異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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2章 聖地の守護者

神と使徒。

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ナイフで串刺しになりながら、必死に手下を呼ぶ声。

「欠陥品っ。うぅ……げほっ。げほっ。早く来いっ!」

取り巻きAだ。

頭の悪いほう、と言えば良いのだろうか?

それがネィンを呼ぶ。

どうやらジキムートのナイフで、死んでなかったらしい。

「はっ、はい」

「早く……。早く助けろっ!」

首筋を押さえながら命令する、取り巻きA。

ジキムートのナイフはきちんと、首に貫通していた。

だが細い切っ先がぶれて、即死は免れていたようだ。

なんとか首を凍らせ、寒さに身をすくませながら、物陰に隠れている。


「わっ、分かり……ましたっ!」

命令にネィンは、自分の足。

初めの、ノーティスと巻き込まれた氷の岩。

その時痛め、どうやら折れてしまった足を押さえながら、モヤがかかる戦場を見やる。

そして〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″を持って、戦火の中を走り出したっ!


「はぁ……あぁ、お前たちは……。ぐぅ。人でなしだよっ! 神の言葉を利用して、我々をたばかる……。人類の敵。そう、お前こそが悪魔……だっ! はぁはぁ」

水蒸気が蔓延する中、ノーティスの悲鳴のような叫びが木霊するっ!

かすむ目、震える肌。

ノーティスが必死に叫ぶっ!

ヒュンっ!

ノーティスの声を頼りに、ジキムートの放ったナイフが、ゴディンを襲ったっ!

カンっ!

だが、全く何も考えず、ただ氷の盾で防ぐゴディン。

360度対応の、ほぼ完全な防御魔法だ。

上さえ見ていれば、恐れは全くない。

カンカンっ!

もやの中、どこからともなく投げ込まれるナイフに、ゴディンが飽きたのだろう。

戯れに、ゴディンがノーティスに応えてやる。

「悪魔、か。ふふっ……。それは考えが浅いなぁ、ノーティス。それを〝神の腹心″と定義するんだよ。人間にとってはね、良い事ばかりではないんだよ。神様のお言葉は。君は、都合の良い事が聞きたいのかい? それとも、都合の悪い神のお言葉が聞きたいのかい?」

笑うゴディン。

「だがお前達は、神の善意を悪用しているっ! 違うのかっ!?」


「何言ってるのさ? 君らも魔法を――。神が与えた大切なマナを存分に、自分達で悪用しているだろう? お金を儲ける手段に君たちは、魔法を使わないとでも? その上、人も魔法で殺す。戦争では魔法が付き物だ。違うかい?」

「くぅ……」

「良く考えなよ、頭で。なんの取り柄がなくとも、暴力があれば王族になれる。なのに他人の聞けない神のお言葉が聞けて、そのご意思を代わりに口にできる存在が、低い身分な訳が無いだろう? 王が武力をもって王たるなら私は、神の寵愛をもって、神と同義となれるよね?」

堂々と胸を張り、言ってくるゴディン。


彼が言う言葉は真理だ。

神がいる事が分かったとしても、その言葉を伝える者がいなければ意味がない。

神を愛するならばまた、神の声を伝える者を神のごとく。

そう――現人神のように敬うべきなのだろう。


その時っ!

バリンっ!

魔法障壁が割れたっ!

だが……。

「ふふっ」

グッ……ぱっ。

手を握って、開いただけ。

それだけで同じだけの厚さの障壁を再構築した。

飛んできたナイフは10を超えているというのにだ。


「くぅ……」

唇を噛むノーティス。

神話世界から彼ら、神の使徒が使ってきた言葉だ。

そして何度もそれは、人類が覆してきた。

ただし、それは言葉ではなく暴力で、だが。

「ふふっ。でも安心しなよノーティス。お前は私の物となれたのだっ! 今から君はこちらに。蛮族ではなく、神のご意思に寄り添える人間になれるんだよっ。私だけの〝器″になってっ! それもこれも、次期〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)〟たる私のおかげでさっ! 感謝せよっ!」

無邪気な笑顔。

彼は真理を言っているのだ。

何も負い目はないだろう。


「やっぱりこの世界は歪んでる――」

ノーティスがゴディンを見やり、悔しそうに唇を噛むっ!

「お前は私を神として、無条件で受け入れる他ないっ。それが神への愛そのものだっ! くくくっ!」

神が選んだ者が例え醜悪でそして、傲慢でも、だ。

人が如何にして彼を好きになるか等は、些末な話。

それとも――。

神にこう言うのだろうか?

私が気に食わないので、コイツを変えてください、と。

それこそ傲慢の極みだろう。


(異世界の神様、お前っ! てめぇを心から愛するなら、お前が愛するモンは全部認めろって言うのかっ!? どんな毒でも、こんなゴミ糞野郎でも飲み込めって言うのかよっ。大いなる神様、断じてお断りだぜっ!)

ヒュンッ!

力いっぱい、ナイフを投げつける異世界人っ!

神を本当に、心から愛する世界の哀しみを、垣間見た気がする異世界人。

この世界は、偉大なる神が愛したその毒人を、自らの口に押し込み、飲み込むしかない。

笑え。

笑って敬え。

例えその毒で自分が死のうとも。


「俺は戦うぜっ! アンタをっ、神様を殺してでも、おのれの道を取ってやるっ!」

叫んでジキムートが、自分の剣をぶん投げたっ!

ビクンっ!

「……」

「なん――だとっ!? 神に死ね……っ!? このたわけめっ! まだ楯突くのか。少しは自分の無能をわきまえ……っ」

その顔は恐怖か、驚愕か。

ゴディンは、必死に食い下がるジキムートの言葉に耳を疑い、、苛立ちながら攻撃を用意するっ!

彼には、目の前に飛んでくるバスタードソードなど、意味はないっ!

だが――っ!

バキッ!

分厚い氷の盾がいきなり、真っ二つに割れたっ!


ギシャラアァアアッ!


「ひぃいっ!?」

飛び散る氷、突き出すバスタードソードっ!

巨大な、刃渡り90センチもあるバスタードソードが飛び出してきて、ゴディンが恐怖におののくっ!

どたっ!

尻もちをついたゴディンが、うずくまってしまうっ!


「よっしゃーっ!」

ジキムートは障壁に当て続けたナイフで、等間隔に亀裂を作っていた。

そしてその亀裂がつながり弱った障壁の、最弱部分にバスタードソードを命中させたのだっ!

「いっけぇっ!」

開けた活路っ!

ゴディンのスキを突いて、一目散に駆け込むジキムートっ!

「借りたぜ、ノーティーースっ!」

傭兵の手には、フェイクの為にノーティスに投げさせ、ジキムートが受け取らなかったショートソードがっ!

「うぅらっ!」


バスンっ!


爆発音がした――。

その瞬間、やられてしまう。


多量に舞う、赤。

飛び交う血が、傭兵を襲うっ!

「ぐぁっ!?」

「薄汚いんだよっ! このゴミがーーっ」

恐怖の中、怒りに任せてゴディンが叫んだっ!

そしてまた――呪文。


「我は願う神の恩寵っ。我らの血と肉となりし物も全ては水。生命の源の……っ!」

ゴディンが語りかけるのは、マナではない。

直接の、神への言葉。

現人神に近しき、使徒の願い。

凶悪なる祈りが血を刃とすっ!

自分の取り巻き2人を贄にして作る、体液の弾丸だっ!


「ぐっぐぁっ!? やっ、やめてくださいっ。ゴディンさんっ!」

血が吹き出て止まらないっ!

生きながらに人間を爆散させているっ!

脳や内臓の破片が魔力で凝縮させられ、飛び回ったっ!

取り巻きAがもがき苦しみ、絶叫するっ!

「あっ、ぁあ……」

そこら中を飛び回る、血と肉辺の弾丸におののくネィンっ!

そして異臭。

ネィンが恐怖の声を上げたっ!


「早くっ、早く俺を助けろよネィンっ! この薄汚い、娼婦の子がーっ!」

「はっ、はいっ!はい今すぐっ!」

ネィンは、自らも切り裂く血の刃に傷つきながらも、〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″を取り巻きAに垂らすっ!

だが、全く効く気配がでないっ!

「そらそらぁっ! いくらでもあるぞ、血も、肉もーーっ! 」

「ゴディンさーーんっ!? 俺らが死んじまいますっ。やめてくださいっ!」

「この傭兵如きが、私に傷をつけるなどとーーっ!」

叫んで笑うゴディンっ!

折角手に入れた、自分用の〝器″。

それへの調教の、たびたびの中断。

イライラとした目。

恐怖と傷の痛みっ!

怒りに任せて水の民の、仲間の血肉を構わず乱舞させるっ!


「グアアアアァッ!?」

逃げ回るジキムートの周りには今、数千を超える血と内臓の弾丸の群れがっ!

ともすれば、蚊やアブにも見えるソレ。

息をすれば口に入ってきてしまう程、無数にたかられているっ!

虫の大群のような物に巻かれて囲われて、リンチを受ける傭兵っ!

「ウガアァアッ!? ゴディンさんっ! ゴディン様ーーっ! くぅ聞いてねえっ!? ネィンっ! このボケがっ! 早く、早く〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)〟をもっとーーっ!」

取り巻きAがネィンに叫ぶっ!

しかし……っ!

「でっ……でもっ。これ以上は、下等の者には使えませんっ!」


……。


「なっ……何っ!? 下等だとっ。それはお前のっ。欠陥品のお前の事だろうがっ!」

「でもそれはゴディン様が――っ」

「そっ……そんなのっ。嘘だろっ!? なぁっ。 なぁぁっ!?」

ネィンの服を強く引っ張り、必死に懇願するように聞く取り巻きAに――。

「……」

ネィンが無言でギュッと、彼の手を握りしめたっ!

「はぁ……はぁ……。」

取り巻きAが絶望的な目で、猛り狂っているゴディンに視線をやるっ!

言葉が出ない取り巻きAっ!

吹き出る血と恐怖にさいなまれた彼は、そして――。。


「あぁああああーーーーーっっっ! くぅうっ!? お……お前だっ! そうだよっ! お前だよっ! 貴様が初めに追いつかれてなきゃ……うぅっ!」

「うぁ……あぁっ!?」

ネィンは取り巻きAに力いっぱい握られ、後ずさりする。

だが、その呪い染みた力が振りほどけないっ!

吹き荒れる血の嵐の中に響く、呪文。

「俺はてめえのせいでっ! ぐずっ! 欠陥品めっ! こんなっ! こんな欠陥品っ。このけっか……ん」

取り巻きAは憤怒の形相で、ネィンをにらみながら……息絶えた。

「あぁっ……」

ヘタリ込むネィン。

その自分を責める声は、ヨワイ10と少しの人間の心に深く残っただろう。


シュウウウッ!


焼ける様な音が、響く。

「なんて魔力だ……。呪文詠唱しただけで……こんなっ!? これが〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″なの、ね。ふふっ。これが神の愛がもたらす……残酷さ」

ノーティスが唖然と、言葉を垂れ流す。
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