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3章 潜入壊滅作戦
ヴィン・マイコンとゴディン
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「おっとっと」
その魔法は氷と言うよりは、マナの〝すり鉢″を作ったに近いかもしれない。
殺意あるマナを広げ、そこにいる者全て、一人残さずスリ潰そうと躍動するマナ。
「うぁあああっ!?」
「体がっ!?体がーっ!」
人々がその渦に巻き込まれていく。
ヒヒーンっ!
ヴィン・マイコンが乗った馬も、光の中で分解されていった。
傭兵長が慌てて馬からジャンプし、限りなく魔力の中心から遠くへと飛び降りる。
だが――っ!
「その程度じゃ逃げ切れないぞっ!」
光の範囲はすさまじく広く、ヴィン・マイコンが降り立とうとする場にもしっかりと、渦を巻いていた。
「へぇ考えたね、ゴディンちゃん。こうすりゃ確かに、魔法全体が見えずらい。装備とか護符とかも突破しやすいわなぁ。だけど……よぉ、広すぎんだろがよっ」
笑うヴィン・マイコン。
周りを見渡すと、その魔法の欠点が見えた。
その影響は、想像以上に広範囲にわたるのだ。
「うあぁあ……」
「おっ……おぇ」
目が痛い、耳がおかしい。
そして吐き気がする。
あまりに激しいマナの濁流。
爆心地から遠いハズの人間ですら、耳や頭を押さえながらうずくまり、悲鳴を上げていた。
「あぁ……ヤベッ。すげぇな。俺が見てきた魔法でも、トップ5にヤバいじゃんよっ。人間レベルじゃねえぞっ!? ハハッ」
笑いながらステップを踏むヴィン・マイコン。
「くそっ。なぜこれで死なないっ!?」
驚愕するゴディン。
目の前ではヴィン・マイコンが、自分の最強の一撃の中を踊り狂っている。
そして……。
ヒュウ
その場にいた水の民約30人。
彼ら全てを飲み込み、消し飛ばす程の魔力。
それがあっさりと終わり、マナが途切れた。
残ったのは、笑うヴィン・マイコン。大汗をかくゴディン。2人のみ。
「コイツ……どうやってそんな……」
「あたた」
綺麗に消し飛んだ跡地で、薄ら笑いを浮かべて立っている伝説の傭兵。
それは、余裕の笑みだ。
どう見ても壮健なヴィン・マイコン。
「お前ほんとすげえよな。マナだけは。魔法だけのだけは。マジそれ〝だけ″はすげえよな~。へへっ」
「クッ、それは私への……。この神の使徒たる者への、嫌みか何かかっっ!?」
「あったり~」
ビキキッ!
ゴディンのこめかみに血のスジが浮かぶ。
へらっへら笑いながらゴディンを指差すヴィン・マイコン。
肉切れと化してしまっていた水の民の『痕跡』へと、ヴィン・マイコンが唾をかける。
「ペッ。お前がビビッて俺に集中しなきゃ、こうならなかったんだぜ? お前は強いんだ、一人でタイマン張れば良かったのに。ま~そうすっと? お前は勝てっこないけどよ。なんせ俺より弱いもんな、神の使徒様よ」
「五月蠅いぞっ! お前の薄汚い価値観なぞ私に押し付けるなっ。我は偉大なるダヌディナ神の使徒だっ。強さや力自慢、そんな下等な値観などには囚われないっ!」
「でもそれってどうなんだ? 弱くても気にしないって……。お前ら確か、神殿の守り人も兼ねてたはず。忘れたのかよ? 脳足りんの僕ちゃんのお仕事だ。大事な話だぞ~」
「くぅっ!? あぁ言えばこう言いやがってぇっ! 不敬な奴めっ!」
歯を食いしばるゴディンから、骨が砕けるような音が聞こえた。
そしてゴディンがヴィン・マイコンへと、魔法を打ち込み始める。
「ふふっ。それを会話って言うんだよ、たこすけ。で、神の門番様が、人間風情に遅れをとるとかさぁ。精進足りてねえんじゃねえの? いっぺん神様に聞いてくれよ。ご自慢のそのお口でな。僕ちん弱いけど良いですかね~。神様に守ってもらうだけの、ヒモでいいですか~?ってさ」
「精進が足りてないだとっ!? どの口でさえずるっ!? 貴様ら傭兵の、この聖地での暴虐を棚に上げてよくもっ! ふざけるなよっ! 神を守らなければならないのは人間も同じだろうっ! 町を無茶苦茶にしやがってっ!」
「あぁ、なるほど。確かに確かに。弱い者いじめは良くなかったよな? 仲良く仲良く、強い俺様に先陣を切って神様を守って欲しいって。そういう事か。う~ん、じゃあ負け犬のゴディン君。俺が神様守ってやっから、その間パンでも買って来いよ」
ピーンっ
銅貨をゴディンに向けて、指ではじいてやる傭兵長殿。
「誰が弱い者だとっ!? 一度として私が人間より劣った事があるかよっ! その不遜な行動、なぜ改められないのだっ!? お前は神が愛しくはないのかっ!? 我ら水の民には、神の寵愛があるのだぞっ! 私は神に愛された者だというのにっ!」
挑発に乗って、魔法攻撃を加速するゴディン。
無言で魔法を撃てる分、無駄口が多くなる。
言い合いにもなりやすかった。
「神の愛ぃ~? そんなの聞いちゃいないさ。ここは戦場だ。お前がクソから生まれようと、母ちゃんの股ぐらから生まれていようと関係ないね。神に愛されたお前に聞こうかっ!? この戦場において、お前は神に何ができる? えっ!?」
「わっ、我らは神の尖兵だっ! 神の為に勝利をもたらすのだっ! お前らのような害虫を処理してなっ!」
「お前が神の為にできる事が、戦う事だっつぅなら……。神の愛語るより、神にどうやって勝利を捧げるかを考えろよ。ほらコイツ見てみ、この仲間をっ」
スパンっ!
「ぐぇっ!?」
ヴィン・マイコンが、自らが指さした住民の首をはねる。
この乱戦になってから、次々と優秀な魔法士であるはずの住民達が、なす術なく死んでいた。
いくらМP・魔力2割増しであろうと、作戦がヘタレていれば木人も同じ。
「さっきもお前がタイマン張りさえすれば、戦争には勝てる見込みがあったんだっ! でも今、せっかくの勝てるチャンスが無能の指揮官のせいでっ、て話だよ。神への勝利を自分のせいで手放してってんぜっ!」
「こっ、これは……っ。そっ、そうだ個人の問題だっ! 現に私は生き残れているっ。死んでいくのは全員、自分の怠慢で努力が足りていないからさっ! そう、神への信心が足りないんだよっ。私の失態などではないっ!」
「何言ってんの? どーせパパの力でシャシャリ出てきて、さも当然に、そして当たり前のようにリーダーになったんだろ? だがリーダーっつう名目に固執するだけのお前には、分からんだろうが……。戦場の不手際は全部、リーダーのせいなんだぜっ!」
スパンっ!
「この首なしもお前の責任、な」
ぽいっ!
ドサッ!
「こっちにこんな汚い物を投げるなっ。汚れるだろうがっ!」
パキッ!
飛んでいく生首。
それを見てヴィン・マイコンが、ため息をつく。
「あぁ、責任感なんていう、高尚な言葉は分からんか、神に選ばれしお前みたいなクソには。御父上も同じだそうだな? やっぱ似てるよ、お前らゴミ親子っ!」
ヴィン・マイコンはひたすらに、氷の魔法に水の魔法、そう言った有象無象を避けまくる。
そうしながらペラペラと口を動かし、おしゃべりをした。
「なっ……何っ!? 貴様、私とあの方が同じだとっ!? アイツは母上っ。く……っ。こっ、このっ! 下民如きが私に口答えするなっ! 口を閉じていろよっ!」
生まれてこのかた、反論など滅多にされないせいだろうか?
馬鹿にされた経験がゴディンには浅い。
顔を真っ赤にし始め、魔法を打つ手が汗ばんでいた。
「じゃあ下民から聞こうか? 指導者としては実際の所、聖地を無様に明け渡しちゃってる今の現状。リーダー様、一言ど~ぞっ」
「ぐっ!? こっ……これは、私ではなく……お前たちが不当にっ!」
「不当? へぇ、それで? 不当だからなんだってんだ? 不当な行為が来たらおめぇ、神様を守れないってのかよ?」
「……」
ヴィン・マイコンへの言葉に、ゴディンのコメカミがヒクつく。
「へへっ」
すぅ……。
「神を守るってのはな、命をかけてやるもんだ。女のケツしか追ってねえお前に、神を守るっていう気概がっ。本気がっ! てめえの魂にいっぺんでもあんのかよっっ!?」
びくんっ!
「――」
突然だった。
ヴィン・マイコンが見せた、本気のトーン。
強い、異臭のような感覚がした。
殺気の匂い。
戦場の音が止まった。
ゴディンが反論できず、魔法を放っていた手を止めてしまう。
「じゃ~あ~。今度は人としてのゴディンなっ! 人としてなら~、俺に勝てないなぁ。前も負けてた。あれ? どっちも負けてんじゃんっ。こりゃ無能というしかねえわっ。神様は無能が好きなのかね? どう思う。ゴムノン君?」
「なっ!? なな……っ、なんだと貴様ー?」
ヴィン・マイコンの言葉に、気を取り戻したゴディン。
ゴディンが信じられないと言った顔で耳を疑い、激怒する。
「私が無能だとっ!? 神のお言葉が聞こえる私を無能呼ばわりするのかっ。無能とは能力が無いと書くんだっ、無能っ! それは神の与えて下さった、神託を扱う能力に対する〝ヒューマン・ディスグレイス(人類汚辱)″っ! それに他ならないんだぞっ」
「……」
ゴディンの言葉に肩をすくめた傭兵長殿。
「おいっ!? 他の傭兵達っ! お前らも聞こえただろうっ。この者は神のお声を届ける能力を今っ、確かに間違いなく侮辱したっ! お前たちの指導者は、悪逆の尻尾を出したのだーっ!」
――。
「あぁ~ん? 何か聞こえたか?」
「いんやぁ? わっかんねえなぁ」
ブタの耳に念仏。傭兵の心に、人類汚辱。
傭兵達が耳をゴディンに向けて、わざわざ聞こえないといった、大きなゼスチャーをした。
「はぁ……。はぁ……。ここは……。ここは一体、どうなっているっ!? 馬鹿なっ、馬鹿な馬鹿なっ! 人類への反逆の言葉だぞっ。そんな物が……っ。そんなのがあって良い訳がっ!?」
自分を小馬鹿にしてくる傭兵達に、魔法を投げつけたゴディン。
「うっへぇっ!」
力いっぱい投げられた魔法は、空を切った。
傭兵達が逃げて行く。
今、彼を取り囲んでいるのは、人類のカスを集めた存在達だ。
ゴディンにとって耐えられない環境だろう。
あまりの環境に、神の使徒が耳と目を疑う。
すると――。
「良いね」
舌なめずりする、この男。
「あぁそういやゴムノン君は、ジキムートに勝ったんだってな。ジキムート以上俺未満。って事は……だ、アイツ弱えんだな、お前みたいな無能のチンピラに負けるなんて、よ」
ヴィン・マイコンが左右を見ながら、『裂け目』を見つける。
「ジキムートぉ? ジキムートって誰だよゴミがっ!」
ザスザスザスッ!
「ひひっ。アイツ、名前覚えられてねえでやんのっ!」
氷を避けながら、ヴィン・マイコンが何かを探していた。
「それにゴムノンだとっ!? 絶対にその名で呼ぶなっ! そして母様に謝れっ。私の無能を取り消せよっ」
百に届こうかという、氷の刃がヴィン・マイコンを襲った。
「……」
「王族ですら私を馬鹿にしたことはないんだぞっ! 母様は私が、この偉大な神の一族の長になるのを待ってたっ! 予言を聞けると言ったら喜んでくれたっ! 母様は何より神を愛し、そして偉大なる神の――っ」
ヒュンッ!
「掃除婦……なっ」
何百と言う攻撃の隙間。
少しの風穴。
そこから左の腕をのばし、ゴディンを攻撃したヴィン・マイコン。
バスっ!
「ぐあぁっ!?」
攻撃に集中しすぎている。
あっさりと氷の刃のすき間を抜けられ、ヴィン・マイコンの攻撃を食らうゴディン。
――と言っても、デコピン程度だが。
ぷしゃっ!
「いつぅ……。くぅ。うぅううう」
額から血を流し、うずくまるゴディン。
缶ジュースの缶をへこませる、2メートルに及ぶ大男が繰り出す、ただのデコピンだ。
「そんなん痛い訳ないだろう」
「クソクソッ。糞ガァッ!」
ゴディンは涙目になりながら、ヴィン・マイコンを攻撃し続けた。
「ヤケになっちゃって。まあ」
へらりと笑うヴィン・マイコン。
その汗をぬぐう。
「……」
「……ぉっ」
眼の端に何かが見えたその瞬間、ヴィン・マイコンが何かを見つけ、ピタリと止まった。
「あれってかなり、ヤバいんじゃない? おいおい、やっぱそうかよ。お前と遊ぶのは終わりだゴディンっ! じゃなっ」
ある物を見て、あっさりと戦線を離脱したヴィン・マイコン。
ゴディンを置いて、駆けだしていく。
ニヤリッ。
その魔法は氷と言うよりは、マナの〝すり鉢″を作ったに近いかもしれない。
殺意あるマナを広げ、そこにいる者全て、一人残さずスリ潰そうと躍動するマナ。
「うぁあああっ!?」
「体がっ!?体がーっ!」
人々がその渦に巻き込まれていく。
ヒヒーンっ!
ヴィン・マイコンが乗った馬も、光の中で分解されていった。
傭兵長が慌てて馬からジャンプし、限りなく魔力の中心から遠くへと飛び降りる。
だが――っ!
「その程度じゃ逃げ切れないぞっ!」
光の範囲はすさまじく広く、ヴィン・マイコンが降り立とうとする場にもしっかりと、渦を巻いていた。
「へぇ考えたね、ゴディンちゃん。こうすりゃ確かに、魔法全体が見えずらい。装備とか護符とかも突破しやすいわなぁ。だけど……よぉ、広すぎんだろがよっ」
笑うヴィン・マイコン。
周りを見渡すと、その魔法の欠点が見えた。
その影響は、想像以上に広範囲にわたるのだ。
「うあぁあ……」
「おっ……おぇ」
目が痛い、耳がおかしい。
そして吐き気がする。
あまりに激しいマナの濁流。
爆心地から遠いハズの人間ですら、耳や頭を押さえながらうずくまり、悲鳴を上げていた。
「あぁ……ヤベッ。すげぇな。俺が見てきた魔法でも、トップ5にヤバいじゃんよっ。人間レベルじゃねえぞっ!? ハハッ」
笑いながらステップを踏むヴィン・マイコン。
「くそっ。なぜこれで死なないっ!?」
驚愕するゴディン。
目の前ではヴィン・マイコンが、自分の最強の一撃の中を踊り狂っている。
そして……。
ヒュウ
その場にいた水の民約30人。
彼ら全てを飲み込み、消し飛ばす程の魔力。
それがあっさりと終わり、マナが途切れた。
残ったのは、笑うヴィン・マイコン。大汗をかくゴディン。2人のみ。
「コイツ……どうやってそんな……」
「あたた」
綺麗に消し飛んだ跡地で、薄ら笑いを浮かべて立っている伝説の傭兵。
それは、余裕の笑みだ。
どう見ても壮健なヴィン・マイコン。
「お前ほんとすげえよな。マナだけは。魔法だけのだけは。マジそれ〝だけ″はすげえよな~。へへっ」
「クッ、それは私への……。この神の使徒たる者への、嫌みか何かかっっ!?」
「あったり~」
ビキキッ!
ゴディンのこめかみに血のスジが浮かぶ。
へらっへら笑いながらゴディンを指差すヴィン・マイコン。
肉切れと化してしまっていた水の民の『痕跡』へと、ヴィン・マイコンが唾をかける。
「ペッ。お前がビビッて俺に集中しなきゃ、こうならなかったんだぜ? お前は強いんだ、一人でタイマン張れば良かったのに。ま~そうすっと? お前は勝てっこないけどよ。なんせ俺より弱いもんな、神の使徒様よ」
「五月蠅いぞっ! お前の薄汚い価値観なぞ私に押し付けるなっ。我は偉大なるダヌディナ神の使徒だっ。強さや力自慢、そんな下等な値観などには囚われないっ!」
「でもそれってどうなんだ? 弱くても気にしないって……。お前ら確か、神殿の守り人も兼ねてたはず。忘れたのかよ? 脳足りんの僕ちゃんのお仕事だ。大事な話だぞ~」
「くぅっ!? あぁ言えばこう言いやがってぇっ! 不敬な奴めっ!」
歯を食いしばるゴディンから、骨が砕けるような音が聞こえた。
そしてゴディンがヴィン・マイコンへと、魔法を打ち込み始める。
「ふふっ。それを会話って言うんだよ、たこすけ。で、神の門番様が、人間風情に遅れをとるとかさぁ。精進足りてねえんじゃねえの? いっぺん神様に聞いてくれよ。ご自慢のそのお口でな。僕ちん弱いけど良いですかね~。神様に守ってもらうだけの、ヒモでいいですか~?ってさ」
「精進が足りてないだとっ!? どの口でさえずるっ!? 貴様ら傭兵の、この聖地での暴虐を棚に上げてよくもっ! ふざけるなよっ! 神を守らなければならないのは人間も同じだろうっ! 町を無茶苦茶にしやがってっ!」
「あぁ、なるほど。確かに確かに。弱い者いじめは良くなかったよな? 仲良く仲良く、強い俺様に先陣を切って神様を守って欲しいって。そういう事か。う~ん、じゃあ負け犬のゴディン君。俺が神様守ってやっから、その間パンでも買って来いよ」
ピーンっ
銅貨をゴディンに向けて、指ではじいてやる傭兵長殿。
「誰が弱い者だとっ!? 一度として私が人間より劣った事があるかよっ! その不遜な行動、なぜ改められないのだっ!? お前は神が愛しくはないのかっ!? 我ら水の民には、神の寵愛があるのだぞっ! 私は神に愛された者だというのにっ!」
挑発に乗って、魔法攻撃を加速するゴディン。
無言で魔法を撃てる分、無駄口が多くなる。
言い合いにもなりやすかった。
「神の愛ぃ~? そんなの聞いちゃいないさ。ここは戦場だ。お前がクソから生まれようと、母ちゃんの股ぐらから生まれていようと関係ないね。神に愛されたお前に聞こうかっ!? この戦場において、お前は神に何ができる? えっ!?」
「わっ、我らは神の尖兵だっ! 神の為に勝利をもたらすのだっ! お前らのような害虫を処理してなっ!」
「お前が神の為にできる事が、戦う事だっつぅなら……。神の愛語るより、神にどうやって勝利を捧げるかを考えろよ。ほらコイツ見てみ、この仲間をっ」
スパンっ!
「ぐぇっ!?」
ヴィン・マイコンが、自らが指さした住民の首をはねる。
この乱戦になってから、次々と優秀な魔法士であるはずの住民達が、なす術なく死んでいた。
いくらМP・魔力2割増しであろうと、作戦がヘタレていれば木人も同じ。
「さっきもお前がタイマン張りさえすれば、戦争には勝てる見込みがあったんだっ! でも今、せっかくの勝てるチャンスが無能の指揮官のせいでっ、て話だよ。神への勝利を自分のせいで手放してってんぜっ!」
「こっ、これは……っ。そっ、そうだ個人の問題だっ! 現に私は生き残れているっ。死んでいくのは全員、自分の怠慢で努力が足りていないからさっ! そう、神への信心が足りないんだよっ。私の失態などではないっ!」
「何言ってんの? どーせパパの力でシャシャリ出てきて、さも当然に、そして当たり前のようにリーダーになったんだろ? だがリーダーっつう名目に固執するだけのお前には、分からんだろうが……。戦場の不手際は全部、リーダーのせいなんだぜっ!」
スパンっ!
「この首なしもお前の責任、な」
ぽいっ!
ドサッ!
「こっちにこんな汚い物を投げるなっ。汚れるだろうがっ!」
パキッ!
飛んでいく生首。
それを見てヴィン・マイコンが、ため息をつく。
「あぁ、責任感なんていう、高尚な言葉は分からんか、神に選ばれしお前みたいなクソには。御父上も同じだそうだな? やっぱ似てるよ、お前らゴミ親子っ!」
ヴィン・マイコンはひたすらに、氷の魔法に水の魔法、そう言った有象無象を避けまくる。
そうしながらペラペラと口を動かし、おしゃべりをした。
「なっ……何っ!? 貴様、私とあの方が同じだとっ!? アイツは母上っ。く……っ。こっ、このっ! 下民如きが私に口答えするなっ! 口を閉じていろよっ!」
生まれてこのかた、反論など滅多にされないせいだろうか?
馬鹿にされた経験がゴディンには浅い。
顔を真っ赤にし始め、魔法を打つ手が汗ばんでいた。
「じゃあ下民から聞こうか? 指導者としては実際の所、聖地を無様に明け渡しちゃってる今の現状。リーダー様、一言ど~ぞっ」
「ぐっ!? こっ……これは、私ではなく……お前たちが不当にっ!」
「不当? へぇ、それで? 不当だからなんだってんだ? 不当な行為が来たらおめぇ、神様を守れないってのかよ?」
「……」
ヴィン・マイコンへの言葉に、ゴディンのコメカミがヒクつく。
「へへっ」
すぅ……。
「神を守るってのはな、命をかけてやるもんだ。女のケツしか追ってねえお前に、神を守るっていう気概がっ。本気がっ! てめえの魂にいっぺんでもあんのかよっっ!?」
びくんっ!
「――」
突然だった。
ヴィン・マイコンが見せた、本気のトーン。
強い、異臭のような感覚がした。
殺気の匂い。
戦場の音が止まった。
ゴディンが反論できず、魔法を放っていた手を止めてしまう。
「じゃ~あ~。今度は人としてのゴディンなっ! 人としてなら~、俺に勝てないなぁ。前も負けてた。あれ? どっちも負けてんじゃんっ。こりゃ無能というしかねえわっ。神様は無能が好きなのかね? どう思う。ゴムノン君?」
「なっ!? なな……っ、なんだと貴様ー?」
ヴィン・マイコンの言葉に、気を取り戻したゴディン。
ゴディンが信じられないと言った顔で耳を疑い、激怒する。
「私が無能だとっ!? 神のお言葉が聞こえる私を無能呼ばわりするのかっ。無能とは能力が無いと書くんだっ、無能っ! それは神の与えて下さった、神託を扱う能力に対する〝ヒューマン・ディスグレイス(人類汚辱)″っ! それに他ならないんだぞっ」
「……」
ゴディンの言葉に肩をすくめた傭兵長殿。
「おいっ!? 他の傭兵達っ! お前らも聞こえただろうっ。この者は神のお声を届ける能力を今っ、確かに間違いなく侮辱したっ! お前たちの指導者は、悪逆の尻尾を出したのだーっ!」
――。
「あぁ~ん? 何か聞こえたか?」
「いんやぁ? わっかんねえなぁ」
ブタの耳に念仏。傭兵の心に、人類汚辱。
傭兵達が耳をゴディンに向けて、わざわざ聞こえないといった、大きなゼスチャーをした。
「はぁ……。はぁ……。ここは……。ここは一体、どうなっているっ!? 馬鹿なっ、馬鹿な馬鹿なっ! 人類への反逆の言葉だぞっ。そんな物が……っ。そんなのがあって良い訳がっ!?」
自分を小馬鹿にしてくる傭兵達に、魔法を投げつけたゴディン。
「うっへぇっ!」
力いっぱい投げられた魔法は、空を切った。
傭兵達が逃げて行く。
今、彼を取り囲んでいるのは、人類のカスを集めた存在達だ。
ゴディンにとって耐えられない環境だろう。
あまりの環境に、神の使徒が耳と目を疑う。
すると――。
「良いね」
舌なめずりする、この男。
「あぁそういやゴムノン君は、ジキムートに勝ったんだってな。ジキムート以上俺未満。って事は……だ、アイツ弱えんだな、お前みたいな無能のチンピラに負けるなんて、よ」
ヴィン・マイコンが左右を見ながら、『裂け目』を見つける。
「ジキムートぉ? ジキムートって誰だよゴミがっ!」
ザスザスザスッ!
「ひひっ。アイツ、名前覚えられてねえでやんのっ!」
氷を避けながら、ヴィン・マイコンが何かを探していた。
「それにゴムノンだとっ!? 絶対にその名で呼ぶなっ! そして母様に謝れっ。私の無能を取り消せよっ」
百に届こうかという、氷の刃がヴィン・マイコンを襲った。
「……」
「王族ですら私を馬鹿にしたことはないんだぞっ! 母様は私が、この偉大な神の一族の長になるのを待ってたっ! 予言を聞けると言ったら喜んでくれたっ! 母様は何より神を愛し、そして偉大なる神の――っ」
ヒュンッ!
「掃除婦……なっ」
何百と言う攻撃の隙間。
少しの風穴。
そこから左の腕をのばし、ゴディンを攻撃したヴィン・マイコン。
バスっ!
「ぐあぁっ!?」
攻撃に集中しすぎている。
あっさりと氷の刃のすき間を抜けられ、ヴィン・マイコンの攻撃を食らうゴディン。
――と言っても、デコピン程度だが。
ぷしゃっ!
「いつぅ……。くぅ。うぅううう」
額から血を流し、うずくまるゴディン。
缶ジュースの缶をへこませる、2メートルに及ぶ大男が繰り出す、ただのデコピンだ。
「そんなん痛い訳ないだろう」
「クソクソッ。糞ガァッ!」
ゴディンは涙目になりながら、ヴィン・マイコンを攻撃し続けた。
「ヤケになっちゃって。まあ」
へらりと笑うヴィン・マイコン。
その汗をぬぐう。
「……」
「……ぉっ」
眼の端に何かが見えたその瞬間、ヴィン・マイコンが何かを見つけ、ピタリと止まった。
「あれってかなり、ヤバいんじゃない? おいおい、やっぱそうかよ。お前と遊ぶのは終わりだゴディンっ! じゃなっ」
ある物を見て、あっさりと戦線を離脱したヴィン・マイコン。
ゴディンを置いて、駆けだしていく。
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しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
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