異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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2章 神を祀る神殿。

名も無き傭兵の、夢と幻。

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傭兵……。

黑い髪の毛をきっちりと束ね、ウェーブがかかった一部だけを左に垂らしている。

髪質は良くなさそうだ。

目は濃い茶色で、なんともとっつきにくそうな険悪さをのぞかせる。

顔は至って、普通レベルと言えるだろう。

だが、大人びそして、鋭い眼光を放つ目元からは、ギャップが深い泣きボクロがある。

瞳とホクロのそのギャップが、なんともセクシャラスな雰囲気が漂わせた。

浮気相手には丁度良いのかもしれない女。と言った所か。

恰好は普通だろうか?

並みの冒険者と言える装備だ。

変哲のないプレートに、手足の装備。そして剣。

そんな女傭兵が、話を続ける。


「私は一人だけと言ったんだ。それがアイツら……、仲間を呼びやがったんだ。だから殺した」

「相手が増えたぁ? 良いじゃねえか、そんくらい。ヤらしてやればっ! 分かってねえのか~、娼婦。この世界じゃあな、殺しは重罪なんだよっ、重罪。分かるか? このイカレ娼婦っ!」

理由を聞き、騎士団の1人が笑う。

偉くひどい言いようだが、その時の娼婦の地位の低さを鑑みれば、こんな物である。

「ふんっ。お前らもチンピラと大して変わらない、殺し屋みたいな物だろう。何を偉そうに」

吐き捨てるように言う女傭兵。

すると、憤怒の形相で騎士団員が立ち上がり……っ!

「なんだとっ!? 俺らは誇り高き騎士団だっ、このアバズレがっ! てめえみたい傭兵でも食えずに、娼婦やらなきゃなんねえ底辺ゴミと、一緒にすんじゃねぞっ」

ガスッ!

殴った。

腕にはきちんとガントレットがしてあり、女傭兵は鼻血を流すっ!

だが……。


「騎士団なんぞ、私達傭兵の後ろでケツを眺めるしか能がない、ただの〝アス・アーティストプロ(ケツ専門画家)″だろ? せいぜいスケッチでもすれば良い。傭兵のケツならさぞや、うまく描けるんじゃないのか?」

鼻血を流しながら笑う、女傭兵。

ジキムートの世界では大穴野郎(ロング・ショッター)。

そしてこの女傭兵の世界では、〝アス・アーティストプロ(ケツ専門画家)〟。

どちらも、騎士団を侮辱する言葉だ。


「てめぇっ! じゃあきっちりとケツでも拝んでやるよ、この売女がっ!」

傭兵の挑発に激昂し、騎士団員2人がいきなり女傭兵を襲ったっ!

そしてすぐさま女傭兵は、体を組付されてしまうっ!

そして、騎士達は女傭兵を壁際に、力づくで押し付け……っ。

「くっ!?」

パンツを下ろさせるっ!

一人が傭兵の腕を押さえていると、別の男が、傭兵のお尻を強引に上げたっ!

そして自分のズボンを下げるっ!


「ほほぉ……。へへっ。もう十分濡れてるじゃねえか」

ヌメったその、女傭兵の下の唇。

それを撫でまわし、舌なめずりした騎士団員。

「……」

そして女傭兵のむき出しの秘辱へと深く、入れ込んだっ!

「くぅっ。んっっ!?」

入ってくる異物に小さく、傭兵がうめく。

すると――。

「グッ!? んっんっ」

女傭兵が、上機嫌で激しい動きをし始める男にうめく。

黒い髪がユサユサと、激しく揺れたっ!


「おいおいっ、俺も代わるんだからな? 綺麗にヤレよぉ」

自分勝手に楽しむ仲間の騎士団員に、別のもう1人が不平をもらしている。

「ウッグッ、ウグッ」

少し痛そうに女傭兵がうめくっ!

だが、そんな事もお構いなしだ。

娼婦をモノとして扱うのが、この時代の『普通』。

優しくしろと言ったところで、聞きはしない。


「あぁ~……。へへっ、良いねコイツ。俺が出したらとりあえず、他の奴らも呼んでくるわ」

「あぁそうしようぜ。まだ日は高いから、暇つぶしになる。乳もすんげえデカくて良い感じだっ。へへっ」

下賤に笑う男たち。

腕を掴んでいた騎士がやおら、女傭兵の鎧の中をまさぐり、大きめの乳房を揉みしだき始めていた。

(どう逃げても同じ。どう頑張っても同じだ。私を金で犯す傭兵を、何人殺しても……。結局はこうなる。私は力を手に入れたというのにっ。傭兵も、騎士団も全てを殺せるハズのっ!)

「しっかし、こんな弱っちそうな女がどうやって、男3人も殺ったんだろうな?」

ガシッと女傭兵の頭を後ろから、ハガネで覆われた指で、壁に押し付ける騎士団員っ!

征服欲を高め、更に強く腰を打ち付けるっ!

「さぁなっ! どうでも良いさっ! へへへっ」

バタンっ!


「……」

その場所に突如、入ってくる女。


「おっ、お嬢様っ!?」

そこに入って来たのは、美少女。

美しく整った茶色の髪。

後ろを2つに縛り、従わせている。

瞳は蒼が輝く。

極めつけは美しく白い、キメ細やかな上質の肌の、幼い女の子。


「何を……、しているの?」

ジロリ、と騎士団員2人を一瞥する少女。

「ヴィっ、ヴィエッタ様っ!? いっ。いえっ!? 私はその……えと。こっ、この女性の陰部に……。そう、この女の陰部に何かが隠されていないかどうかをっ、調べてましたっ!」

「それで?」

「あぁ……、いえ。終わりましたので、すいませんっ!」

根も葉もない言葉で取り繕い、自分が披露した『モノ』をすぐに、隠すようにズボンにしまう騎士団員っ!

「じゃあ、出てい行ってくださるかしら?」

「エッ!? そっ……、そんなっ!? 相手は重罪犯ですよっ!? 殺しをやったんですっ! しかも、名前も分からない法浪人っ。シャルドネ家の御長女様を置いて、2人きりになど……っ!」

ヴィエッタの言葉に焦る2人。

大量の汗を吐き出し、あり得ない言葉にしどろもどろになるっ!

「そうよ。お父様が結婚し、次の世継ぎまでが華だと、あなた達が言う。その、ニヴラド家の長女の私が言うの。聞けないのかしら?」

騎士団員達に興味無さそうに、ヴィエッタがさらりと嫌味を添えて、男達を一瞥してやる。

「……」

裏でなんと言っているか位はすぐに、耳に嫌でも入る。

騎士団達はヴィエッタを、もうすぐ旬が過ぎる果物のように、裏では馬鹿にしている。

それを彼女は知っていた。


「……。ご命令とあらば。ですが、我々はもうここから出てしまえば、お助けに入る事はできません。ご容赦を」

そう言ってそそくさと、騎士団員2人が出ていった。

「……ペッ。なんだ、お前? 貴族のお姫様が何の用だ? 大人のお楽しみ中に、ガキが入ってくんじゃないよっ!」

唾を吐き、左に垂れた黒の髪を弾く、名無し。

いきなり入って来たその『異物』をにらむ。

少女を前にして、彼女が最初に思った事、それは――。

(金のかかった人形だ。髪の毛も肌も、全部が私の金でできている。)

この時代の人間の肌は、スキンケアがどうの等という次元ではない。

99パーセントが自然のまま、ただ流されるがままに、生きる事を強要される。

毛のないサルと、そう変わりはなかった。

その99パーセントをなんとか押しのけた人間。

勝者と呼ばれる者だけが、美しい肌と美しい生き方を『買える』のだ。

目の前の貴族の子女様も、たった1パーセントに属する女。


(そうだそうだ……。せっかく得たこの力。この女を壊してやるのに使うのも、面白いかもな。そろそろコイツもパーッと、デカく使って見たかったんだ。)

名無しはご自慢の、何もありはしない自分が、唯一勝ち取った宝剣。

なんの変哲もないボロボロのサンダルを見て、顔をゆがませた。

すると少女が名無しに言葉をかけてくる。

「買いつけよ。私はあなたを買い付けに来たの」

「買い付け……だと? お前が私を、か?」

ヴィエッタの言葉に戸惑う名無し。

「……」


「それで、買えるのかしら? あなたを」

ヴィエッタが真っ直ぐに、こちらを見る目。

それに少しおののきながら名無しが、イスを直し、座った。

とりあえず商談を始める事にする。

本題、いや、処刑はそれからだ。

「……なるほど、ね。それで、何をして欲しいんだ? 貴族のガキとして生まれて、何不自由なく暮らすお姫様が? んっ?」

子供であると、馬鹿にしたように笑う名無し。

あえて大仰に振舞っている。

だがなぜか――。

(なんだこの女。私より年下のハズなのに……コイツっ……)

カラ回る言葉。

流れ出る汗。

戦場でもよく、恐怖の汗を流す。

時には漏らす事も。

だが、そういう感触ではない。


「……」

静かに名無しの傭兵を見守る少女。

目の前のヴィエッタの年齢はまだ、かなり若そうだ。

それに対してこの時名無しは、20間近。

年はかなり、違うはず。

「どうしたよ、お嬢様? 使い捨ての傭兵に一体、何の用だってんだい。男を寝取られたか? それとも、ご学友の五月蠅いおノロケの、口封じでもして欲しいか?」

静かすぎる彼女に気圧され、相手の言葉を欲してしまう名無し。

だが――。

「……」

その少女が放つ、異様で狂気のような殺気。

人を飲み込む大穴を感じさせる、禍つ風に気圧されるばかりだった。

「……」

「……」

部屋の中はすぐに、静かになってしまう。


すると……。


「あなたの夢を売ってちょうだい?」

ビクンっ!

「夢……だと?」

その言葉に一瞬、名無しの『体』が返事をしてしまった。

「どうせあなた、夢を持て余しているのでしょう?」

……。

「……」

「どうしました?」

変わらないヴィエッタの顔。

嘲笑するわけでも無く、憐れむわけでもない。

ただその――。

気になった服を気ままに取るような、そんな眼。


「……いやっ、なんでも」

少し考える名無し。

そして……。

「しかし小娘。何を血迷ったかは知らんが、私の夢……、だと? ふふっ。お前は今、何を買い付けているのか、分かっているのか? 中身の話だよ。他人の夢が、どう言う物なのか。貴様にそれが分かるとでも言うのか、小娘がっ!? 中身が何かを知りもしないで、おいそれと買おうとするなど。くくくっ。傲慢で鼻持ちならない……」

「あなたの夢は、道しるべよ」

「……っ!?」

「夢を追えるチャンスが来てる。だから道しるべにしたくて、あなた自身が探してる。だけども漠然とした夢が夢じゃなくなって、行きつく先を思い描けないでいるのでしょう」

即答。本当に間髪置かず、ヴィエッタが応えた。

「ただ生きる為だけならば、夢は必要ないわ。それでも貴方は、夢を欲している。戦うべき相手が見つからないの? それとももう一度、希望を探すのが怖いのかしら? ためらうならばわたくしが先に、あなた夢を、希望を買って差し上げるわ」

「ぐっ!?」

名無しが驚き、言葉を失ってしまう。

「……」

名無しを見つめるヴィエッタ。

少女が持つ、溺れ死にそうな程深い、ブルーの双眸の輝き。

蒼を見つめる名無しの手が、震える……。


「ふふっ、お嬢ちゃん。それでぇ? 夢を買って……。それで、どうするって言うんだ。えっ? 他人の……。私の夢をウィンドウショッピングのように買いあさって、何に使うってのさ?」

少し。

ほんの少しだが彼女、名無しが色気を出してしまう。

知りたい。

そう、ただただ知りたいのだ。

自分を買った人間に、一度として聞いてこなかった理由を。

他人が自分を買うその、理由を。


「――私が、夢になるの。あなたが失った夢の、その場所で、代わりの夢として咲いてあげる」

ガシャンッ!

弾けるイス。

唸る机っ。

引きちぎられる、ヴィエッタの服っ!

「……っ!? 貴様、私をみくびりやがってっ!」

ヴィエッタの言葉に一瞬にして、名無しが激昂したっ!

「……」


「どういう意味か、分かってんのかいっ!?」

「分かっているわよ」

「ふざけんなよっ! だったら代価を言ってみろよっ! 何にするつもりなんだっ!? どうやって払うんだお嬢様っ!? エッ!? 貴族様には分かんないかもしれないが、この世界は何かを買いたきゃ、金を払うのが礼儀さっ! アタシに……。アタシの夢になる為に、いくらの金貨をっ!――金貨を積むんだって聞いてんだっ!」

ギリリっ!

ヴィエッタの服の襟元が、きつくきつく締まる。

もうナイフが手に、名無しの手元に出されていた。

ただ、名無しは殺意よりももっと深い、『業』に怯えている。

彼女はひたすらに願っていた……。


金貨。


ただただ金貨を、望んでいたのだ。

(貴族、金貨と言えっ! 私の夢の価値は、金貨くらいはあると言ってくれっ。頼む。金貨だ。せめて私自身じゃなく、私の夢くらいは金貨で……。金貨で頼む。)

震える手。

金貨なんて物、名無しの彼女では滅多に手にできない、幻のような物である。

自分がどれ程社会にとって無価値かを、名無しは知っていた。

せいぜい男に身を売って稼げるくらいが、彼女の肉体の値段だろう。

だが夢、ひいては心の値段。

それはきっと素晴らしく、見た事ない程の〝パワー″があると、そう信じたかった。

自分を引き取ると言った人間がせめて、愛情を示してくれたらと。

そう願う、孤児のような目で、ヴィエッタの答えを待つ。


すると、突然っ!

「それは……」

チュパッ。

「んっ!?」

ジュジュゥ……ペチャ……プチュ。チュプ。

絡まりあう舌。

激しく動く唇と、そして、体。

ヴィエッタが吸いつくそうとばかりに、名無しの唇を犯すっ!

「はぁ……はぁ。。報酬は私自身よ。ふふふっ」

「ンンッ……んんっ……っ!? ぷあっ……。アンタ……自身?」

無理やりに唇を奪われ、ローラが吐息をもらしながら聞いた。

唇の横からは、絡みあう唾液が止めどなく流れていく。


「私があなたの夢になり、そして、あなたが夢である私を手に入れる。私はあなたの夢よ。その夢の意のままに動けば……ほら、希望が、道しるべが手に入るわ。私は迷わないもの。私は戦い続けるもの。あなたはわたくしを愛してさえいれば、迷わないで済む。簡単でしょう?」

……。

その言葉に愕然とする名無し。

『夢』を他人に移植する作業を、今から行おうと。

そう、貴族の娘は言った。

「どうかしら……?」

美しい顔で笑うヴィエッタ。

「無茶苦茶だ……。アンタはイカレてる」

まるで心臓を移植するように、他人を夢として、完全に受け入れる事。

そして、夢となった他人が自分の全てを、血流や細胞の生き死に至るまで、全てを操る。

それは当然で、人の夢とは、自分の価値その物なのだから。

身も心も全部の主導権を、ヴィエッタに移譲しろと言っているのだ。


(なんて……女。私に夢を与えるだと。うまい口車だ。自分は何も失わない、その癖この女は全てを得る。奴隷契約以上だ。こんな都合の良い契約が、あるかよ……。だけど……。)

名無しは自分の靴を見る。

その靴は、彼女の特別な希望で、そして、呪いだ。

彼女は最愛の人間の死と引き換えに、それを得ていた。

(希望を手に入れた先に夢が必要だったなんて、考えもしなかった。アイツが遺した希望で、全ての闇を覆せると思ってたのに。だけどそんな事、全然なかったよ。あんなにアイツは光り輝いてたってのに、ね。結局私は、闇を照らせない程度の人間なんだ。)


突然舞い込んだ希望。

その時に思い描いたのは、最愛の人間の輝いた姿だった。

しかし彼女には、荷が重すぎた。

輝く方法が分からなかったのだ。

(それなら小間使いで良いさ。夢に使われる小間使い。それはなんて素敵な……、物語なんだろう。)

名無しは何もなかった人生を思い返し、この申し出の狂気とそして――。

幸せに震えた。


「あなた、名前はないのでしょう? どうしたの」

話ながらヴィエッタが、名無しの下半身へと手を伸ばす。

「はい……。んっ。捨てました」

完全に堕ちた眼で、ヴィエッタを見るローラ。

「ではそう、ね。今からローラにしましょうか。私の乳母だった女の名前よ」

そう言うときつくヴィエッタが、ローラを抱き寄せた。

「ロー……ラ」

2人の顔は近く、ヴィエッタがまるで言い聞かす様に、ローラに囁いてくる。


「そう、ローラ。私はヴィエッタ。ヴィエッタ・ニヴラド。この名があなたの、今から死ぬまで仕える夢の名前よ」

「はい……マイ、んんっ。マスター」

ローラはその日、夢を得た。

彼女の心臓と夢には今も、ヴィエッタが移植されたままだ。



「おやおや、さすがですね。逃げるのは得意だ」

「貴様、後ろには気をつけろよ」

「ふふっ」

室内に響き渡る声と共に、気配が去った。

「はぁ。オトコの僕には、女同士の喧嘩はホント、怖いんだよ。勘弁してほしいね」

「いやっ。君は女だ」

恐れるレキの隣、ギリンガムがため息をつく。

だが――。

「……」

「ヴィン、しっかりしろ。怖がらない。怖くないからっ」

「……」

固まって動かないヴィン・マイコンっ!

「ふんっ、自業自得だろ」

ギリンガムが吐き捨てる。

ヴィン・マイコンにはいろいろと――。

多様に女性遍歴が深く、心と記憶の中に汚泥の様に、暗い記憶が流れている。

他人事ではない顔で、白んでいた。
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