異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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3章 潜入壊滅作戦

戦闘のプロ。戦場の狂気。

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「うらぁっ!」

グシャアっ!

ビシャシャッ!

「キャアアアッ!?」

血が飛び散り、住民達から悲鳴と恐怖の声があがったっ!


ブンっ! ブーンッ!

ジキムートはわざと大振りに剣を振り、空気の振動を木霊させる。

すると、人を斬った剣から、残った血を飛ばされまくるっ!

「やっやべえよっ、距離をとれっ! どけっ、下がるんだよっ!」

ジキムート達が侵入した洞窟の中。

襲い来るハズだった住民達の、その陣形がみるみる後退していく。

刃渡り数センチ程度のナイフを振り回す男ですら、東京でやればパニックになるのだ。

もし刃渡り90を超えるバスタードソードを、嫌な風切り音をさせながら振られれば、普通の人間は怖がって近づけないのは道理。


グシャッグシャッ!

ピシャシャっ!


血が飛び眼が転がり、足が裂かれ手がもげるっ!

「ヒィィっ!?」

地獄絵図に住民が――。

たった3か月前まで、ただの一般人の集まりだった人間の群れ。

その有象無象が阿鼻叫喚を上げ、まともに近寄る事すらできなくなっていた。


「ぐっ……水の神よ、我は乞い……」

それでもやはり、神への信仰深い土地柄か。

呪文と祈りを同期させれる者がいた。

(光った。呪文かっ!)

それは非常にまずい事でもある。

今ジキムートは敵陣で一人、孤立状態だ。

魔法使いの群れに包囲されている事に、違いはないのだ。


「ふっふっ、ガッギャアッ!」

いきなり意味不明に叫び始めたジキムート。

突如剣を捨て、近くの男にかぶりついたっ!

「うあぁっ!? 痛てっ! いきなりなんだこれっ!? 離れろっ、離れろよこのサルがっ!」

「ウギっ。ガガガッ!」

白目をむき、ヨダレをまき散らしながら、ジキムートが住民の耳を『捕食』するようにかぶりつくっ!

「グアァアッ!? 耳っ、耳がーーっ!?」

ジキムートの牙が肉に穿たれ、住民の耳が伸びていくっ!

まるでサバンナの一コマのように、捕食され始めた住民の一人。

「うぇっ!?」

住民がその異様な風景に、体と心を凍り付かせる。

「ウヒヒヒヒーーッ!」

筋肉が引っ張られピンっと伸び、耳がドンドンと伸びて行くっ!

「つつっ!? やっ、やめろよっ! やめっ!? あーーっ!?」


ビリリっ!


耳が引きちぎれたっ!


「ウギャアアアッ!?」

泣き叫ぶ住民っ!

「……グルゥウ」

それを背に、耳をくわえるジキムート。

クチャ……クチャッ……。

口の中で仲間の耳が音を立てて、粗食されていく。

そのジキムートの獣の目を見て、心臓が止まりそうになる住民っ!

まるで蛇に睨まれたカエルだ。

「あぁ……うぅ……っ」

「はぁ……はぁ……」

時が止まったように動けない住民。

「うあぁっ!? いてぇえよぉおおっ!?」

背景では、転がる住民Åの絶叫が木霊する。

そしてすぐにジキムートは、ボー……っとその光景に閉口していた別の住民。

それに食らいつこうと口を開けたっ!


「うわあぁっ!?」

悪魔のような傭兵の襲撃。

断末魔をあげ、必死にジキムートから逃げようとする住民達っ!

混乱の中、その狂気の様相を見て、住民の口から次々恐怖が漏れる。

「ひっ。なんだコイツっ、悪魔付きじゃないのかっ!?」

「ちょっ!? ヤバいよなんだよコイツっ」

「オオッ! ウォォオオッン!」

がぶりっ!

また一人、獣の餌食にっ!


「ぎゃぁっ!? やめてくれっ。やめろっ。頼む、食わないでくれーーーっ!?」

唸り声を上げ、男の腕に噛みついたジキムートっ!

そのまま引き千切らんとばかりに、豪快に顎を引いた。

ビリリッ!

「うぁあああっ! あぁあっ!? いてぇいてぇよぉ」

破れたシャツからは悲惨な噛み跡と血が露出し、男が絶叫するっ!

「ウォウッ! ギャギャッ……うううぁあっ!」

ヨダレと血が混じったものを垂らし、まるで狂犬のようにゆっくりと、4本足で動き回るジキムートっ!

その異様で気持ちの悪い映像に、住民が明らかに距離を取り――。

恐怖に時間を忘れ、呆けてしまう。


「あっ……悪魔だ」

「モンスターだ。人間じゃねえぞコイツっ。おっ、おいおぃっ。ここ……、こんなの聞いてないぞっ。早く憲兵か騎士団共を呼べよっ!」

青ざめた住民、

戦意が喪失していくのが分かる。

すると突如、住人の頭が吹き飛んだっ!

バスンっ!

「ひっ!?」


「くくっ。面白い。そう言う切り口もある。と言ったところか」

ローラが深い茶色の双眸を向け、笑いながらジキムートを観察していた。

すると……。

「おっ、おいっ。あっちの奴はヤバそうだっ! 俺らはこっちの黒いのを押さえとこうぜっ」

「あぁそうだなっ。へへっ、まぁこっちはどうやら女だしっ。こんな軽装なら、俺らが押さえればなんとでもできる。おいやっぞっ! 囲め囲めーっ」

ローラの目の前に、男6人が逃げてくる。

住民達の動きを見ながらローラは、やおら2人組になった男にスライディングっ!

そして下から素早く、一人の頭を目掛けてロケットキックっ!


「くっ!? 素早いぞこの女っ」

男の顔を踏み台として蹴っ飛ばし、もう1人の男の背後へと着地っ!

あっと言う間に1人を孤立させたローラ。

そして、大声で威嚇する。

「動くなっ!」

「……」

「くそっ……。人質とは卑怯だぞ」

ローラは背後から男の首筋にナイフを当て、けん制していく。

「なんとでも言え。ほらほらっ、武器を捨てたらどうだ?」


「誰がっ。お前のような怪しい奴の言う事に乗るものかっ! どうせ武器を離せば殺されるというのにっ。お前こそ、離したほうが身のためだぜ。人数差を見ろよ、勝てっこねえぜーっ」

残った男たちはじっくりと、その黒づくめの女へ包囲を狭めようとする。だが……。

「助からない? なぜ? そうでもないだろうよ。私の要求は、お前らがココから消えてくれってだけ。なぁに、上でドンパチやってるところに黙って加わりゃ、バレないさ。なぁ……、ところでお前は昨日、何食べた?」

「ん? ……おっ俺っ!? ななっ、何を言っている!?」

突然ローラが、ナイフで脅している男に、昨日の夕飯の内容をしゃべらせ始めた。

「ん~? 何食ったかって、聞きたいだけさっ」

ガスっ!

「ガッ!? うぅ……シっシチューを、シチューを食べたんだよっ」

頭の芯を肘で殴られ、めまいを起こしながら男が応えた。


「そうかそうか、誰が作った?」

「つっ、妻が……」

ナイフが……、冷たいその刃が頬をすべる。

「ほう、妻……ねぇ。だが可哀そうになぁ。あのお仲間が自分の命惜しさに、武器を捨てないからぁ。お前の命はもう……長くな~い。言ってやれよ、またシチューを食いたいってさ~ぁ? あっ、もしかして今日も、昨日の残りのシチューかなぁ?」

サッ。

首にかけていたネックレスが落ちる。

「やっやめろっ!?」

「でも、今日のシチューは嫁さん一人で食わなきゃな~。昨日は二人で食ったシチューも、今日からは帰ってこない旦那分。それを女一人で食べるわけだ。食べ切れないんじゃないかぁ? だって2人分だものさ~? 困るよなぁ~。寂しいよなぁ?」

「んぐ……っ」

ローラの言葉に、唇を噛み締める人質。

彼女の言葉でありありと、自分の家族の今後を考えてしまったのだ。

すると――。


「寂しいなら……。なんなら、あそこにいる男の誰かが、お前の代わりに食べてくれるかもよ? ついでにその後ベッドの上で、お前の奥さんに追悼ピストンでもするんじゃねぇの? 仲間見捨てて生き残ってぇ、お前の分までチチを揉んでくれるんだとよっ、ヒヒヒッ!」

ザスっ。

前髪が全てゴミと化す。

「頼む、これ以上はっ! ぐぅ……たっ助けてくれ。死にたくないっ! 妻がいるんだっ。俺には妻がっ! 武器をおろしてくれよっ」

「しっ知ってるよっ! だがっ!? そんな事すれば俺達まで……っ」

人質が精神的に追い詰められて行く最中、何もできない仲間達。

ジョリっ、ジョリっ、ジョリ。

ローラが鼻歌交じりにゆっくりと、男の眼球から2センチの距離でナイフを滑らせ、眉毛が綺麗に落ちて行く。

「ひっ……ひぃっ!?」

「動くなよぉ……。間違えちまうよ?」

ローラは笑い、そして眉毛が削られ落ちた。

その様子を、ローラを完全に包囲したはずの男たちはただ、見守る事しかできない。


「ヒヒっ、それでぇ? シチューを作ってくれる奥さんは今回、なんて言って送り出したんだ? その妻は知っているのか? お前がもう二度と、そのシチューを食えないって事を」

「もっもうやめてくれ、頼むよっ! かっ……勘弁だ、ホントに堪忍してくれぇ~」

泣きむせぶ声が響いた。

狭めた包囲網が、ゆっくりとほだされていく。

「ほらぁ、お前の最後の言葉を教えてやれよ、お仲間に。あいつらが見捨てたお前の言葉を……。遺言として嫁さんに伝えてやる言葉だよ。このまま何も言わずに死ぬのか? それとも、仲間の薄情さをぶちまけてから死ぬか? こいつらだっ、こいつらが俺を見殺しにしたんだーーって。ふふっ。ほら、言って見ろよほらぁ」

楽しそうにローラが、人質の体を揺すってやる。

「あぁ――。うあぁあ」

ヨダレを垂らす人質。

見守る仲間はもう、直視できないようになっている。


「くくっ。そしたらあいつら、お前の嫁さんになんて報告するのかねぇ? お前の親はどうだろうなぁ? なんて言うんだろうなぁ? そうか、良く戦ったっ! って言って、お前の仲間を称賛し――」

「わっ、分かった。分かったよっ! 武器を下ろすっ! 俺たちはもう、この基地を出るからっ。だから、アンタは好きにすればいいよっ」

カラン……。

武器が落ちた。

蒼白になり、住民達が手を挙げる。

その姿にローラは、ご満悦の笑みを浮かべた。


「そうか。分かれば良いんだよ。ではすぐにあの門から行けっ」

「あっあぁ、分かったっ!」

男たちが走り去ろうとした……が。

ザスッ!

「がっ!?」

ローラが目の前の人質を刺殺。

「なっ!? やっ! くそ……」

ザスッ!

ザススっ!

「グアッ!?」

「ガハッ!?」

後ろを向いた5人のうち、4人を殺したっ!

そして、最後の1人の首に『また』ぶらさがるローラ。


「……さて、お前たち。武器を捨てろ」

増援で来ていた男たちに、ナイフを向けてローラが吐き捨てたっ!


「……ぇっ」

声と言うより、鳴き声に近い。

住民たちは目を疑いながら、ローラと死体を何度も何度も見返す。

「武器を捨てろと言っている」


「なっ、なななっ。お前、気は確かかっ!? お前今、約束を……。えっ!?」

「武器を捨てろ。さもなければ、コイツが死ぬ」

そう言ってまた、〝新しい人質″の前髪を切り取ったローラ。

「どうなってるっ!? これは……その。イカレてる……。そう、イカレてるんだこの女っ!?」

呆けた顔から一転。

その破廉恥極まりない悪魔を、怒りの形相で糾弾する住民たち。


「そうだぞ、イカレた傭兵がずーっとお前達の相手だったろ? いつも口汚く罵ってたんだろうに? って、お前たちはビビッてお外に出れないヘタレ組だったか。どうだ? これがお前らがケツまくって放棄した聖地の日常で、イカレた傭兵のお仕事さっ! タダで見せてやってんだ、感謝しろよ~っ!」

悪気無さそうに言ってくるローラ。

「……」

その言葉に胸がつまる住民達。

自分達が手をこまねいているうちに親愛なる神の聖地は、ローラと似た人種が闊歩する世界になっていた。と、今更になって実感していた。

「では、武器を捨ててもらおうか。それとも今度は見事、仲間を見捨ててみるか? クヒヒッ、そうだそうだぁ。予告しよう。見捨てられなかったらぁ……次はお前っ! 髭の白いお前を人質にとるっ!」

ビクリッ!

ローラにナイフで示された男は、背筋を凍らせた。

間違いない、この女アサシンなら必ず、どんな破廉恥な手でも、使って来る。

そういう確信があった。


「その次は髪の長いお前だっ。あぁでも……間違って殺しちまったら、んぅ……。そこのもみあげ。お前に変わるかもなぁ?」

「ちょっ、ちょっと待てっ! 何を……、何を言ってるっ!? どうかしてるぞお前っ」

向けられるナイフの切っ先で狙いを定められるごとに、住民が恐怖に氷つき、そして委縮する。

戦場の狂気に初めて触れた水の民。


「お前らぁ。全員今のうちに仲間をゴミのように、足手まといとして、すっきりと切り捨てる覚悟を決めろよ~っ。横にいる奴がお前を殺しに来るぞっ! 前の奴も信用できないなぁっ!? それとも後ろかーーっ!?」

「……」

大汗を流しながら住民達が、360度、仲間の顔色をうかがっている。

「自分の命惜しさにお前を見捨てるんだよっ。さもなきゃ全員死んじまうんだよっ! ヒーーっハっハっ」

覆面で顔は分からない。

だが、非常に楽しそうで満足。

そんなはしゃいだ声を上げるローラ。


「かっ神よっ!? どうか……どうか我らにご慈悲を」

「くくっ。キーッヒッヒッ!」

ザスっザススっ!

「ぐえっ!?」

ローラの下品な笑いを、ぼーっ……と突っ立って聞いていた男。

それが串刺しになり、殺された。
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