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2章 聖地と一般社会
墓場
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「お前たち、肉を手に入れたぞっ!」
「本当っ!? お姉ちゃんっ」
姉の言葉に、今までうなだれ、残っていたドングリの殻と、手近にあった雑草。
そんな物を必死に歯でしがみ、喉の奥に無理やり流し込んでいた姉弟達が、色めき立つっ!
「あぁっ。そこに居た瀕死の狼を叩き殺せたんだっ! 運が良かったよっ!」
「やっったぁっ!」
大喜びするクイーグっ!
「でもそんな事して、大丈夫なのお姉ちゃん? また村の奴らが……」
「あぁ、狼は害獣だからねっ! モンスターと同じさっ。文句は無いハズだよグレミスっ!」
「やったぁっ!」
少女の言葉に子供達が、雄たけびを上げるよう空へと、歓声を木霊させたっ!
「さぁ食べようっ! 少しだけだからゆっくり食べるんだよっ!」
「……」
そして彼女らはそれを焼き、口に運んでいく。
「うあぁ……うんめぇっ! こんなにうまい肉、初めてだっ!」
「……」
笑う子供達。
彼らは久しぶりのタンパク質に、むしゃぶりついていた。
その顔には笑顔が戻るっ!
本当に量としては拳大の肉。それを6等分程度。
だが、その小さな肉の破片でも子供たちには、貴重で勇気が湧く物だったっ!
すると……。
「じゃあ狼なら……ゲホゲホッ! 毛皮も手に入ったんだお姉ちゃんっ!?」
……。
「あぁ……いや、ごめん。それは無いんだバーブマン」
「えっ? なんで?」
「……。いや……それは。あのね……。えと」
少女がバーブマン。年は7か8位だろうか?
活発そうな男の子の問いかけに、うつむく。
「良いお金になるよっ、お姉ちゃんっ!僕は猟師の子供だからね、解体を任せてよねっ」
「……いや、その」
困る少女。すると……。
「良いんだよっバーブマン。あんまりしつこいと、姉ちゃんに嫌われるぞ。」
「なっ……グレミスっ! いきなり何なんだよっ、また姉ちゃんを独占するつもりかっ!?」
「全く……うるさいな、バーブマンは。少しは黙って食え。だからイの一番に腹が減るんだ」
「なっ!? なんだとナバルっ! 年下の癖にっ。大体一番はほとんどクイーグじゃないかよっ!」
「……んーっ。はふふっ」
……。
「……はふっ、はひっ」
……。
「ほら。お前のたわごとなんて、クイーグにとっちゃ意味ないって事さ」
「な……なんだよ」
笑う少年達。
「またお姉ちゃんが狼探してくるから、待ってなよクイーグっ!」
「うんっ!」
姉の言葉に笑う少年。そして……。
「……。来た」
村人たち数人、こちらに来る。
「はぁはぁ……。早くしろってっ!」
「あぁ分かってるよっ。アンタ傭兵だろっ!」
中にはあの、少女の体の代金を払い逃げした男も、混ざっていた。
それを少女は待ち受けていたのだ。
その顔に浮かぶのは恐怖とそして、焦燥感。
ドサッ!
「たゆたう水、誇りの流れ。神のうるおい。我らの……」
「始まった」
声に反応し、彼女は小さい体を駆使し、司祭――。
あの少女を邪険にした、〝アジュアメーカー(蒼の聖典守護)″と、村の男たちが群れる場所。
なんとかそこに近づいていく。
片手にナイフを持って。
「我らをマナの導きによりて、もう一度この地へ。ダヌディナ様の、その優雅なる御手に抱かれ、蒼なる者へと還れますように」
……。
「おいっ! ヤバいって逃げるぞっ!」
まじないが終わるや否や、叫んで男たちが逃げていくっ!
すると……っ!
「行った。よし……」
すぐさま少女がその、浅く掘られ、蒼い薄布一枚を羽織らされた、水が張られたビチョビチョの物体。
それに取り付き、布を強引にはがしたっ!
「よしっ! 今日も大人だっっ!」
喜んだ彼女は、すぐにその――。
男の腕にナイフを刺すっ!
「早く……早くっ! 来ちゃう、来ちゃう……」
少女はその死体。
死んだ人間の拳を切り落とそうと、ナイフを滑らせるっ!
だが、前よりも滑りが悪い。
どうやら前に切断した時に、刃こぼれが起こったらしい。
護身にすらならない程度の、フルーツナイフだ。
仕方がないかもしれない。だが……。
「なんで……なんで切れないのっ!? 前は結構……。……っ!?」
恐怖と無知。混乱する彼女っ!
すると……っ。
「ブヒヒッ。ぶひっ」
「キキっ! グギキぃッ」
前から音がしたっ!
そこには別々の方向、別々の、全く違う影。
「オークに……。リザードマン」
そこは墓場だった。
彼らは恐らくは、野良のモンスターだ。
こう言った場所は野良モンスターにとっては、最高の狩場になる。
「ぶひひっ。今日のご飯はあんだろなぁ。びひっ。早く行かなきゃ、ぐくっ。ほかの奴らに取られちまうっ」
彼ら程度では人間を襲えない。
装備も貧弱で、何も防具らしい物は無いに等しいのだから。
なのでここで死体――いや、ご飯が運ばれてくるのを待つのだ。
「今日の飯は……しゃっ。なんだ。俺、子供だ。アイツらはちょうど良い大きさなので。早く行くっ」
幸いたくさん死ぬ時代。
待ってれば、運が良ければ1日3食も、豪華に食べられた。
「はぁ……はぁっ。なんとか少しでもっ。ちょっとだけでも良いから手に入れなきゃっ!」
モンスターを前にし、それでもしがみつく少女っ!
まだ少し、距離があるように見えた。
「あの、ブヒヒッ。乗ってるのは人間? ガ……ガキか、他には……誰も。ぶふっ。誰も……居ない?」
周りを確認する豚面。
ハッキリとクッキリ、しわが段々を描く。
ブタと言うより、毛の無いイノシシに近い。
まるで、殴られたように目が垂れている。
ヨダレが二足歩行のせいで、胸元をテラテラと輝かせていた。
しかも、落ちたヨダレが固まったのだろうか?
胸の毛やそこらには、コケらしき物が生えている。
鼻息は荒いが音は薄い。
そのせいで濁音が強調され、濁りが強く出る喋り方をする、そのオークマンが少女を見た。
「うあ……あぁ」
少女がモンスターの視線に恐怖するっ!
荒い殺気と、モンスターの目線。
その場で硬直してしまう彼女っ!
「墓場で一人。捨て子か? コイツも……ビヒッ。頂くか。小柄だが、うまそうだっ!」
舌なめずりするオークマンっ!
少女は久しぶりの、新鮮な肉なのだ。
良い血の味を思い出し、ヨダレが止まらなくなっていた。
そのヨダレがまるで、お漏らししたように、ズボンまで濡らしていくっ!
「ヒィっ!?」
ヘタリ込む少女っ!
目の前のオークマンは、背のタケせいぜい160程度だが、少女にとっては十分に大敵だっ!
しかも食人を好む。
彼らにとっては人は、ご飯でしかない。
「シャァ……。待てよ、豚ぁ」
「ブフッ、リザードマン。いっ居たのかよ」
「ガキは我らにとって、最高だ。丸飲みに適している。お前はあっちの爺さんをヤル。さっさと……行けっ」
比較的小型の人。
と言うより、無理やり手足を付けた、アナコンダのような蛇人間。
それがオークマンに待ったをかけるっ!
この蛇人間、どちらかと言うと蛇その物に近い。
体長は大きく、大体2・5メートル。
だが、地を這うように頭を伏せ、ヌットリと濃度の高いぬめりに覆われたウロコをまとう。
そして、頭は大地スレスレを這っていた。
首が異様に長い、コモドドラゴン。
そう言えば完ぺきかもしれない。
だがもう一つ、このモンスターの容姿には、特徴的な場所がある。
それは、大きく張り出した目。
異様にくるくると、カメレオンのように回っている目た。
その目でオークマンを睨みつけるリザードマン。
「それはダメだブフッ……ブゥ。せっかくの生きた人間。俺も……ふぅふぅ、食べたい。きっと満足すんだ」
2匹がにらみ合う。
「はぁ……はぁ。だ……ダメッ! 逃げなきゃ」
その間に、少女は逃げようとした。
だが、体が思うように動かないっ!
滅多に間近でモンスターを見ないのだ。
恐怖に体が硬直してしまうっ!
「だが……仕方ないんだ。仕方ない、ビヒーッ。半分だ。あっちも、こっちも。早くしないと、色々と来ちまう。人間ってのは馬鹿だから、同族食いはしねえ。賢い俺らは違うんだからよっ!」
焦っている豚面。
早急に手打ちを申し込むっ!
「そう……だな。良い……ジュッ。そうするかっ」
紫の舌を出し、リザードマンがうなずいたっ!
その顔は大地スレスレにあって、上にあるオークマンをクルクルとした目で見ている。
だが、体は向こうでオークマンの後ろを取ろうと、画策しているようだ。
いつでも優位を取る用意が見て取れる。
「腹から下がお前、上は……俺。ぶひぃーーっ!」
ダっ!
突然叫んで豚面が、少女に一気に走るっ!
掛け声なんぞ、あるわけがなかった。
そして大きく口を開け……っ。
「イヤァアッ!?」
泣き叫ぶ彼女っ!
体が動かず、必死に地面の上をあがくっ!
「……」
「……」
……。
なぜか動かない2体。
何かを必死に、どこかを探している。
「どう……したの? 動かない……。逃げなきゃっ!」
その間に彼女は、全力で地面を這い出したっ!
そして必死に走り去る、その場所。
ザアアアァッ!
樹々が揺れる。
「……。なんだこの、異様なマナは」
「何かが居る……。ジュルジュッ! この間までこんな力は……」
2匹が目を白黒させる。
汗が落ち、恐怖とおののきが浮かぶその眼。
そして、2匹はその場をすぐに引き払ったっ!
「はぁはぁ……。少し、濡れちゃった。あとでキレイにしなきゃ。……ぐすっ」
涙を拭く彼女。
少し漏らしてしまったようだ。
走り疲れてやっと、気づいたらしい。
少女は力なく、トボトボと歩いている。
残念だが今日は、何も食べれない。そう報告する為に、姉弟の元へ。
すると、目の中に青い、マントのような物が視界をかすめた。
「あれは……? 〝アジュアメーカー(蒼の聖典守護)″様っ!? もっ、もしかして私達を保護して下さるのっ!? おーいっ!おー……いっ!」
「……。あと1人、見つかりました」
「即座に殺しなさい。もうすでに汚染がひどくなっている。逃げたのも見つけ出し、すぐに浄化にかかります」
「はい」
シュッ!
「エッ!?」
ドサッ! トトト……。
その氷の剣があっさりと、彼女の首を裂いたっ!
そして染みだしたのは……赤。
そう、赤だけ。
「バー……ブマン。クイーグにグレミス。ナバ……ル」
彼女はその死体。
兄弟たちの無残な死に様を見て、涙を流した。
だが、その涙が今後一生、4柱の神に届くことは無いだろう。
なぜなら彼女はもう――。
「あったか?」
「……」
ローラの問いにブンブンと、頭をふるアサシン達。
「おかしい。遅いではないか。よもや失敗だとでも? あれほど大見栄をきっておいて、あの売女っ」
「これでは隠れ切れませんが、まだ探しますか?」
少し考えローラは天を……。
サンサンと照り付ける太陽をにらんだ。
「あぁ、見つかるまで探せっ! 我らが唯一、奴らの根城に入るチャンスかもしれないのだっ。これを逃せば、ヴィエッタ様に申し訳が立たないっ!「はいっ!」
ローラの命令一下、散開する黒づくめの者達。
「チッ、手間をかけさせやがって、あの娼婦がっ」
「本当っ!? お姉ちゃんっ」
姉の言葉に、今までうなだれ、残っていたドングリの殻と、手近にあった雑草。
そんな物を必死に歯でしがみ、喉の奥に無理やり流し込んでいた姉弟達が、色めき立つっ!
「あぁっ。そこに居た瀕死の狼を叩き殺せたんだっ! 運が良かったよっ!」
「やっったぁっ!」
大喜びするクイーグっ!
「でもそんな事して、大丈夫なのお姉ちゃん? また村の奴らが……」
「あぁ、狼は害獣だからねっ! モンスターと同じさっ。文句は無いハズだよグレミスっ!」
「やったぁっ!」
少女の言葉に子供達が、雄たけびを上げるよう空へと、歓声を木霊させたっ!
「さぁ食べようっ! 少しだけだからゆっくり食べるんだよっ!」
「……」
そして彼女らはそれを焼き、口に運んでいく。
「うあぁ……うんめぇっ! こんなにうまい肉、初めてだっ!」
「……」
笑う子供達。
彼らは久しぶりのタンパク質に、むしゃぶりついていた。
その顔には笑顔が戻るっ!
本当に量としては拳大の肉。それを6等分程度。
だが、その小さな肉の破片でも子供たちには、貴重で勇気が湧く物だったっ!
すると……。
「じゃあ狼なら……ゲホゲホッ! 毛皮も手に入ったんだお姉ちゃんっ!?」
……。
「あぁ……いや、ごめん。それは無いんだバーブマン」
「えっ? なんで?」
「……。いや……それは。あのね……。えと」
少女がバーブマン。年は7か8位だろうか?
活発そうな男の子の問いかけに、うつむく。
「良いお金になるよっ、お姉ちゃんっ!僕は猟師の子供だからね、解体を任せてよねっ」
「……いや、その」
困る少女。すると……。
「良いんだよっバーブマン。あんまりしつこいと、姉ちゃんに嫌われるぞ。」
「なっ……グレミスっ! いきなり何なんだよっ、また姉ちゃんを独占するつもりかっ!?」
「全く……うるさいな、バーブマンは。少しは黙って食え。だからイの一番に腹が減るんだ」
「なっ!? なんだとナバルっ! 年下の癖にっ。大体一番はほとんどクイーグじゃないかよっ!」
「……んーっ。はふふっ」
……。
「……はふっ、はひっ」
……。
「ほら。お前のたわごとなんて、クイーグにとっちゃ意味ないって事さ」
「な……なんだよ」
笑う少年達。
「またお姉ちゃんが狼探してくるから、待ってなよクイーグっ!」
「うんっ!」
姉の言葉に笑う少年。そして……。
「……。来た」
村人たち数人、こちらに来る。
「はぁはぁ……。早くしろってっ!」
「あぁ分かってるよっ。アンタ傭兵だろっ!」
中にはあの、少女の体の代金を払い逃げした男も、混ざっていた。
それを少女は待ち受けていたのだ。
その顔に浮かぶのは恐怖とそして、焦燥感。
ドサッ!
「たゆたう水、誇りの流れ。神のうるおい。我らの……」
「始まった」
声に反応し、彼女は小さい体を駆使し、司祭――。
あの少女を邪険にした、〝アジュアメーカー(蒼の聖典守護)″と、村の男たちが群れる場所。
なんとかそこに近づいていく。
片手にナイフを持って。
「我らをマナの導きによりて、もう一度この地へ。ダヌディナ様の、その優雅なる御手に抱かれ、蒼なる者へと還れますように」
……。
「おいっ! ヤバいって逃げるぞっ!」
まじないが終わるや否や、叫んで男たちが逃げていくっ!
すると……っ!
「行った。よし……」
すぐさま少女がその、浅く掘られ、蒼い薄布一枚を羽織らされた、水が張られたビチョビチョの物体。
それに取り付き、布を強引にはがしたっ!
「よしっ! 今日も大人だっっ!」
喜んだ彼女は、すぐにその――。
男の腕にナイフを刺すっ!
「早く……早くっ! 来ちゃう、来ちゃう……」
少女はその死体。
死んだ人間の拳を切り落とそうと、ナイフを滑らせるっ!
だが、前よりも滑りが悪い。
どうやら前に切断した時に、刃こぼれが起こったらしい。
護身にすらならない程度の、フルーツナイフだ。
仕方がないかもしれない。だが……。
「なんで……なんで切れないのっ!? 前は結構……。……っ!?」
恐怖と無知。混乱する彼女っ!
すると……っ。
「ブヒヒッ。ぶひっ」
「キキっ! グギキぃッ」
前から音がしたっ!
そこには別々の方向、別々の、全く違う影。
「オークに……。リザードマン」
そこは墓場だった。
彼らは恐らくは、野良のモンスターだ。
こう言った場所は野良モンスターにとっては、最高の狩場になる。
「ぶひひっ。今日のご飯はあんだろなぁ。びひっ。早く行かなきゃ、ぐくっ。ほかの奴らに取られちまうっ」
彼ら程度では人間を襲えない。
装備も貧弱で、何も防具らしい物は無いに等しいのだから。
なのでここで死体――いや、ご飯が運ばれてくるのを待つのだ。
「今日の飯は……しゃっ。なんだ。俺、子供だ。アイツらはちょうど良い大きさなので。早く行くっ」
幸いたくさん死ぬ時代。
待ってれば、運が良ければ1日3食も、豪華に食べられた。
「はぁ……はぁっ。なんとか少しでもっ。ちょっとだけでも良いから手に入れなきゃっ!」
モンスターを前にし、それでもしがみつく少女っ!
まだ少し、距離があるように見えた。
「あの、ブヒヒッ。乗ってるのは人間? ガ……ガキか、他には……誰も。ぶふっ。誰も……居ない?」
周りを確認する豚面。
ハッキリとクッキリ、しわが段々を描く。
ブタと言うより、毛の無いイノシシに近い。
まるで、殴られたように目が垂れている。
ヨダレが二足歩行のせいで、胸元をテラテラと輝かせていた。
しかも、落ちたヨダレが固まったのだろうか?
胸の毛やそこらには、コケらしき物が生えている。
鼻息は荒いが音は薄い。
そのせいで濁音が強調され、濁りが強く出る喋り方をする、そのオークマンが少女を見た。
「うあ……あぁ」
少女がモンスターの視線に恐怖するっ!
荒い殺気と、モンスターの目線。
その場で硬直してしまう彼女っ!
「墓場で一人。捨て子か? コイツも……ビヒッ。頂くか。小柄だが、うまそうだっ!」
舌なめずりするオークマンっ!
少女は久しぶりの、新鮮な肉なのだ。
良い血の味を思い出し、ヨダレが止まらなくなっていた。
そのヨダレがまるで、お漏らししたように、ズボンまで濡らしていくっ!
「ヒィっ!?」
ヘタリ込む少女っ!
目の前のオークマンは、背のタケせいぜい160程度だが、少女にとっては十分に大敵だっ!
しかも食人を好む。
彼らにとっては人は、ご飯でしかない。
「シャァ……。待てよ、豚ぁ」
「ブフッ、リザードマン。いっ居たのかよ」
「ガキは我らにとって、最高だ。丸飲みに適している。お前はあっちの爺さんをヤル。さっさと……行けっ」
比較的小型の人。
と言うより、無理やり手足を付けた、アナコンダのような蛇人間。
それがオークマンに待ったをかけるっ!
この蛇人間、どちらかと言うと蛇その物に近い。
体長は大きく、大体2・5メートル。
だが、地を這うように頭を伏せ、ヌットリと濃度の高いぬめりに覆われたウロコをまとう。
そして、頭は大地スレスレを這っていた。
首が異様に長い、コモドドラゴン。
そう言えば完ぺきかもしれない。
だがもう一つ、このモンスターの容姿には、特徴的な場所がある。
それは、大きく張り出した目。
異様にくるくると、カメレオンのように回っている目た。
その目でオークマンを睨みつけるリザードマン。
「それはダメだブフッ……ブゥ。せっかくの生きた人間。俺も……ふぅふぅ、食べたい。きっと満足すんだ」
2匹がにらみ合う。
「はぁ……はぁ。だ……ダメッ! 逃げなきゃ」
その間に、少女は逃げようとした。
だが、体が思うように動かないっ!
滅多に間近でモンスターを見ないのだ。
恐怖に体が硬直してしまうっ!
「だが……仕方ないんだ。仕方ない、ビヒーッ。半分だ。あっちも、こっちも。早くしないと、色々と来ちまう。人間ってのは馬鹿だから、同族食いはしねえ。賢い俺らは違うんだからよっ!」
焦っている豚面。
早急に手打ちを申し込むっ!
「そう……だな。良い……ジュッ。そうするかっ」
紫の舌を出し、リザードマンがうなずいたっ!
その顔は大地スレスレにあって、上にあるオークマンをクルクルとした目で見ている。
だが、体は向こうでオークマンの後ろを取ろうと、画策しているようだ。
いつでも優位を取る用意が見て取れる。
「腹から下がお前、上は……俺。ぶひぃーーっ!」
ダっ!
突然叫んで豚面が、少女に一気に走るっ!
掛け声なんぞ、あるわけがなかった。
そして大きく口を開け……っ。
「イヤァアッ!?」
泣き叫ぶ彼女っ!
体が動かず、必死に地面の上をあがくっ!
「……」
「……」
……。
なぜか動かない2体。
何かを必死に、どこかを探している。
「どう……したの? 動かない……。逃げなきゃっ!」
その間に彼女は、全力で地面を這い出したっ!
そして必死に走り去る、その場所。
ザアアアァッ!
樹々が揺れる。
「……。なんだこの、異様なマナは」
「何かが居る……。ジュルジュッ! この間までこんな力は……」
2匹が目を白黒させる。
汗が落ち、恐怖とおののきが浮かぶその眼。
そして、2匹はその場をすぐに引き払ったっ!
「はぁはぁ……。少し、濡れちゃった。あとでキレイにしなきゃ。……ぐすっ」
涙を拭く彼女。
少し漏らしてしまったようだ。
走り疲れてやっと、気づいたらしい。
少女は力なく、トボトボと歩いている。
残念だが今日は、何も食べれない。そう報告する為に、姉弟の元へ。
すると、目の中に青い、マントのような物が視界をかすめた。
「あれは……? 〝アジュアメーカー(蒼の聖典守護)″様っ!? もっ、もしかして私達を保護して下さるのっ!? おーいっ!おー……いっ!」
「……。あと1人、見つかりました」
「即座に殺しなさい。もうすでに汚染がひどくなっている。逃げたのも見つけ出し、すぐに浄化にかかります」
「はい」
シュッ!
「エッ!?」
ドサッ! トトト……。
その氷の剣があっさりと、彼女の首を裂いたっ!
そして染みだしたのは……赤。
そう、赤だけ。
「バー……ブマン。クイーグにグレミス。ナバ……ル」
彼女はその死体。
兄弟たちの無残な死に様を見て、涙を流した。
だが、その涙が今後一生、4柱の神に届くことは無いだろう。
なぜなら彼女はもう――。
「あったか?」
「……」
ローラの問いにブンブンと、頭をふるアサシン達。
「おかしい。遅いではないか。よもや失敗だとでも? あれほど大見栄をきっておいて、あの売女っ」
「これでは隠れ切れませんが、まだ探しますか?」
少し考えローラは天を……。
サンサンと照り付ける太陽をにらんだ。
「あぁ、見つかるまで探せっ! 我らが唯一、奴らの根城に入るチャンスかもしれないのだっ。これを逃せば、ヴィエッタ様に申し訳が立たないっ!「はいっ!」
ローラの命令一下、散開する黒づくめの者達。
「チッ、手間をかけさせやがって、あの娼婦がっ」
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