異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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3章 潜入壊滅作戦

原初化。

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「ふぅ……ふぅ。ゴディン……あなた……」

ノーティスの眼の前に居たのは、ゴディンだった。



「はぁはぁ、貴様嘘をついたなっ! 嘘をついたなっ! 嘘は……。嘘はいけないんだぞっ! 神様に叱られるんだっ!」

腹に刺さった剣から血が落ちる。ドボドボと。

ノーティスが突き貫かれ、苦しみの声を上げた。

ノーティスは怪訝そうにゴディンを見やり……。

「君っ……っ。よもや、はぁ……はぁっ。〝原初化″しているのかっ!?」

「なんであんな所に、クラインがいっぱいっ! 私を攻撃するクラインがいっぱいいるんだよ母様っ! おかあ……様?」

「くっ、ゴディンっ! 剣を離し……っ。ぐふっ。なさ……いっ! そうだ、話だ。話……合おうじゃないか。はぁ……はぁ。神のお話だ……よ。ほら……ゴディン」

二コリと……。

剣の切っ先を持ちながら笑う、ノーティス。

なんとか相手を鎮めなければならない。

だが……。


「神……そう、神様っ! 神様への誓いっ。人を教え導き、〝ヒューマン・エンド(孤独)″から……。そう、孤独からっ! そうだ、そうだよ人を守らないとーーっ。うあぁああっ!」

ザスっザスっ!

「孤独めっ! 孤独めっ!」

「ぐっ、ブフッ!?」

絶望に染まる、ノーティスの瞳。

突き刺される剣は、ノーティスの中へと深く深く穿たれていくっ!


「はぁはぁ、今だっ」

狂乱するゴディンを見て、すぐに逃げ始めるジキムートっ!

四つん這い、いや、2つん這いだ。

腕の力だけで匍匐前進するっ!


「がは……っ!? が……。ぁあ……」

ピシャっ! ビシャシャっ!

血が飛び跳ねる。

大量だ。

人間の全血液、約4リットル。

それが外に飛び散っているのだから。

ノーティスはもうすでに――白目をむいて絶命していた。


「うわあぁっ!? これじゃだめだっ!? 聞こえるだろうっ!? なぁっ!? 神様が……神様が怒っているよっ!? どうしよっ! 誰かっ!? どうして神様の嘆きを止めないんだっ!?」

動かなくなった死体から剣を抜いたゴディン。

誰に聞くわけでも無く、剣を振り上げながら周りに叫んでいる。

「うわわ……」

「はぁ……はぁ」

先ほどまでジキムートを追い詰めていた追手たちが、蒼白になってゴディンを見つめて硬直している。

声をかけたくとも、かけれない状態だ。

どういう理由で攻撃されるか分からない。


「明らかに……。ふぅふぅっ! おかしくなってやがるぜアイツ。原初化……って、なんだよ。だがナイスだ、イカれゴディンっ。お前は……。才能だけが取り柄のてめぇは大っ嫌いだが、今はケツでも掘ってやりてえ位は感謝してるぜっ!」

ツルギが舞って、血が飛び散る。

その光景を見ながらジキムートはただただ、自分に気づかない事だけを願い、ゆっくりと後ずさる。

だがしかし……。


「あそこ……。確かジキムート。そうだ、ジキムート。アイツはヴィン・マイコンより弱い。そうだ……。ヴィン・マイコンより……。私をいじめる傭兵より――。傭兵は仕事を邪魔するから……」

ゴディンの眼の中に、殺意よぎる。

その瞬間――っ。

「クソっ!」

ヒュンッ!

すぐさまジキムートが、ゴディンの言葉の腰を折るタイミングでナイフを投げたっ!

カンッ。


「アハハっ。イヒ、ギヒ!」

全く効いていない。

氷の障壁を張り、しかも、恐れている様子すらなかった。

ジキムートに向けゆっくりと、歩き出したゴディン。

「ヤッベェぞっ! 早くっ、さっさと動け俺っ!」

汗を流し、ジキムートは狂喜の使徒から逃げようと必死にもがくっ!

だが、かなりの差があったその距離は、すぐにでも縮まるだろう予感。


「あぁ……ジキムート。こんなの初めてだ。初めてだから、どう殺せば良いのか分からないよ~」

「……くっ、完全にイカレてるっ! 話するのもヤバそうだっ。触っちゃまずいタイプの奴だぜっ!」

こうなると、本当に絶望的だ。

モンスターよりも聞き訳がないのだから、対処の仕方がない。

青ざめてすぐに、体勢に直そうと振り向いた――その時。


カンッ!

バシャリ……っ


バケツから水がこぼれた。

恐らくは溝にたまった汚泥をためておいた物だろう。


ドタタっ!


「……っ!? 今……逃げた?」

音で察するジキムート。

足音が不規則に揺れ、一時的に大きく飛んだ。

一瞬だが、ゴディンの動きが変わるのを知ったジキムートはやおら……。


ガシャガシャンっ! ガシャっ!

「ふっ! ふっ!」

ウロコからナイフを立て続けに射出し、次々とバケツをひっくり返していく。

ドシャドシャっ!

「うわわっ!? ……はぁはぁ、水。大いなる……水。水は私を迎えて……。うぅっ! ダメだ、入ってはっ!」

ゴディンが立ち止まった。

その姿に目を凝らし、ゆっくりと立ち上がったジキムート。


「水……だと? それならおいっ、ゴディンっ!」

「ゴッ……ゴディンっ!? 私の事だよ、ゴディンはっ」

「この音が。水が落ちてんのが聞こえるかっ!?」

「ホントだ。ザーザー……。水だ。水が落ちている」

滝のように水が落ちる音。

この先、ほんの少し先には恐らく、排水官の集合場があるはずである。


(頼む……っ。アイツにマイナスに働いてくれっ!)

水の神に仕える者に、水の在りかを示す。

非常にリスキー……。

というか、自殺行為だ。

自分がそこに、逃げ込もうと言うのだから。

下手を打てば、一緒に飛び込まれてしまう。

が、これしかジキムートにはもう、足を止めさせる方法はなかった。


「神の水……が。アハハ……アハ」

ゴディンの体がドロリ……と溶けた。

半分スライムのよう姿で水を求めるようにゴディンが、ペチャペチャと歩みを進める。

「まだだ」

ジキムートが〝舌″に手を伸ばしながらも、ゴディンの様子を必死に観察する。

傭兵はなるべく音を立てず、そして全力で、後ろにゆっくりと下がっていく。


「ふぅ……ふぅ」

彼の目の前を、ゴディンが通過し……。

「あぁ~。アハハ。水……水っ。み――」

ピタリ……っと止まるゴディンの体。


「私は……私はーっ!?」

ヒュンっとすぐに、ゴディンの体が人間の肌色を取り戻す。

「ダメだ。あっちにいったら私はっ、私が水に取り込まれてしまうっ! わっ、私はゴディン、ゴディンーっ! 〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″となる者っ。ゴディンだーっ!」


ドタドタっ!


「聞いてくれっ、私はゴディンだよなっ!? なっ!?」

音を立てて、ジキムートの目の前にやってきたゴディンっ!

ビクンっ!

「はっ!? はぁ……。はぁ……」

息をのむジキムートっ!

突っ込んでいた指を噛みちぎりそうになる。

だが……。


「そっ……そうだ、ゴディン。お前は……そう、ゴディンだ。……ゴクン。間違いねえぜ。そうさ。今日はなかなか髪型も決まってんよ。それで良い。そう……。安心しな。イカしてんぜ」

汗を流し、彼は同意する。

イカレた薬中に話す様な、なだめるように言葉を発して笑うジキムート。

……実際は逆だが。


「はぁはぁ。そっ、そうだよなっ! お前たちっ!」

(これだっ!)

「うらあああぁっ!」

ゴディンが従者に向いた瞬間にジキムートは、一気に走ったっ!

痛む足も、流れる血も何もかも、見ないふりして全力だっ!

腹が痛い、吐き気がする、腕が最悪、足がうざい。

全部全部、ぜーんぶっ!

「立ってっ。前向いて立って死ぬんだよっ!」


立ったまま内臓を吐き、立ったまま足を千切られそして――。

立ったまま死ぬ。

そう言う気概がなければやれない『賭け』。


ゴンっゴンっ!

左足。

動かない左足をまるで痛めつけるように、地面に突き立て走るジキムート。

その眼はもう、前しか見ていない。

「ごっ、ゴディン様っ! ジキムートがっ!」

「ジキムート? 誰それ。……。そっ……そうかっ! ヴィン・マイコンより弱いのがっ!?」

「へし折れろよっ! ふっ! ふぅっ!」

ザスッ! ザスっ! ザスっ!

ジキムートはナイフを幾本も投げた。


前だ。

下水に続く道をふさぐ格子の根元に、ナイフを投げ続ける。

「うらぁーーっ、〝エイラリー(異形鱗翼)″っ!」

そして、左肩のウロコを前に突き出し、格子にぶちかましをし――破壊。


「おわあああーーっ!」

そして真っ逆さまっ!

闇の中へ飛び込んだっ!


ザアアアアッ!

――。
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