異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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2章 聖地の守護者

聖地の街並み。魔が巣くう場所。

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「おや君たち、これからお出かけかい?」

レキが、じっとりと濡れたシャツ一枚と短パン一丁で、汗を拭きながら近づいてきた。

それは、スポーティーな彼女のイメージにぴったりくる姿。

漂う、なんとも言葉にしがたい程のエロティシズム。

肉欲を誘う、汗にまみれた筋肉っ!

程よく締まる、褐色の肌。

しかも小麦の肌には、はむしゃぶりつきたくなるような柔らかさと、しなやかさもある。

まるで、虫を寄せる花の蜜。

部屋中の男の目を引きつけて、やまない魅力があった。


「あぁそうだ。って、何してやがるっ!」

「えぇ? 一昨日は、ノーティス君の乳首を勃たせてあげようとしたからね。今度は君をと、ね。ノーティス君だけだときっと、さみしいだろ?」

「あほかっ!」

さっとレキから体を離すジキムート。

「……」

笑うレキに、ノーティスが恥じらいながらそっ……と胸を抱き、警戒した。

朝を少し過ぎた時間帯。

もうそろそろ、昼に向けての準備が始まろうとしている頃。

そんな玄関先の広間。

人もまばらの中で、3人が立ち話をしている。


「それでぇ……、ヘヘヘッ。なぁ、2人は昨日、一昨日と色々楽しんだのか~い?」

ニヤニヤと下賤に笑いながら、ジキムートの肩をぽんぽんと抱いて、親しそうに聞いてくるレキ。

「……アホかお前は。相手は男なんだぞ?」

聞いてくるレキに、即答するジキムート。

だがその言葉に、場の全員が意義を唱えたっ!

心の中で。

「男っ!? それがどうしたっ! なんだって言うんだいっ!? 男で良いじゃないかっ! 何を言う。馬鹿なっ、バカバカばっかかっ!?」

「ばかば……何?」

レキも、男だと言い張る女を無下に、大っぴらに嘘だと騒ぎ立てる程、子供ではない。

だが……、少し他人とは、いや、『ふつうの女』とはベクトルが違う彼女。

眼鏡をクイっと上げながら……。

「良いかっ! こんな美男子が横にいるなんて、滅多無いんだぞっ!? 前の穴がなければ……。そう、後ろを使えば良いんだよっ」

「お前はおっさんかっ!」

だが、他の傭兵達は完全に、同意していたっ!

心の中でっ!

「で、大切な話がある」

目を細めやおら、耳に口を寄せてくるレキ。

レキの表情に、ジキムートも応えた。

「ん……。なんかの指令か?」

「とりあえず、朝食は食べたね?」

「あぁ」

「手ぬぐいは持ったかい? 湿度高いからね。あと、テーピングするための布は? 汚れたのはダメだよ? 虫が湧く」

「……」

「水は持ったかい? 歯は磨いたね? お手洗いは行ったかい? 鎧があるか……」

「お前はお母さんかっ!」

「おっさんと言ったり、お母さんと言ったりっ。どっちなんだっ! はっきりしなよっ、人の心を弄ぶなんて」

「そこ……か?」

焦るジキムート。

するとそのスキに、ジキムートの懐にスッと、達人の指の動きで何かを入れたレキ。


「でも、水は重要だよ。持って行きなさい。ここは湿気が高いんだ。気づかなかった?」

「あぁ聞いたよ。水の神殿が近いからな。まぁ、そういやそうか」

確かにここでも、妙に汗をかく。

神殿からかなり離れているのにも関わらず、だ。

昨日の夜も、ヒヤリとした風が吹く割に、寝苦しかったのを覚えている。

「僕の飲みかけですまないが」

スッとレキは、水の入っている袋を押し込む。

「タダならまぁ、もらおうか」

「では、ね」

笑ってレキはすぐに、去っていった。

「なんなんだ」

訝しそうな目でジキムートが、レキを見送った。

すると後ろから、ノーティスが声をかけて来る。

「行きましょうか」

「あぁ」

気にせず2人は、街のパトロールに出て行ったのだった。


「あれ、良いのかい?」

「あぁん?」

ここは2階の廊下。

レキはあの後すぐに上がり、ヴィン・マイコンに合流。

彼ら2人を見送っている。

「知ってるんだろ? ここの〝風習″」

「……まぁな」

「彼らが行けば間違いなく、ね」

レキが、彼らの姿を窓から追う。

それにつられて窓を見やる、ヴィン・マイコン。

2人は今から町の警備なのだ。

ぶらりと散歩に行くように2人が、街へとくり出して行く様子を見ながら、傭兵長が笑った。

「ふんっ。まぁ良いじゃねえか。良い勉強になる。それに、な。あの女は恐らく、な?」

「やはり、か。ジキムートも可哀そうに」

レキとヴィン・マイコンは、遠ざかる2人を静かに見送った。





「へぇ~。やっぱり聖地ってのは、綺麗なモンだな」

2人は聖地の巡回がてら、観光して回る。

そこはキチンと理路整然。

画一された蒼でできた町。

観光にはぴったりの場所だった。

他の都市と違って非常に衛生的で、そして、宗教的。

おそらくダヌディナの紋章と思われる物が至るところ、外壁から店先までと、たくさん飾ってある。

それに、目を引くのは何と言っても……。

「レンガで作られてやがる。くぅ……。羨ましいねぇ」

羨望の眼で、ジキムートが街の建物を見る。

洋風の街並みと言えば、今も昔もレンガ。

そんな想像をする人間も多いだろう。

だが、実際は違う。

昔はからぶき屋根の、木造建築が主流だったのだ。

日本の時代劇に出てくる、小汚い小屋のような家。

アレと全く同じだ。


「ええ……。まぁ、聖地ですからね」

「やっぱ特別感あるよなぁ。頑丈だし燃えねえしっ! あぁ、こんな家に住みてえ。昔何度、家が燃えかけたか知れねえからなぁ」

当然、木造の庶民の家は燃えやすい。

ジキムートもよく、家を焼け出されかけた事があった。

「焔は――。ね」

ノーティスが暗い顔で、自らの髪留めをさする。

「どうした?」

何かを思い出した様子のノーティスに、ジキムートが止まった。

「いえっ……。まぁ、何か視線を感じまして、ね」

ハッとするように、ノーティスが応えを返してくる。

そして言葉にしつつ、周りに目線を這わせる彼女。

花の髪留めを触る度、銀の髪が揺れた。

「お前にか?」

ジキムートは訝しがる。

「私をまるで、邪険にするような感じがするんですよ」



「おっ、おっ! おぉっっ!? すげぇ……っ。見てくださいっ! ゴディンさんっ!」

「ん……何?」

呼ばれたゴディンという、身なりがとても清潔な男が返事を返す。

年は18・9と言った所か。

端正な顔にひょろりとした体。

キメが細かく白い肌はまるで、女性のようだ。

髪はこの時代には珍しく、きちんと整えられている。

身なりも申し分ないほどに清潔で、近代的な几帳面さを持つ、まるで貴族のような面持ち。

髪は薄いブラウン。

中央で大きく分けられていた。

目はブルーアイで、背丈は160なかば位。

そんなゴディン達はどこか、聖地を見渡せる位大きな建物の、その屋上にいた。

そこにポツンと3人が立ち、手にはこの時代には珍しい、望遠鏡。

街の様子をうかがっていた。

「どら……」

望遠鏡を手にしたゴディンが、男がさした方を見やり……。

「……」

……。

「どうしました?」

「いや……。何でもない」

ゴディンが、自分のポケットに忍ばせてあった青い花を取り出し、笑った。

そして再度、望遠鏡を覗き込む。

「これは……。うん、これは確かにすごい。うんうん。久しぶりに出たけれどよもや、こんな事があるなんてねっ! ふふっ」
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