異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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3章 潜入壊滅作戦

ヴィン・マイコンとゴディン

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「おっとっと」

その魔法は氷と言うよりは、マナの〝すり鉢″を作ったに近いかもしれない。

殺意あるマナを広げ、そこにいる者全て、一人残さずスリ潰そうと躍動するマナ。


「うぁあああっ!?」

「体がっ!?体がーっ!」

人々がその渦に巻き込まれていく。

ヒヒーンっ!

ヴィン・マイコンが乗った馬も、光の中で分解されていった。

傭兵長が慌てて馬からジャンプし、限りなく魔力の中心から遠くへと飛び降りる。

だが――っ!


「その程度じゃ逃げ切れないぞっ!」

光の範囲はすさまじく広く、ヴィン・マイコンが降り立とうとする場にもしっかりと、渦を巻いていた。

「へぇ考えたね、ゴディンちゃん。こうすりゃ確かに、魔法全体が見えずらい。装備とか護符とかも突破しやすいわなぁ。だけど……よぉ、広すぎんだろがよっ」

笑うヴィン・マイコン。

周りを見渡すと、その魔法の欠点が見えた。

その影響は、想像以上に広範囲にわたるのだ。

「うあぁあ……」

「おっ……おぇ」

目が痛い、耳がおかしい。

そして吐き気がする。

あまりに激しいマナの濁流。

爆心地から遠いハズの人間ですら、耳や頭を押さえながらうずくまり、悲鳴を上げていた。


「あぁ……ヤベッ。すげぇな。俺が見てきた魔法でも、トップ5にヤバいじゃんよっ。人間レベルじゃねえぞっ!? ハハッ」

笑いながらステップを踏むヴィン・マイコン。

「くそっ。なぜこれで死なないっ!?」

驚愕するゴディン。

目の前ではヴィン・マイコンが、自分の最強の一撃の中を踊り狂っている。

そして……。


ヒュウ


その場にいた水の民約30人。

彼ら全てを飲み込み、消し飛ばす程の魔力。

それがあっさりと終わり、マナが途切れた。

残ったのは、笑うヴィン・マイコン。大汗をかくゴディン。2人のみ。


「コイツ……どうやってそんな……」

「あたた」

綺麗に消し飛んだ跡地で、薄ら笑いを浮かべて立っている伝説の傭兵。

それは、余裕の笑みだ。

どう見ても壮健なヴィン・マイコン。


「お前ほんとすげえよな。マナだけは。魔法だけのだけは。マジそれ〝だけ″はすげえよな~。へへっ」

「クッ、それは私への……。この神の使徒たる者への、嫌みか何かかっっ!?」

「あったり~」

ビキキッ!

ゴディンのこめかみに血のスジが浮かぶ。

へらっへら笑いながらゴディンを指差すヴィン・マイコン。

肉切れと化してしまっていた水の民の『痕跡』へと、ヴィン・マイコンが唾をかける。


「ペッ。お前がビビッて俺に集中しなきゃ、こうならなかったんだぜ? お前は強いんだ、一人でタイマン張れば良かったのに。ま~そうすっと? お前は勝てっこないけどよ。なんせ俺より弱いもんな、神の使徒様よ」

「五月蠅いぞっ! お前の薄汚い価値観なぞ私に押し付けるなっ。我は偉大なるダヌディナ神の使徒だっ。強さや力自慢、そんな下等な値観などには囚われないっ!」

「でもそれってどうなんだ? 弱くても気にしないって……。お前ら確か、神殿の守り人も兼ねてたはず。忘れたのかよ? 脳足りんの僕ちゃんのお仕事だ。大事な話だぞ~」

「くぅっ!? あぁ言えばこう言いやがってぇっ! 不敬な奴めっ!」

歯を食いしばるゴディンから、骨が砕けるような音が聞こえた。

そしてゴディンがヴィン・マイコンへと、魔法を打ち込み始める。


「ふふっ。それを会話って言うんだよ、たこすけ。で、神の門番様が、人間風情に遅れをとるとかさぁ。精進足りてねえんじゃねえの? いっぺん神様に聞いてくれよ。ご自慢のそのお口でな。僕ちん弱いけど良いですかね~。神様に守ってもらうだけの、ヒモでいいですか~?ってさ」

「精進が足りてないだとっ!? どの口でさえずるっ!? 貴様ら傭兵の、この聖地での暴虐を棚に上げてよくもっ! ふざけるなよっ! 神を守らなければならないのは人間も同じだろうっ! 町を無茶苦茶にしやがってっ!」

「あぁ、なるほど。確かに確かに。弱い者いじめは良くなかったよな? 仲良く仲良く、強い俺様に先陣を切って神様を守って欲しいって。そういう事か。う~ん、じゃあ負け犬のゴディン君。俺が神様守ってやっから、その間パンでも買って来いよ」


ピーンっ


銅貨をゴディンに向けて、指ではじいてやる傭兵長殿。

「誰が弱い者だとっ!? 一度として私が人間より劣った事があるかよっ! その不遜な行動、なぜ改められないのだっ!? お前は神が愛しくはないのかっ!? 我ら水の民には、神の寵愛があるのだぞっ! 私は神に愛された者だというのにっ!」

挑発に乗って、魔法攻撃を加速するゴディン。

無言で魔法を撃てる分、無駄口が多くなる。

言い合いにもなりやすかった。


「神の愛ぃ~? そんなの聞いちゃいないさ。ここは戦場だ。お前がクソから生まれようと、母ちゃんの股ぐらから生まれていようと関係ないね。神に愛されたお前に聞こうかっ!? この戦場において、お前は神に何ができる? えっ!?」

「わっ、我らは神の尖兵だっ! 神の為に勝利をもたらすのだっ! お前らのような害虫を処理してなっ!」

「お前が神の為にできる事が、戦う事だっつぅなら……。神の愛語るより、神にどうやって勝利を捧げるかを考えろよ。ほらコイツ見てみ、この仲間をっ」


スパンっ!


「ぐぇっ!?」

ヴィン・マイコンが、自らが指さした住民の首をはねる。

この乱戦になってから、次々と優秀な魔法士であるはずの住民達が、なす術なく死んでいた。

いくらМP・魔力2割増しであろうと、作戦がヘタレていれば木人も同じ。


「さっきもお前がタイマン張りさえすれば、戦争には勝てる見込みがあったんだっ! でも今、せっかくの勝てるチャンスが無能の指揮官のせいでっ、て話だよ。神への勝利を自分のせいで手放してってんぜっ!」

「こっ、これは……っ。そっ、そうだ個人の問題だっ! 現に私は生き残れているっ。死んでいくのは全員、自分の怠慢で努力が足りていないからさっ! そう、神への信心が足りないんだよっ。私の失態などではないっ!」

「何言ってんの? どーせパパの力でシャシャリ出てきて、さも当然に、そして当たり前のようにリーダーになったんだろ? だがリーダーっつう名目に固執するだけのお前には、分からんだろうが……。戦場の不手際は全部、リーダーのせいなんだぜっ!」


スパンっ!


「この首なしもお前の責任、な」

ぽいっ!

ドサッ!


「こっちにこんな汚い物を投げるなっ。汚れるだろうがっ!」

パキッ!

飛んでいく生首。

それを見てヴィン・マイコンが、ため息をつく。


「あぁ、責任感なんていう、高尚な言葉は分からんか、神に選ばれしお前みたいなクソには。御父上も同じだそうだな? やっぱ似てるよ、お前らゴミ親子っ!」

ヴィン・マイコンはひたすらに、氷の魔法に水の魔法、そう言った有象無象を避けまくる。

そうしながらペラペラと口を動かし、おしゃべりをした。

「なっ……何っ!? 貴様、私とあの方が同じだとっ!? アイツは母上っ。く……っ。こっ、このっ! 下民如きが私に口答えするなっ! 口を閉じていろよっ!」

生まれてこのかた、反論など滅多にされないせいだろうか?

馬鹿にされた経験がゴディンには浅い。

顔を真っ赤にし始め、魔法を打つ手が汗ばんでいた。


「じゃあ下民から聞こうか? 指導者としては実際の所、聖地を無様に明け渡しちゃってる今の現状。リーダー様、一言ど~ぞっ」

「ぐっ!? こっ……これは、私ではなく……お前たちが不当にっ!」

「不当? へぇ、それで? 不当だからなんだってんだ? 不当な行為が来たらおめぇ、神様を守れないってのかよ?」

「……」

ヴィン・マイコンへの言葉に、ゴディンのコメカミがヒクつく。

「へへっ」


すぅ……。


「神を守るってのはな、命をかけてやるもんだ。女のケツしか追ってねえお前に、神を守るっていう気概がっ。本気がっ! てめえの魂にいっぺんでもあんのかよっっ!?」

びくんっ!

「――」

突然だった。

ヴィン・マイコンが見せた、本気のトーン。

強い、異臭のような感覚がした。

殺気の匂い。

戦場の音が止まった。

ゴディンが反論できず、魔法を放っていた手を止めてしまう。


「じゃ~あ~。今度は人としてのゴディンなっ! 人としてなら~、俺に勝てないなぁ。前も負けてた。あれ? どっちも負けてんじゃんっ。こりゃ無能というしかねえわっ。神様は無能が好きなのかね? どう思う。ゴムノン君?」

「なっ!? なな……っ、なんだと貴様ー?」

ヴィン・マイコンの言葉に、気を取り戻したゴディン。

ゴディンが信じられないと言った顔で耳を疑い、激怒する。


「私が無能だとっ!? 神のお言葉が聞こえる私を無能呼ばわりするのかっ。無能とは能力が無いと書くんだっ、無能っ! それは神の与えて下さった、神託を扱う能力に対する〝ヒューマン・ディスグレイス(人類汚辱)″っ! それに他ならないんだぞっ」

「……」

ゴディンの言葉に肩をすくめた傭兵長殿。


「おいっ!? 他の傭兵達っ! お前らも聞こえただろうっ。この者は神のお声を届ける能力を今っ、確かに間違いなく侮辱したっ! お前たちの指導者は、悪逆の尻尾を出したのだーっ!」

――。

「あぁ~ん? 何か聞こえたか?」

「いんやぁ? わっかんねえなぁ」

ブタの耳に念仏。傭兵の心に、人類汚辱。

傭兵達が耳をゴディンに向けて、わざわざ聞こえないといった、大きなゼスチャーをした。


「はぁ……。はぁ……。ここは……。ここは一体、どうなっているっ!? 馬鹿なっ、馬鹿な馬鹿なっ! 人類への反逆の言葉だぞっ。そんな物が……っ。そんなのがあって良い訳がっ!?」

自分を小馬鹿にしてくる傭兵達に、魔法を投げつけたゴディン。

「うっへぇっ!」

力いっぱい投げられた魔法は、空を切った。

傭兵達が逃げて行く。

今、彼を取り囲んでいるのは、人類のカスを集めた存在達だ。

ゴディンにとって耐えられない環境だろう。

あまりの環境に、神の使徒が耳と目を疑う。

すると――。


「良いね」

舌なめずりする、この男。

「あぁそういやゴムノン君は、ジキムートに勝ったんだってな。ジキムート以上俺未満。って事は……だ、アイツ弱えんだな、お前みたいな無能のチンピラに負けるなんて、よ」

ヴィン・マイコンが左右を見ながら、『裂け目』を見つける。

「ジキムートぉ? ジキムートって誰だよゴミがっ!」

ザスザスザスッ!

「ひひっ。アイツ、名前覚えられてねえでやんのっ!」

氷を避けながら、ヴィン・マイコンが何かを探していた。


「それにゴムノンだとっ!? 絶対にその名で呼ぶなっ! そして母様に謝れっ。私の無能を取り消せよっ」

百に届こうかという、氷の刃がヴィン・マイコンを襲った。

「……」

「王族ですら私を馬鹿にしたことはないんだぞっ! 母様は私が、この偉大な神の一族の長になるのを待ってたっ! 予言を聞けると言ったら喜んでくれたっ! 母様は何より神を愛し、そして偉大なる神の――っ」

ヒュンッ!

「掃除婦……なっ」

何百と言う攻撃の隙間。

少しの風穴。

そこから左の腕をのばし、ゴディンを攻撃したヴィン・マイコン。


バスっ!


「ぐあぁっ!?」

攻撃に集中しすぎている。

あっさりと氷の刃のすき間を抜けられ、ヴィン・マイコンの攻撃を食らうゴディン。

――と言っても、デコピン程度だが。


ぷしゃっ!


「いつぅ……。くぅ。うぅううう」

額から血を流し、うずくまるゴディン。

缶ジュースの缶をへこませる、2メートルに及ぶ大男が繰り出す、ただのデコピンだ。

「そんなん痛い訳ないだろう」

「クソクソッ。糞ガァッ!」

ゴディンは涙目になりながら、ヴィン・マイコンを攻撃し続けた。

「ヤケになっちゃって。まあ」

へらりと笑うヴィン・マイコン。

その汗をぬぐう。


「……」

「……ぉっ」

眼の端に何かが見えたその瞬間、ヴィン・マイコンが何かを見つけ、ピタリと止まった。

「あれってかなり、ヤバいんじゃない? おいおい、やっぱそうかよ。お前と遊ぶのは終わりだゴディンっ! じゃなっ」

ある物を見て、あっさりと戦線を離脱したヴィン・マイコン。

ゴディンを置いて、駆けだしていく。

ニヤリッ。
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