートの顔を覗きながらジキムートが感心する。
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