85 / 145
3章 潜入壊滅作戦
潜入作戦
しおりを挟む
「おいっ。ノーティスが見つかったってのは、本当なのかっ!?」
「あぁ、ただ居場所が分かっただけだが……よ」
急いで入ってくるジキムートに、ヴィン・マイコンが冷静に答えた。
何か機嫌が悪そうだ。
「でも〝居場所″っつってももう、アイツは死んでる可能性もあるんじゃねえのかよっ。大体あんなゴミ野郎共がおいそれと、いったん巣に引きずり込んだエサを放さねえだろっ!?」
「それはねえ。あのヴィッチなお嬢様によれば、奴は潜入のプロ。特に男相手にならば、貴族であろうが王族であろうが、必ず成功させるっていう、かなりのヤリ手らしいぜぇ?」
「潜入、だと? 待てよっ……。それって、それはまさか……あれ自体がっ!?」
ジキムートの脳裏に浮かぶ、ノーティスがさらわれた瞬間。
「そう、奴のお芝居って事だ。捕まれば、奴らは巣穴にごちそうを持ち込む。それを狙ってた訳さ。まぁでも~、お前がゴディン君に勝てそうならばぁ? プランも話は違ったかもなぁ。だろっ? ゴディンごときに勝てない傭兵、ジキムートさんよぉ」
「ちっ……。そういう事か」
ヴィン・マイコンの嫌みに、心底嫌な顔をするジキムート。
「しかもどういう訳か、あの売女は無傷で生還するんだと。ふんっ。だから〝バージン・ヘタイライ(娼婦処女)″と呼ばれているらしいぞ。」
ローラが応えた。
ジキムートとはこの聖地では、初対面だが――。
特に、気さくに挨拶する間柄でもない為、2人は流している。
「そんなおとぎ話みたいな事、ホントにありえるのかよ?」
汗をにじませるジキムート。
相手はあのゴディンだ。
あれが女を丁重に迎える、などと言う話は想像もつかない。
「うんまぁ売り込み文句なら、何でもありじゃね? 勝手に後から名前を付けて、自分で売り込む奴なんて五万といんぜ~」
あっさりと、ヴィン・マイコンが言った。
確かに事実だ。
後付けならば、なんとでも言える。
だが、ジキムートにはその時、別の考えが浮かんだ。
(そういやあのゴディンの野郎……。ノーティスに無駄に執心してやがったな。アレがその手の内って奴かも、な。)
「ただ、残念だが事実として奴は、この数年はそれで生き残ってきたんだよ。悪い噂。というより、失敗や仕事を放棄したと言った悪評は聞いてない。私も調べたんだが、な。ヴィエッタ様も、あのクソ売女を信頼されておられる」
傭兵は実績が全て。
確かに、色々な噂を立てて、自分の功績を細工をする者はいる。
そして己は何もせず、名声だけでアグラをかく人間も居なくはない。
だが、取り立てた人間であるヴィエッタが信頼する以上、ある程度は信を任せなければならなかった。
「でも僕はやはり、懐疑的だ。普通に考えて、相手の手に落ちてしまった可能性。そしてその結果逆に、こちらが罠にかかってしまう事を、考えるべきだと思う」
クイっと、真剣な目つきで眼鏡を上げるレキ。
現場では臨機応変が常。
どういう事態が起こっているかはしっかりと、把握しなければならない。
「それには私も賛成だな。不確かな情報で、多量の騎士達をおいそれとは動かせない。戦力は効率的で、論理的な作戦をもってのみ、使うべきだ」
「……ふん。私もあの女に、導線を引かれるのはしゃくさ。だが、これ以上無意味に、策なんぞ語ってもどうしようもないんだぞ。結局は巣穴に特攻、もとい、潜入はせねばならないんだ。この好機をボケっと見ている訳には……な」
ローラが頭を抱える。
深刻そうにな顔で、焦燥感が浮かんでいた。
「えらく手の込んだ芝居やって、焦っているようだが。そんなに奴らの巣穴ってのは、見つかりにくいのかよ? 住民締め上げりゃ、素人が吐かないわけねえだろに」
「あぁそれか。あの巣穴はVIP専用。超秘密なんだわコレが~。鬱陶しい事に、この町の頭らへんにいる奴らは一切、俺らが来た当初から隠れちまってた。そっから従者と一緒に巣穴から出てこない。そんで、外の奴らは全員、全く巣穴の場所は知らねえんだな、これが。用があるときは、拉致されるのさっ」
「攻撃は主に、ガキどもと女の自爆。もしくか、私達が捕まえそうになれば処分だ。私もあんな危ない物、この呪いで捕まえたくもないっ!」
薄ら笑うローラ。
爆弾を、素手で掴むような物だ。
瞬間移動も役には立たないだろう。
「へっ、なるほど。了解。気合入れるわ」
目に殺気が宿るジキムート。
(こりゃマジで、ココが俺の正念場、か。この戦いをしくじる訳にはいかねえな。いざとなったら)
ジキムートは、自分の道具袋の〝神のクスリ″を睨み、喉を触った。
「ならば肝は、どう人員を裂くかだ」
ローラが考え込む。
今ある手持ちは、ジキムート、レキ、ヴィン・マイコン、ローラ。
そして騎士団長ギリンガムだ。
その中でもリーダー特性がある者ない者など、運用が違う。
「まず僕としては……。ジキムートとローラは是非、巣穴攻略班に回したい。どんな場所かも掴めないような、難しい場面になるだろう。だからこそローラのあの、瞬間的な移動が生きるからね。哨戒や偵察にも向いてるし、いざと言うときは逃げ切れて情報だけでも持ち帰れる。ジキムートに関してはまぁ、能力は未知数だよ。ふふっ」
「言ってくれるな。だが……意地汚く生き残るのは、大の得意だっ! ノーティスにしてやられた手前、危ない方でも俺は拒まねえよ」
笑うジキムート。
だが実際は、この言葉は嘘である。
マッデンという獲物がいなければ、危ない方に乗る事は絶対にしないだろう。
「私もそれには賛同だ、レキ副長。時に、コレは電撃戦なのか? それとも袋叩きをする気なのか? ここから道が分かれるぞ」
「そうだね。そうなるとまずはやはり、提起すべきは電撃戦だろう。敵に気づかれていないという前提なら今が、最大の好機だから。包囲を敷くのは騎士団さえいれば、後でもできるしね」
眼鏡を上げ、見回すレキ。
彼女の案に、全員が首を縦に振る。
(敵が気づいていないという前提、ね。嫌なフレーズだぜ全く。)
一抹の不安を残しながら……。
「だが、な。それだけでは戦力として不十分。ギリンガムは関してはまぁ、決まってんだ。ここに残って騎士団をまとめ上げ、最も奴らが欲する祭壇。水の民ご執心の神殿の防備に専念。って訳だが……よっ。そうすっと、残るは俺とレキだ」
そこまでは恐らく、誰も反論は無い。
最後の問題はレキとヴィン・マイコン。
2人ともリーダーとしての才が高くそして、戦闘力もピカ一のこの2人だ。
すると――。
「巣穴にはこの勇者、レキが行こう」
すっくと立ち上がるレキっ!
「なっ、なにっ!? なっ……何を馬鹿なっ、バカげてるっ! それはならないっ。そんな危険、冒す理由がないぞっっ!?」
レキの突如の申し出に、汗を流してギリンガムが反論するっ!
「……いや、それが良いんだよ。レキ、お前に頼むわ」
「馬鹿なっ!? 何を言うヴィン・マイコンっ! それでも貴様、相棒かっ!? 残れレキっ! 巣穴へはこのヴィン・マイコンが行けば良いのだっ! そして、残った君と我々騎士団で、防備を固め守ろうではないかっ。そうすれば――」
「いや、ギリンガム。てめえは黙っていろ」
「くっ、私は引かんぞっ! ノーティスは処女娼婦か娼婦処女か、あの女がどうなるかも知らんがっ。だが、レキが手に落ちればどういう目に合うかは分かるだろうっ! 彼女は逃げ切る術を持たんっ。しかも相手は〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″っ。あのような下賤にレキが捕まれば、汚辱の限りを尽くされるのは分かり切っておるっ! こんな無謀、作戦でもなんでもないわーっ!」
ヴィン・マイコンの言葉に兜を脱ぎ捨て、猛抗議するギリンガムっ!
ツバが散るとかそんな次元ではないっ!
今すぐ食い掛る勢いだっ!
しかし……。
「ありがとう、ギリンガム団長。しかし、僕のほうがおそらく、相手は難しいはず。特に団体様相手になれば、ね。君が人選を考えて配置しているのは、僕も知っているよ。それでもアイツらゴミの攻撃を受け、隊員の女性が奪われているのも、ね」
ニコリと、陰のある笑顔を作るレキ。
「だがっ……しかしっ」
「お気遣い感謝する。でもこの場は僕が行くんだ。それが適任なのさっ!」
眼に闘志を燃やし、力強く宣言するレキっ!
レキはそっと、ギリンガムの甲を握った。
ワナワナと震えるギリンガムの手。
「私は……っ、私は納得は……。なぜヴィン・マイコンでは駄目なのだっ!?」
「……」
応えないヴィン・マイコン。
「自分の弱点を傭兵が応える訳が、ねえわな」
ジキムートが独り言ちる。
そして、ギリンガムが力なく肩を落とし、自分の椅子を探した。
「それで、この男は何するんだよ?」
「俺か? 俺は日がな一日酒を食らって、女働かせて生きたいんだよ」
「誰がお前の理想を語れと」
その言葉の次。
ヴィン・マイコンの目に……殺気が宿った。
「俺は――。上に居る奴を傭兵率いて殺し尽くす。ちょっと今回は気になる事があっから、よ。本気出す」
虐殺だ。
紛れもない、一般人狩りを示唆するヴィン・マイコンっ!
こうなったら巣穴と言わず、この聖地を消し飛ばす気なのかもしれない。
それが神にどう思われるかは分からない。
だが少なくとも、ヴィン・マイコンの今の殺気は、神すらも睨み据えていたっ!
「……へぇ。そりゃ、上に振られた一般市民役の連中は、たまったもんじゃないな」
「お悔やみを申しとくよ」
レキとジキムートが笑った。
相手はどうせ、テロ犯だ。
あまり気に病むような相手では無い。
だが、それでもヴィン・マイコンにかかられる奴らは確かに、不憫ではあった。
「では決まりだ。作戦は今から始めるとしよう。気取られる前に……なっ!」
「おうよっ!」
言葉に呼応し、全員が席を立つ。
そして、各々の準備へと取り掛かったっ!
「ギリンガム。君の部下も、助けられそうなら助けてくるよ。待っててくれ」
「レキ副長……。いや、それはもう良いんだ。あいつらも武人の端くれ。例え望まぬ結果にたどり着いたとしてもそれは、剣の道よ。剣の世界に後戻りはないと教えてきた。凶器を持って相手に挑む以上はすでに、おのれの心は死んでいると知っている。もし仮に、相手になって出てくれば、その時は迷わず、斬り伏せてやってくれ」
「……そうか。良い覚悟と、良い教育だっ。君はナイスな男だなっ! ふふっ」
キラリっと笑い、レキがギリンガムの肩をぺちぺちっと叩く。
「……ふっ」
ギリンガムは騎士団という物が持つ、2面性。
人を統治する人間性と、武人という暴力の権化。
その2つの中でも、武の人間である。という信念の方が強いのだろう。
「気をつけろ、レキ副長」
「安心しろ、ギリンガムっ! 僕は勇者になる男だ。〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″なんぞ、僕の敵ではないっ。……ハハハっ!」
レキは自信満々に歩いてくっ!
そして、扉を開けて、出ていってしまった――。
「……。君は女だ。紛れもない女の子だよ、レキ」
ギリンガムはぽつり……とつぶやく。
そのいってしまった扉に。
そして彼は……。
「あぁ、ただ居場所が分かっただけだが……よ」
急いで入ってくるジキムートに、ヴィン・マイコンが冷静に答えた。
何か機嫌が悪そうだ。
「でも〝居場所″っつってももう、アイツは死んでる可能性もあるんじゃねえのかよっ。大体あんなゴミ野郎共がおいそれと、いったん巣に引きずり込んだエサを放さねえだろっ!?」
「それはねえ。あのヴィッチなお嬢様によれば、奴は潜入のプロ。特に男相手にならば、貴族であろうが王族であろうが、必ず成功させるっていう、かなりのヤリ手らしいぜぇ?」
「潜入、だと? 待てよっ……。それって、それはまさか……あれ自体がっ!?」
ジキムートの脳裏に浮かぶ、ノーティスがさらわれた瞬間。
「そう、奴のお芝居って事だ。捕まれば、奴らは巣穴にごちそうを持ち込む。それを狙ってた訳さ。まぁでも~、お前がゴディン君に勝てそうならばぁ? プランも話は違ったかもなぁ。だろっ? ゴディンごときに勝てない傭兵、ジキムートさんよぉ」
「ちっ……。そういう事か」
ヴィン・マイコンの嫌みに、心底嫌な顔をするジキムート。
「しかもどういう訳か、あの売女は無傷で生還するんだと。ふんっ。だから〝バージン・ヘタイライ(娼婦処女)″と呼ばれているらしいぞ。」
ローラが応えた。
ジキムートとはこの聖地では、初対面だが――。
特に、気さくに挨拶する間柄でもない為、2人は流している。
「そんなおとぎ話みたいな事、ホントにありえるのかよ?」
汗をにじませるジキムート。
相手はあのゴディンだ。
あれが女を丁重に迎える、などと言う話は想像もつかない。
「うんまぁ売り込み文句なら、何でもありじゃね? 勝手に後から名前を付けて、自分で売り込む奴なんて五万といんぜ~」
あっさりと、ヴィン・マイコンが言った。
確かに事実だ。
後付けならば、なんとでも言える。
だが、ジキムートにはその時、別の考えが浮かんだ。
(そういやあのゴディンの野郎……。ノーティスに無駄に執心してやがったな。アレがその手の内って奴かも、な。)
「ただ、残念だが事実として奴は、この数年はそれで生き残ってきたんだよ。悪い噂。というより、失敗や仕事を放棄したと言った悪評は聞いてない。私も調べたんだが、な。ヴィエッタ様も、あのクソ売女を信頼されておられる」
傭兵は実績が全て。
確かに、色々な噂を立てて、自分の功績を細工をする者はいる。
そして己は何もせず、名声だけでアグラをかく人間も居なくはない。
だが、取り立てた人間であるヴィエッタが信頼する以上、ある程度は信を任せなければならなかった。
「でも僕はやはり、懐疑的だ。普通に考えて、相手の手に落ちてしまった可能性。そしてその結果逆に、こちらが罠にかかってしまう事を、考えるべきだと思う」
クイっと、真剣な目つきで眼鏡を上げるレキ。
現場では臨機応変が常。
どういう事態が起こっているかはしっかりと、把握しなければならない。
「それには私も賛成だな。不確かな情報で、多量の騎士達をおいそれとは動かせない。戦力は効率的で、論理的な作戦をもってのみ、使うべきだ」
「……ふん。私もあの女に、導線を引かれるのはしゃくさ。だが、これ以上無意味に、策なんぞ語ってもどうしようもないんだぞ。結局は巣穴に特攻、もとい、潜入はせねばならないんだ。この好機をボケっと見ている訳には……な」
ローラが頭を抱える。
深刻そうにな顔で、焦燥感が浮かんでいた。
「えらく手の込んだ芝居やって、焦っているようだが。そんなに奴らの巣穴ってのは、見つかりにくいのかよ? 住民締め上げりゃ、素人が吐かないわけねえだろに」
「あぁそれか。あの巣穴はVIP専用。超秘密なんだわコレが~。鬱陶しい事に、この町の頭らへんにいる奴らは一切、俺らが来た当初から隠れちまってた。そっから従者と一緒に巣穴から出てこない。そんで、外の奴らは全員、全く巣穴の場所は知らねえんだな、これが。用があるときは、拉致されるのさっ」
「攻撃は主に、ガキどもと女の自爆。もしくか、私達が捕まえそうになれば処分だ。私もあんな危ない物、この呪いで捕まえたくもないっ!」
薄ら笑うローラ。
爆弾を、素手で掴むような物だ。
瞬間移動も役には立たないだろう。
「へっ、なるほど。了解。気合入れるわ」
目に殺気が宿るジキムート。
(こりゃマジで、ココが俺の正念場、か。この戦いをしくじる訳にはいかねえな。いざとなったら)
ジキムートは、自分の道具袋の〝神のクスリ″を睨み、喉を触った。
「ならば肝は、どう人員を裂くかだ」
ローラが考え込む。
今ある手持ちは、ジキムート、レキ、ヴィン・マイコン、ローラ。
そして騎士団長ギリンガムだ。
その中でもリーダー特性がある者ない者など、運用が違う。
「まず僕としては……。ジキムートとローラは是非、巣穴攻略班に回したい。どんな場所かも掴めないような、難しい場面になるだろう。だからこそローラのあの、瞬間的な移動が生きるからね。哨戒や偵察にも向いてるし、いざと言うときは逃げ切れて情報だけでも持ち帰れる。ジキムートに関してはまぁ、能力は未知数だよ。ふふっ」
「言ってくれるな。だが……意地汚く生き残るのは、大の得意だっ! ノーティスにしてやられた手前、危ない方でも俺は拒まねえよ」
笑うジキムート。
だが実際は、この言葉は嘘である。
マッデンという獲物がいなければ、危ない方に乗る事は絶対にしないだろう。
「私もそれには賛同だ、レキ副長。時に、コレは電撃戦なのか? それとも袋叩きをする気なのか? ここから道が分かれるぞ」
「そうだね。そうなるとまずはやはり、提起すべきは電撃戦だろう。敵に気づかれていないという前提なら今が、最大の好機だから。包囲を敷くのは騎士団さえいれば、後でもできるしね」
眼鏡を上げ、見回すレキ。
彼女の案に、全員が首を縦に振る。
(敵が気づいていないという前提、ね。嫌なフレーズだぜ全く。)
一抹の不安を残しながら……。
「だが、な。それだけでは戦力として不十分。ギリンガムは関してはまぁ、決まってんだ。ここに残って騎士団をまとめ上げ、最も奴らが欲する祭壇。水の民ご執心の神殿の防備に専念。って訳だが……よっ。そうすっと、残るは俺とレキだ」
そこまでは恐らく、誰も反論は無い。
最後の問題はレキとヴィン・マイコン。
2人ともリーダーとしての才が高くそして、戦闘力もピカ一のこの2人だ。
すると――。
「巣穴にはこの勇者、レキが行こう」
すっくと立ち上がるレキっ!
「なっ、なにっ!? なっ……何を馬鹿なっ、バカげてるっ! それはならないっ。そんな危険、冒す理由がないぞっっ!?」
レキの突如の申し出に、汗を流してギリンガムが反論するっ!
「……いや、それが良いんだよ。レキ、お前に頼むわ」
「馬鹿なっ!? 何を言うヴィン・マイコンっ! それでも貴様、相棒かっ!? 残れレキっ! 巣穴へはこのヴィン・マイコンが行けば良いのだっ! そして、残った君と我々騎士団で、防備を固め守ろうではないかっ。そうすれば――」
「いや、ギリンガム。てめえは黙っていろ」
「くっ、私は引かんぞっ! ノーティスは処女娼婦か娼婦処女か、あの女がどうなるかも知らんがっ。だが、レキが手に落ちればどういう目に合うかは分かるだろうっ! 彼女は逃げ切る術を持たんっ。しかも相手は〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″っ。あのような下賤にレキが捕まれば、汚辱の限りを尽くされるのは分かり切っておるっ! こんな無謀、作戦でもなんでもないわーっ!」
ヴィン・マイコンの言葉に兜を脱ぎ捨て、猛抗議するギリンガムっ!
ツバが散るとかそんな次元ではないっ!
今すぐ食い掛る勢いだっ!
しかし……。
「ありがとう、ギリンガム団長。しかし、僕のほうがおそらく、相手は難しいはず。特に団体様相手になれば、ね。君が人選を考えて配置しているのは、僕も知っているよ。それでもアイツらゴミの攻撃を受け、隊員の女性が奪われているのも、ね」
ニコリと、陰のある笑顔を作るレキ。
「だがっ……しかしっ」
「お気遣い感謝する。でもこの場は僕が行くんだ。それが適任なのさっ!」
眼に闘志を燃やし、力強く宣言するレキっ!
レキはそっと、ギリンガムの甲を握った。
ワナワナと震えるギリンガムの手。
「私は……っ、私は納得は……。なぜヴィン・マイコンでは駄目なのだっ!?」
「……」
応えないヴィン・マイコン。
「自分の弱点を傭兵が応える訳が、ねえわな」
ジキムートが独り言ちる。
そして、ギリンガムが力なく肩を落とし、自分の椅子を探した。
「それで、この男は何するんだよ?」
「俺か? 俺は日がな一日酒を食らって、女働かせて生きたいんだよ」
「誰がお前の理想を語れと」
その言葉の次。
ヴィン・マイコンの目に……殺気が宿った。
「俺は――。上に居る奴を傭兵率いて殺し尽くす。ちょっと今回は気になる事があっから、よ。本気出す」
虐殺だ。
紛れもない、一般人狩りを示唆するヴィン・マイコンっ!
こうなったら巣穴と言わず、この聖地を消し飛ばす気なのかもしれない。
それが神にどう思われるかは分からない。
だが少なくとも、ヴィン・マイコンの今の殺気は、神すらも睨み据えていたっ!
「……へぇ。そりゃ、上に振られた一般市民役の連中は、たまったもんじゃないな」
「お悔やみを申しとくよ」
レキとジキムートが笑った。
相手はどうせ、テロ犯だ。
あまり気に病むような相手では無い。
だが、それでもヴィン・マイコンにかかられる奴らは確かに、不憫ではあった。
「では決まりだ。作戦は今から始めるとしよう。気取られる前に……なっ!」
「おうよっ!」
言葉に呼応し、全員が席を立つ。
そして、各々の準備へと取り掛かったっ!
「ギリンガム。君の部下も、助けられそうなら助けてくるよ。待っててくれ」
「レキ副長……。いや、それはもう良いんだ。あいつらも武人の端くれ。例え望まぬ結果にたどり着いたとしてもそれは、剣の道よ。剣の世界に後戻りはないと教えてきた。凶器を持って相手に挑む以上はすでに、おのれの心は死んでいると知っている。もし仮に、相手になって出てくれば、その時は迷わず、斬り伏せてやってくれ」
「……そうか。良い覚悟と、良い教育だっ。君はナイスな男だなっ! ふふっ」
キラリっと笑い、レキがギリンガムの肩をぺちぺちっと叩く。
「……ふっ」
ギリンガムは騎士団という物が持つ、2面性。
人を統治する人間性と、武人という暴力の権化。
その2つの中でも、武の人間である。という信念の方が強いのだろう。
「気をつけろ、レキ副長」
「安心しろ、ギリンガムっ! 僕は勇者になる男だ。〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″なんぞ、僕の敵ではないっ。……ハハハっ!」
レキは自信満々に歩いてくっ!
そして、扉を開けて、出ていってしまった――。
「……。君は女だ。紛れもない女の子だよ、レキ」
ギリンガムはぽつり……とつぶやく。
そのいってしまった扉に。
そして彼は……。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる