異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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3章 潜入壊滅作戦

乱戦。

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「あぁジキムート……。クスリだなんて無茶をして……。そんな事をしたら、君の寿命を縮めるかもしれないってのにっ! クソっ! でも僕はそれを止められもしないっ。クソクソっ! なんて情けない。他人頼りなんてこの僕が……。なんて情けない勇者だよっ」

レキが水で壁に張り付けにされながら、唇を噛む。

クスリをヤルのは勧められない行為だ、決して。

だが彼女ではどうしようもなかった。

マッデンに水に張り付けられ、救援に行きたくとももう、その力が無い。

それに――。


「だけども頑張ってくれ、ジキムートっ! どんな罵倒を受けてもあんな豚に遊ばれるなんて……。絶対にごめんなんだっ! あの豚から逃がしてくれ、ジキムートっ! 頼むよっ」

何より、自分。

決して断じて微塵にも、マッデンに捕まりたくなどはない。

不遜でも傲慢でも、人類に罵倒されようとも。

なんとか……そう。どんな悪魔の手を使っても。ジキムートが打開してくれればと。

今心底願っているレキ。


「なかなか……。ふふっ、すごいですね」

ノーティスが花の髪留めを触り、ジキムートの躍動に笑う。

ジキムートが激しく動くたびに、彼の左足に大きく刺さった氷付近から、血が吹き出ているのが見えていた。


「ぐぬぅ……。神に、ダヌディナ様にお貸しいただいた美しき神域を汚すゴミめっ!彼女はキレイ好きだというのにっ! なんというありさまかっ!?」

何度も何度もしつこい攻撃に、マッデンが嫌気がさし始めている。

怒りと共に、放たれ続ける氷の刃っ!


ヒュンヒュンっ!


「ふしっ」

だがジキムートの動きが尋常じゃないくらい素早く、マッデンの魔法では全く直撃する様子がない。

「ウラアァアっ!」

バキィッ!

傭兵の乱痴気によって、また一つ、氷壁が壊れた。


ビキキ。


マッデンのコメカミに、血のスジが浮かぶ。

「ええい鬱陶しいっ! 下民の分際でいつまでもいつまでもっ、我の手を煩わせよってからにっ! こうなったら一撃で決めてやろうっ」

叫んでマッデンは、〝エイクリアス・ソリダリティー(水の誓約旗)〟を掲げた。

「まっ……マッデン様ーっ! そんな事をしてはっ」

その呪文の構成を見やり、住民が恐怖の声を上げるっ!

だが、マッデンは止まりはしない。


「わが手に広げるは吹き荒れすさぶ、1陣の渦なりっ! 吹き抜ける事なかれ、過ぎ去る事なかれっ。災禍は今、水をもって示されるっ。神のお導きをっ!」

マッデンの呪文に応じて、ジキムートとの空間の虚空に水が大量に生み出され……広かる。

水は内部に、多数の氷を巻き込んでいる。

そして唸りを上げて回転を始め、吹きすさぶ竜巻と化したのだっ!


「グアアアッ!? 飛ばされ……っ」

「うわっ、あぁ……っ!?」

風圧が洞窟内部を暴れまくる。

体ごと吸い込まれるその力に、住民が膝を屈して屈みこんだ。

「おい止まるなっ!? 早く逃げろーーっ!」

ざすっ!

「ぎゃあっ!? しまった、助けてくれぇっ!」

竜巻に呑まれた住民の1人。

彼は引きずり込まれた瞬間に、氷が肉に穿たれる。

そして刺さった氷を起点に、引きずられるように回転。


「あぁっ……。あーーーっ! 止めてっ、止めてく――ぐえっ!?」

グシャッ!

壁に強打させられる住民。

血を流し、方々に血のりを吐き散らした。

だが……。


「げはっ。うぁっ、止めて……。止めてくれーっ。ぐえっ!?」

ぐしゃっ!

泣き叫ぶ今も、その住民は回転させられ続けている。

中の氷が筋肉に穿たれれば最後、延々と回転させられる事になってしまうのだ。

「ぎゃああっ!」

グシャッ!

「ぐあっ! もぅ……もぅ。止め……がっ!?」

べしゃっ!

もうすでに何人かの住民がその刃に捕らえられ、、永続的に回転させられ続けるか、壁にぶつかって腕が千切れるかの2択になってしまっている。


「……うひひっ。これからは逃れられんぞっ! なんせ魔法で水の中を泳ぐも無駄っ。この竜巻を壊すも無駄っ! この狭い中では逃げるも無駄よぉっ!」

広範囲に及ぶその回転は、殺人メリーゴーランドと言えた。

マッデンの命令の下、目障りな傭兵ジキムートに近づいて行く殺人竜巻っ!

だがそれでもジキムートは――。


「フゥ……フゥウウウウゥっ!」

逃げようとしない。

竜巻のただ1点を見つめている。

「……? こやつめ何を?」

ジキムートが殺人竜巻の、中の氷を見やり……。

「ふっ!」

ばしゃっ!

1つの氷をつかみ取ったっ!

そして掴んだ氷を起点にし、足から飛び込む傭兵っ!

無傷で台風の目に侵入成功。


「なっ、何っ!? こんな馬鹿な……」

住民が、イカレた方法で侵略する傭兵に驚愕し、目を丸くした。

竜巻の中は超高速なのだ。

氷のスピードも、プロ野球選手の投げる直球より早かったのだから。

「ぺっ。まだらの線が溶けなきゃ良いんだろっ!?」

訳の分からない言葉を吐き捨て、そして、同じ方法でまた無傷で脱出……っ!

「フゥンっ!」

その時、巨大な肉が躍動したっ!

あの、肉の塊マッデンが、走っているのだ。

肉を氷と化し、ジキムートが出てきた場所に向けて障壁ごとタックルっ!


ドンッ!


確実にもう一度、傭兵を竜巻の中へと弾き返す。

「クッ!?」

ジキムートは障壁に弾かれ、千本槍の台風の中へ戻されてしまう。

ぐしゃっ!

「ガアッ!?」

ジキムートは氷の槍に、手のひらを刺されてしまった。

そのまま回転っ!

ドンッ!

ぐしゃっ。

「ぐ……ぁっ!?」

壁に激突して弾かれ、血の跡を残して動かなくなってしまう。


「ふう……ふぅっ! ゴミめっ。神の使徒を手こずらすなど、あってはならぬというのにっ!」

大汗をかくマッデン。

さすがにこの体形で、体術――。

そう呼べるかどうかは怪しいが、体当たりは難しい物があったようだ。

「ジキムート……。あぁ――」

ジキムートの轟沈姿に、レキがうつむく。

青ざめた唇が震えている。


「よく頑張ってくれたよ。だが……これが本物の〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″の力……。マッデンはマナだけではなく、神に選ばれた……と、ふふっ。勇者たる……。ははっ」

もう強がりを言う力もないレキ。

魔法世界に置いての、究極の力。

選ばれしマナの子。


「神はなんと残酷なのか……」

その才能の差は、神によって作られた物。

その敬愛してやまない者による理不尽に、絶句するしかない3人と、動かない異世界人1人。

「はぁはぁ、その通りじゃよ小麦の娘よ……ひひっ。わしは神に選ばれたんじゃ。じゃがお前も、その血を受け継ぐ子を身ごもれるのだ。喜べよぉ女……」

汗を振りまき豚が笑う。

そしてレキへと近づくマッデンが自らの指を、レキを張り付けている水の中に入れた。


「クソが……ぁ」

汗と油まみれでひどい異臭が近づくと、レキがうめく。

「ほぉほぉ、胸の柔らかさはやはり足らんのぉ……。もう少しグラマラスな形にするか……。おぬしは貴族ではないからのぉ。変えても文句はこんから良いおもちゃとして生涯、美しいまでは楽しんでやるぞっ」

レキの胸は揉みしだかれ、小ぶりな胸がおもちゃのように動きまわり、レキがうつむいた。

その瞳にはうっすらと、涙が見える。

口惜しい、と言うよりはもはや絶望だ。

落胆以上に、ゲームその物が終わったと知るレキ。


「だそうだっ、良かったなレキっ!」

「ぁっ!?」

マッデンが小さく鳴いた。

目の端には影っ!


パシッ!


影が神の使徒の手から、〝エイクリアス・ソリダリティー(水の誓約旗)″を奪い取る。

ローラのその速さは光っ!

「馬鹿……なっ!? おっ。おいっ!」

どうやってかは知らないが、ローラはこの状況でマナを発動して見せていた。

あっという間に傷だらけのアサシンは、マッデンが手の届かない場所へ逃げていく。


「くひひっ。じゃあな、傭兵どもっ!」

「さようなら……ローラっ!」


ザスンッ!


「ガッ……っ!?」


ドタッ……ズサァアっ。


「……」

一瞬の――。

ほんの数秒の事だ。

逃げ去ろうとするローラの目の前。

そこにいつの間にか居た彼女が、ローラを斬り倒していたっ!
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