異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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2章 聖地の守護者

器。

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「そうですかっ! お気に召されましたかっ。それで、どうしましょうっ!?」

「どうするか、か。そう……、だね。とりあえず、近くで見たいかな。ひとまずはやはり、傷をつけないで〝器″だね。そうだ、〝器″にしてあげよう」

ゴディンが、少し戸惑いながらも笑う。

「えっ!? ゴディンさん自らの〝器″って事ですかっ? 相手は傭兵ですよ……。良いんですかい?」

「……。」

応えないゴディン。

戸惑う取り巻きが少し、目を細める。

そして、ゴディンが見初めた対象を見ながら……。


「でっ、でも。そうっすよね~。こんな良い〝器″、滅多にないっすよ。〝カムイ(神威)〟、来ちゃったみたいですねぇ~っ!」

「そうだ……ね、そうだそうだ。これは間違いない〝カムイ(神威)〟さ。そうに違いないよっ。神のご意思を感じるっ! そうか。だったらこれは、私の〝器″として申し分ない。専用の〝器″にしようかっ!」

舌なめずりするゴディンっ!

どうやら気持ちが盛り上がったらしい。

決断したようだった。

すると、もう1人の男が声を上げた。

「あぁ、確かに確かにっ! おぉっ!? ほんと、久しぶりのすげえ奴だっ。あの傭兵を捕獲するのを失敗……」

そう言葉にして途中。

「……」

「すっ、すいません。ゴディンさんっ」

恐らくは、ゴディンの取り巻きらしい人間。

それがハッとした表情で下を向き、口を押えたっ!

蒼白な顔でゴディンへと謝罪する取り巻きA。

「――まぁ良いだろう。僕は機嫌が良い」

言葉にしながら、花の匂いを嗅ぐゴディン。

そして再度、自分の獲物を目で追った。


「馬鹿かてめえわ」

「ちっ……。るっせぇんだよ」

取り巻きBの嫌みに、嫌悪の顔で罵る取り巻きB。

中肉中背の男2人が一瞬、にらみ合う。

そして、すぐに冷や汗を拭いて、失言を流そうと話題を変える取り巻きA。

「まっ……まぁ。手筈を整えましょうよゴディン様っ! じゃあ早速ですけど〝インフェリオ(幼生天使)″、呼んじゃいますね? おいっ。オィっつってんだろっ!?」

「……はいっ、お呼びでしょうか?」

不機嫌そうなその声に、小さな男の子が応えた。

年は、11・2歳位だろうか?

オドオドとし、非常に怯えた顔で少年が、出入り口である開放型の階段から、這い出てくる。


「おっせえんだよっ! お前の名前はなんだ?」

「すっ、すいません。私は天子様達にお仕えする〝インフェリオ(幼生天使)〟ネィンですっ!」

そうぺこりと深く足をつき、まるで王に謁見するようにネィンは答えた。

ネィンの髪は金髪。

子供らしい顔つきではあるが、体つきはこの聖地の中ならば比較的、頑丈そうな部類だ。

背丈は130の後半くらい。

赤みがある肌と、少し暗めのブラウンアイの相貌をキョロキョロさせながら、大人たちに答える。


「よっしネィン。お前、次はアレ……。そう、アレ狙えっ! どうだ、分かるよなぁ? いつも通りだ。お前がオトリで惹きつけて、俺らがしとめる」

ネィンに双眼鏡をのぞかせ、指示する取り巻きA。

「……。分かりました」

ネィンが覗き込む先には、ジキムート達がいる。

「しかも、今回は特別さっ! ゴディン様自ら、あいつらを神の道へと導く〝器″にするんだっ。ゴディン様の、神に等しいお方の器だっ! 〝カムイ(神威)〟まであったんだぜっ!? 最高の相手だろっ、なぁ?」

「……」

下賤な顔で笑う、その取り巻きAの言葉に、苦笑いで答えないネィン。

「そんで、作戦中にヤバくなったらあそこ……。そう、あの店の中へ隠れろっ! 良いな? うんじゃあよし、行けっ!」

「エッ……。……」

取り巻きAの言葉に一瞬、ネィンが止まる。


「なんだよ? 分かったら早く行けっ、この2等民」

急かす取り巻きA。

すると意を決したようにネィンは、口を開いた。

「えと……。そんな事をしたらまた、グレトロおじさんが捕まっちゃうので……。その……」

「あぁんっ!? なんだお前、俺に文句があんのかよっ」

ガっ!

「ぐ……ぅ」

殴られたネィンが、右の顔を押えるっ!

容赦ない平手打ちは、掌底に近い。

渇いた破裂音ではなく、拳が当たった時のような、身をえぐる音が木霊した。

涙目になりながら目をしばたかせるネィンっ!

すると更に、ガシッとその首筋を適当につかみ、取り巻きAが揺らす。

「大体お前、グレトロって誰だ。なぁ? またって事はそいつ、俺らのせいで捕まった事があんのかよっ? アッ? アァっ!? なんならそいつ、連れて来いよっ! ほれっ、このクソガキっ!」

「いぇ……。ぐふっ。そう言う……意味じゃ」

苦しそうに、首にかかった腕を掴みながら、なんとか声を絞りだすネィン。

「じゃあどう言うこったよっ!? オィっ!? お前確かに俺に今、言ったよなぁ? またグレトロとか言うのが捕まるって。エェッ!? 2等民が俺に嘘ついたのかっ! どうにか言えよ、この下等階級がっ!」

ツバを飛ばし、まくしたてる取り巻きAっ!

ネィンの髪の毛を掴み、引きちぎれるのを承知でゆさゆさと、乱暴に揺さぶり続ける。

「ぐぅ」

大人に顔を近づけられ、恐怖におびえている〝インフェリオ(幼生天使)″。

ネィンの体は右へ、左へと揺さぶられ、大人の手の中でおもちゃの様に揺れたっ!


「ふふっ。アイツほんと脳足りんだな。ちょっとは水の民として、教養を持てよ。言葉のあやってのを、知らないのかい?」

その様子に取り巻きBは、呆れて笑っている。

取り巻きAに、ネィンが指摘したかった事。

それをこのBのほうは、理解しているのだろうが、面白そうだから放置するようだ。

「はっ、はい。グレトロおじさんに、迷惑がかからないように頑張りたいと、そう思っただけですっ! だから隠れなくても……そのっ。自分で逃げて見せますっ! あまり町の人を巻き込むのは……」

ネィンは別の切り口で必死に、作戦の変更を願い出るっ!

だが……。


「てめぇ……。〝インフェリオ(幼生天使)〟如きがっ。俺が考えた作戦より、お前のような欠陥品の方が、上手くやれるっていうのかよっ!? そういう事かっ!」

ガスッ!

「ぐっ」

顔を強引に踏みつけ、地面にネィンを固定する取り巻きAっ!

「大体お前がミスったら、全員が危なくなるんだぞっ!? 責任取れんのかよお前ごときにっ! 娼婦から生まれた、神の寵愛すら受けれない人間風情がっ。舐めるなよっ!」

ガスッ!

「くぅ……。すいませんっ! すいませんっ!」

取り巻きAがネィンを蹴り倒し、這いつくばらせ……っ!

「ペッ……。ゴミがっ、聖地に居られるだけでありがたいと思えってんだっ。この落ちこぼれの欠陥品っ!」

ガスッガッ。

ツバを吐きつけ、何度も何度も頭を踏みつけるっ!

「似てる……。あれは花?」

その間もゴディンは、ジキムート達を熱心に見続けていた。

全く持って、この内輪の話に興味を示さない。すると……。

「あぁっ! もう良いや、お前死ねっ!」

取り巻きAが呪文を詠唱し始めるっ!

「あっ、あぁ……。助けて……下さいっ! お願いしますっ!」

ここまで至近距離でかつ、足で踏まれているとおそらく、絶対に逃げれないだろう。

呪文が詠唱し終われば、最後だ。

「神のお導きを」

ほくそ笑む取り巻きAの手から、氷が出現し……っ!

「……っ」


ガスガスっ!


「くっ……」

血が飛び、皮膚が裂けたっ!

「……なんだお前」

少年は苦しみそして……、笑う。

そこにはネィンとは別の、青い髪の少年が居た。

「僕が……。僕が代わりに、うぅ。行きますっ。どうか行かせてくださいっ!」

いきなり現れた別の少年が、ネィンを守っていたっ!

手と足は貫かれ、赤く血がにじむ。

少年の傷はひどいが、なんとか自分の魔法で傷口を凍らせ、血が吹き出ないようにしているっ!


「だ……っ、駄目だっ!」

ネィンが蒼白になって、取り巻きAに踏まれながらも止めようとしたっ!

だが、助けた少年は笑い、更に前に出る。

血を凍らせているのだ、急激に体温が落ちていっているハズ。

それでも青髪の少年は、そんな事を気にする様子はない。

「あぁ? お前も〝インフェリオ(幼生天使)″か。まぁ今回は特別、複数連れてっからな。お前の名前は……」

取り巻きAが新しい少年に、名前を聞こうとしたその時。

取り巻きBが横から、青髪の少年に話しかけてくる。


「ほぉ。どうしても行きたいのかい? なんでかなぁ?」

試す様に取り巻きBが、少年を見やる。

「はいっ。それは〝インフェリオ(幼生天使)〟はいつか天承し、あなた達のように天子になる為に、仕事をこなしますっ! 使命とはいわば、神へと近づく為の仕事っ! 私は早く天承し、神にお仕えしたいのですっ!」

「そうだよそうだよ~。そうそう」

満足気に取り巻きBが、その子供が独唱する話に耳を傾ける。

「それに住民は、命をかけて神様。ひいてはそのお心に寄り添い、お言葉を世に広める唯一絶対の存在。〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)〟様へと、忠誠を誓っていますっ! ここに住む住民は全員が、栄光なる血筋、純然たる水の使徒っ! 聖地を守るために喜んで、身を捧ぐでしょうっ」

痛む腕と足を押えながらも淀みなく、青い髪の少年が言い放つっ!

少年は一心不乱に、取り入ろうとしていた。

聖地の為。

何より、仲間の為。

意志は固そうだ。


「へぇ、分かってますね、コイツ。頭のいい奴は僕好みだ~。ゴディン様~、コイツにしましょうよ。じゃっ、お前が行けっ。名前は?」

「私は天子様達にお仕えする〝インフェリオ(幼生天使)〟ユ……」

ドンッ!

「おいっ、てめぇ何勝手に決めてんだよっ! 大体俺が〝インフェリオ(幼生天使)″を呼んだんだっ! 邪魔してくれてんじゃねえぞっ」

「おいおい、やめろ筋肉馬鹿がっ。、ねえ馬鹿なの? お前さっき〝インフェリオ(幼生天使)〟殺そうとしたじゃない? その替えがいるんだから、これで良いんだよ? ねぇ、本当に本当の馬鹿なの? 神に選ばれし、水の民の癖にこれじゃああんまりだよ~」

「てめぇ、ふざけんなさっきからイチイチっ! ヒョロヒョロでいっつも最初に息切れして、役に立たないクセによっ。お前は何にも仕事しない、ウスノロだろうがっ!」

いきなり取り巻き同士お互いが、なじり合いを始めてしまうっ!

すると――。


「五月蠅いよ、そこまでにしろ。いい加減にそろそろ、始める事にしたんだよ、私は。見てるだけじゃ分からないからね」


ビクッ。


「……」

「……」

ゴディンのその目には、苛立ちが感じられ、殺気もこもっている。

いがみ合っていた2人が一瞬にして委縮し、うつむいて目を泳がせたっ!

「どっち使ったって良いんだよ、欠陥品なんて。じゃあお前から」

そう言って、新しく来た少年に向くゴディン。

「……」

「良い覚悟じゃないか。なかなか気に入ったよ。君は分かっているというんだね? 私達、っていうか私の、だね。次期〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″たる私の命令がこの町では絶対。そういう事を」

まるで、街の住民全てを小馬鹿にするように笑うゴディン。

だが、その言葉に決して、誰一人として眉根も動かしたりなどしない。

「……」

直々に言葉をかけられた、青い髪の〝インフェリオ(幼生天使)〟が、無言で恭順の意を示す。

「なるほど。じゃあ君への命令は一つだ」

「はい」


「〝天罰″を受けろ」

「えっ」


ザンっ!


青髪の少年の足が飛ぶっ!

「ぎゃあああああっ!?」

「なんで君、欠陥品同士でかばい合った?」

「あぁ……、ぐぁっ!? それは仲間だから……」

痛みに苦しむ〝インフェリオ(幼生天使)〟っ!

斬られた足が屋上から落ち、ガラスのように爆ぜるっ!

「ふふっ、仲間? 違うぞ? 消耗品だ。選ばれれば黙って、言われたままに仕えれば良い」

ゴディンが〝インフェリオ(幼生天使)″を見る目は、スプーンと同じ感覚だ。

スプーンがカレーをすくいたくないと拒否したら、存在失格だろう。

用をなさないスプーンは、取り換えねばならない。

「それで……さぁ、君」

ベキベキっ!

突然冷気が溢れ、青髪の〝インフェリオ(幼生天使)″の残った1本足を、凍らせていくっ!

「あぁ……っ!? 待って、お待ちくださいっ!?」

「な……に? 私に待てと命令するのか、お前のような虫風情が?」

ヒュンっ!

ドサ……トトト。

首が凍り付きそして、頭が転がった。

「ふふっ、私達が死ねと命令すれば、死ぬ。使用人とはいえ、神の使徒だよ? それが殺そうとした虫けらを庇った時点で、神に逆らう魔障行為だと分からないなんて……。全く、〝インフェリオ(幼生天使)〟はだから下等なんだ」

はぁー……と、深くため息を吐くゴディン。


「ユ……カ」

ネィンは友達の頭部へ近づき、そっと、抱き上げる。

その顔は苦しみに歪み、絶望していた。

「じゃあ、早く言われた通りやってくるんだ。えと……ナィンかな? もし、もしもだけどお前がやらなければ、お前の母親を使う。良いね。早く行けよっ!」

イライラした声で、ゴディンがそう言い放つ。

「……はい」

もう何も言えない。

そう察したネィンは、その場をすぐに去って行った。

「全く、アイツは大丈夫かね? ペッ。あの様子じゃ役に立たないぞ」

階段を下がるネィンを見ながら、取り巻きAが言った。


「さぁな。だがもしミスって捕まったら、俺らのアジトがバレちゃう可能性があるから、しっかり見張っておかないと。はぁ~。全く面倒な下等人種だ、〝インフェリオ(幼生天使)〟って言うのは。雑用一つも任せられないねえ。まぁ、当然か。娼婦が生んだ、神の使徒〝未満″の欠陥品。仕方ない」

取り巻きBが憂鬱そうに、頭をかく。

「まぁもし、アレが血迷った行動をしたらしっかりと処分して、それからアレの母親を使うさ。いくらでも補充が効く物に、気をもむ必要もない……。だろ?」

そう言って笑うゴディン。

お気に入りの花を再度、自分の胸ポケットへと忍ばせた。

「はっ……ハイっ、そうっすよね。確かにおっしゃる通りですよ」

「……そうですよね、ゴディン様」

笑う取り巻き達。

「あぁ……。早くあの奇麗な〝器″の体が、私の手元に来ないかなぁ?」





「おいっ、何を見ている」

ジキムートがその、目があった男に近づいていく。

さっきからずっと、ノーティスの事を見ていたのだ。

すると――。

「ちっ、近寄らないでくれっ! お前らはターゲットなんだっ。うちらの周りに来ないでくれっ!? 頼むよっ」

蒼白になって叫び、急いでその場から逃げていく住民達っ!

浮かべた悲壮感は、尋常ではないっ!

「ターゲットだと?」

周りを見渡すジキムート。

彼がふと、目にした路地裏。

ヒュンっ!

そこから何かが突然、飛んでくるのが見える。
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