異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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3章 潜入壊滅作戦

地上戦、その収束の時。

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「全く、傭兵どもめ……。使えない」

そう吐き捨て、ローラが手放した〝エイクリアス・ソリダリティー(水の誓約旗)″を拾って――ノーティスが笑う。


「マッデンを殺すなら殺すで良い。だが、今はまだです。これを持ち出していく事はなりませんよ」

「きさ……まっ! ぐぅ……っ」

「……やはりか」

傭兵達が肩を落とす。

最悪のタイミングだ。

確かに怪しいとは思ってはいたが、マッデンを前にしては、そうも言ってられなかった。


「仕方ない。作戦を変更しましょうか。」

銀の髪を手で払い、マッデンへと向くノーティス。

「マッデン。あなたに聖地の奪還をもう一度だけ、任せましょうか。そして聖地奪還後にその座。あなたが勝手に〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″と自称するその地位から退冠してもらおう」

ノーティスが楽しそうに〝エイクリアス・ソリダリティー(水の誓約旗)″を指の中でもてあそびながら、アゴでマッデンへと勅令を発してやる。


「ぶっ、無礼者っ! 誰が貴様に命令され、聖地を奪還するというのかっ。わしらは貴様の小間使いではないと、何度も言っておるわっ! 当初の約束通り水の民は、独立の道を歩ませてもらおうっ」

「はぁ……。状況が分かっていないみたいですね。あなた達の願いですがそれも、ならなくなった。我らは何度か通告したはず。そして最後通牒に際して、あなた方は負けた。聞こえませんか? 外の音がしぼむのを」

耳を澄ますジキムート。

確かに外に響いていた、爆撃の音が消えていた。





「おいお~いそこの奴。待てよぉ。何してんだ? んっ? んんっ?」

「……っ!? くっ、ヴィン・マイコンかっ。なぜこんなところにっ!?」

そこにはローラと同じ人種。

アサシンと言える存在がいた。

アサシンが驚きうろたえる姿を見ながら、傭兵長殿が気安く話しかける。

相手は恐らく、3人。


「なんか嫌な予感がしてたのよな。やっぱり、お前らその『色』……。クラインだ?」

「……」

「なぁ聞いてんだよ、こ・た・え・ろ……よっ!」

ザスッ!

あっさりと剣で、一人目を血祭りにあげたヴィン・マイコン。

彼の2メートルに迫る巨体。

それをしなるように操り、彼は見事にアサシンに近づいて討ち取って見せた。

「クソッ!」

蒼白になり、逃走するアサシン達。

だが……っ!

「へへっ、捕まえたぁ。鬼ごっこは終わりだ、ぜっ!」

ガシッ!

あっさりと先回りされ、もう1人が傭兵長の腕の中に捕まる。

その瞬間、何かをもう一人に投げるのが見えた。


「ぐっ、ぐぇええっ!?」

ジタバタとあがきながら、自分の首が軋む音を聞くアサシン。


ボキキッ!


響く音。

ドサッ。

瞬殺。

「へへーへっ」

「やっ、奴には恐怖心がないのかっ!? このモンスターめっ」

放たれる威圧感に、1人残されたアサシンが震える。

傭兵長の戦い方には迷いがない。

怪しげなアサシン相手に真っ先に肉弾戦を選んで仕掛けるなぞ、あまり経験がない出来事だった。


「じゃあラストはお前かなぁ? それ、何投げた?」

残る1人にゆっくりと歩み寄るヴィン・マイコン。

「ゆっ言う訳がないだろうっ!」

チラッ。

「もう後がないぞ? さっさと渡せよ、ほら」

「くっ。もう後はない、か。確かにな。お前に逃げ場はないのだっ!」


ガササッッ!


「とりゃあああ……っ!」

その瞬間だった。

追いかけてきたゴディンが氷を。

氷柱を大地に穿つ。

パキンッ!

「なんだ……コレっ?」


目をしばたかせながらヴィン・マイコンが、ゴディンと眩しい氷柱とを交互に見やる。

月の光を反射させ、キラキラと光るその氷の柱。

それはあまり、実用的な攻撃方法ではない。

そう、攻撃では、ない。

「ここだっ、ココに居るぞ。ヴィン・マイコンがっ!」

光る氷柱を後ろに、ゴディンが叫ぶ。


ザッザッ……ザザッ!


その声に反応し、タケの長い草の中を何かが蠢く。


「この音、相当数隠れてるなっ!? うん、知ってた」

耳で察するヴィン・マイコン。

音が確かならば、傭兵長の周りには大量に鎧を着た兵隊がいるハズだ。

その装備から察するに、先程仕留めたのとは全く別の、趣のあるアサシン。

その数20。


「強行突入部隊ってとこか、ねぇ? 良い装備してんなぁ」

ヴィン・マイコンは頭をかきながら、ある方向を見た。

「よしっ、よしよしっ! これでお前はもう包囲されたっ! 目が見えてないお前なら、特殊部隊の敵では……っ」

ヒュンっ!

パスッ!

「がっ!?」

ゴディンの首元から血が噴き出した。

苦しみながら転げるゴディン。


「ぐぅっ!? なっ……何っ!? なぜ私を狙うっ、クライン軍」

光で白む世界。

膝を屈したゴディンが、どこに居るか分からない特殊部隊の様子を探ろうとする。

「へへっ、ガラ空きだぞ。ぼっちゃんっ!」

ゴディンに一気に走りこむヴィン・マイコンっ!

「ひぃっっ!?」

咄嗟の事。

氷の障壁を分厚く展開するゴディン。


「チッ! ならば……」

その障壁に剣を突き刺し、呪文を唱えようとした傭兵長。

ひゅんっ!

そこにアサシンからの攻撃が来たっ!

「くっ!?」

それをなんとか回避したヴィン・マイコン。

眼の端で〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″を使うゴディンが見え、舌打ちをする。


「あれを避けるとはな――」

アサシンが口惜しそうに、草の中へと潜りこみ、独りごちた。

目を光から守る装備をした彼らにとって、この戦場は手慣れた物で……。

「こいつら、俺ら2人をおいしく頂く気まんまんだ。でもアテが外れた、なっ」

笑みを浮かべ、隠れたアサシンへと走るヴィン・マイコン。

「なっ……コッチへ来ているっ!? どうやって居場所をっ」

とてもじゃないが、ゴディンが出した氷柱が発する光の印影がきつくて、肉眼では見えないハズのアサシン。

だが、傭兵長はそれを捉え……。

ぐずりっ!


「グっ!?」

鎧の下の首を狙い、一突き。

攻撃を繰り出したヴィン・マイコン。

一撃で鎧の口部を切り裂き、相手は完全に沈黙した。


「どうなっているんだ、これはっ!? 早くヴィン・マイコンをしとめろよっ!?」

今度はゴディンが、ヴィン・マイコン目掛け攻撃。

そのゴディンにアサシンが攻撃する。

「下民共がっ!」

ゴディンが氷の壁で防御するが……。

ガキンっ!


「〝ディセクレト(神話、そして咎人)″っ!? なんと不浄で汚らわしい行為をっ!? 」

氷を喰らう、樹木の牙。

その魔法の使用に驚愕の顔で、あきれ果てるゴディン。

次々襲い来る神への冒涜のキバを、ゴディンが数十の氷で迎撃していく。


「やはり貴族も王も信用できないじゃないかっ! この聖地を汚す不届き者共めっ! 我らをなめるなぁーーーーっ! 我が神罰を下してやるよっ!」

バキンっ!

光る氷柱を破壊。

そしてゴディンが手当たり次第、氷の殺意で草むらに隠れたアサシンを一掃し始めた。

ザスザスザスっ!


「ぐあぁっ!?」

草むらに降り注ぐ数百の氷の刃。

無数の氷槍を浴び、嗚咽を漏らす特殊部隊たち。


「あははっ、ヒーヒヒッ! ほら見ろよっ。私には手も足も出ないっ! 隠れていようが無駄なんだよっ!」

ヴィン・マイコンには当たらなかった攻撃が、気持ち良い程あたる。

その手応えにご満悦のゴディン。

彼らが上げる苦しみの声は、ゴディンを満足させるに十分だった。


「あ~ははっ。ふぅ……。やっぱつえぇな。お前。さすがは神の民族ってか、はぁ~。……。そういうの、マジうぜえんだよっっ!」

ヴィン・マイコンは瞬間、殺気をほとばしらせゴディンに向かった。

「なっ、ヴィン・マイコンっ!? いきなりこっちに来るな。ひーっっ!?」

一瞬の気のゆるみ。

満悦の後に味わう、焼け付くような恐怖。

ゴディンが腰を抜かすっ!


「覚悟しろよ、神の使徒っ! ぶっ殺してやんよーーっ」

飛びかかるヴィン・マイコン。

満月が映し出すのは、人ではなく狼。

人食いの狼だっ!

殺気の鎧を巻いた、人食いの狼が――月を背に牙をむく。


「来るな来るなーーーっ!」

恐怖にかられたゴディンが、訳も分からず魔法を乱射した。

その数は夜空に浮かぶ星座の数に匹敵し、次々と美しく、そして完ぺきに。

ヴィン・マイコンに繰り出されていく。


「ちぃっ、ホント神って奴ぁ……」

素晴らしいマナの量と、驚くべきその、編み込み。

それを〝スペルレス(神の寵愛を受けし物)″で使えるのだ。

段違いどころか、紛れもない人外。

神の使徒と言われてしかるべき能力。


「うわぁあーーーっ!?」

「俺の人生返せよっ! 神のクソ野郎ーーーーっ!」

咆哮し、ヴィン・マイコンは覚悟を決め一気。

神々しく光り続けるゴディンに、突っ込むっ!

バキィッ!

「くああっ!?」

ゴディンが断末魔を上げ、体が砕け散るっ!

斬られた腕がはじけ飛んだ。


「ふっ!」

バキッ!

次の一閃で髪が、耳と一緒に砕けたっ!

恐怖に尻もちをついたゴディン。


「ひいいっ!?」

ぶしゃーーっ!

恐怖に震えるゴディンは地面から水を噴射させて、自分をヴィン・マイコンごとに流してみせた。


「ちぃっ!?」

「なんとか……。なんとか逃げないとっ!?」

ゴディンが逃げる事だけに専念し、自分をヴィン・マイコンから遠ざけようと魔法を……。

ヒュンっ!

ザスっ!

「ぁあっ……」

投てきされたその剣に、ゴディンが止められてしまう。

肩のすぐ上に刃が刺さったのだ。


そして、ヴィン・マイコンがゆっくりと、アサシンの攻撃が飛んでくるの避けながら、こちらに向かっている。

「はぁはぁ……そろそろしとめるかっ!」

傭兵隊長には、肩に裂傷があった。

汗を流し、肩を押さえながら、もう1本の剣を鞘から抜き放つヴィン・マイコン。

彼が視界にとらえるのは今、ゴディン一人だけだ。


「はぁ……はぁ。くそっ……なんでだよぉ。なんで当たらないんだよ。こっ、こんなのダメだ、認めれないっ。卑怯だこんなの、おかしいよっ! や、奴は悪魔と……〝ヒューマン・エンド(孤独)″と取引したに違いないっ! こっ、こここ……この神への裏切者めぇっ!」

涙を流し、ゴディンが地面を這う。

「泣いちゃって気持ちわりぃ。おいおい、ちびってんのか?」

笑うヴィン・マイコン。

ゴディンは人目で分かる程に憔悴し、全身を震わせているのだ。


「それとも魔力切れか?」

いくら神の使徒と言っても、魔法の使い過ぎだ。

人の命を代価に借り入れても恐らくは、50人以上の心臓を要求される。

悪魔召喚だとしても破格のマナ。

それを今までの戦いで、ゴディンは垂れ流していた。


「ふうふぅ。クソっ! 死にたくないっ! 死にたくないぞ私はっ!」

魔力を使い果たして、神の使徒は足が震えて立てない。

何か――。

突然意気込みを口にして、ゴディンが息を荒く吐き始めている。

「おぉっ? なんだこの『色』? ……んっ!?」

ゴディンの様子がおかしい。

目を見開いたヴィン・マイコンが、逃げだした敵を全力で追い始めるっ!

「わっ、わわっ。わ、私はゴディン・トゥールースだっ。そう、トゥールースの長だっ。私が……私がここで、死ぬはずがっ! トゥールース。ちっちがっ!? そう、ぼくはゴディン。ゴディンだよっ」

必死に自分の名前を唱えながら、川に這いずっていくゴディン。

それにめがけて、ヴィン・マイコンが自分の剣を投げた。

べちゃ……。


「水と同化した、か。困ったねっ」

手応え無し。

投げた剣はずるり……と粘液を絡ませ、ゴディンからずり落ちる。

ヴィン・マイコンはそれでもすぐさま、一直線に走るゴディンに先回りし、剣を一閃っ! 二閃、数閃っ!

「あぁーーっ! お母様っ、私を守ってくださいっ! ゴディンを、ゴディンをどうかっ」

だがそれでもゴディンは、全く傭兵長を取り合わないっ!

まるで全く何も見えてないかのように、ぶつぶつと言葉を唱えながら、一気呵成に水に走る。


バシャンっ!


「それはさすがに〝下等″の俺には追えないな。逃がしちまったよ。あぁ~あ」

ヴィン・マイコンは舌打ちと共に、川の流れを見ながらふぅ……と、ため息をついた。

そして深呼吸。

すぐに目線を移し、〝お慰み″に目をやる。


「あぁ、失態だ失態~。2度目だぜぇ? あぁ、くっそっ! レキに会わす顔がねえよ。ふぅ……。こうなった土産だ土産。お前ら、首を置いてけ。お前達のクビで払わしてやるぜぇーっ!」

激昂と共に、アサシンに殴りかかるヴィン・マイコンっ!

罪状・ヴィン・マイコンを邪魔した事による、機嫌の悪化。

罰・撲殺。

シンプルに執行された。





「はぁはぁ……」

闇に覆われた樹々の中。

無音で走っていくアサシン。

すると……っ!

ザザザッ!

「逃がさんっ!」

ローラの仲間だ。

2頭の猟犬。

それが一気に音をさせながら、距離を詰める。


「くっ……。だっ、ダメかっ。見つかったっ」

ザザザッ!

すると背の低い雑草を踏み鳴らし、真っ直ぐに走っていくアサシン。

消音の魔法を解いて、道を最短に変更したようだ。


「もうすぐだっ! もうすぐ……っ」

あと少しでアサシンは、自分の飼い主の下へと逃げ込めそうだ。

しかし、ローラ部隊のほうが早い。

「よしっ。捉えたっ!」

「チッ!?」

その瞬間だったっ!

ビキキッ!

氷がアサシンを覆う。

普通、人間が氷に突如、巻かれる事は無い。

神の御業と自殺以外は。


「自殺かっ。させるなっ!」

手を伸ばす猟犬たちっ!

しかし一足早くアサシンは、自分を木に打ち付けた。

バリンっ。


「……くそっ」

ローラの仲間達はその美しい、赤と緑と、何か黒いの。

かけらが散りばめられた地面を見る。

「回収不可能だ。申し訳ありません、リーダー」

「……」


するとゆっくりと、ローラの部下の1人が歩き出す。

光の方へ。

『ヒト』の臭いが見える場所へ……。

「この先にはクライン――か」

眼下に広がる、たいまつの光。

それはまるで、神をも焦がす、業火。
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