異世界冒険譚 神無き世界の傭兵から 親愛なる人を愛する神へ~傭兵が死すべき場所は 神の慈愛の手のひらか それとも神に見放されし己が郷土か~

猫板家工房

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2章 神を祀る神殿。

聖地の朝。

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「さて……と」

ジキムートが、鎧をつける。

「ふぅ……」

一応薄着のノーティスも、鎧をつけていた。

支給された物だ。

すぐに外せるようにはしているが……。

「それじゃ、行くか」

ジキムートは支給された紋章を着用し、立ち上がった。

「ええっ」

ノーティスがしゅぽっと、ヘルムをかぶって町に出ようと部屋を出た。

そして1階に降りて、玄関の前。

そこに声がかかった。


「おいお前ら、お前らは特別だ。内覧会に行って来いよ」

「内覧会?」

ジキムートが振り返ると、パンがいた。

ふっくらと、温かそうな湯気を立たせる大きな袋。

「ヴィン・マイコン。……なんです、内覧会って」

パンのその後ろ。

ヴィン・マイコンに聞くノーティス。

しかし、ただのパンではないと、記述しよう。

彼が持っているのは驚く事に、全部、すべからず白パンだっ!

ゴージャスな白パン男が応えてくるっ!

「お前らは特別のご招待だ。ビッチエッタ様からの命令もあるからとりあえず、この町の最重要ポイントを知らせておく」

ヴィン・マイコンはフモフモと白パンを食しながら、適当に言ってくる。

「ビッチエッタ……。くくっ」

ツボったらしい。

朝日の黄色に照らされたレキが、笑いをこらえている。

「ビッチエッタ様、ですか。だとすれば、大歓迎ですよ」

「なるほど、俺らがまず守るべき場所……ね。ビッチビチエッタ様には感謝するか」

「ビッチビ……ヒヒヒっ!」

ついにレキが大笑いをし始める。その笑いは――比較的下品だ。

「もうやめとこうな。あいつ、笑い上戸だから」

ヴィン・マイコンが頭をかく。

そこには、下品に笑い転げるレキ。

美しい日差しに照らされながら、うめきまわっている。

「……イーズよりはマシかね? 豚じゃない、蛙だ」

ゲコっと鳴きながら笑うレキ。


「ところでそれ、なんだよ? 俺達には外では買うなと、そう言っておいてよ」

「パフだほ。仕方ねへだほ、腹減ふんだ」

フモフモ、フモフモ。

人と話しているというのに全く、口を止めないヴィン・マイコン。

「パンくらい、どこでも同じだろ。売店でもある」

「なっ!?」

「エッ!?」

……。

ジキムートの心の中で、しまった……という声が響く。

訝しそうにこちらを見る、ノーティスとヴィン・マイコンとレキっ!

「あっ、あなた。知らないわけがないでしょう。ここ……。聖地のパンがどれ程貴重かっ!?」

「お前マジ、何言ってんだっ!?」

「……」

ほぼ同時に突っ込まれ、たじろぐジキムートっ!

「ここのパンは極限的に言うなら、治癒魔薬と同義ですよっ。何せあの〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″をかすかに含んだ土壌の、黄金小麦を使うんですからっ!」

(やべぇ、なんとか反論を考えないとっ。)

「そんでもって、護符にも近いっ! コイツがあれば水の力が発動すんだよっ! 水の中で泳ぎが早くなったり、水の魔法にも抵抗ができるってシロモンだっ。まぁほんのちょっとだけどな。この話はこの世界ではゆ」

シュバッ!

「……」

「……くっ」

2人……。

ジキムートとヴィン・マイコンが睨みあう。

その姿に傭兵達全員が目を丸くし、驚きの声を上げたっ!


「マジか……よっ。あの新入りっ」

「ヴィン・マイコンに……。あの伝説の傭兵に、喧嘩売りやがったっ!?」

ざわめく室内。

ジキムートの拳が袋の上。

まっすぐヴィン・マイコンの顔面めがけて、突っ込んでいったのだっ!

それをヴィン・マイコンが、なんとかかわした格好だ。

だが、くわえていたパンが、落ちた。

「知ってるよ。だから1個、俺にも寄こせよ」

自分の手のひらの中の、パン一つ。

傭兵長に見せびらかすように問う、ジキムート。

「……。へへっ、へへへっ!」

笑いながら体勢を直し、ヴィン・マイコンがジキムートの肩を叩く。

そして、ジキムートに奪われた小さなパンを、上からのぞいてやる。

「やるじゃねえか見直したぜ。良いさ、そのパンはやんよ。お前のションベン臭え手で握ったのなんて、食えねえし」

ヴィン・マイコンは手を振って、その場を離れていく。

そして、ジキムートが安堵したように笑い――。

「大丈夫なんだよな? コレ」

去っていくヴィン・マイコンの後ろ姿に聞く、ジキムート。

「あぁ。なんせココの聖職者の口に全部、一口くわえさせて、飲み込ませてるからな」

(嘘の臭い。だがあの男の眼に恐怖はねえ。どう言うこった?)

「そうか」

訝しそうに傭兵長を見ながら、ジキムートがそれをサッと、袋にしまった。そして……。

(ふぅ。しっかしあっぶね、あぶね。昨日喧嘩売られといて、良かったぜ。)

ジキムートが心臓の鼓動が鎮まるのを感じ、なんとか安堵の息を吐く、がっ!

「あぁっ!? そっ、そんな」

ビクッ。

「あぁん?」

まだ何かあるらしいノーティスに、怪訝な顔で返すジキムート。


「私にも一口……、くださいよ」

ヨダレを垂らしながらノーティスが、ジキムートににじり寄る。

「やだよ」

「はぁはぁ、ちょっと。ちょっとですって。先っぽだけ、少しだけ先が入るだけですからぁ」

「レキに触発でもされたか?」

下賤な顔で迫るノーティスに、頭をかくジキムート。

だがそれは、ノーティスに限った事ではなかった。

「落ちたのは、良いんだよな? なっ!?」

「おいっ、お前ぇっ! 何取ってんだコラァっ!」

向こうで落ちた白パン。

ヴィン・マイコンの口から落とされたパンをめぐって、小競り合いが起きているっ!

それを無視し、ジキムート達が扉から出ていった。


「……。今彼、当てたね?」

「あぁ」

「どうしたんだ? お前が」

「ちょっと、日和ったぜ。あんまり見ない色だからな。気が付くのに遅れた」

「……なるほど。相当重症のようだ」

「どこがだっ!? ただ……。口を切っただけだよ」

苦々しそうに、切った口を擦るヴィン・マイコン。

「ふんっ。〝ココ″が、に決まってんだろ。ホントお前は、分かりやすいな」

そう言って相棒の胸を、拳の裏で叩くレキ。

「だが安心しろ。弱いお前がやられたら、僕がやり返してやるさ」

「いつの話してんだよ」

笑うヴィン・マイコン。

「今に決まってるだろ?」

「……次は負けねえよ」

レキは、ヴィン・マイコンのその目に笑った。



「あ~あぁ。良い朝だっ」

「まあ、いい天気だな」

少しだけだが白パンをかじり、上機嫌なノーティスとジキムートが、道を歩いて行く。

白パンの誘惑には2人とも、抗えなかったのだ。

「おい、並べ! 水の民共っ!」

「……うぅ」

橋の中央。

ジキムートが渡ろうとする橋に数名、傭兵と住人が居た。

その時傭兵が、何やら住民数名に重りを装着していく。

「じゃ~あ、お前ら。水の民だと証明して見せろ。魔法を使わず浮けっ!」

「そっ、そんなっ!? 無理ですよっ。私たちは……あぁああーーーっ!?」

ボシャンっ!

「へっへーっ! 水の民、ダヌディナ様のお気に入り共~、さっさと浮け~っ! かぁ……ぺっ」

唾を吐き出し、沈まないように必死の形相で、ジタバタとあがく住民を煽り立てる傭兵っ!

「グッァっ!? 助け……っ。あぶぁっ! 助けてーっ!? 」

「ほらほらっ! 早く浮けよーっ。水になっても良いぜーーっ!」

汚い水。

下水には、いろいろな汚物が流れている。

ゴミや犬の死体は当たり前。

糞尿や人の死体まで、色々だ。

そんな中、突き落とされた男はバタバタと泳ぎ……その内、黒い点として沈みこむ。

「あぁ~あ。情けない。これじゃあ水の民として、申し訳が立たねえなぁ」

傭兵が笑って、浮いてこない黒い点を指さす。

「ホントだぜ、なんだよ全く。水の民が聞いて呆れる。無能じゃねえかっ!?」

「……。むっ、無能などとっ!」

「あぁんっ? なんだってっ!? どうしたこのクソ民族がっ! 無能の役立たずじゃねえってのかっ。水の神様に愛されておいて、あんな程度で溺れ死ぬ奴が水の使徒って言えるのかよっ!? 無能じゃねえってのかよっ、おおっ!?」

「ぐ……っ!」

「水の民なら水に浮けっ! できないならダヌディナ神へ詫びてろっ! このクズ共がっ」

怒りだろうか?

妙な顔で傭兵達が笑い、そして……。

ボシャンボシャンっ!

次々と蹴り落とす傭兵達っ!

下では人々が泡を食いながら、助けを求めていた。

「さっさと神への信仰心見せろやっ、この神の使徒共っ!」

怒声と嘲笑、響く悲鳴……。

(まぁいつも通りの傭兵……、なのかね? その癖ガッカリしたような顔しやがって。昨日もそうだった。喜んでんだが悲しんでるんだか。)

傭兵達を見そして、ノーティスに目線を映すジキムート。

「何か?」

「いんや」

ジキムートがその光景に首をかしげながら、橋を渡って通り過ぎていく。すると……。

「ここからは、寺院か? ここが最重要って事はやっぱ、神様への詣で口って奴か」

雰囲気がガラリと変わる。


閑静で美しく、最も手入れされた壁が続く道。

白く輝く壁は、他と比べても異質。

特別な敬意を感じさせる物があった。

それにおそらくだが、ここはたくさんの人間が、毎日のように列をなしたのではないだろうか?

そう思える跡が残っている。

例えば置いてあるベンチの間隔や、売店が立ち並んでいたであろう跡だ。

今やもう、その場所には何もない。

無理やりに排除されたのだろう。

「ええ、神殿ですね。確かにここは、最重要ポイントと言えます。ただ……、分かると思いますが」

ノーティスが目線を上げ、ジキムートがつられて振ると……。
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