異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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2章 聖地の守護者

聖域の戦士。

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振り返ると同時、甲高い音が間近で響いたっ!

その直後、ゴディンの右から何かが、顔めがけて襲ってくるっ!

「くぅ……っ!?」

実際は魔法のシールドで弾かれるのだが、恐怖でゴディンがとっさによろけてしまったっ!

(よし、良いぞっ! 引っかかった。)

氷の破片を投げたジキムートは、ゴディンのちょうど真横で、ナイフを使ってはじけさせていたっ!


(ナイフじゃ障壁を壊せねぇけど、コイツ相手ならかく乱は簡単だっ! 横が駄目なら次は……っ。)

ひるんでよろけるゴディンを横目にして、ジキムートは壁を蹴るっ!

そして十分な高さで、敵の上から真っ逆さまっ!

右往左往するゴディンの真上から、直下に落下っ!

(よし、ぬけたっ!)

障壁はないっ!


シュタっ!


「ひっ!?」

ゴディンが奇妙な感覚に恐怖するっ!

突如ジキムートが音も無く、降って来たのだっ!

「もらったっ……!」

ガギッ!

「……コイツっ!」

歯ぎしりし……、ジキムートがうなるっ!

ナイフからの手ごたえが、異様に固いのだっ!


「ふぅ。なかなかどうして。焦らせるね。だが、この好機にナイフ、か。お前はどうやら魔法が使えないようだ。可哀そうな神の捨て子よ」

ゴディンはいつの間にか自分を、氷に変化させていたっ!

ジキムートを見てへらりと笑う、氷の像。

その顔は心底同情している顔だ。

嘘偽りない、下位者への哀れみ。

「あぁ……。生きるも無惨な、劣等種の中の粗悪品。哀れな奴」

「俺が……、劣等種の粗悪品だとっ!?」

目に殺気が走るジキムートっ!

だがゴディンは気にする事無く、ジキムートめがけて、至近距離で手をかざしたっ!


(またあの〝スペルレス(神の寵愛深き物)″かっ! コイツ詠唱も何もなく、即時魔法をぶっ放しやがるっ!)

異常なまでの優位を、ゴディンは見せつけていた。

そして氷と化した彼は、ジキムートへと魔法を発射っ!

「うぉおおっ!」

その瞬間、ジキムートは〝ボタン″を引いたっ!

ザスッザスザスっ!

あのウロコのガントレットだっ!

今までマントの内に隠していたガントレットが、布地を破って起動したのだ。

「っ!?」

「あのウロコですねっ!」

ノーティスが笑う。

そこにはまるで、爬虫類のウロコのように重なる、ナイフの山っ!

異形の姿が現れた。

そして……っ!


ガスガスっ!


至近距離で撃たれた氷を、ナイフのウロコが弾き飛ばすっ。

「なんだ、このモンスターハーフはっ!? 人間ですらなかったかっ。ゲテモノめっ。汚らわしいっ!」

ゴディンが嫌悪をもよおし叫ぶっ!

「うらぁっ!」

傭兵は構わずそのまま〝ウロコ″を勃起させるっ!

そして一気に剣山のようになった左肩を、ゴディンに直撃させたっ!


ガッガガガッ!


「……っ!?」

ゴディンと言う名の氷に、次々と食い込むナイフの群れっ!

重い音が響き、氷のゴディンを串刺しにするジキムートっ!

「ウウゥウラァアアっっ!」

傭兵は叫びながら歩を進め、すさまじい脚力で、重くなったゴディンを持って行くっ!

目指すは『終点』。

一際固そうな壁っ!

そこで挟み撃ちにして、衝撃で壊そうというのだっ!

だが……っ。


「ぐっ。汚らわしいっ! 止まれっ!」

イライラしたゴディンが、氷を地面一体に張った。

するとまたしても、氷飲み込まれる通路っ!

ガシッ!

「なっ!?」

ジキムートの足元が凍り付いたっ!

(1人の魔力で、壁まで覆ってやがるのかっ!? まさかあの、氷の岩もコイツ一人でっ!? あの手下と一緒になって、魔法を撃ってやがったんじゃ……っ)

ジキムートの想定以上の、ゴディンの魔力っ!

なす術なく、その場に足を固定されてしまうジキムートっ!


「あがっ!?」

無理に足を止められジキムートは、体勢を崩してしまったっ!

ドタッ!

靴が地面に張り付き、体だけで転んだジキムートっ!

(やべ……っ、しくじったかっ!? このクソ野郎のすかした顔も、この戦いの雲行きも気に食わねえっ。ここは逃げるしか……っ!)

何か、嫌な予感。

チラリとジキムートが見やる、横の壁。

登ればまだ、この場から逃げられそうだっ!

その時、ノーティスの声が聞こえる。

「捕まえておいてくださいっ!」

ノーティスの体が光ったっ!

「……」

ジキムートの一瞬の躊躇。

だがノーティスの言葉通り、ジキムートがゴディンにしがみつくっ!


「下賤が……。触るな」

ガキッ!

「グッ!?」

ゴディンの氷の拳で殴られ、ジキムートの顎が砕け、歯が2本とぶっ!

(おいっ、マジかよこの威力……っ!? どんだけ分厚いんだ、コイツの氷っ。素人の癖にっ!?)

殴られた瞬間、ヴィン・マイコンのパンチをほうふつとさせる程の、鋭い痛みが走るっ!

ジキムートはそれでも自分のウロコを盾に、ゴディンと取っ組み合いを続け、離さないっ!

ノーティスはその間に、呪文を解放させるっ!

「我らは盟約の前にただ、貴方を開放するなりっ!」


ガシッ!


「……」

再度樹が、氷の障壁に穿たれたっ!

そしてドンドンと虫は、ゴディンを目指し、シールドを食い破り始めるっ!

「ちぃ……っ。ヤメよっ、女っ! 我が命ずるのだっ。そのような神への侮辱、私が赦さないっ!」

ノーティスを睨み、命令するゴディンっ!

「黙りなさいっ! 何度でも打ち込んであげますよっ」

殺気をほとばしらせ、ノーティスが薄いブラウンの両目を見開くっ!

そしてノーティスが再度、魔法を詠唱し始めるっ!

ゴディンを食い殺すまで何度でも、ノーティスは魔法を使うだろうっ!


「貴様ぁ……っ。なぜ従わないっ!? そのような美しい顔で、そのような汚れた行為っ! 絶対に私がさせないんだっ」

ノーティスを睨んで、殺意のような物を吠えたゴディンっ!

ガスガスガスガスガス!

氷の刃が数十……、いや、数百っ!

水を冒涜する木の虫へ、刺さりまくるっ!

めった刺しを超えた、微塵刺しっ!

「ハァハァっ!」

肩で息するゴディンっ!


「樹よ。食えよ吸えよ、肥え太れっ!」

だが息つく間もなく、ゴディンに、もう1撃っ!

「ちぃっ!? これ以上はさせないぞっ!少し甘やかしすぎたなっ。調教がなってないメスはこれだからっ!」

呪文を唱えるノーティスに向かって初めて、ゴディンが呪文を口にし始めるっ!

「神よ。盟約を示せっ。我の身を浄めたまえ、我は神の為に作られし一族。そは神の一部へと変貌し、ここに盟約の再現をっ。〝アーク・エンクレイヴライト(聖域現出)〟っ!」


ヒュンっ!



「……!?」

ノーティスが瞬間――。

何が起こったか分からない、と言った顔をする。


(私は確かに……、マナサーチをかけた。)

彼女はあまねく世界のマナを探して、樹木のマナを集めようとした。

緑を十分集め終わりそして、その瞬間、手の中を見る。

フッ……と、緑が消えていた。

代わりに手に残ったのは水のマナ、それだけ。

(世界から緑が――。神が与えし樹木様のマナが消えたのっ!? そんな事、人の身でできるハズが……。)

頭が真っ白になる。

再度、どうやってマナサーチしても、樹木のマナが見つからない。

落ちている木製の箱や、道端に生えた雑草からさえも、だ。

ゴディンが見事に、世界の環境や循環、生物論理ですら一人で変えて見せていたっ!


「化け物……」

ノーティスが呆ける。

あり得ないほどの差。

これが神の寵愛の差だと、自分と水の使徒ゴディンに、まざまざと感じさせられる彼女。

「おいっ、ノーティスっ!」

ジキムートの声にハッとなるが、もう遅かったっ!

「くっ!?」

さっきまでジキムートに抑えられていたゴディンが、ノーティスに向かっていくっ!

殴り捨てられたジキムートは、顔面をアザだらけにし、血まみれになりながら這いずっているっ!

10数発は殴られたのだろう。

ナイフの残骸と血が、壁に刺さっていた。


「待て……よっ!」

だがそれでもなんとかジキムートが、ゴディンめがけてナイフを投げるっ!

ガキンっ!

投げたナイフは、ゴディンが無意識に展開する、分厚い氷の壁。

それに全く効く気配がないっ!


(なんなんだよ、こいつぁよっ!? こんなド素人にっ! 俺はコイツの動きを全部読めてんだぞっ、クソがっ!? 大体こいつは、戦闘相手の顔すら覚えれない、ボンクラだろうにっ)

嫌な気配に苛立つジキムート。

どれ程ナイフを投げても、全く。

そう、全然と言って良い程ジキムートの力は、ゴディンにカスリ傷さえ望めないっ!
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