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2章 聖地と一般社会
樹に祝福されし者達。
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「おい……。またあの子供来てるぞ。勝手に住み着いたガキ共。一体いつまで居るんだよっ。もう2か月にもなるぞ!?」
「さぁ、な。あんな気味悪い所に住むなんざ、頭がイカレてるんだよきっと。やっぱり樹の神に仕える、フランネルの奴らはちょっと変わってる」
「ちげぇねぇ。人の指すら税金として食らう神様だからな。俺らの指も食われちまうぜぇ、ヒヒッ」
ひそひそと話す男たち。すると……。
「あの、施しを、少しでも良いので施しをもらえませんか、教導者様」
黒髪の幼い少女が、聖職者に乞う。
するとどうやらその聖職者はその者に――。
ボロボロの服を着た少女に、初めから気づいていたようで、舌打ちをして答えた。
「また来たのか、君は。悪いが我らも手いっぱいでねっ。君に与えられるような物は無いんだ。一度地元に戻れば良いだろうっ。そちらで頼んでくれ。なんでよりにもよって君のような、その……。ちっ。」
何かを口どもるようにその聖職者。
〝アジュアメーカー(蒼の聖典守護)″が舌打ちした。
「そんなっ。ここから歩いて出るなんて、私達子供達だけじゃ無理ですっ。私はなんとかなっても、兄妹達が歩いて辿り着けないっ!」
「ふんっ。知らんよっ! 私達水の国の人間に、君らの事は分からんのだっ! 頼まんでくれっ!」
「お願いですっ! まだ6歳の子も居るんですっ。だったらなんとか紹介状だけでも、それだけでも書いていただけませんか?」
「紹介状だなんて、君達のような者に書く訳がないっ! わしが他の教会に、君をお願いするなどあり得んよっ! それに私に金輪際、近寄らんでくれないかっ。君たちは不衛生だしな。我ら水の民は清潔を好むんだっ。年中泥だらけの虫だらけ。そんな君達には分からんだろうがっ!」
「そっ……。そんな。それほど違いは無いハズですっ!」
彼女は他の村人を見やる。
やはり、彼女と変わらない程度の服しか着ていなかった。
だが――。
「なっ、無礼なっ! どこが一緒だと言うのだねっ!? 私達が同じに見えるのかっ!?」
ガッ!
激昂するように、〝アジュアメーカー(蒼の聖典守護)″が少女の腕を掴んだっ!
「いつっ……」
「私達は同じではないっ!」
「……」
すると、彼女を睨んでいた〝アジュアメーカー(蒼の聖典守護)″がフッと、顔を逸らした。
「……。そう、同じではないんだよ。それぞれに特徴がある。そうだよ。君は樹の国の住民だろう? あそこの住民は色々な草を、創意工夫を凝らして食べれると聞いた。それならほれっ!これでも食べると良いっ!」
そう言ってそこにあった、家畜用の草を投げてやる蒼の聖典守護(アジュアメーカー)。
「……」
「素晴らしいな樹の国の住民は。あの大食のユングラード様のしもべだけはある。きっと何でも……。そこいらにある雑草だってごちそうだろうっ。虫もよく食べると聞いたしな。私達のような清潔を好む水の神に仕える者には、できそうもない事だが。あぁ素晴らしい素晴らしいっ」
そう言って侮蔑の目を向けそそくさと、蒼の者はどこかに去っていく。
「……」
彼女は与えられた干し草を両手に取って、その場を離れて歩いていく。
「全く。なんとかしてもらえんかね、今のこのご時世に、こんな……。なんちゅう薄気味悪いっ! アイツら〝根枯らし者″のせいで、森が枯れたらどうするんだっ。ったく」
「本当だよ。誰かがきちんとあの墓場の管理、してくれないかねぇ。今は騎士団も役に立たないし、どうしたもんか。しっかしなんでウチに来たのやら。よりにもよって、樹の国のガキが水の国へなんて、な」
「ホントにな。火災に弱いのは分かるけどよぉ。ウチじゃなく火でも風でも、好きなのに行けば良いのによっ」
「……」
投げかけられる侮蔑の言葉。
それから逃げるようにして彼女は、山に入っていった。
そしてかなりの山道を歩き、ソコ。
山の小脇にある、広場のような所に帰って来る。
すると……。
「ねぇお姉ちゃん、今日はどうするの? ドングリにするの、それともお花にする?」
「あぁ……クイーグ。今日はね、ドングリを食べようか。きっとその方が良い」
話しかけて来た、姉弟の男の子。
ぽっちゃりとした少年を撫で、その娘は笑いかけ言った。
「うん……」
「じゃあ姉弟たちを呼んできて欲しい。あっクイーグ。お前には姉ちゃんから2個ドングリを上げる。食べて良いよ」
「ホントっ!? やったっ! ありがとう、お姉ちゃん」
そう言ってヨタヨタといった様子で歩く少年。
それを見送る少女が口を噛む。
「……。なんとかしないと。無我夢中で逃げたけど、まさかこんな事になるなんて。私だけならなんとか帰れるかも知れないけど……。クッ、やっぱりあの子達を見捨てては行けないっ! 我らの樹の神よ。折り重なり、交わる幹護。神なる大地の尊地」
少女は強く、自らが敬愛する神へと祈った。
そして何より、団結を誓う。
「私たちは、神の幹の手として強く根を張り、折り重ならなければならないっ。血を分けて無くとも、同じ樹木様を護る子達。なんとか全員で帰らないとっ! 帰ってそして……」
すると言葉の途中で、彼女は手を握りしめる。
大火事の時彼女たちは、親とはぐれていた。いや……。
「帰ったって誰も――。お父さんもお母さんも……」
塞ぎこむように座る彼女。
顔を隠すように膝に頭を埋めた。
「だけどせめて、樹の民なんだから故郷で生きたい」
大樹の国、フランネル。
その村々には、村全体を覆っている神の御手であるツタがある。
それが火事で燃え広がって降り注ぐ中、彼女は必死に逃げて来ていた。
少女の両親はそれに飲み込まれ、死んでしまっている。
「樹木様の元で死んで糧になり、そしてまたいつか芽吹く。樹と共に生きる。それが樹の民の美徳。そうだよね……ぐすっ。お母さん」
彼女は両親の断末魔を聞きながら、命からがら川に飛び込んだ。
そして見知らぬどこかに、押し流されていたのだ。
流れついたのは、6人。
行き場を探し、すぐそこにあった山の中へと入った。
彼女らは樹の民だ。
山の中の方が住みやすいとさえ、感じれた。
それに――。
「この場所が見つかって良かったわ。モンスター払いができる場所が、森の中にあるなんて。ココが見つからなかったら今頃、私達危なかったもの。やっぱり森は守ってくれたっ」
モンスターだけがネックだったが、丁度良い場所を見つけれたのだ。
彼女は自分がいる森を見渡していく。
「それでもこの森。私達の樹木様に比べると、食料になる虫も花も少ないし、草も生えるのが遅いみたい。偉大なるユングラード様のお力がどれ程か、思い知らされるわ。なんて寂しい森なのかしら。早く……あの森へ、ぐすっ。すぐ帰りたいよぉ」
今やもう、懐かしい彼女の故郷。
そこには、普通の森にはない程の生命が溢れていたのだ。
それは充実した食料となり、衣服にも住居にもなる。
時には金鉱の代わりにさえ……。
その恵みは彼らを生かす糧となり、彼ら誇りでもあった。
だが今、彼女の目の前に広がるのは、厳しい加護無き森だけ。
「でも帰れる方法が思いつかないわ。旅に出たくても、ね。あの調子じゃ、教会でお世話になる事もできない。だけどまさか――。信じる神が違うだけで、ここまでの仕打ちを受けるなんてっ。最初に私が口を滑らさなければ、こんな事にならなかったのにっ!」
悔やむように唇を噛むっ!
彼女達が初め、あの村に辿りついた時はそれほど、悪い感じを受けなかった。
すぐに教会の人間たちがやってきて、助けてくれようとしたのだ。
だが自分達がどこから来たか。それを答えた瞬間に見る見ると、村人達の眉根が寄ったのを思い出す。
「他の所もこんな感じなのかしら。まさか他の村でもこんな、意味の分からない尊神(リービア)をしていると言うの? それともあの〝アジュアメーカー(蒼の聖典守護)″とこの村が特別? ……そう、特別であって欲しいな」
彼女の記憶の中の教会。
それは道徳を説き、そして、村人の中心となるべき場所であった。
外から来た旅人には、無償で泊まる場所を与え、あまつさえ炊き出しや色々な知識を与えてくれたより所でもある。
ただあくまで、樹の民に接する場面しか、彼女は見た事がなかったが。
「神様が違う……か。マナを司る神様達はなぜ、人間は仲良くしろって言わないんだろ?」
彼女はふと、強く疑問に思ってしまった。
絶対的な神は一度として、人類平和を訴えた事がないのだ。
考え始めた彼女。
「……なんだろう。理由が思いつかない。悪い人が好き、とかじゃないよね? 犯罪人を称賛した事もないんだし。4つのマナが手を取り合えればもっと、この世界は良くなるのに。そうすればきっと、この森も生命が活気づいてくれるわ」
彼女が森を見渡した瞬間っ!
ヒュッ!
少女を寒気が襲うっ!
「んっ! まさか冷気が来ているの? このままじゃ駄目。季節も変わり始めてる。一刻も早く出たいのにっ! でもココから動いてしまったら、モンスターか狼の餌食よっ」
震えて、考えを打ち切る少女っ!
ため息を吐き、彼女はココから抜け出る策を探す。
「お姉ちゃん、ご飯だよ~」
すると、向こうで5人の姉弟の声がした。
少女は血がつながらない姉弟へと、笑いかけ腰を上げた。
「高貴な我らの真の支配者。崇高なるマナの仕手、か」
彼女は思い出す。
自分達樹の国では滅多に使わないその、神を敬う言葉。
4柱すべてに祈りを捧げる言葉もなんだか虚しい、空虚な響きを残して風に散っていった。
「全員良いかい? 食べられる草と虫を探すんだっ! 花はいらないからねっ。私達じゃ食べれるのを見分けるの難しいから。あと食べたい第1位、ハチミツっ! あれは絶対に採りに行ってはダメだよっ! 禁止だからっ」
「は~いっ!」
彼女を入れて6人。
まだ幼い、小学生の集団のような物がある。
彼らに身振り手振りで、仕事を伝える少女。
「まぁ、虫だよね、たいがいは。生では絶対に食うなよ、お前らっ。ココは故郷とは違うんだからっ!」
「は~い」
「分かってるってナバルっ! 仕切んなよ、年下の癖にっ」
「姉さんはカミラとグレミスで行ってくれ。俺はクイーグとバーブマンのお守りをする」
「あ……あぁそうしてくれ、ナバル」
苦笑いする姉。
「分かった、行くぞクイーグに――。ついでにバーブマン。お前は迷子になるなよ」
「仕切んなってっ!」
2手に別れ、色々と採取をし始めた少年少女達。
「この虫は……食べれる? お姉ちゃん」
「多分、ガ類の幼虫だね。大丈夫さカミラ」
少年少女の中で最年少の、カミラという幼い娘。
黄色の髪留めで前の髪を括り、大人しそうな女の子の頭を撫でてやる少女。
「お姉ちゃん、コレ」
「あぁちょうど良い、アリの巣があるねっ。アリも卵も両方食べれるから、貴重だっ。アリは……そうだ、コレで良いかな?」
彼女はささっと、草で特製の『牢獄』を作りだす。
要はすり鉢のような物だ。
「じゃあ掘り起こすから、グレミスがアリを捕獲していってほしい」
「は~い」
順調に集め始めた少女たち。
彼らは樹の国の住民だ。
〝口無し樹木の歯″とまで言われたその捕獲術は、他の民に無い知識と技術があった。
採取を続ける彼女達。
すると……っ!
「ねっ……姉ちゃんっ!」
弟の声が、辺りに響くっ!
「……っ!? どうしたの、バーブマンっ!」
姉は2人の姉弟の手を引き、駆けだしたっ!
「さぁ、な。あんな気味悪い所に住むなんざ、頭がイカレてるんだよきっと。やっぱり樹の神に仕える、フランネルの奴らはちょっと変わってる」
「ちげぇねぇ。人の指すら税金として食らう神様だからな。俺らの指も食われちまうぜぇ、ヒヒッ」
ひそひそと話す男たち。すると……。
「あの、施しを、少しでも良いので施しをもらえませんか、教導者様」
黒髪の幼い少女が、聖職者に乞う。
するとどうやらその聖職者はその者に――。
ボロボロの服を着た少女に、初めから気づいていたようで、舌打ちをして答えた。
「また来たのか、君は。悪いが我らも手いっぱいでねっ。君に与えられるような物は無いんだ。一度地元に戻れば良いだろうっ。そちらで頼んでくれ。なんでよりにもよって君のような、その……。ちっ。」
何かを口どもるようにその聖職者。
〝アジュアメーカー(蒼の聖典守護)″が舌打ちした。
「そんなっ。ここから歩いて出るなんて、私達子供達だけじゃ無理ですっ。私はなんとかなっても、兄妹達が歩いて辿り着けないっ!」
「ふんっ。知らんよっ! 私達水の国の人間に、君らの事は分からんのだっ! 頼まんでくれっ!」
「お願いですっ! まだ6歳の子も居るんですっ。だったらなんとか紹介状だけでも、それだけでも書いていただけませんか?」
「紹介状だなんて、君達のような者に書く訳がないっ! わしが他の教会に、君をお願いするなどあり得んよっ! それに私に金輪際、近寄らんでくれないかっ。君たちは不衛生だしな。我ら水の民は清潔を好むんだっ。年中泥だらけの虫だらけ。そんな君達には分からんだろうがっ!」
「そっ……。そんな。それほど違いは無いハズですっ!」
彼女は他の村人を見やる。
やはり、彼女と変わらない程度の服しか着ていなかった。
だが――。
「なっ、無礼なっ! どこが一緒だと言うのだねっ!? 私達が同じに見えるのかっ!?」
ガッ!
激昂するように、〝アジュアメーカー(蒼の聖典守護)″が少女の腕を掴んだっ!
「いつっ……」
「私達は同じではないっ!」
「……」
すると、彼女を睨んでいた〝アジュアメーカー(蒼の聖典守護)″がフッと、顔を逸らした。
「……。そう、同じではないんだよ。それぞれに特徴がある。そうだよ。君は樹の国の住民だろう? あそこの住民は色々な草を、創意工夫を凝らして食べれると聞いた。それならほれっ!これでも食べると良いっ!」
そう言ってそこにあった、家畜用の草を投げてやる蒼の聖典守護(アジュアメーカー)。
「……」
「素晴らしいな樹の国の住民は。あの大食のユングラード様のしもべだけはある。きっと何でも……。そこいらにある雑草だってごちそうだろうっ。虫もよく食べると聞いたしな。私達のような清潔を好む水の神に仕える者には、できそうもない事だが。あぁ素晴らしい素晴らしいっ」
そう言って侮蔑の目を向けそそくさと、蒼の者はどこかに去っていく。
「……」
彼女は与えられた干し草を両手に取って、その場を離れて歩いていく。
「全く。なんとかしてもらえんかね、今のこのご時世に、こんな……。なんちゅう薄気味悪いっ! アイツら〝根枯らし者″のせいで、森が枯れたらどうするんだっ。ったく」
「本当だよ。誰かがきちんとあの墓場の管理、してくれないかねぇ。今は騎士団も役に立たないし、どうしたもんか。しっかしなんでウチに来たのやら。よりにもよって、樹の国のガキが水の国へなんて、な」
「ホントにな。火災に弱いのは分かるけどよぉ。ウチじゃなく火でも風でも、好きなのに行けば良いのによっ」
「……」
投げかけられる侮蔑の言葉。
それから逃げるようにして彼女は、山に入っていった。
そしてかなりの山道を歩き、ソコ。
山の小脇にある、広場のような所に帰って来る。
すると……。
「ねぇお姉ちゃん、今日はどうするの? ドングリにするの、それともお花にする?」
「あぁ……クイーグ。今日はね、ドングリを食べようか。きっとその方が良い」
話しかけて来た、姉弟の男の子。
ぽっちゃりとした少年を撫で、その娘は笑いかけ言った。
「うん……」
「じゃあ姉弟たちを呼んできて欲しい。あっクイーグ。お前には姉ちゃんから2個ドングリを上げる。食べて良いよ」
「ホントっ!? やったっ! ありがとう、お姉ちゃん」
そう言ってヨタヨタといった様子で歩く少年。
それを見送る少女が口を噛む。
「……。なんとかしないと。無我夢中で逃げたけど、まさかこんな事になるなんて。私だけならなんとか帰れるかも知れないけど……。クッ、やっぱりあの子達を見捨てては行けないっ! 我らの樹の神よ。折り重なり、交わる幹護。神なる大地の尊地」
少女は強く、自らが敬愛する神へと祈った。
そして何より、団結を誓う。
「私たちは、神の幹の手として強く根を張り、折り重ならなければならないっ。血を分けて無くとも、同じ樹木様を護る子達。なんとか全員で帰らないとっ! 帰ってそして……」
すると言葉の途中で、彼女は手を握りしめる。
大火事の時彼女たちは、親とはぐれていた。いや……。
「帰ったって誰も――。お父さんもお母さんも……」
塞ぎこむように座る彼女。
顔を隠すように膝に頭を埋めた。
「だけどせめて、樹の民なんだから故郷で生きたい」
大樹の国、フランネル。
その村々には、村全体を覆っている神の御手であるツタがある。
それが火事で燃え広がって降り注ぐ中、彼女は必死に逃げて来ていた。
少女の両親はそれに飲み込まれ、死んでしまっている。
「樹木様の元で死んで糧になり、そしてまたいつか芽吹く。樹と共に生きる。それが樹の民の美徳。そうだよね……ぐすっ。お母さん」
彼女は両親の断末魔を聞きながら、命からがら川に飛び込んだ。
そして見知らぬどこかに、押し流されていたのだ。
流れついたのは、6人。
行き場を探し、すぐそこにあった山の中へと入った。
彼女らは樹の民だ。
山の中の方が住みやすいとさえ、感じれた。
それに――。
「この場所が見つかって良かったわ。モンスター払いができる場所が、森の中にあるなんて。ココが見つからなかったら今頃、私達危なかったもの。やっぱり森は守ってくれたっ」
モンスターだけがネックだったが、丁度良い場所を見つけれたのだ。
彼女は自分がいる森を見渡していく。
「それでもこの森。私達の樹木様に比べると、食料になる虫も花も少ないし、草も生えるのが遅いみたい。偉大なるユングラード様のお力がどれ程か、思い知らされるわ。なんて寂しい森なのかしら。早く……あの森へ、ぐすっ。すぐ帰りたいよぉ」
今やもう、懐かしい彼女の故郷。
そこには、普通の森にはない程の生命が溢れていたのだ。
それは充実した食料となり、衣服にも住居にもなる。
時には金鉱の代わりにさえ……。
その恵みは彼らを生かす糧となり、彼ら誇りでもあった。
だが今、彼女の目の前に広がるのは、厳しい加護無き森だけ。
「でも帰れる方法が思いつかないわ。旅に出たくても、ね。あの調子じゃ、教会でお世話になる事もできない。だけどまさか――。信じる神が違うだけで、ここまでの仕打ちを受けるなんてっ。最初に私が口を滑らさなければ、こんな事にならなかったのにっ!」
悔やむように唇を噛むっ!
彼女達が初め、あの村に辿りついた時はそれほど、悪い感じを受けなかった。
すぐに教会の人間たちがやってきて、助けてくれようとしたのだ。
だが自分達がどこから来たか。それを答えた瞬間に見る見ると、村人達の眉根が寄ったのを思い出す。
「他の所もこんな感じなのかしら。まさか他の村でもこんな、意味の分からない尊神(リービア)をしていると言うの? それともあの〝アジュアメーカー(蒼の聖典守護)″とこの村が特別? ……そう、特別であって欲しいな」
彼女の記憶の中の教会。
それは道徳を説き、そして、村人の中心となるべき場所であった。
外から来た旅人には、無償で泊まる場所を与え、あまつさえ炊き出しや色々な知識を与えてくれたより所でもある。
ただあくまで、樹の民に接する場面しか、彼女は見た事がなかったが。
「神様が違う……か。マナを司る神様達はなぜ、人間は仲良くしろって言わないんだろ?」
彼女はふと、強く疑問に思ってしまった。
絶対的な神は一度として、人類平和を訴えた事がないのだ。
考え始めた彼女。
「……なんだろう。理由が思いつかない。悪い人が好き、とかじゃないよね? 犯罪人を称賛した事もないんだし。4つのマナが手を取り合えればもっと、この世界は良くなるのに。そうすればきっと、この森も生命が活気づいてくれるわ」
彼女が森を見渡した瞬間っ!
ヒュッ!
少女を寒気が襲うっ!
「んっ! まさか冷気が来ているの? このままじゃ駄目。季節も変わり始めてる。一刻も早く出たいのにっ! でもココから動いてしまったら、モンスターか狼の餌食よっ」
震えて、考えを打ち切る少女っ!
ため息を吐き、彼女はココから抜け出る策を探す。
「お姉ちゃん、ご飯だよ~」
すると、向こうで5人の姉弟の声がした。
少女は血がつながらない姉弟へと、笑いかけ腰を上げた。
「高貴な我らの真の支配者。崇高なるマナの仕手、か」
彼女は思い出す。
自分達樹の国では滅多に使わないその、神を敬う言葉。
4柱すべてに祈りを捧げる言葉もなんだか虚しい、空虚な響きを残して風に散っていった。
「全員良いかい? 食べられる草と虫を探すんだっ! 花はいらないからねっ。私達じゃ食べれるのを見分けるの難しいから。あと食べたい第1位、ハチミツっ! あれは絶対に採りに行ってはダメだよっ! 禁止だからっ」
「は~いっ!」
彼女を入れて6人。
まだ幼い、小学生の集団のような物がある。
彼らに身振り手振りで、仕事を伝える少女。
「まぁ、虫だよね、たいがいは。生では絶対に食うなよ、お前らっ。ココは故郷とは違うんだからっ!」
「は~い」
「分かってるってナバルっ! 仕切んなよ、年下の癖にっ」
「姉さんはカミラとグレミスで行ってくれ。俺はクイーグとバーブマンのお守りをする」
「あ……あぁそうしてくれ、ナバル」
苦笑いする姉。
「分かった、行くぞクイーグに――。ついでにバーブマン。お前は迷子になるなよ」
「仕切んなってっ!」
2手に別れ、色々と採取をし始めた少年少女達。
「この虫は……食べれる? お姉ちゃん」
「多分、ガ類の幼虫だね。大丈夫さカミラ」
少年少女の中で最年少の、カミラという幼い娘。
黄色の髪留めで前の髪を括り、大人しそうな女の子の頭を撫でてやる少女。
「お姉ちゃん、コレ」
「あぁちょうど良い、アリの巣があるねっ。アリも卵も両方食べれるから、貴重だっ。アリは……そうだ、コレで良いかな?」
彼女はささっと、草で特製の『牢獄』を作りだす。
要はすり鉢のような物だ。
「じゃあ掘り起こすから、グレミスがアリを捕獲していってほしい」
「は~い」
順調に集め始めた少女たち。
彼らは樹の国の住民だ。
〝口無し樹木の歯″とまで言われたその捕獲術は、他の民に無い知識と技術があった。
採取を続ける彼女達。
すると……っ!
「ねっ……姉ちゃんっ!」
弟の声が、辺りに響くっ!
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