異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

文字の大きさ
上 下
69 / 145
2章 聖地の守護者

水の神に仕える者の実力。

しおりを挟む
投げ込まれた物は――〝瓶″っ!

「っ!?」

一瞬にして、ジキムートの脳裏に浮かぶ光景っ!

声を出す暇もない。

そこから一目散に逃げるジキムートっ!


バリンっ!

バキバキバキっ!


ビンが割れると同時、氷の猛り狂う音が聞こえ、すぐ近くまで殺意が迫ってきたっ!

それをなんとかジキムートが、店の軒先に這いあがって難を逃れるっ!

「くっ、いきなりですねっ! あの馬車の時と同じっ! こっちかっ」

ノーティスが犯人を追い、小さな路地に入っていくっ!

その姿にジキムートが、少し躊躇し――。


(これは、罠だっ! だが……。)

これは罠だと分かった。

だが、他方で脳裏によぎるのは、そもそもとして、ここに来た理由。

(ここの住民のトップがいるはず。そいつならきっと、神の素性を知ってる。なんせ聖地をしきってんだからよっ。そいつはテロリストの元締めだろうさっ! だったら、虎穴に入らずんば虎子を得ずって事かっ!)

ジキムートはヴィエッタ直属と言っても、ヴィン・マイコン達のような〝中枢″の役割は持たない。

自力でたどり着かなければならない、神への道っ!

「ハイリスク、ハイリターンってのは……、常識だよなっ!」

テロリストの巣窟であるこの、聖地。

テロという危険の先にはきっと、手掛かりがあるはずなのだ。

すぐに彼もノーティスを追いかけて、小さな路地を行くっ!


バリンっ! パリパリンっ!


「ぐっ!?」

たくさんの小瓶が投げ込まれてくるっ!

それをかわしながら、少年の影を追う2人っ!

「くっ。あの人たち……っ!? なんて早いっ!」

ネィンが焦りの声を上げたっ!

思った以上に速いのだ。

普通の傭兵でも騎士団でも、追いつかれると思った事は今まで、一度としてないのにっ!

「もうすぐっ、もうすぐです!」

ノーティス達はその、追いつきそうな背中へとドンドンと迫っていくっ!

少年は右に曲がり、左に曲がりそして右に……っ。

「神のお導きをっ!」

どこからか、祈りの声が聞こえた。

その瞬間っ!


バリバリバリっ!


地面がいきなり、鳴き声を上げたっ!

薄く張られた透明な氷が、一気に地面を走り、そしてっ!

「ぐっ!? そんなっ!?」

ノーティスが、それに足を取られてしまったっ!

驚く彼女は、目線を少年へと――。

「えっ、こんなに早くっ!? しまったっ! 靴が……、抜けないっ!」

ネィンも驚きの声を上げていたっ!

地面に縛り付けられる、ノーティスとネィンっ!

そしてそれは、一段後方にいたジキムートにも迫り……っ!


「やべっ。逃げ場がっ!?」

狭い路地は壁に囲まれ、逃げる場所がないっ!

しかし……っ!

「だったら壁にっ!」

すぐさまジキムートは、壁を蹴るっ!

彼は信じられない程身軽に、壁の上へと逃げ始めたっ!

誰もが予想外の動き。

だが――。

「壁にも来やがっただとっ!?」

逃れられないその魔法。

広範囲に、隅々まで氷が及んでいくっ!


(この感じ、嫌な予感がすっぞっ!)

手に汗握り、ジキムートが走りのギアを上げたっ!

必死に頂上を目指そうとする傭兵。

すると、ジキムートの目の前に突然――。

「……っ!?」

突如の影。

3人の上空。

そこに岩とでもいうべきだろうか?

よく、ダンジョンのトラップで転がってくる位の大きさ。

路地を埋め尽くさんとする岩氷が、いきなり出現していたっ!


「がっ!?」

意味不明に叫ぶしかないその、大魔法っ!

逃げ場がない。

そして岩氷は……っ!



ガラガラガラっ!



「うああっ!?」

重力に引かれ落下っ!

全てを巻き込み、大容量の氷がハジけたっ!

氷風が、辺りを白一色に変えるっ!

ドシャアアアアっ!

……。


「よっしっ!」

少し待ち、取り巻き2人が嬉しそうに笑い、隠れていた場所から出てくる。

モヤがかかるその一帯。

彼ら取り巻きAとBは悠々と、ジキムート達が居たところへと歩き出す。

「おい、終わったかい? 巻き込んで、殺してないよね? まさか」

「えぇ……っと。今確認してま」


ザスザスっ! ザスンッ!


「……ぅぉっ!?」

「……どうしたっ! 早く返事を」

いまだ隠れているゴディンは、周りを見渡す。

まだモヤで見えない。


そして……目の前からナイフがっ!

ヒュンっ!

「うぁあっ!? まっ、前かっ!?」

ドタンっ!

驚いて尻もちをつくゴディンっ!

すでに魔法の障壁は展開していたが、焦ってもう一度貼り直してしまうっ!

ジタバタとしながら、目の前を探す彼の……。

「……っ」

ゴディンのその後ろに突如、気配が現れたっ!

そして……っ!


バキッ!


「ぐっ!?」

ジキムートが後ろへ下がったっ!

目の前には、氷の半透明な盾っ!

「ちぃっ、なんだコレっ! いつの間に後ろまで……っ」

舌打ちをするジキムート。

どうやらこのゴディン、広範囲への魔法障壁をいつの間にか、張っていたらしい。

「つぅ……。なんだこの、汚い男は。傭兵か?」

訝しそうにジキムートを見やるゴディン。

(クソ……。この坊ちゃんがきちんと、俺のペテンを見破ったようには見えないが。なんで後ろまで盾が張られてやがるっ!? 魔力が高いって事か。それならナイフじゃ駄目だ。)

ジキムートの手には今、ナイフしかない。

細いスティレットナイフでは、氷の盾を破れないと踏んだ傭兵が少しゴディンから離れる。


「という事は、3人目がいたのか。奴らめ、きちんと人数は確認しろと言っておいたのにっ。くそっ。なんて不快な格好の、薄汚い奴だ」

後ろに湧いて出て来た傭兵。

それを不快そうに眺めながら立ち上がって、一瞥してくるゴディン。

「3人目? 何を言ってやがるコイツ。だがくそっ、剣を……取れればっ!」

真上を一瞥するジキムート。

ジキムートは剣を失ってしまっていた。

這い寄る氷が壁まで追って来た時に、壁に剣を刺し、それをバネにして飛んだのだ。

そして降り注ぐ氷塊を蹴り超え、軌道を変えて、事なきを得ていた。


「平伏せよ、サル。道を開けよ」

ゴディンの言葉と同時、傭兵の目の前に現れる、無数の氷。

その数なんと、20近くっ!

「なっ、冗談っ!?」

ゴディンから距離を取り、後ろに飛ぶジキムート。

逃げながらもジキムートが、ナイフを手のひらに射出し、投げつけるっ!

パキンっ!

ジキムートの投げたナイフで、大容量の氷の刃に風穴が開いたっ!

その風穴を縫うように、大量の氷をジキムートがかわしていくっ!

「へぇ……」

感心すると、ジキムートに歩いて行くゴディンっ!

それにビクリと、面食らうジキムートっ!


「ちぃっ!? コイツ魔法じゃなく、接近戦するタイプかよっ!?」

思わず叫ぶジキムートっ!

傭兵はゴディンの直進に怯え、ナイフを持って、舌打ちをしたっ!

(やべえぞっ!? 魔法も接近戦も得意だとかっ! この聖地の守護騎士か何かかっ!? まずったっ! ひょろそうなナリ見て騙されちまったかっ!?)

ペテン師がペテンにかかり、ジワリと汗に濡らされてしまうっ!

そして……っ!


「邪魔ね……」

ドン……。

弾かれ、道の端に飛ばされるジキムートっ!

「……っ!?」

そしてジキムートのすぐ隣を、汚い物を避けるようにシールドで避けて、通り過ぎていくゴディン。

意味が分からないジキムート。

「なかなか良い顔だ。ふむ。思った以上だよ……。そうだ。良かった」

何か言葉が聞こえた。

その瞬間……。

ビキキっ!

ジキムートが理解し、青筋を立てたっ!


(この野郎……。舐めやがってっ! 3人目ってのはそういう事かっ。しかも後ろも見せてんだぞっ! 敵に挟まれてるって考えもねえのかよっ!)

怒りと共に、ナイフを両手に出した傭兵っ!

真後ろを向いているゴディンへと投げるっ!

だが――。

「邪魔をするなよ、汚いの」

ゴディンの声と同時にまた、20に迫ろうかという魔法の雨を出現させたっ!


「クソっ!」

ゴディンからの攻撃に、身をよじってなんとか対応するジキムートだが、数本が腕と顔をかすめたっ!

「なんだコイツ!? 魔法の出が異様に早いぞっ」

尖ったゴルフボール。

それが20も一気に湧いているのだっ!

驚きを隠せないジキムートっ!

「〝スペルレス(神の寵愛深き物)″です、気を付けてっ!」

ゴディンを、ジキムートと挟むんで相対するノーティが叫ぶっ!

傷を負った右手を押さえながら、彼女は樹の魔法を放った。

「無駄だよ」

ガギンっ!

音がし、ゴディンの展開済みの氷の障壁に、樹木が阻まれるっ!

だが当たると同時、樹がシールドにへばりついていくっ!

その瞬間に、ゴディンの顔色が変わったっ!


「なにっ!? このマナは……っ」

今まで笑っていたゴディンが、驚きうめくっ!

蒼白の顔をして震え、氷の障壁を何枚も即時展開っ!

後ずさりしているっ!

ビキキ・・グキッ!

へばりついた樹は、氷のシールドに穴を穿つっ!

そしてそこから触手を伸ばし、氷を侵食してゆくっ!


「この魔法は特に、水には良く効くっ! 樹の虫に食い破られたくなければ、観念なさいっ」

虫のように動き、氷を食い破るツタっ!

恐れるゴディンを見て笑うノーティスっ!

「くぅ……。なんとなんと汚らわしいっ。神を侮辱する為に生んだ、こんな呪文を使うとはっ!? 滅せねばなるまいっ」

ゴディンはまた、氷の刃を出したっ!

今度は数十本の刃だっ!

ザスザスザスザスザスっ!

そして執拗に、樹を微塵に切り刻んでいくっ!

すると……っ!

「……っ!」

殺気に気づいたゴディンっ!

パンっ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...