異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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2章 聖地と一般社会

神は神を愛するのか?

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「へへ……。このまま燃えちまえば良いよっ!」

「そうだそうだ。森を荒らす乞食共めっ」

ひゅんっ!

「焔が……っ!?」

「下がれクイーグっ!」

蒼白の顔で、炎の矢から距離を取るバーブマン。

彼らの前には2人の大人たちがいる。

その大人達の格好は狩人に見えた。


「バーブマンっ!」

「姉ちゃんっ!」

「何をするんですかっ! あなた達は村の方ですねっ!?」

急ぎ走り寄り、バーブマンを抱き留める姉っ!

抗議の声を上げたっ!

「邪魔なのを掃除してやろうと思ってな。俺らの森で勝手に猟なんてしやがってっ!」


ギシギシギリ……ッ!


弓を引く村人っ!

その矢じりの先には炎っ!

炎が6人を狙っている。

「猟だなんて、そんなっ!? 水の民の方々は虫は食べないと聞きましたっ! それに待ってくださいっ。そんな事をしたら森が……。神聖な木々が燃えてしまうっ!」

「あぁ? 虫は俺らが年中、魚釣りに使うんだっ。祭りにどんだけの魚が必要だと思ってんだっ、えっ!? 無くなったら困るんだよっ。」

「そうだぜっ! お前らは森のモンぜーんぶ食っちまうからよぉ。ったく、これだから樹の民は乞じ……いや、なんでもねぇ。」

口を押える、水の領域に住む者。

そして話題を変えた。

「それに、別に森が焼けちまったってなんだってんだ? 水の魔法ですぐ消すから大丈夫、さ」

ヒュッ!

「えっ!? きゃあっ」


ドスっ!


「ぐあっ!?」

「クイーグっ!」

弓に射抜かれてしまう少年っ!

痛みとヤケドに転げまわる、クイーグっ!

「くっ……焔を止めてっ! 魔法で水をっ」

「駄目だっ! 樹の国の侵略者共めっ! 神聖なダヌディナ様の水を、お前らが使う事は認めないっ! お前らガキ共でももし、一滴でも使って見ろっ。すぐに殺してやるからなっ」

怒号が響くっ!

どうやらその狩人の眼を見る限り、本気らしいっ!

「そっ……そんな馬鹿なっ」

放心する少女っ!

あまりにその大人達は、悪意ある眼をしていたのだ。

「ぐあぁあっ!?」

クイーグが泣き叫ぶ声が響くっ!

すると……。


「だ……大丈夫っ! 朝露が入ったのがあるよ、姉ちゃんっ」

グレミスが草の中にあった水を、吸水性の良い草に浸し……っ!

ジュウッ。

「……うぅ」

「あ~あっ。燃えちまえば良かったのにっ。草、草、草……。ホントお前らは、草ばっかだなぁ。樹の民はこっちにゃ迷惑なんだよっ、根まで枯らしちまうっ! 良いか? ここはユングラード様の森じゃねえんだっ。いくらでもおいそれと、虫も樹も生えやしねえんだっ! かぁ……ぺっ」

タンを吐き、怒号を上げる狩人の1人っ!

少女達は大人の本気の『殺意』で睨みつけられ、委縮するっ!

「ホントホントっ。森もめちゃくちゃに荒らしやがってっ! 樹木様の加護だのなんだの言ったって、俺ら水の神様から奪ったもんじゃねえかっ。水を吸うだけ吸って、還しもしねえくせしやがってっ! 俺らのダヌディナ様の加護にふんぞりかえって消費して、、何が樹木様だよっ!」

「しかしそれは、自然の循環ですっ! 樹々を成長させるには水が必要なんですっ」

樹の民の豊かな採取生活はあくまで、潤沢な森がある事が前提となっていた。

そうなると生活圏は、水のある場所に限られる事になる。

であれば――。


「ふん、くっだらねぇっ! 何が自然の循環だっ!? こっちは毎回毎回、水目当てに攻め込まれてんだぞっ。俺の義理の弟も死んで、妹は一人でやりくりしてるっ! ガキがいんだぞガキがっ。フランネルのせいだぞチクショウめっ!」

男の、切実な咆哮。

少女がビクリっと跳ねた。

樹の国の人間にとって、水の神ダヌディナは最も必要な『リソース・資源』でもあったのだ。

人間が、リソースを求めて奪い合う生き物ならば確実に、樹の国のターゲットは水。

ひいては、水のマナが溢れる土地だろう。

「樹木と同じで、本当に傲慢な奴らだよてめえらはっ」

「そ……それは……」

少女は狩人の言葉にうつむく。


「大体ダヌディナ様の神殿には、樹を1本も生やさねえっ! あの方は樹を嫌ってんだぞっ。神様が嫌うんだ、俺らが嫌ったっておかしくねえっ」

「神様が嫌う……」

神様が嫌っていると思える物を、自分が好きになるのは難しい。

それはなんとなく分かる少女。

現に――。

「お前らだって炎は怖いんだろうがーっ!」

ヒュッ!

突然火の矢を撃つ狩人っ!

「うあぁあ……焔が……っ」

「そっ、それは」

炎を見て、後ずさりする姉弟達っ!

炎の揺らぎを非常に嫌っているのが、仕草ですぐ分かる。

彼女らも身に、染みついているのだ。

樹の苦手属性である炎の怖さが。

拭えない、自分の神をおびやかす存在への恐怖。

焦がしの焔への嫌悪。


「ふんっ、ほら見ろよっ。次にココで猟をっ。虫でもなんでも採ったら、森全部を焼き払うからなっ! 俺らは水の力があるんだ。お前らを焼き払った後でなんとでもなるっ」

「そっ、そんなっ!? あんまりです、こんなっ! 神の違いでここまでする必要は無いハズっ!」

「……ふん何言ってんだ、樹の民のガキ。別にお前らを狙ったんじゃねえよ。俺らの村じゃ毎年、ここらの森を全部焼いてる訳だし」

そう言って薄ら笑う男。

「えっ、そんな……。森を焼くなんて、罰当たりなんだぞっ!?」

少年が言葉を口にした、その瞬間だったっ!

「なんだと……?」

――。

「ひっ!?」

様子が変わる、狩人達っ!


「おいっ……樹の民のガキっ! 俺らに勝手な尊神(リービア)を押し付けようってのかよっ」

「そっ……そんな訳ではっ!?」

「しかも、樹の国の奴の、勝手な思い込みをっ! ――ぶっ殺す。このクソガキ、殺してやんよっ!」

グレミスの言葉に、今までとは違う激昂を示す男達っ!

どうやら知らぬ間に、自分の国独自の、神への信仰を口にしてしまったらしいっ!

怒りの形相に恐怖する少女達っ!

「舐めんなよ、この木くずのゴミがーっ!」

近づいてくる大人達っ!

アッと言う間に少女に近づきっ!

「うぅっ!?」


バシンッ!


「姉さんっ、バーブマンっ!、逃げるぞっ!」

「クソっ! なんだこの罠はっ!?」

見た事が無い、複雑に編み込まれた樹々が足に絡まった村人っ!

2人がもがくっ!

「ナバルっ! ありがとうっ」

どうやら、ナバルがあらかじめ張っていたらしい罠に、足を取られている狩人達っ!

だが……。


「全員燃やしてやんよっ!」

炎の矢を構え、狩人達が少女たちに照準をつけ、一射っ!

ヒュンっ! ヒュンッ!

ドドスッ!

「あぁ……っ!?」

「クソっ!?」

行く手を遮るように、炎の矢が姉弟達の目の前に刺さったっ!

燃え広がっていく焔っ!

「くっ!? 本気でアイツら、俺らごと焔で焼く気だっ」

姉弟達を狙って、もう一射を用意する村人の殺気は本気だったっ!

逃げられなくなった少女たちは……。


「大丈夫よ。炎なんてないわ」

少女が笑い、その炎の中へ……っ!

「っ!?」

「お姉ちゃんっ!?」

唖然とする姉弟達とそして、村人達っ!

炎が――。

黒い煙を巻いて、立ちはだかっていたハズの火の揺らぎが全く、消えてしまっていたのだ。

「どっ……どういうこったっ!?」

「確かに俺は魔法で……っ」

村人が、自分の射かけようとした矢の、その先端を見やるっ!


綺麗さっぱりと消えていた炎の力。

忽然と火が失われたその山林には、風が吹き抜ける音と、水が流れる音。

そして、大地の温もりだけがあった。

「さぁ早くっ! こっちに来なさいっ」

少女の声が響くっ!

村人達が気を取られている間に、一目散で逃げていく6人っ!

「はぁ……はぁっ!? やっ、やっぱ駄目だココはっ」

「あぁ、近づいちゃまずいぞっ! 墓場なんだよっ!」

村人たちは蒼白になって、その場から退散していくっ!


……。

「うぅ……」

「大丈夫か、バーブマン」

「ぅう……。だ……大丈夫」

焦げた傷口。

広がったヤケド。

バーブマンの腕は動かせそうもなかった。

「俺らじゃまだ、薬の調合は早いぞ……」

「くそっ、応急手当だけしかできないな。水の土地だけあって、水分は豊富だけど、さ」

仲間の深い傷にたそがれる5人。

「それにもう、ご飯も採れない……。下手すれば本当にアイツら、樹を焼くかもっ」

「樹々は焼いちゃダメなのに……。きちんと手入れすれば、雑草なんかも問題ないっ! 森の管理、どうなってんだこの国はっ!」

「樹は邪魔なだけなんだよ、ココじゃ」

「そんなハズあるかよっ! だって俺らは樹木様に守られてっ!」

「アイツらの家族は、その樹木様の為に殺されてた」

「……」

弟達の言葉に少女はうつむく。

初めて直面する、自分の愛する神を邪険に扱う者達との、摩擦。

幼い彼女にはどうすれば良いか、分からなかった。

「くぅ……。もう、何をしてでも……国に還るしかっ。それならお金よ、お金を手に入れなきゃっ。町に行くしかないわ。でも、村の人間は私達を相手にしないから、別の奴を狙わないと」

そう言うと少女は決意を固め、村を睨んだ……。


「ねぇ……。そこのお兄さん」

「ん? なんだよおめえ」

そう言うと男は、村の暗がりに目をやる。

そこには女の子。

まだ年端のいかない、少女が立っている。

ボロボロの服に、ボロボロの髪。だが……。

「女を買わないかい? ほら……胸もなかなか大きいんだよ」

そう言ってゆっくりと、前の服をずらす少女。

少女は年の割に胸が大きく、体つきは女性らしかった。

肌色の乳首が美しくキレイで、幼さを感じさせる体。

「おっ……おぉ。顔はまあまあだが、良いねお前。娼婦か?」

「関係ないだろ? そんな事」

「へへっ。そりゃそうだっ」

舌なめずりする男。


「私を買いたいなら、料金の代わりに頼みたい事がある。私達を、隣村まで護衛を頼みたい。それだけで良いから」

「私達? 何人だよ?」

「6人。全員子供だよ」

「はぁ? 6人も? ダメに決まってる。そんなの銀貨10枚以上は必要だ。歩いて2日もかかるんだぞっ。お前ならそうだな……銀貨2枚だっ!」

「2……枚」

少女はその数字に戸惑う。

あまり何度も行いたくない行為。

数字の数え方は分からずとも、この行為の回数が増える事だけは、理解できたからだ。

「どうしたよっ。嫌なら良いぞ、別に」

「……。なら、銀貨5枚。5枚で良いからっ」

戸惑う少女は片手を一杯に広げた。

銀貨5。

大体1万5千円と言った所か。


「5~っ? 駄目だね5枚なんて。そうだなぁ……。やっぱり2でどうだ?」

周りを見ながら暗がりに入る男は、傭兵だろうか?

何かで武装をしている。

「そ、そんなっ。うぅ……。わ、私はまだ、その……。処女なんです。せめて5、くれないですか?」

頬を赤らめて少女が、自分の売り文句を口にした。

「ほほっ、処女……ねぇ。まぁ眉唾だが、よぉ。なるほどそこまで言うならぁ、へへっ。まぁ良いぜ。じゃあ5だ、嬢ちゃん。5で良いぞっ! へへ……」

じゅるりと舐めるように少女を見、男が笑う。

そして強引に胸を出させそして、ズボンとパンツの布切れをはがした……っ!


「くっ……ひくっ」

痛みにヨダレを垂らし、涙を流し泣く少女。

体、特に胸には、何度も強引に弄ばれたであろう跡が赤く、ハッキリと残っている。

秘部からは精液と共に、紅い液体がうっすらと線を描いていた。

「はぁはぁ……。なかなか良かったぜ。実際に処女だったとは驚いた。へへっ、2回もぶち込んじまったよ」

スッキリした様子で笑った傭兵。

「はぁはぁ……。じゃっ、じゃあ……。銀貨5枚を……っ!」

「へへ……。ところでお前。あの墓場に居ついたガキだろ?」

「……。そっ、そんな事関係ないじゃないかっ。早くお代を……」

「悪いが、金銭なんて払えないな。お前らはココでは目障りだって言うし、払う義理はねえっ。むしろ傭兵の俺に、排除依頼が出てるぐらいだ。まぁ誰もあんな気持ち悪い場所に近づかねえから、受けねえけどよっ。ほらっ、見逃してやるから帰れ帰れ」

そう言ってズボンを上げ、男が立ち上がる。

さっさと立ち去る構えだ。

「やっ……約束が違うじゃないかっ!? 兄妹が腹をすかしているんだっ! お金を……、金を寄こせっ!」

少女が立ち上がろうとした瞬間……っ!


「おいっ! ココであの、山のガキが娼婦やってるぞ~っ! なんかの呪文……。樹の呪文で脅してくるんだっ! 水の国への喧嘩を売ってやがるっ」

ビクリっ!

「……っ!?」

大声で叫び出した男に、怯える少女っ!

「おーいっ! ここだっ。コイツだ憲兵っ!」

「くっ!?」

走りだす少女っ!

恐怖にかられた彼女はすぐに、痛む体と汚れた服を抱えて、一目散に逃げだしたっ!

――。


「……」

「どうしたの……。お姉ちゃん」

「……。あぁ、カミラ。何でもないよ。お仲が空いたのかい?」

グスリ、と涙と鼻をぬぐう少女。

そして彼女はその――、かなり年下。大体6・7歳くらいだろう、幼子に答える少女。

すると、幼子が黙りこくる。

「……」

「そうか、そうだね。お姉ちゃんはお腹が空いたんだ。私はカミラより弱いな……」

弱々しく答える少女。

彼らはお得意の、木々の恵みの採取はもう期待できない。

また虫を採りに行けば、村の男に襲われる可能性がある。

姉弟達に広がっている不安感。

このまま行けば恐らくは、じり貧。


「そんな事、ないよ」

そう言ってカミラは手を握った。

その少女の……汚れた指を。

そして少女の長い髪へと、カミラが唯一身につけていた髪留めを、分け与えてしまう。

「あげる。元気出して」

「良いのかい、カミラ」

「うん……。我らの樹の神よ。折り重なり、交わる幹護」

「神なる大地の尊地。ありがとう……。グスッ。ありがとう……カミラ」

途中から唱和した、樹の神への愛。

「お姉ちゃんは私達を守る、樹木様だから」

「そう……だ。我らは折り重なって、生きるんだよね。そう……」

ギリリ……。


――。


「ハァ……ハァ」

「おい、そろそろ行くぞっ!」

「あぁ……」

何かを焦っている男たち。

「……」

そして……。
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