異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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3章 潜入壊滅作戦

おもちゃの兵隊

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「はいは~い。立ち止まると危ないですよぉ。私みたいな悪い傭兵が、あなた達を狙ってますから……ねぇ」

ジキムートとローラが足止めした住人を、ノーティスが確実にしとめていく。

小さめのその肢体を寝そべらせ、住民から見つからない場所できっちりと仕事をこなしている彼女。

行くも傭兵、帰るも傭兵。八方ふさがりの地獄。


「くっ……。おっ、俺は……。えと、そうだっ! 俺はあの女にするっ!」

そして地獄の戦場にたたずむ、一人の女神。

「うへっ、これはすんごい美人じゃねえかっ! これなら殺されても……っ」

ガスッ!

「はぁぁあっ!」

まるで太極拳のように、レキがポーズを決めながら殴り倒していく。


「おっ、俺もこの姉ちゃんで……っ!?」

その様子は、荒み切った戦場では、女神そのものだ。

ガスっ、ゲス、バキッ!

レキが次々と、住民を薙ぎ払っていくっ!

強い。

確かに強いっ!

「おっおぉ、俺もあっち行ってくるわ」

だがローラとジキムート、そしてノーティス。

これに比べれば屁でもなかった。


心身にかかる負担が段違いだと断言できる。

その場に居た残りの30人。

それが一斉に、雪崩を打ってレキに殺到し始めた――が。

「よし、これくらいかな? 砕術一式」

カカっカっっ!

「爆っ!」

ドンッ! ドッドォォオオ!

上がる爆炎。

「ぐあああっ!? 足が……足がーーーっ!?」

「がぁああ!? うっ……腕がぁっ! 俺の腕がねえっ!?」

響く悲鳴。


「大方、片付いたね」

眼鏡をクイっと上げ、笑う女傭兵。

威力の高い爆発のたった一撃で、一気に半分を薙ぎ払ってみせたレキ。

サラリっとなびく、薄い赤髪を整えた。


「ああ、多分な。しっかしすげえ威力だな、お前。詠唱なしでそれはさすがにヤベエぜ」

「そうだろそうだろうっ!? やっと勇者の僕のすごさを分かってくれたかぁっ!? 嬉しいよジキムートっ!」

レキが眼鏡をクイっと上げ、満面の笑みで笑う女傭兵――の足元。

そこでは住民が苦しみもがき、声が響いている。

「僕はよく、ヴィン・マイコンと言う名前に押されて、有象無象が逃げてくるのを刈ってたからねぇ。得意なんだ、こういうの。この特注ナイフもタダじゃない。節約しないとねっ」

最初彼女は当然、手を抜き戦っていた。

しとやかそうに見せ、自分に殺到するように仕向けたのだ。

その甲斐あって、自分達みずからで集合してくれた弱者を、大火力で一気にしとめる事に成功。

それが彼女のスタイル。

笑ってレキは、吹き飛んだ住民を見る。


「ほんと……。ふふっ。男って簡単だよねぇ」

それは紛れもない女の、男を騙すしたたかなメスの顔。

決して間違ってはいけない。

歴戦の女に、〝まともな者〟など望んではいけないのだと、思い知らされる眼。


「全て殺しておけよっ、お前達。〝ブルーブラッド(蒼白な生き血)″を持ってたらやっかいだ」

「分かってるよ」

そう言って、助けを求める者や、家族の名を叫ぶ者。

神にすがる者。

そういったゴミを、確実にしとめていく傭兵達。

総勢50程度の有象無象では、戦闘のプロ4人の相手にもならなかった。


「さて、次が来るな」

ローラが先を見やる。

かなり遠くにまた、火の揺らめきが見えていた。

「あらら。あれは……、嫌な予感がしますね」

「少年兵、か。ちらほら見える大人は監督役だな。ふん、なかなか良い趣味してるぜ、神の使徒様も」

「下手な大人より、責任感が強いから……ね。困ったな」

「なんだお前、子供好きか?」

頭をかき、眼鏡を上げたレキに、迷わずナイフを抜いたローラが聞く。


「あぁ。僕は子供は好きだよ。かなり好き。お守りとかなんか、良いじゃない? 可愛らしい」

「なっ、レキめっ!? ……いやいやっ。私はもっと、この女よりもっと子供好きですよっ! ほら……なんていうんです? この、オデコを撫でまわす感じ……とか」

ノーティスが何か、必死にレキに食らいつくっ!

ちなみに剣は、見えた瞬間にバッチリ、抜いていた。

「何を張り合っている。あほか」

「なっ、この女が色々卑怯だからっ。少し私も良い所を、乙女な所を見せようと思っただけですよっ!」

銀髪を振り乱し、元も子もない言葉で抗議するノーティス。

「それをアホと言ったのだ」

「俺わぁ、子供をぉ、作るのがぁ、だーい好きだぞっ!」


……。


沈黙。

下賤な〝ムードブレイカー(自己中)″に、女たちが言葉を失う。

「このゴリラを野生に放してやれ。メスゴリラにはモテるだろ。それ……」

「ふっ!」

その瞬間だった。

疾風迅雷、ジキムートが駆けたっ!


「……」

全員が驚くその速さ。

そして……。

「ウウウッキャアアッ!」

「わわわっ!?」

奇怪な唸り声をあげて襲い来る大人を、子供がビビらないはずがなかった。


「ウラァァっ!」

ゴスッ!

「ぐべっ!?」

膝一閃っ!

まともに腹に入った子供がふっとび、白目をむいて気を失う。


ガスッ! ガっ! グキっ!

「ゲガッ!?」

ハガネでできた剣の柄で、頬骨をへし折られたことがあるだろうか?

「うあぁあっ!?」

もしくは髪を掴んで、思いっきり10メートル投げ捨てられたことは?

「ごぉっ!?」

それとも、推定75センチの太もも。それから繰り出される蹴りを100パーセント、コメカミに受けたことは?

ジキムートが無言で次々と、これらを実行していく。

「ガッ! はっっ!? はっ……っ!? はぁぁっ……ぁあ」

子供がとんでもない目をして、おなかを押え、空気を必死に探してうずくまる。


他もそうだ。

とてもじゃないが、立ち上がれる様子はない。

次々と子共達は倒れ、もがき苦しむ。

「お前らっ、下がるなっ! 前を向けっ。欠陥品ど……」

ガシャンっ。

ヒュンッ!

「ぐぇっ!?」

「ひっ、ひぃぃっ!?」

ガシャンガシャンっ!

次々に自分のウロコからナイフの供給を受け、それを放つジキムート。

彼は子供をしとめながらも、後ろにいる大人に向けて、適当にナイフを投げ続けている。


「くっ、くそっ! なんて弾幕だっ。おい、お前達。そいつをしっかり抑えろと命令しただろがっ。この欠陥品の〝インフェリオ(幼生天使)″共めっ!」

「やんのかガキども。俺らを舐めんじゃねえぞっ! 動くんじゃねえ、このクソゴミ共がっ。てめぇらには無理だ。諦めろやっ! かぁ……ペッ」

子供の頭を踏みつけなじりながら、ジキムートが叫ぶ。

大人はほとんど、相手にならないのを知っている。

ジキムートは目をくれようともしない。


「……」

「……」

しり込みする子供たち。

とんでもない化け物を相手にしていると、自覚したようだ。

だが……。


「はぁ……はぁっ! 教えられた通り、陣形を組めっ! 陣形だーっ」

それでもまだ、剣を捨てない。

震えた膝を押え、必死にジキムートに向かおうとする子供達。

「くそっ、取り囲めっ! 取り囲むんだっ!」

「……」

(どんなに怖くても、お前らは大人がいる限りは、逃げられねえ。なんせお前たちに明日はねえからなっ。すがらなきゃ生きれないヤツに、逃げ場なんてねぇんだ。貴族様のおもちゃやってる傭兵に似てる。俺らもてめえ自身じゃ生きれねえし、稼げねえ。)


彼ら傭兵は、戦争が無ければ生きられない。

自分達で戦争は、滅多には起こせないのだ。

なぜなら、勝ったとしても、人を統治するだけの〝知能″がないから。

だから、貴族のおもちゃをやっている。

だが――。


「ふん、情けねえ。しっかりと大人を見てみろっ! な~にジャリが本気出しちゃってんだよ。恥ずかしいっ!」

ゲシッ!

「がふっ!?」

一人の子供を蹴り倒し、ジキムートが指さし笑うのは、魔法で作った障壁の中に隠れて四つん這い。

一歩も出てこない大人だ。

たかだが市民に、ナイフの的になる気概がある訳がなかった。


「そう、大人が正解……なっ! 泣いてチビっても良いんだ、バァーカッ!」

ガッガッ!

子供の頭を踏みつけてやるジキムートっ!

「はぁ……はぁっ!」

だが踏みつけた子供はなんとか傭兵の足をどけようと、指をジキムートの靴に絡ませる。

「やはり無理、か。この量だとそろそろ、仕留めないといけねえな」

そう言って、踏みつけた少年に剣を向けたジキムート。

傭兵世界ではよく見る光景。

少年兵と言う存在は、始末が悪い一つの事象である。


(似てるってぇのにその癖、裏切った経験も、クソ野郎になって生きる知能もガキは浅い。違いはたった一つ、知能と経験の差だけなのに、あ~クソっ。恐怖も金も効かねえってのがなっ。)

子供はある意味、傭兵に似ていた。

だがそれなのに、買収やペテンが効きにくい相手であった。
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