異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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3章 潜入壊滅作戦

真意

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「ひどいじゃないか、彼女らは助けを呼んでいた」

「……と言いつつ、ナイフを持っている。必要とあればあなた達は娼婦ごと殺していたのでしょう? 魔法が使えないから中に入るしかなかっただけで」

美しい銀髪をかき上げ、レキの持ったクナイを指すノーティス。

「まぁ……ね。カッコよく言って見たかっただけさ。ふふっ」

レキは笑ってうなずく。

彼女はそこまで浅はかではない。

しっかりと罠だと分かっていた。


「あのまま見過ごせば挟み撃ちだったからな。鳴き声をメスブタ共が上げてくれて、良かったよ。そう……ブタ女が鳴いてくれてなっ!」

笑ったローラはそのままナイフを構え、ノーティスに向く。


「あらら、疑っておられる……と。ふふっ」

「当然だろうがっ。我らが攻勢をかけようと戦力を分散したそのタイミングで、奴らが攻撃を仕掛けてきたっ! これは内部の事情がバレてないとできない事だっ」

「ふふっ。そりゃあまぁ、バラしましたからね。でもよく考えてみてください、忠犬ローラ。バラされても、良かったのでは? 戦力が分散されなければ、この地下水道も敵で溢れかえってましたよ。ちょっと私がそそのかしておきました」

あっさりと自供して笑うノーティス。

その顔には一点の曇りがない。


「そそのかした?」

「ええ。おそらくは来るのは3人。その中にはおそらくヴィン・マイコンがいない。ならここで外に打って出て、ヴィン・マイコンを討つしかないって、ね。アイツらはえらく、ヴィン・マイコンに怯えてましたから。何せあの〝スペルレス(神の寵愛深き物)″ゴディンを仕留めかけたんだ。まぁ、当然ですね」

「なるほど、だから上の戦力が多大になっているのか。普段はヴィンを討ちたきゃ、僕らも相手しななきゃいけなくなるからね。狙いをアイツ一人に絞るなら逆に、今が絶好の機会ってわけだ。……ムカつくね。ヴィンより僕の方が強いのに」

レキがうんうんと唸り、不満そうな顔をする。

彼ら水の民にとって優先順位は、ヴィン・マイコンの方が上だった訳である。

レキは、勇者としてのプライドに傷がついた様子だ。

「確かに、君が言う事は正しいな。だが、そうなれば君が指定したココ。この位置から僕らが来るのも奴らは、知っているハズだよね」

眼鏡を上げるレキ。

赤の双眸が、ノーティスをしっかりと捕らえている。


「そうです。だがそれでも行くのでしょう? 確かに、スキを突いた潜入はできなくなった。ただ私は現実的に考えてまして。潜入まではまだしも、スキを突いたマッデンへの攻撃。それは無理だと判断していただけ。この精鋭を寄こしたのは結局、どんなに危なくなっても戦い抜く人間だからだ。違いはそれ程ないですよ」

4人は見合う。

ノーティスの言う事は、理屈としては間違いではない。

「確かに、な。だが、娼婦くずれのお前はどうやってノコノコとここまで来た? あいつら。特にゴディンのようなゴミがあっさりと、お前を無傷で返す訳がない。そのまま楽しくゴミ豚同士、交尾とでもしゃれこむのが普通だろう?」

「それは……処女の乙女の秘密ですよ、忠犬の淫売アサシンさん。ふふっ」

細い指を唇に当て、笑うノーティス。

「……」

「……わりいが俺も、お前を信用できないな」

そう言ってジキムートが、バスタードソードを抜く。


「ええ、そうですね。確かに正解ですよ、それが。ですが一つ。中にはマッデンがいます。あの高名な。ゴディンのようなエセ〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)〟とは違う、本当の神の腹心はあのデブ一人だ。ソイツがこの先待っている。意味は分かりますね?」

ノーティスの言葉に、ジキムートが問い返す。

「当然、ゴディンより……?」

「強いですね。間違いなく」

その言葉に苛立ちながら、レキが頭を掻きむしる。

「私は別に、今から帰ってヴィエッタへとご報告してもよい。私の任務は終わりましたから。ですが、手伝ってあげますよ少しだけ、ね。私のような戦力を少しでも増やしたいでしょう」

色々とジキムート達の考えが錯綜する。

仲間かどうかすら分からない、この女。

連れて行くには恐ろしい。


(でも裏切り者だとしたら、むしろ返せないね。ヴィンの奴が後ろからやられてしまう事になる。まぁアイツは死なないだろうけど、でもあの能力は万能じゃない。さすがに、か。)

(ノーティスはヴィエッタの子飼いだったな。ノーティスを信じるって事は、ヴィエッタを信じるって事。――ふふっ。これはかなり厳しいが、な。だが、そもそもあの女の策略ありきでココに来たんだ。異世界脱出に必要悪って事か)

(このアマ、一体何を敵に漏らした? バラしたのは奇襲作戦だけとは限らんからなっ! 我らの戦力、いや、私のこの『靴』の事をどこまで教えたんだ。どうせなら今、殺したい。)

「貴様。他に何をしゃべった? 私達の能力についてだとか。騎士団の備蓄などだ」

「あぁ。それは何も。だって私は、マッデンを殺すつもりでしたからね。ただ――」

「ただ?」

「色々と、上の奴らが喜びそうな作戦を教えてはあげましたけれども。ふふっ」

銀の髪を払い、上を指すノーティス。

恐らくは、地上攻撃部隊の事を指しているのだろう。


「へぇ。上で戦ってるヴィンの、その相棒たる僕にそれを言うとは君、なかなか度胸あるね」

赤の双眸がノーティスを睨んで見据える。

「ですが、そうするしかなかったんですよ~。分かって下さいよ~。私も貞操は守りたいんですよぉ」

かわい子ぶるように、体を揺するノーティス。

比較的小柄な体と大きな胸が、可愛く揺れる。

(うざい小娘がっ! どんな言葉を聞いてもコイツは信用できないなっ! いっそ脳に直接聞いてやろうか? カチ割って、なぁ)

ローラがナイフを握る手に力を入れた。

だが――。


(一体コイツの何を、ヴィエッタ様は信用なされているのか……。クソっ!)

迷いがローラを踏みとどまらせた。

この女を信頼するというヴィエッタの思惑。

だがノーティスに背中を預けて問題ないのか、と。不安は尽きない。

全てが思考の闇へと消えていく。すると……。

「……ちっ。しょうがない。おいお前、私の能力は知っているな? だったら後ろに注意をしようがしまいが、意味がない事。それを良く覚えておけっ! 少しでも怪しいと思えばすぐにブッ殺すっ。良いなっ!」

ローラが諦めたように舌打ちした。


「それに、もう話し合いをする時間は――。なさそうだよねっ」

レキが見やる向こうに、わずかだが光が揺らめく。

おそらくは相当数の兵がやって来ているだろう。

ローラとレキはノーティスから手を引き、そちらの増援のほうを向いた。


「ところでノーティスよ。お前その服、どうした?」

ジキムートがノーティスに聞く。

「服ですか? どうと言う事ない、似たのを調達しただけですよ」

そのノーティスの言葉に目線を落とし、大きなノーティスの胸部を見やるジキムート。

(間違いなく連れ去られたあの時、胸の部分が破られてた。だが、コイツの荷物量なら代えの服は入ってなかったはず。そんで、今着ている服は、あの時のと似過ぎときた。恐らくは同じ。とすれば、どうやって同じ服を調達したのか――)

考えながらジキムートが笑う。

「そう、か。もっかいあの、すんごいデカパイ。あれ拝みたかったのになぁ。へへっ」

「ふふっ、後と言わずここで、殺しますよ?」

ヨダレを垂らさんばかりに胸を覗くジキムートに、二コリっと笑うノーティス。


「来たぞっ!」

迫る炎の揺らぎがついに、人影に変わった瞬間……。

「任せろよっ!」

叫んでジキムートが、一気に走りこんだ。

「ひいいっ!?」

出会い頭に突如、リズムもタイミングも何もかもお構いなし。

重厚そうな鎧の男が、高速で突っ込んでくる。

それに一同が面喰い、一気に水の民の陣形が崩れた。

「さすがのペテン、か。常人、特に魔法依存の人間との出会いがしら。その時の奴の強さは異常だな」

笑うローラ。

そしてすぐに、彼女もナイフを握る。

4人はその、最も危険な戦いへと身を投じていった……。
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