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3章 潜入壊滅作戦

執念。

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ぱしゃっ。

「はぁああっ!」

その瞬間だったっ!

いきなり、なんの前触れもなく水が溶けるっ!


「……っ!?」

神の使徒マッデンも、驚きと戸惑いで一歩も動けない。

そして……っ!

「砕術1式、爆っ!」

その砕術は爆発。

呆ける住民もろとも爆殺させたっ!


ドォオォッ!


「ぐぁっ!? 火の爆発……だとっ!?」

「……」

確実に一撃、マッデンへと攻撃が入ったのが見えた。

煙が上がる中レキが、一気に攻勢に打って出るっ!


「1式、爆っ爆っ!」

ドバンっ! ドォンっ!

揺れる洞窟内。

追いうちとばかりに半裸のレキは、とんでもない量のクナイを投げ込んでいく。

すると――。


「あぁあっっ!」

怒号が木霊するっ!

レキの目の前から、防御壁が住民をはじきながら広がっていくっ!

その厚みと広さは、狭い通路を完全に塞ごうかと言う程の大きさ。


「ぎゃああっ!?」

「マッデン様ーーっ!? おやめく……ブェっ!?」

固さも紛れもないだろう。

運が悪い住民は、ジュースになるまですり潰されているのだから。

壁はドンドンと、レキに迫ってくる。


「マッデン、それは僕には効かないんだよ。砕術2式、貫っ!」

叫んでレキが、クナイを投てき。

バキンっ! ビキビキビキっ!

マッデンの分厚い障壁に、氷の防壁に穴が穿たれた。

「ぐぬっ!? なぜこの聖域でっ。 水の世界で火の魔法が使える、小麦の女よっ!?」

肩が砕ける程の深い爆発の傷。

その傷を〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)〟で消しながら、驚愕するマッデンがヨタヨタとよろけた。

すると目の前からレキが、マッデンに向かって走ってくる。


「あぁああっ!」

褐色の体がしなり――。

ゲシッ!

レキが障壁の穴に蹴りを入れた。

バリンっ!

一気に裂け目から瓦解し、崩れる魔法障壁。


「なんというっ!? だが無駄じゃ!」

マッデンが叫ぶと一気に、新たに3枚もの障壁が現れる。

「ぐ……っ!? 馬鹿なっ。こんな防壁を3枚だってっ!?」

規格外の圧倒的魔力で押してくるマッデン。

彼にはありあまる傲慢さを実現するだけの、魔力と魔力容量があった。

こうであれば良いな。その想いが呪文も不要で魔法で叶うのだ。

我々が思う魔法の理想、それに近いとも言える。


「砕術、貫っ!」

マッデンの夢想をまた、一枚一枚剥がさねばならないっ!

レキは迫りくる障壁に必死に、穴を穿つ――がっ!

「それそれぇっ!」

また障壁が増えた。

いたちごっこだ。

レキがいかに障壁を突き破ろうと、マッデンがすぐに、同等の障壁を作り出すっ!


「水の魔法はこれだから面倒なんだっ!?」

レキが眉根を上げて、しかめっ面をする。

水の魔法の障壁は重ね掛けがしやすい。

その利点がレキを苦しめていた。

その時……っ!


「マッデン様ーーっ!」

「なんじゃ、今……」

「……」

音もなく近づく――、殺意っ!

後ろだっ!


「ぃっ!?」

視界に影が見えると同時、目の前に何かが飛んできていた。

マッデンは声すら出せず、ただただ氷と化す。

そして身を縮こまらせ、顔面目掛けて投げられたナイフに目をつむった。

フュンっヒュンッ!

カツツッ!

実際は、全方位をカバーする自らの障壁で、止まるのだが。

そして薄目を開け、ナイフを投じた影をマッデンは探す。

目を閉じる前には確かに、後ろから近づいて来ていたのだ、影が。


「どこだっ!?」

探しても見つからない影。

マッデンが必死に辺りを見渡す。

「よしっ、今の内だっ!」

レキが気を散らしてしまったマッデンを見、障壁破壊を加速したっ!


バリバリンっ!


(おしっ! 良いぞレキっ)

ジキムートが笑う。

マッデンの障壁が壊れるのを見やり――。


「マッデン様ーーっ! 上です上ぇっ!」

ヒュンっ!

カンっ!

「なぬっ!? どこだっ!? どこにも……おらぬがっ!?」

ふるふると、『音がした上空』周辺を見やる、水の族長。

確かに今、ナイフが上空から降り注いで、防壁に刺さった音がしたのだ。


(恐らく奴のシールドは、ゴディンとは違って上も張られてるはずっ! レキ、お前だけが頼りだっ)

ジキムートはちょうどマッデンの頭の、その後方上空部分に位置変えをした。

ナイフの音で完全に、マッデンの目線は上空の前方にいってしまっている。

バリンバリンっ!

「ちぃ……っ!」

マッデンが、魔法の障壁が壊れる音に嫌気を示し、シールドを再構築しようとする。

その一瞬のスキ。

それを逃さず、音もなく……っ!


「ッ!」

ジキムートが一閃するっ!

その手には、折れたバスタードソードとは違う細身の剣があった。

ガシンっ!

バキッ!


「ぐっ……ぬぅ?」

「ちぃっ! ブヨブヨの豚の癖しやがってっ!?」

上から首筋を狙うが、氷と化したマッデンの体にジキムートの剣戟は無力であった。

ジキムートが手にした剣が刃こぼれを起こし、さらには一瞬で凍り付いていく。


「ならこれだっ!〝エイラリー(異形鱗翼)″っ!」

剣を手放し叫んでジキムートは、ガントレットを――。

自分のウロコを勃起させたっ!

「うぬっ!?」

思わず声が上がるマッデン。


その、血と内臓で汚れたウロコ。

住民を数人刻んだウロコの放つ異形さと禍々しさに、マッデンが恐怖の声を上げる。

「汚物がっ! わしは〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)〟ぞっ。その汚物をはようドケよっ!」

マッデンが叫んですぐに、前面に多量の40もの氷。

それを展開させ、一気にジキムートに攻撃を仕掛けた。


「逃げ場がねえのは知ってんぜぇっ!」

天井も壁も、全てを飲み込む事が分かるソレ。

確実に傭兵は串刺しだが。

「うらあああぁっ!」

自分を狙っている氷の群生に、恐れず向かっていくジキムート。

「なっ!?」

マッデンの口から漏れる、驚きと恐怖。

戦闘員と非戦闘員の違いが如実に出た。


「俺はどうやってもお前を殺して、故郷に帰ってやんだよーーっ! どけぇっ! ブターーーっ!」

勝利を信じて、身を投じる傭兵。

ガズッ!

鎧を超えて、太ももに刺さった氷。

ビシュッっ!

腕の筋肉を切断する痛み。


「おおぁあああっ!」

だが、幸いなのは痛みをこらえる暇もない、という事。

脳内麻薬が示すがままに、ジキムートが獲物へと突進するっ!

「ぐああっ!?」

ガスっ!

音がし、ナイフのウロコがマッデンの体に食い込んでいくっ!

そしてその巨体を無理くりに、女目掛けて持って行くべく走るっ!


「ならばっ!」

「そう来るのは、知ってたぜっ!」

叫ぶとジキムートはナイフを投げ、ジャンプする。

その直後、足元と言わず上下左右。

全てがマッデンの放つ冷気で凍りついた。

「俺は壁走りは得意なんだよっ!」

ジキムートは投げておいたナイフを足場に、壁をサルの様に飛んで走っていくっ!

あのゴディンのやり口ですでに、学習していたのだ。


「ぐひぃいっ!?」

ジキムートの動きに合わせ、マッデンは360度回転コースターのような状態に陥っていた。

バキっ!

「チッ!? ナイフが持たなかったかっ!? レキっ! あとは頼んだぜぇっ!」

凍ったガントレットから剥がれ落ち、勢いよく転がるマッデンに蹴りを入れるジキムート。

レキの目の前にマッデンという大きな氷塊が転がっていくっ!

「良いぞジキムートっ! 来いよっ!」

レキが目の前に迫った標的に、クナイを構えた。

挟み撃ちだっ!


「砕けろぉっ!」

ボチャンっ!

その瞬間、水に突っ込むジキムートっ!

何が起こったか分からない。

「ゴボっ!?」

突然の水中に、ジキムートはそこから抜け出てすぐに、水を出現させた本人から距離を取ろうとする。

バシャッ!

「クソがっ!?」

水から抜け出ると水壁が縦に、立てかけられた体育館のマットのように大きく広がっている。

そしてジキムートの目の前には、光りを放つマッデンの笑み。


その時、水壁が傭兵を襲った。

グササッ!

「ギヒッ!?」

ジキムートが痛みに声を上げる。

マッデンにタックルした時に刺された左足の氷が、水の圧力で更に深く刺さりこむ。

めり込んだ氷を起点に、血を噴出。

水が傷にしみこみ、涙を流すジキムート。

そのまま倒れ伏せてしまう。


「くくっ、無様よぉーっ!」

叫んだ氷漬けのマッデンが、トドメをさそうと……。

バスっ!

水中が爆発。

開いた水の穴から、一筋の閃きがっ!

ドスッ!

「……はっ!?」

見たことあるものが、マッデンの腕に刺さるっ!

マッデンの氷壁ですらカチ割る、あのクナイだ。


ビキキっ!

「がっ……あぁああっ!? ぎゃああっ!?」

ひび割れた自分の腕に、マッデンが悲鳴を上げるっ!

「くそっ!? 顔を外したかっ!? ならば砕術2式……」

今度はレキ自身が走りこむ。
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