異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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2章 神を祀る神殿。

神の力。人間の限界。

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(便器かなんかにしか見えねえ。)

ポツン……、と置いてあるソレ。

それはジキムートには、家に良くあるオマルにしか見えなかった。

(神威(カムイ)だの〝リービア(尊神)″だのと言ってて、さぞやすげえのかと思ったのに。なんぞこの、ゴミみてえなモンは。)

ジキムートが汗をかく。

今までの旅、この世界を埋め尽くす、狂喜のような神への賛美歌の果て。

人類総出がうらやむその場所には、小児用プールがあるのだから。


「偉大なる神のマナを、人間では抑える事ができないんだぜ。すんげえだろ? 神様ってのはさぁ。ほら、そこの看板に書いてある。っつっても、ほとんどの奴らが読めないがな」

騎士団員が嬉しそうに指す場所。

そこには、看板がかかっていた。

なんやらそこに、小さな字で色々書いてある。

だが、識字率が5パーセントの世界である事。

その上に読めたとして、小難しくて読む気にならない小話が展開されている。


「なるほど……なぁ」

正直、異世界の傭兵のテンションが、駄々下がりである。

この上でもし、偉大なるマナと神様の寓話。なぞという、眠気を誘う物。

それを聞かされればきっと、信心がない人間なら率直に、もう聖地には一生来たくないと思ってしまうかもしれない。


「ふふっ。そうですね。神の力は偉大過ぎましたね。私達を寄せ付けない位に。ここはね、装飾品が一切飾れないんです。全て。そう全部が、一年以内に朽ち落ちてしまう、崩壊の地。何を備えても無意味なんですよ」

「無意味、か。それを人間が知っててやんのは良いが、神様はなんて言ってんだよ? なんかこう……。して欲しい事とか、正しいやり方とかを言わないのか? さすがにみすぼらしいだろうぜ」

「……」

首を振るノーティス。

「そうか、よ」

ジキムートが頭をかく。

(コイツらにとっては、いたたまれないだろうよ。世界で最も愛する女に、オマルを捧げなきゃなんねえなんて。試行錯誤したんだろうが……。ダメだったんだろうな。)

きっと何人もの人間が、愛する神の為をたくさん思って、夜を過ごしたのだろう。

その結果ですら、小児用プールで精一杯だったのだ。

人類の無力さが身に染みる映像でもあった。


すると……。

「それで俺らの仕事場は、ココなっ」

騎士団員が、美しい神殿には似つかわしくない、荒々しく掘り返された穴を指す。

「……」

「全く。罰当たりだがしょうがねえ。この先の、神への直通さえ通れば俺らは、ゆるぎない神の愛を直接得られるってんだからな。もうあの、クソッタレのゴミクズとも、おさらばできるってもんよっ!」

「えぇ、そうですね。ではでは、参りましょう……か」

「了解」

歩き出したその時、不意に、ジキムートに神の息吹がっ!

「っ!? っつか、やべぇっ。なんだここっ!?」

ジキムートが悲鳴を上げたっ!


「えぇ。まぁ……ね」

「あぁ、あっつい」

その洞窟に近づくにつれ、まるでサウナのような、分厚い蒸気の威圧感を感じる一行っ!

一切湯気は出ないのに関わらず、ミストを直接全身に浴びている感じがするっ!

汗と水の混合物が、全体から滴りナダレ落ちていくっ!

「かなり離してあるハズの、取り囲んでいるあの荘厳なヤシロでさえ、5年も持たずに腐ってしまう。それが分かるでしょう?」

汗だくになりながら、ノーティスが銀の髪の毛を払う。

「うへぇ……。マジかよぉ」

体を掻きむしりながら、急いで洞窟に入ろうとする騎士団員とノーティス。


するとジキムートが、ポツリと言った。

「さすがにここまでくると、相性悪いんじゃねえのか。俺らと神様」

ビクッ!

「あいしょ――」

……。

余りにびっくりしたのだろう。

ジキムートの言葉に跳ねるノーティス。

そして……。


「あっ、あぁ……相性? ふふっ。あいしょ……。アハハっ! アーハハハハハっ!」

ノーティスが大笑いし始めたっ!

「なんだなんだぁ? どうしたよ。馬鹿笑いしやがって」

「くくくっ! イヒヒヒっ。そっ、そうかもしれませんねっ! クククッ」

尋常じゃない程に笑うノーティス。

騎士とジキムートがその姿を見て、肩をすくめて訝しがる。

「いえいえ。フフフっ。知り合いが、同じような事を言ってましたから……。ウククっ。普通じゃない知り合いだったのでつい、ね」

「そうかよ。俺も変わりもんだってよく、言われるさ」

「そうです、ね。知り合いは変わってました。ですが――」

「ですが?」

「いえ、良いんです。忘れてください」

「そうかよ……」

ジキムートは肩をすくめる。

願われない、自分に損得がないような他人の話に、深入りはしない。

彼の生き様の一つだ。

すると、ノーティスがぼそりと、独り言ちた。

「あの人は変態でした。あの人が変わっているのではなく、世界が変えられているのだと、そう教えられるくらいにね」

ノーティスは懐かしさに、笑った。

そして、神の玉座を見やる。

「さぁ、行きましょう」

「……あぁ」

彼ら3人は、その〝洞穴″の中へ。



点々と、蒼い炎が照らす荒い道を、ひたすら下っていく一行。

だが、違和感がある。

「へぇ。ここはそんな、汗はかかねえのな」

ジキムートが周りを見やる。

「まぁな。そのおかげで何とか、作業もはかどっているがよ」

トンネルの中は、深く深く掘られているのだろう。

採掘された跡や、運ばれた土。

ためられた土嚢がたくさんあった。

そこいらに、採掘用の作業具も散見される。

「これを水の民共が見たら、卒倒するでしょうね」

「ひひっ、ざまあ見ろってんだ」

騎士団員とノーティスが笑う。

「とりあえず、俺らはどこに向かってるんだ? やっぱり……」

ジキムートが、先ほどから気になっている事を聞く。

この先におそらく、自分が最も望む物がある。

そう察知していた。

「当然……」



「――ほぉ、久しぶりの客人だと思っておったが、まさかのよもや。あのような奇怪なコンビの訪問を受けるとはな~」

その幼く、愛らしい女の子は笑う。

そこは湖のような場所。

混じり気のない、美しい水をたたえたその湖の深度は、夢幻。

尽きる事ない、水のタユタイの中――。

何か大きな影が動くっ!

ザッパァっ!

バグっ!

クジラ……っ!?

サメっ!?

超巨大生命体が少女を飲んだっ!

「罰当たりなメンツがようも、揃ったもんよ。しかしあの2人、お互いの『真実の姿』の事を、知っておるのかの? もし知っておるとすれば、狂っている。明らかに異常で汚らわしいとさえ言えようぞ。世界を超えた脅威に他ならぬっ!」

怒りをあらわにする幼子。

そしてジキムートとノーティスを見やると、彼女は呪文を唱えた。

その夢幻の深度の中へと、連れ込まれながら。

「だが歓迎をしよう。わしは好きじゃよ? 特に……」

ペロリ……。

「へへ」

「……」

ジキムートが舌なめずりする。

そう、この先。

この洞穴の終点は、神の御前に続いていたのだ。



(やっと来たぜ。俺の世界の手掛かり、それを知る奴のもとにっ!)

「さて……と、よし。ここまでだ。お前ら、止まれ」

騎士団員がやおら止まり、2人の前に立ちはだかった。

「……」

「そう言わず、ね?」

笑ってノーティスが袋を取り出した。

恐らく、相当量の銀貨が入った物を騎士団員に見せ、ノーティスが笑う。

だが……。

「ふふっ、私は名誉ある第13連隊の隊員だ。そう言ったものは受け取らない。悪いな傭兵っ!」

そう言って即時、剣を抜き放った騎士団員っ!

彼は気づいていた、この2人の様子がおかしい事に。

「……」

「……」

残った2人はお互いの顔を見る。


それは、一斉にかかるか?

という事であると共に――。

(ノーティスが俺の敵じゃないっていう、保証がねえ。)

(下手をすれば2対1……か。)

誰が、どう転ぶか分からないのだ。

緊張感に包まれる。

――その時っ!

「おぃっ!」

「後ろっ!」

2人が一斉に叫ぶっ!


「ふふっ、手を結んだか。だが俺は……」

ズシァァシアアア!

「ウギッ?」

ボトッ……。

「……」

突如、情勢が変わってしまった。

2人対1人が、2人対1匹になったのだ。
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