異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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2章 聖地の守護者

元の世界に還る。その実現性。

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「やぁお目覚めかい?」


「ふぅ……ふぅ。お前は、レキか」

その、決してキレイとは言えないベッドの上に浮かぶ、美しいレキの顔を見やるジキムート。

あの後の記憶がない。

「そうだ僕だよ。勇者レキさ」

「勇者……。勇者、か。だったらノーティスを助けてやってくれ、勇者様よ。俺みたいな凡才じゃあ、どうしようもなかった」

「それは残念ながら僕でも、ね。どうやら、ゴディンに手ひどくやられたんだって? 強かったろうね、奴は」

そう言ってレキが、ジキムートの傷を触る。

「何が……強いだっ。アイツはブンブカブンブカ、ただ魔力を振り回してただけさっ。剣の射程範囲をじっくり見たり、効果的な位置取りを探したり。そう言った戦闘感が一切ねえ無能野郎だっ! あれは闘ったんじゃねえっ。ただの幼稚なクソ坊ちゃんの、お遊戯風情だよっ!」


ギュゥっ。


「……」

傷が痛むことさえ忘れて、拳を握るジキムート。

「だが、それでも勝てねぇ。傷を……たった一撃カスらせるのが精一杯だったっ。俺は全力だってのに、な。しかも信じられるかっ!? 一番信じられねぇのは俺が……。傭兵の俺がその話に、最後まで付き合っちまったんだよっ! 逃げれば良かったのに、俺は……っ」

頭を抱えるジキムート。

彼はいつでも逃げれた。

なぜならゴディンは、ノーティスだけが目当てだったのだからだ。


「逃げたくなかったから、自分の為の戦いをしちゃったんだね? ふぅ。困ったね。それは傭兵じゃないよ。僕は傭兵部隊の副長なんだけれども、なぁ。――まぁ、分かるけれど、さ。そう言う時ほど、無茶で雑な戦いをしてしまうんだよね。……ふぅ。ふふっ」

レキが哀しそうに笑う。

ジキムートの頭には血が上り、何度も選択を間違ってしまった。

なんとか超えたい倒したい。と欲を出したばかりに、受ける必要のない傷を負った。

そしてみじめに、ゴディンに完全降伏せざるを得なくなった。

最後はベッドの上。

今に至っている。


「ふふっ、ノーティスはそのまんま、地獄へ行っちまった。俺はなんもできずに、這いつくばっただけだっ! ゴディンに言いたくもねえ事吐いてっ! お願いしただけっ! ゴディン様~助けて下さい~だってよっっ! はぁ……はぁっ!たったそれだけだ、俺への報酬はっ。闘った意味は……」

傷を押し広げただけの、自分の戦い。

後悔しかない、ただの負け犬が唇を噛む。

「ジキムート、これ以上はやめるんだ。まだ傷も……」

「あぁーーーっ!なんであんな奴を神が選んだってんだよ。あんなクソ野郎がーーーっ!」


……。


「さぁ……ね。だけども僕らが、他人の性格や性質に意見してはいけないよ。他人がどうかじゃなく、傭兵は自分の力を証明する事だけを考えないと。やれる事をするしかないさ」

「分かってるよっ!」

大声で叫んだ声が響くっ!

結局ジキムートが何と戦ったのか? と、問われれば――。

自分の意地と戦ったと言うしか他ならなかった。


「……」

「……すまねぇ」

レキがかぶりを振る。


「良いさ。戦いたかったんだから、戦えば良い。傭兵が自分を見失ったって、別におかしな話じゃないだろうに。戦場でまともな感性を他人になんて、誰も期待しないさ」

「そうだ、な」

ジキムートが自嘲し、笑う。

彼らは傭兵。

個人事業主。

どう自分の命を使おうと、どんな風に生きようと、そして、果ては逃げ出そうと勝手の生き物。


(誰に言い訳してんだか、俺は)

ジキムートがどんな戦いを望んでも、誰も怒りはしない。

すると――。

「だけれども、君に聞きたいことがある。命をかけて闘って――。その中で見失った物は、大きかったかい? それとも小さかったかい?」

「大きさ――?」

レキの言葉に考えるジキムート。

自分一人だけなら、小さいと思えた。

傭兵が自分だけを見失ったならば、どうという事無い大きさだ。


だが、還りたかった世界には光があった。


「……」

「……」

ゆっくりとレキが立ち上がり、扉まで歩いていく。

そのレキの後ろ姿にそっと、ジキムートが声をかけた。


「なぁ……もしかして、ヴィン・マイコンはアイツに勝ったのか?」

「……あぁ。アイツは、特殊だからね」

言葉を残してそっと、扉を閉めるレキ。

確かにゴディンは、ヴィン・マイコンを恐れていたのを覚えている。

あの〝イノセント・フォートレス(不惑の領域)″は天才――いや、神才のゴディンをも圧倒して見せていた。


「戦わずして、格付けが決まっちまったな」

放心しながらジキムートが独り言ちる。

神のもとにたどり着くには、今ある格付けをなんとかひっくり返すしかない。

が、彼にはその〝案″はなかった。

「運良く、ゴディンが極上の神の愛を手放してぇ。ヴィン・マイコンが最高にイカした神の恩恵を、蹴ってくれる。あとは……。なんだ?」

ジキムートが放心したように、なんとなく、指折り数えて天を仰いだ。

「それをただ……。ひたすら指をくわえて見ているだけかよ。俺のようなボンクレにできる事は」

故郷の空は遠い。

そして、そこに居るハズの相棒の背中も、遥か向こうにあった。




「くくっ……ほら、神の喜びを受けよっ!」

「あっ……あぁっ、やっやーっ!」

女は叫ぶ。

もう、自分が言葉を発しているのか、鳴いているだけなのか分からない声を。

彼女はその、何回目だか分からない汚辱を受けた。

男の膝の上に乗せられた、女の服。

凌辱に適した分だけ破られ、胸と股部分だけを剥がれた、女のなり。

それは騎士団の、ギリンガムの部下である事をしめしている。


「じゃあ次は俺なっ。……くっ、へへ良いよやっぱ。良く鍛えてると何べん……10ぺん位かね? そんなにヤッてもキツさは残るんだなぁ」


激しく突かれながら、必死に理性で言葉を紡ごうとするが――ただただ呻くだけだ。

目もトロリ、と自我を失いかけている。

「ほれ、あそこらへんはもう、この〝神事″を理解してるんだぞ。そして誇りを持って受け入れてんだぜっ!」

水の使徒は指さす。

その方向からは、先ほどから声が聞こえている。


「あぁ……神の使徒様。私の中へ子供を……。神聖なる神の血を継ぐ子供を下さい」

「くくっ……良いぞっ。ぐぅ……っ」

男が果てるとすぐに、別の女が猫のようににじり寄る。

その体にはもう、拘束する物は見られない。

「あぁ、次は私にっ! 私にも世界の指導者を……。世界を神の為に導く……あぁっ」

彼女らは恐らく、もう長きの間ここに閉じ込められ、毎日のように汚され続けたのだろう。

中には腹部が少し、張っている者も居た。

そして一様にこの凌辱の意味を少しだけ、理解し始めている。

それは、この世界の道理。


「はぁはぁ……。くっ、私は決して、神の子など。お前たちは神の使徒などではっ!」

「たゆたう水、誇りの流れ。神のうるおい。お前たちが毎日のように唱えるその言葉。その誓いを立てた神に、人の中で最も近いのは誰だ? ん? 我々ではないのか? 神への恩寵に少しでも近づける場所が、この聖地を置いて他に、どこがあるっ!?」

「……それ……は」

戸惑う騎士団の彼女。

「我らは神に選ばれ、ココに居る。それは紛れもなく他者よりも、神に愛された証。認められたという証明ではないのかっ。その聖人の子を否定する、愚かな言葉など、どこにもないっ!」

「うぅ……ぐぅ」

絶対的な神への愛。

それはこの世界の普遍の欲望となり、神に愛されたいという欲求に変わる。

他人よりも神に愛されていたいという、この願い。

願望を叶えるチャンスが現実にその、凌辱にはあった。

「く……うぅっ、出るぞっ!」

「あぁっ!?」

苦しそうに女が叫ぶ。

熱い感覚が下半身を刺したっ!

すると――。


「おいっ、あの女をもってこいっ! ゴディン様がお呼びだっ」

「あぁ、はいはい。じゃあとりあえず出したし、俺が行くわ。後はお前らで頼むぞ」

そう言って今まで説教をしていた女を、男が適当に投げる。

「おお。じゃあ俺は……」

「ひっ!? やっやめろそこはっ!?」

声色が変わる女騎士っ!

叫びと喘ぎが充満する、檻の中。

ノーティスはそこから一人、首輪をかけられ外に出されていく。

「……自分達のおごりきった、その体たらくを一度でも、己が信じる神に問うた事はあるのか?」

ノーティスが真っ直ぐに、前を向きながら聞く。

彼女はもうすでに、素っ裸だ。

白い肌と大きな胸を揺らしながら、暗闇を歩いている。

美しい顔、そして険のある眼差し。

前を睨みながら、首輪で引かれていく彼女。
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