異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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3章 潜入壊滅作戦

潜入作戦

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「おいっ。ノーティスが見つかったってのは、本当なのかっ!?」

「あぁ、ただ居場所が分かっただけだが……よ」

急いで入ってくるジキムートに、ヴィン・マイコンが冷静に答えた。

何か機嫌が悪そうだ。


「でも〝居場所″っつってももう、アイツは死んでる可能性もあるんじゃねえのかよっ。大体あんなゴミ野郎共がおいそれと、いったん巣に引きずり込んだエサを放さねえだろっ!?」

「それはねえ。あのヴィッチなお嬢様によれば、奴は潜入のプロ。特に男相手にならば、貴族であろうが王族であろうが、必ず成功させるっていう、かなりのヤリ手らしいぜぇ?」

「潜入、だと? 待てよっ……。それって、それはまさか……あれ自体がっ!?」

ジキムートの脳裏に浮かぶ、ノーティスがさらわれた瞬間。

「そう、奴のお芝居って事だ。捕まれば、奴らは巣穴にごちそうを持ち込む。それを狙ってた訳さ。まぁでも~、お前がゴディン君に勝てそうならばぁ? プランも話は違ったかもなぁ。だろっ? ゴディンごときに勝てない傭兵、ジキムートさんよぉ」

「ちっ……。そういう事か」

ヴィン・マイコンの嫌みに、心底嫌な顔をするジキムート。


「しかもどういう訳か、あの売女は無傷で生還するんだと。ふんっ。だから〝バージン・ヘタイライ(娼婦処女)″と呼ばれているらしいぞ。」

ローラが応えた。

ジキムートとはこの聖地では、初対面だが――。

特に、気さくに挨拶する間柄でもない為、2人は流している。

「そんなおとぎ話みたいな事、ホントにありえるのかよ?」

汗をにじませるジキムート。

相手はあのゴディンだ。

あれが女を丁重に迎える、などと言う話は想像もつかない。


「うんまぁ売り込み文句なら、何でもありじゃね? 勝手に後から名前を付けて、自分で売り込む奴なんて五万といんぜ~」

あっさりと、ヴィン・マイコンが言った。

確かに事実だ。

後付けならば、なんとでも言える。

だが、ジキムートにはその時、別の考えが浮かんだ。


(そういやあのゴディンの野郎……。ノーティスに無駄に執心してやがったな。アレがその手の内って奴かも、な。)

「ただ、残念だが事実として奴は、この数年はそれで生き残ってきたんだよ。悪い噂。というより、失敗や仕事を放棄したと言った悪評は聞いてない。私も調べたんだが、な。ヴィエッタ様も、あのクソ売女を信頼されておられる」

傭兵は実績が全て。

確かに、色々な噂を立てて、自分の功績を細工をする者はいる。

そして己は何もせず、名声だけでアグラをかく人間も居なくはない。

だが、取り立てた人間であるヴィエッタが信頼する以上、ある程度は信を任せなければならなかった。


「でも僕はやはり、懐疑的だ。普通に考えて、相手の手に落ちてしまった可能性。そしてその結果逆に、こちらが罠にかかってしまう事を、考えるべきだと思う」

クイっと、真剣な目つきで眼鏡を上げるレキ。

現場では臨機応変が常。

どういう事態が起こっているかはしっかりと、把握しなければならない。

「それには私も賛成だな。不確かな情報で、多量の騎士達をおいそれとは動かせない。戦力は効率的で、論理的な作戦をもってのみ、使うべきだ」

「……ふん。私もあの女に、導線を引かれるのはしゃくさ。だが、これ以上無意味に、策なんぞ語ってもどうしようもないんだぞ。結局は巣穴に特攻、もとい、潜入はせねばならないんだ。この好機をボケっと見ている訳には……な」

ローラが頭を抱える。

深刻そうにな顔で、焦燥感が浮かんでいた。


「えらく手の込んだ芝居やって、焦っているようだが。そんなに奴らの巣穴ってのは、見つかりにくいのかよ? 住民締め上げりゃ、素人が吐かないわけねえだろに」

「あぁそれか。あの巣穴はVIP専用。超秘密なんだわコレが~。鬱陶しい事に、この町の頭らへんにいる奴らは一切、俺らが来た当初から隠れちまってた。そっから従者と一緒に巣穴から出てこない。そんで、外の奴らは全員、全く巣穴の場所は知らねえんだな、これが。用があるときは、拉致されるのさっ」

「攻撃は主に、ガキどもと女の自爆。もしくか、私達が捕まえそうになれば処分だ。私もあんな危ない物、この呪いで捕まえたくもないっ!」

薄ら笑うローラ。

爆弾を、素手で掴むような物だ。

瞬間移動も役には立たないだろう。

「へっ、なるほど。了解。気合入れるわ」

目に殺気が宿るジキムート。

(こりゃマジで、ココが俺の正念場、か。この戦いをしくじる訳にはいかねえな。いざとなったら)

ジキムートは、自分の道具袋の〝神のクスリ″を睨み、喉を触った。


「ならば肝は、どう人員を裂くかだ」

ローラが考え込む。

今ある手持ちは、ジキムート、レキ、ヴィン・マイコン、ローラ。

そして騎士団長ギリンガムだ。

その中でもリーダー特性がある者ない者など、運用が違う。


「まず僕としては……。ジキムートとローラは是非、巣穴攻略班に回したい。どんな場所かも掴めないような、難しい場面になるだろう。だからこそローラのあの、瞬間的な移動が生きるからね。哨戒や偵察にも向いてるし、いざと言うときは逃げ切れて情報だけでも持ち帰れる。ジキムートに関してはまぁ、能力は未知数だよ。ふふっ」

「言ってくれるな。だが……意地汚く生き残るのは、大の得意だっ! ノーティスにしてやられた手前、危ない方でも俺は拒まねえよ」

笑うジキムート。

だが実際は、この言葉は嘘である。

マッデンという獲物がいなければ、危ない方に乗る事は絶対にしないだろう。

「私もそれには賛同だ、レキ副長。時に、コレは電撃戦なのか? それとも袋叩きをする気なのか? ここから道が分かれるぞ」

「そうだね。そうなるとまずはやはり、提起すべきは電撃戦だろう。敵に気づかれていないという前提なら今が、最大の好機だから。包囲を敷くのは騎士団さえいれば、後でもできるしね」

眼鏡を上げ、見回すレキ。

彼女の案に、全員が首を縦に振る。

(敵が気づいていないという前提、ね。嫌なフレーズだぜ全く。)

一抹の不安を残しながら……。


「だが、な。それだけでは戦力として不十分。ギリンガムは関してはまぁ、決まってんだ。ここに残って騎士団をまとめ上げ、最も奴らが欲する祭壇。水の民ご執心の神殿の防備に専念。って訳だが……よっ。そうすっと、残るは俺とレキだ」

そこまでは恐らく、誰も反論は無い。

最後の問題はレキとヴィン・マイコン。

2人ともリーダーとしての才が高くそして、戦闘力もピカ一のこの2人だ。

すると――。

「巣穴にはこの勇者、レキが行こう」

すっくと立ち上がるレキっ!


「なっ、なにっ!? なっ……何を馬鹿なっ、バカげてるっ! それはならないっ。そんな危険、冒す理由がないぞっっ!?」

レキの突如の申し出に、汗を流してギリンガムが反論するっ!

「……いや、それが良いんだよ。レキ、お前に頼むわ」

「馬鹿なっ!? 何を言うヴィン・マイコンっ! それでも貴様、相棒かっ!? 残れレキっ! 巣穴へはこのヴィン・マイコンが行けば良いのだっ! そして、残った君と我々騎士団で、防備を固め守ろうではないかっ。そうすれば――」

「いや、ギリンガム。てめえは黙っていろ」

「くっ、私は引かんぞっ! ノーティスは処女娼婦か娼婦処女か、あの女がどうなるかも知らんがっ。だが、レキが手に落ちればどういう目に合うかは分かるだろうっ! 彼女は逃げ切る術を持たんっ。しかも相手は〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″っ。あのような下賤にレキが捕まれば、汚辱の限りを尽くされるのは分かり切っておるっ! こんな無謀、作戦でもなんでもないわーっ!」

ヴィン・マイコンの言葉に兜を脱ぎ捨て、猛抗議するギリンガムっ!

ツバが散るとかそんな次元ではないっ!

今すぐ食い掛る勢いだっ!

しかし……。


「ありがとう、ギリンガム団長。しかし、僕のほうがおそらく、相手は難しいはず。特に団体様相手になれば、ね。君が人選を考えて配置しているのは、僕も知っているよ。それでもアイツらゴミの攻撃を受け、隊員の女性が奪われているのも、ね」

ニコリと、陰のある笑顔を作るレキ。

「だがっ……しかしっ」

「お気遣い感謝する。でもこの場は僕が行くんだ。それが適任なのさっ!」

眼に闘志を燃やし、力強く宣言するレキっ!

レキはそっと、ギリンガムの甲を握った。

ワナワナと震えるギリンガムの手。

「私は……っ、私は納得は……。なぜヴィン・マイコンでは駄目なのだっ!?」

「……」

応えないヴィン・マイコン。

「自分の弱点を傭兵が応える訳が、ねえわな」

ジキムートが独り言ちる。

そして、ギリンガムが力なく肩を落とし、自分の椅子を探した。


「それで、この男は何するんだよ?」

「俺か? 俺は日がな一日酒を食らって、女働かせて生きたいんだよ」

「誰がお前の理想を語れと」

その言葉の次。

ヴィン・マイコンの目に……殺気が宿った。

「俺は――。上に居る奴を傭兵率いて殺し尽くす。ちょっと今回は気になる事があっから、よ。本気出す」

虐殺だ。

紛れもない、一般人狩りを示唆するヴィン・マイコンっ!

こうなったら巣穴と言わず、この聖地を消し飛ばす気なのかもしれない。

それが神にどう思われるかは分からない。

だが少なくとも、ヴィン・マイコンの今の殺気は、神すらも睨み据えていたっ!


「……へぇ。そりゃ、上に振られた一般市民役の連中は、たまったもんじゃないな」

「お悔やみを申しとくよ」

レキとジキムートが笑った。

相手はどうせ、テロ犯だ。

あまり気に病むような相手では無い。

だが、それでもヴィン・マイコンにかかられる奴らは確かに、不憫ではあった。

「では決まりだ。作戦は今から始めるとしよう。気取られる前に……なっ!」

「おうよっ!」

言葉に呼応し、全員が席を立つ。

そして、各々の準備へと取り掛かったっ!


「ギリンガム。君の部下も、助けられそうなら助けてくるよ。待っててくれ」

「レキ副長……。いや、それはもう良いんだ。あいつらも武人の端くれ。例え望まぬ結果にたどり着いたとしてもそれは、剣の道よ。剣の世界に後戻りはないと教えてきた。凶器を持って相手に挑む以上はすでに、おのれの心は死んでいると知っている。もし仮に、相手になって出てくれば、その時は迷わず、斬り伏せてやってくれ」

「……そうか。良い覚悟と、良い教育だっ。君はナイスな男だなっ! ふふっ」

キラリっと笑い、レキがギリンガムの肩をぺちぺちっと叩く。

「……ふっ」

ギリンガムは騎士団という物が持つ、2面性。

人を統治する人間性と、武人という暴力の権化。

その2つの中でも、武の人間である。という信念の方が強いのだろう。

「気をつけろ、レキ副長」

「安心しろ、ギリンガムっ! 僕は勇者になる男だ。〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″なんぞ、僕の敵ではないっ。……ハハハっ!」

レキは自信満々に歩いてくっ!

そして、扉を開けて、出ていってしまった――。


「……。君は女だ。紛れもない女の子だよ、レキ」

ギリンガムはぽつり……とつぶやく。

そのいってしまった扉に。

そして彼は……。
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